機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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第5話

 

 

 

~地球連合統合作戦本部 総司令部内大会議場~

 

連合軍総司令部の中にある大会議場では連合宇宙軍総司令が集まった各国の司令官、艦隊提督達に『ナデシコ許すまじ!』の演説を行っていた。

そんな中、

 

「総司令緊急通信が入っております」

 

総司令官の横に居た秘書官が演説中の総司令に報告する。

 

「どこからだ?」

 

「あの…その‥ナデシコからです」

 

「なに!?通信回線を開け!!」

 

そう言うと、総司令の後ろに空間ウィンドウが現れナデシコとの通信回線が開きその空間ウィンドウには、

 

『明けましておめでとうございます』

 

振袖姿のユリカが出てきた。

 

「「「おお~」」」

 

「フジヤマ!!」

 

「ゲイシャガール!!」

 

外国の司令官の中には何やら勘違いをしている者がいるが何故か晴れ着姿のユリカを見て興奮している。

日本艦隊司令官のタナカはユリカの対応に頭を抱えている。

 

『か、艦長下がりたまえ。君は少し緊張しているようだ』

 

瓢提督がユリカを下がらせようとするが、

 

『えぇ~どうせ外人さんには日本語わからないし、愛嬌を出しておいたほうが‥‥』

 

なんか、とんでもない問題発言をサラリと笑みを浮かべながら言い放つユリカ。

 

「君はまず国際的なマナーを学ぶべきだ」

 

しかし、ユリカの予想と反し総司令は日本語が話せ理解していた。

 

『あらそう?でも時間がないので要件は手短に言います』

 

その後、ユリカは英語でナデシコの現状と予定航路を伝えた後、第一防衛ラインのビッグバリアを一時的に開けてほしいと頼むが、連合軍側はコレを拒否、ユリカは不敵に笑みを浮かべそれならば、ビッグバリアを無理矢理通ると言い残して通信をきった。

総司令は肩を震わせ、握り拳を作り、

 

「事はもはや極東方面軍だけの問題ではない!全軍をあげてナデシコを撃沈せねば秩序はない!!」

 

と、連合軍全艦でナデシコの撃沈を主張した。

 

「しかし、アレを撃沈しては最新鋭戦艦を失うことになります。クルーの7割は日本国籍ですし‥‥ミスマル提督、貴方からも何か言ってください」

 

タナカがコウイチロウに促す。

 

「いや~我が娘ながら恐ろしいですな‥振袖姿に色気がありすぎますなぁ」

 

娘に関してはやはり場所を問わず親馬鹿なコウイチロウであった。

 

 

~連合軍総司令部~

 

「太平洋沿岸部の全連合軍がナデシコ追撃に向いました」

 

「よし、成層圏に入る前に捕捉できるな?」

 

「いえ、それがまとまった軍事行動は久しぶりなので、それに刺激された木星兵器が来襲し現在各地でバッタと激しい戦闘を行っています」

 

「ナデシコ‥絶対に許さん!第三防衛ラインに通信を繋げ!!」

 

総司令の怒りのボルテージは最高潮に達しようとしていた。

 

その頃のナデシコは第四防衛ラインの地上からの迎撃ミサイルの中を通っていた。

現在地球は七段階の防衛ラインで守られていた外側から、

 

第一防衛ライン=バリア衛星によって展開される空間歪曲バリア。通称ビッグバリア。

 

第二防衛ライン=無人武装衛星による迎撃。

 

第三防衛ライン=宇宙ステーションから発進するデルフィニウム部隊による迎撃。

 

第四防衛ライン=地球から発射される大型ミサイルによる迎撃。

 

第五防衛ライン=地球本土防衛艦隊による迎撃。

 

第六防衛ライン=スクラムジェット戦闘機による迎撃。

 

第七防衛ライン=ジェット戦闘機による迎撃。

 

「我々はこの7つの防衛ラインを1つずつ突破していかなければならない」

 

