コズミックプリキュアS   作:k-suke

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第1話 新たなる闇(前編)

 

 

カナダ 某研究所

 

 

 

ここの主任研究員が上司と話し合っていた。

 

 

「…それではやっぱりこれの開発は中止、ということですか」

 

 

「うむ。いろいろと掛け合ってはみたものの、君の父上が開発したものをうまく応用したほうが、コスト面その他効率がいいということになった」

 

 

「それはわかります。今や父の作ったあれは世界中で配備されようかという話が出ています。レスキュー用のみならず治安維持を目的として警察にも配備を検討する話も出ていることも知っていますから…」

 

 

「そうだ。それにこいつはあまりいい目で見られていないのだよ。なんせ、二年前に一度あいつらに奪われたものだろう。残っていたデータからここまで再開発し、試作機を作成できた君の力には感心するが、やはりね…」

 

 

「…わかりました。ただなんせ外見がこれですので、ただ廃棄するとかえって問題になりそうです。処分は私に一任させていただけますか?」

 

 

「うむ、任せる。じゃあ頼むよ、遠藤央介くん」

 

 

 

そう言い残して出て行った上司を見送ると、その主任研究者 遠藤央介は目の前の大型カプセルに横たわっていたものに優しく語りかけた。

 

 

央介「…ごめんな。私達の都合で作っておいて、今また私達の都合で一度も目覚めることなく廃棄することになるとは…」

 

悲しげにそう謝ると、ふとあることを思いついた。

 

 

央介「そうだ。廃棄するんじゃなくて、何かの形で役立ててもらおう。そうだよ、父さんなら変なことに使わないだろう。なんせ、あの子達を作って世界を救った立役者なんだから…」

 

 

彼、遠藤央介が語りかけていたカプセルに横たわっていたもの。

 

 

それは、透けるような白い肌をしたプラチナブロンドのロングヘアといった姿の、中学生ぐらいの年齢の少女だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本 某県 甲子市 童夢小学校

 

 

 

平凡で退屈な、それでいてそれなりに幸せな、ごくごく普通の一日が今日も終わりを告げ、多くの生徒達が下校し始めていた。

 

 

そんな中、息急き切って走る一人の少年がいた。

 

この少年の名は速田(そくだ) (ごう)

 

この童夢小学校の六年生である。

 

 

豪は、前を歩いている少女を呼びながら駆け寄った。

 

 

豪「あっ、おいラン!! 待ってくれよ」

 

ラン「あら豪。何よ」

 

この少女は遠藤(えんどう) ラン。

 

この二人は同学年のいとこ同士なのである。

 

 

 

豪「何じゃねぇよ。頼むよ、宿題教えてくれよ。算数苦手なんだよ」

 

手を合わせて必死に頼みこんでいた豪だが、

 

 

ラン「いやよ。そう言っていつも結局私の答えを写すだけじゃない。たまにはきちんと自分でやんなさい」

 

けんもほろろに断られてしまった。

 

 

豪「う… そりゃそうだけど、頼むよ今度のサッカーの試合の練習があるからさ時間ねぇんだ。なっこの通り」

 

 

ラン「だーめ。それならなおさらよ。サッカーの試合なんて自分の決めた目標なんだから、自分の力で精一杯努力しなさい。リーフさんやダイーダさんに恥ずかしくないの」

 

 

豪「うぐ…」

 

 

 

リーフとダイーダ

 

 

二年前、この世界にやってきた精霊の国の特別警備隊員コズミックプリキュア

 

この世界を暗黒に染めあげようとした次元皇帝パーフェクトの一味と戦った戦士である。

 

 

当時共に戦い、刑事や医者になるという将来の目標のきっかけにもなったこの二人にとって、その名前は最後通牒に等しいものであり、それを出されてしまった豪はぐうの音も出なくなった。

 

 

 

 

その直後、遠方でサイレンの音がけたたましく響いたのが二人の耳に届いた。

 

ラン「何? またなの」

 

豪「行ってみようぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現場には、パトカーや救急車・消防車が駆けつけ、パワードスーツのようなものを着込んだ救助隊員が、建物の中に閉じ込められた人の救助に当たるとともに、消火作業に当たっていた。

 

 

 

そしてそんなビルの周りは野次馬で溢れており、皆がざわざわと話し合っていた。

 

 

「ビルのオーナーがバラバラの死体で見つかったってな」

 

「なんでもここのビルのオーナー、借金で首が回らなかったらしいから自殺じゃないかって」

 

「でもだからって、それでガス爆発での自殺なんてするか? それにこれで今月になってもう3件目だぜ」

 

 

 

 

ラン「また爆発事故… なんか変よね」

 