ゴートがスクリーンに映し出された防衛ラインをブリッジ要員に説明する。

 

「でも、面倒くさいですよね、一気にビューンと宇宙まで飛んで行けないんですか?」

 

メグミの質問に答えたのはルリだった。

 

「それは無理です。地球の引力圏脱出速度は秒速11.2キロ。それだけの速度を得るには、相転移エンジンを臨界点まで持っていく必要があります。臨界高度は高度約2万キロ‥‥つまりここです」

 

防衛ラインを表示したスクリーンの上をルリが歩く。そして第3次防衛ラインと第2次防衛ラインの間に立つ。

 

「「なるほど」」

 

メグミとユリカが頷く。

 

「現在のナデシコの高度ですと、第六、第七防衛ラインは無視できますな。第五防衛ラインの本土防衛艦隊も現在バッタと交戦中…そして現在は迎撃ミサイルの第四防衛ラインを通過中‥‥」

 

フィールドを張っているため、ナデシコの艦自体には何の損傷もないが、振動だけは伝わってくる。

 

「きゃあ!!」

 

その振動でユリカがコケる。

やはり、その恰好故か動きがどうしても鈍くなってしまう。

 

「着替えてきたらどうだね?」

 

動き難い振袖に瓢提督が着替えを促す。

 

「は~い。でもその前にアキトに見せなきゃ」

 

ユリカは嬉しそうにブリッジを後にしてアキトの部屋へと向った。

 

ルリとコハクは自分のシートに座り、フィールド、エンジンの調整、周囲の警戒など自分達の作業をやっていているが、ルリはやはりコハクのことが気になるのかチラチラとコハクの方を見る。

当然コハクもその視線に気づきルリに尋ねる。

 

「ん?どうしたの?」

 

「い、いえなんでもありません」

 

慌てて視線をそらすルリ。

そこに小さく空間ウィンドウが開かれる。

コハクが送ったもので内容は、

 

『昨日の夜、僕のこと調べていたでしょう? 履歴はちゃんと消さないとダメだよ』

 

ハッとしてルリはコハクを見るが、コハクは何事もないかのように作業を続けている。

 

「う、迂闊でした‥‥」

 

ルリは小さく呟いた。

その頃、ナデシコの格納庫のすぐ隣の資材倉庫では、

 

「一体いつまで我々を軟禁するつもりだ!?」

 

「この扱いは明らかに国際法に反しているぞ!!」

 

ナデシコの占拠を目論んだムネタケ達、連合軍の将兵達が拘束されていた。

 

「ガタガタ言ってっと脳みそだけ残して体改造しちまうぞ、大人しくしててよね、全く」

 

ウリバタケが呆れた口調で倉庫のドアをロックした。

そして、ウリバタケが倉庫から遠くに行ったのを見計らって、

 

「どう?」

 

ムネタケは隣に居る兵士に尋ねる。

 

「チョロイもんですよ。今時縄なんて全く素人らしいですよ」

 

そう言った兵士の手にはガラス片があり、両手を拘束している縄をそれで切っていた。

 

「私はこのままナデシコと一緒に宇宙へ付き合う気分じゃない戦闘が始まったら脱出よ」

 

ムネタケはニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

ムネタケ達連合軍の兵士達がまさかナデシコからの脱走を試みようとしていることなど知る由もなく、ナデシコは予定通り火星を目指している。

そして、間もなく第三防衛ラインへと迫ろうとしていた。

 

 

~第三防衛ライン 宇宙ステーション さくら~

 

『やめたまえアオイ君。君は士官候補生なのだよ』

 

空間ウィンドウでコウイチロウがさくらの医務室に居るジュンに語る。

 

「ナデシコを止めるのは僕の使命です」

 

『だが、ナノマシン処理は‥‥』

 

「そうですよ。何もあなたがコレを打たなくても‥‥」

 

軍医もコウイチロウと同じ意見のようだ。

 

「なんてこともありませんよ。パイロットなら誰でも打っています。‥コレがないとIFSを使いこなせない‥‥」

 

ジュンは自らにナノマシン処理を行おうとしているのだ。

ナノマシン処理は世間での評価は未だに冷たく、まして連合軍の士官が進んで行うなど異例だった。

 

『アオイ君、ワシはユリカのことは諦めただから君も‥‥』

 

「貸せ!」

 

ジュンは軍医からナノマシンの注射器を奪うと自らの首に注した。

すると右手にIFSのタトゥが浮き上がってきた。

ナノマシン処理をしたジュンの姿はさくらのデルフィニュウム格納庫にあった。

 

「少尉、このデルフィニュウムは基本的には思った通りに動きます。増槽を付けておいたので1時間は飛べます。ベクトルを失敗しなければ堕ちる事はありません。何とか此処に戻って来て下さい」

 

「ありがとう」

 

「それではご武運を‥‥」

 

整備員がジュンに敬礼し、デルフィニュウムのコックピットが閉まる。

 

「‥さようなら‥‥目標‥機動戦艦ナデシコ!!」

 

ジュンは死ぬ覚悟でさくらを出撃し、ナデシコを止める気だった。

ジュンが乗ったデルフィニュウムを始めとして合計9機のデルフィニュウムがさくらから出撃していった。

 

「さあ、ここからが正念場ですな」

 

第三防衛ラインのデルフィニュウム部隊と第二防衛ラインの戦闘衛星からのミサイル攻撃、そして第一防衛ラインのビッグバリア。

 

ブリッジの中に緊張感が漂う。

 

「左30度上方、デルフィニュウム9機接近」

 

レーダーで捕らえた機体を解析し、報告するルリ。

格納庫ではガイも空戦フレームに乗り準備完了していた。

 

「ところでテンカワはどうした?」

 

格納庫に姿を見せないアキトにウリバタケが同室のガイに聞く。

 

『あいつなら部屋でベソかいていたぜ』

 

ガイの言う通り、確かにその頃アキトは部屋でゲキガンガーのアニメを見て泣いていた。

その光景を小さな空間ウィンドウで見ていたルリとコハクの感想は、

 

「「バカ」」

 

であった。

 

「レッツゴー!!ゲキガンガー!オー来やがった!!束になってきやがった!!」

 

ガイは楽しそうにデルフィニュウム部隊に向っていった。

 

「9対1か‥‥大丈夫かな?」

 

メグミが9つの光点に向っていくガイを見て不安そうに呟く。

 

「性能ではエステバリスの方が勝っていますが、多分負けます」

 

ルリがメグミに言う。

 

「えっ?どうして?」

 

「数と装備の問題ですね」

 

続いて敗因をコハクが言う。

 

「数はわかるけど装備って?」

 

デルフィニュウムよりもエステバリスの方が性能が良いのだから装備だってきっとエステバリスの方が優れているのではないかと思うメグミ。

そして、コハクが何故、装備に関してもガイのエステバリスが負けるのかを説明する。

 

「ヤマダさん、武器を持たずに出撃して行っちゃいましたから」

 

いくらデルフィニュウムよりも性能が優れるエステバリスでも流石に素手のアームパンチだけでは9機のデルフィニュウムには勝てない。

精々1~2機ならば武器を持っていないエステバリスでも勝機はあるのだが‥‥

 

「「「‥‥‥」」」

 

コハクの説明を聞いてブリッジに呆れた空気が流れる。

 

『心配無用』

 

突然、空間ウィンドウが開きガイが出る。

『敵は、こっちが武器を持っていないと思って攻めてくる。ところが、俺様は空中でスペース・ガンガー重武装タイプと合体。あっという間に敵を殲滅。名付けてガンガー・クロス・オペレーション!!』

画用紙に描いた絵を見せながら説明するガイ。

 

『つうわけだ!ウリバタケ、スペース・ガンガー重武装タイプを落とせ!』

 