豪「うん。こないだは子供が交通事故で死んだ人で… その前は公園のホームレス。自殺しそうな人だっていうのはわかるけど…」

 

 

「確かにな。ただの自殺ならわからなくもないが、爆発自殺ってのが気になってな」

 

ラン「あっ」

 

豪「河内警部」

 

 

後ろでした声に振り向くとそこには、一人の中年の刑事が立っていた。

 

 

この河内警部はこの二人 正確には二人の祖父とちょっとした因縁がある刑事であり、彼もまたコズミックプリキュアと共に戦ってくれた一人である。

 

 

河内「二人とも元気そうだな」

 

豪「ええ、まあ」

 

ラン「おかげさまでね」

 

 

どこがつっけんどんな二人にもめげず、河内警部は二人に尋ねた。

 

 

河内「なあおい。遠藤博士は研究所にいるのか?」

 

 

その言葉にランは敏感に反応した。

 

ラン「何よ。また何か用なの!!」

 

 

河内「落ち着け、変なことじゃない。ちょっと内密に話をしたいことがあるんだ」

 

 

ラン「…でも、ちょっと今日は…」

 

豪「…だよなぁ」

 

 

どうにも歯切れの悪いこの二人に、河内警部は首を傾げた。

 

 

河内「ん? 何か都合が悪いのか?」

 

ラン「ん〜まぁ、河内警部なら事情は知ってるし… じゃあお互い内密にということでなら」

 

豪「まぁいいよな」

 

 

河内「そ、そうか約束しよう。二人とも俺の車に乗れ。送ってやる」

 

そうして話がまとまったとき、一人の若い女刑事が息を切らせてやってきた。

 

「警部どの、また勝手な行動を…。 きちんと報告を行ってからにしてください」

 

 

そんな彼女を見て、河内警部はうっとおしそうに顔をしかめた。

 

 

河内「いちいち細かいな。刑事なんてもんは現場の判断最優先だ。上の命令を聞いてからじゃ手遅れになることが多いと俺の感が言っている」

 

「そういうことではありません!! ただでさえ最近では警察に対する風当たりがキツイんですから。あまり無茶なことをしていてはマスコミに叩かれます!! 大体なんですか、事件の最中に子供と行動をしようなんて!! そんなことで本当に警察官としての職務が務まると…」

 

 

河内「あーもう、だったらお前も一緒に来い。それで告げ口でもなんでもしろ」

 

 

 

一連のやりとりを見て、豪が河内警部に素朴な疑問をぶつけた。

 

豪「ねぇ、この女の人も刑事さん?」

 

 

河内「ああ、満根(まんね) 志夜(しや)。 一応俺の後輩にあたるが、体のいいお目付役だ」

 

 

ラン「そりゃいいじゃない!! ぴったりだわ」

 

ランは手を叩いて喜んだが、河内警部は不満げだった。

 

河内「俺の身にもなれ。いちいちやることなすこと口うるさく言われるんだぞ、面倒くさくてたまらん」

 

志夜「何言ってるんです!! 警察官とは立派な公務員、国民の皆さんの収めた税金で活動しているのですから、その取り扱いや行動は極めて厳格かつルールに則って…」

 

 

くどくどと説教くさいことをしゃべりまくる志夜に豪もひきつっていた。

 

 

豪「確かにめんどくさいね、こりゃ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同市内にある海に面した崖の上。どこかおかしなデザインをした、少し大きめの一軒家が建っていた。

 

ここがランの自宅でもある、遠藤平和科学研究所である。

 

 

 

「だからして……ここにこう配線したから……するとここのプログラムを…」

 

 

その研究所内で一人の初老の男性がタブレットを操作しつつ、ブツブツとつぶやいていた。

 

 

この人がランと豪の祖父でもあり、この研究所の唯一の所員にして所長、遠藤(えんどう) (ひろし) 博士である。

 

 

 

遠藤「ふーむ、また爆発事故か… 妙なことの前兆でなければいいんじゃがな…」

 

 

つけていたテレビのニュース速報に一抹の不安を抱えながらも、再びタブレットを操作し、何かの機械のデータの調整を行っていた。

 

 

 

ラン「おじいちゃんただいま」

 

豪「ヤッホーじいちゃん」

 

そんな中、ランが帰宅し、豪が元気良く入ってきた。

 

 

遠藤「おお、ラン帰ったか。 豪も一緒か」

 

ラン「あ… うん… 私たちだけじゃないけど…」

 

遠藤「あん?」

 

言いにくそうにしていたランの後ろから、河内警部がヌーっと顔を出してきた。

 

 

河内「遠藤博士、邪魔するぞ」

 

遠藤「げっ… 河内。 何の用じゃ」

 

 

いやそうに顔をしかめた遠藤博士に、河内警部も気分が悪そうに返した。

 

 

河内「何だその嫌そうな顔は? まさか、またなんかまずいことをごまかしとりゃせんだろうな!?」

 

河内警部のその言葉に、志夜は敏感に反応した。

 

志夜「なんですって!? 警部どの、どうして放置しておくんですか? 直ちに任意同行の上、場合によっては令状を…」

 

 

 

 

遠藤「人聞きの悪いことを言うな!! まるでわしが前科者みたいに聞こえるではないか!! そっちの人もじゃ、わしは世間に顔向け出来んようなことは金輪際ないぞ!!」

 

 

河内「よく言う。結果的に犯罪にならなくて済んだというだけだろうが。パワードスーツの特許をとってかなりの金を稼げてるようだが、前みたいにならんようきちんと税理士でも雇ったらどうです? いつまでも一人でやっとらんと」

 

 

そう、先ほど災害現場で活躍していたパワードスーツはこの遠藤博士の設計であり、それによりかなりの額が特許使用料として遠藤博士には入ってきている。

 

 

無論、本来それに伴い税理士などを雇うべきなのだろうが…

 

 

ラン「…それ言わないでよ。この家やら何やらの税金もすごいし、借金も返さなくちゃいけないし、何よりおじいちゃんが無駄遣いするからあんまり前と生活レベル変わんないのよ。 とてもじゃないけどプロになんて頼めないわ」

 

がっくりと肩を落としながらランがそう答えた。

 

 

豪「たま〜に、ここで働きたいって人も来るけど、じいちゃんについてけなくてすぐやめちゃうし。三日持ったのが最長記録だっけ」

 

それに乗っかるように豪もまた小馬鹿にするように続けた。

 

 

 

遠藤「コラーッ!! お主らそれが自分の祖父に対する言葉か!! わしを何だと思っとるんじゃ!!」

 

 

 

 

河内「その程度ということなんでしょうな。全く、身内からもまともに尊敬されんとは、これが世界を救った科学者かね」

 

 

呆れたような河内警部の言葉に、遠藤博士は怒鳴り散らした。

 

遠藤「やかましい!! だいたいお主はいったい何の用できたんじゃ!?」

 

 

 

河内「ああ、そうだった。実はだ…」

 

 

遠藤博士の叫びに、本来の目的を思い出した河内警部が真剣な顔つきで話し始めた。

 

 

 

河内「あんたのあのパワードスーツ。コズミックプリキュアのボディがベースなのは知ってるが、戦闘用に改修したりすることはできんのか? あの二人が戦えたように」

 

 

遠藤「何!?」

 

ラン「えっ!?」

 

豪「どういうこと?」

 

 

 

河内「あ、いや、うーむ。 いや実はな」

 

志夜「何を言い出すつもりですか!! それは極秘事項としてくれぐれも他言無用にと…」

 

ガミガミやり始めた志夜を手で制止して河内警部は続けた。

 

河内「俺は何も話さん。これから独り言を言うだけだ、聞こえなかったらそれでいい」

 

 

 

豪「はぁ…」

 

そう言いおいて河内警部は話し始めた。

 

 

 

 

河内「今月に入ってすでに3件爆発事故が起こっているが、ただの爆発事故や自殺じゃないらしいんでな、独り言だが…」

 

遠藤「何ぃ?」

 

 

 

河内「現場検証の結果、爆発したのが被害者本人というのがわかったが、死体の状況からだとどう考えても被害者の内部から爆発しているとのことだ」

 

 

豪「えっ? そんなことテレビで言ってたっけ?」

 

 

遠藤「おそらく妙な事態ということで、報道管制を敷いとるんじゃろう。おそらく警察内部でも他言無用にと言われとるんじゃろうな。独り言じゃが」

 

河内「はっきり言って人間業とは思えん。何らかのトリックだというやつもいるが、俺はどうも臭いと睨んでる。常識はずれの行動、人の命を命とも思わんやつ。嫌な予感がするんでな」

 

 

 

豪「まさか、Dr.フライがまたなんか企んでるっての? でもあいつ捕まってるんじゃ… ああ、俺も独り言ね」

 

Dr.フライ 遠藤博士の旧友であり、かつて次元皇帝パーフェクトと手を組み地球全土を暗黒世界に染め上げようとしたマッドサイエンティストである。

 

コズミックプリキュアに敗れ、どことも知れぬ場所に幽閉されているらしいが、詳細については今なお公式発表されていない。

 

 