ガイは格納庫制御室にいるウリバタケに通信を入れる。

 

「ヤマダさんなにか言っていますよ?」

 

隣に居る整備員がウリバタケに話しかける。

 

「人の言うこと聞かない奴のことなんてほっとけ」

 

ガイが出撃する際、ウリバタケが重力波ビームや装備について説明していたにも関わらず、ガイはそのすべてを無視して出撃していったのだ。

 

『だから!スペース・ガンガー重武装タイプを落とせ!』

 

「うちには、スペースだかアストロだか知らないが、ガンガーなんてものは積んでないんだよ」

 

「1-Bタイプのことじゃないんですか?」

 

『そう、それそれ』

 

「ったくしょがねぇな。ちゃんと受け取れよ」

 

「ねぇルリちゃん、コハクちゃんさっきのヤマダさんの作戦、成功するかな?」

 

ユリカがガイの作戦について聞いてきた。

さすが不敗の女王、さっきのガイの作戦を聞き疑問に思ったようだ。

 

「無理ですね」

 

「成功するはずがありません」

 

2人のオペレーター娘は即座に作戦の失敗を指摘する。

 

「どうして?」

 

ミナトが失敗の理由を尋ねる。

 

「換装する間は無防備になりますし‥‥」

 

「相手が換装する隙を与えるとは思えません。ましてやデルフィニュウム搭載のミサイルは多弾頭ミサイル‥下手な鉄砲も数撃ちゃ当たりますから」

 

「なるほど」

 

2人の指摘どおり換装しようとした時、デルフィニュウムのミサイルに換装フレームが攻撃を受け爆発した。

 

「あの~もしかして作戦失敗ですか?」

 

『なんの!!根性!!』

 

ガイはデルフィニュウム部隊の中に向って行き、

 

『ゲキガン・パーンチ!!』

 

小規模なフィールドを拳に張って殴る。

殴られたデルフィニュウムはコックピットを切り離し、パイロットは脱出し、機体は爆発した。

 

『どうだ。見たか真のヒーローの戦いを!!』

 

丸腰の状態から大量のミサイルを掻い潜り、一機撃墜したその腕は確かに大した腕であるが、

 

「ヤマダさん完全に囲まれました」

 

周囲をデルフィニュウム部隊に完全に包囲された。

 

「頼むぞ、テンカワ」

 

『しょーがねぇな』

 

やれやれといった感じでエステバリスに乗り出撃していくアキト。

 

「艦長、デルフィニュウム隊長機より通信が入っています」

 

「繋いでください」

 

メグミが通信回線を繋ぐとそこからよく知った声が流れた。

 

『ユリカ、ナデシコを戻して』

 

「ジュン君?」

 

空間ウィンドウにはトビウメに置き去りにされたジュンがそこに居た。

 

「君の行動は契約違反だぞ?」

 

『それでも構わない。ユリカ、これ以上進むとナデシコは第三防衛ラインの主力と戦うことになる。だから‥‥』

 

「‥‥ジュン君‥ゴメン‥私、此処から動けない‥‥此処が、私が私らしくいられる場所なの‥ミスマル家の長女でもなく、お父様の娘でもなく私が私でいられるのは此処だけなの‥‥」

 

『‥‥そんなにアイツがいいのか?』

 

「えっ?」

 

『ユリカ‥分かったよ‥‥では、まずこのロボットから破壊する』

 

いつの間にかガイの機体は2体のデルフィニュウムにガッチリ固められて身動きが出来ない状態だった。

『くそーはなせぇ!!』

 

ジュンがガイの機体に照準をロックした時、

 

『やめろぉー!!』

 

ガイを捕らえていた右側のデルフィニュウムが突然現れたもう1機の空戦フレームのエステに破壊され、その隙にガイも脱出した。

 

『やめろよ!!この前まで仲間だったんだろう!?』

 

『あくまで立ちふさがるというなら‥僕と戦え!!テンカワ・アキト!!』

 