河内「いや、Dr.フライの処遇は公表されていないが、その心配だけは無用と上司から太鼓判を押されている。多少怪しい気もするが… これも独り言だが」

 

 

 

ラン「何よ、このクソ面倒くさい会話」

 

ランは眼の前で繰り広げられる「独り言」の言い合いに呆れたような感想を漏らした。

 

 

遠藤「つまるところ、フライのやつ以外に妙なことを企んどるやつがいるかもしれんと誰かさんは考えとるわけか。それももしかしたら、そいつが人間ではないかもしれんとな」

 

 

河内「ああ、あのパワードスーツが最近じゃ機動隊なんかに配備しようかという話が出てるのは知ってるが、もしまたあのパーフェクトととかいうやつみたいなのが出てきた時に、戦うことができるかと言われれば不安だ」

 

 

豪「ははぁ、それで」

 

ラン「リーフさんやダイーダさんみたいに戦えるような人ができないかってわけね」

 

 

納得したようにうなずきながら、豪とランは部屋の隅に置いてある二組のカプセルのようなものを見遣った。

 

 

そこには、ほんわかした感じのするショートヘアの少女と、どこかきつそうな目つきをしたポニーテールの少女が眠っていた。

 

 

この二人が先ほどから話題になっているリーフとダイーダ。

 

 

正確に言えば、精霊の国の特別警備隊員だった二人が宿り使用していた、遠藤博士謹製のレスキュー用アンドロイドである。

 

 

全てが終わった後、この二人のボディをもとにレスキュー用のパワードスーツが製作 量産され今日に至っているのである。

 

 

 

河内「そういうことだ。今はかろうじて平和だが、それを安易に貪るほど俺はのんきじゃない。おまけにこの平和も悲しいかな俺たちだけで勝ち取ったものじゃないからな。いざという時に何もできませんでしたじゃ、あまりにも彼女達に情けない」

 

 

河内警部は忸怩たる思いを語り、豪とランも悔しそうに顔を歪めた。

 

 

 

 

確かに当時、自分たちもコズミックプリキュアと一緒に戦ったと胸を張って言えるだけの自信はある。

 

 

ただ、彼女たちのやったことに比べると自分たちのしたことは、全体の1%にすら満たないという思いもまた確かにあるのだ。

 

志夜「警部どの、お気持ちはわかりますが、上層部とて馬鹿ではありません。その程度のことはきちんと考えています。そういったことはその方面に任せて、我々は我々の領分をわきまえたことを…」

 

 

河内「わかっとらん!! 上に任せっぱなしだと碌なことにならんというのも、その時に学んだんだ。むろん信用していないわけではないが、こっちもこっちでできることをやるんだ!!」

 

 

そう一喝すると、遠藤博士に改めて向き合った。

 

河内「で、どうなんだ? できそうか?」

 

遠藤「ふーむ、なるほどな。それに関してはわしも同じ気持ちじゃ。じゃがな、リーフやダイーダの性能のものを量産するとなると当然コスト面が天文学的な数字になる。なんせあいつらのボディは採算度外視で性能面のみを追求したからな。もともと量産するつもりもなかったしのう」

 

 

河内「じゃあ、不可能だというのか? 戦闘用のものを作るということが」

 

 

遠藤「そうは言うとらん。まずは新型の高出力バッテリーなどの実験を今しとる最中じゃ。見てみるか?」

 

 

遠藤「あ、ああ。是非とも頼む」

 

 

遠藤「よし、着いて来い」

 

そう言って、遠藤博士は本棚の本を一冊取り出すと、その裏にあったボタンを押した。

 

するとその本棚は横にスライドし隠し階段が現れた。

 

 

ラン「ちょっとおじいちゃん」

 

豪「本当にいいの? 河内警部連れて行って」

 

 

遠藤「なに構わん。なんやかんやでこやつは信用できるからな」

 

河内「お褒めの言葉どうも。しかしわざわざ地下に研究室を作らんでも。モグラじゃあるまいし、カビが生えても知らんぞ」

 

 

遠藤「ふん。大きなお世話じゃ」

 

 

憎まれ口を叩き合いながら地下の研究室に向かって降りて行った二人に、小さくため息をつきながら、豪とランに志夜もまた、その二人を追って階段を降りて行った。

 

 

 

 

その直後、一つの光の玉がゆっくりと研究所内に入り込み、保管されていたリーフとダイーダのボディを確認するかのようにその周りを飛び回った。

 

 

そして、ランの飼い猫でもあるヒットがじゃれつくと、それとしばらく遊ぶように飛び交い、やがて遠藤博士達の後を追うように地下の研究室へと向かっていった。

 

 

 

 

 

第1話 終


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