『ちょっと待て!!なんでそうなる!?』

 

『僕に勝てたらデルフィニュウム部隊は撤退させる!!』

 

「ふむ、損な勝負ではないですな」

 

プロスが計算機で損失を計算して言う。

確かにエステバリスとデルフィニュウムとの一騎打ちならば、性能の差で十分にエステバリスに勝機がある。

しかもアキトはちゃんと武装している。

 

『行くぞ!!テンカワ・アキト!!』

 

ミサイルを撃ちながらアキト機に突撃するジュンのデルフィニュウム。

 

『俺は戦う気なんてねぇぞー!!』

 

ミサイルを回避し、上昇し、逃げるアキト機そしてそれを追うデルフィニュウム。

 

『少尉!!』

 

ジュンのデルフィニュウムを追う他のデルフィニュウム達。

だが、

 

『おっと、お前達は俺様が相手だ!男と男の決闘に水をさしちゃ野暮ってモンだぜ!!』

 

ガイが残りのデルフィニュウムの相手を買って出た。

 

「ジュン君。どうしてアキトに突っかかるんだろう?」

 

「「「「ええっー!!」」」」

 

「それは艦長わかりますでしょう?恋する男の心情」

 

「はぁ?」

 

プロスペクターの言っていることが理解できない様子のユリカ。

 

「アオイさんは艦長の‥‥」

 

メグミが尋ねると、

 

「大事なお友達だけど?」

 

「「「「「‥‥」」」」

 

哀れジュン、首を傾げるユリカの言動に全員が絶句する。

 

「アオイさんも気の毒に‥‥」

 

「私にはわかりません‥‥少女ですから」

 

コハクは実らないかもしれないジュンの恋に同情し、ルリは知らないふりをする。

 

『待てよ待てよ待てよ!お前ぜったい勘違いしているぞ!俺とユリカはなんの関係もないんだ!!』

 

『信じられるか!!大体そんな個人的な事は関係ない!!』

 

((((いや、アオイさん。めっちゃ、私情を挟んでいますよ))))

 

デルフィニュウムから傍受している通信を聞き、ブリッジクルー(ユリカを除く)は心の中でツッコンだ。

 

『じゃあなんでこんなこと!そんなに戦争したいのかよォォォ!!』

 

そう叫んでデルフィニウムに殴るかかるアキト。

その拳を受け止めるジュン。

 

『僕は、子供の頃から地球を守りたかった。連合宇宙軍こそ、その夢を叶える場所だと信じているんだ!!』

 

「俺だって思っていたさ。ずっと‥‥信じれば、正義の味方になれるって。それで、いい気になって‥‥でも、なれなかった‥‥」

 

アキトの脳裏にはユートピアコロニーの地下シェルターで守る事の出来なかった1人の少女の姿が過ぎる。

 

『僕は違う!!』

 

「臨界ポイントまで、19000キロメートル」

 

「まもなく第二防衛ラインの射程距離に入ります!」

 

『この手で地球を守ってみせる!!正義を貫いてみせる!!1人の自由に踊って、夢や誇りを…忘れたくない!!』

 

ジュンの叫びが続く。

 

『っ!?バッキャロォォー!!』

 

アキとは思いっきりデルフィニウムの頭部を殴る。

 

『っく!何をするんだ!?』

 

「親父にもぶたれたことないのに!!」のセリフで有名な某パイロットと同じ境遇なのか青臭いセリフを吐くジュン。

 

『いい加減にしろよ!こんな風に‥‥こんな風に、好きな女と戦う正義の味方になりたかったのかよ!?』

 

『好きな女だからこそ、地球の敵になるのが耐えられないんじゃないかぁ!!クソォォ!!』

 

半分自棄になったジュンが、ミサイルを乱射しながらアキトを追い回す。

 

『少尉、撤退しましょう』

 

アキトを追いかけているジュンに味方のデルフィニウム部隊から通信が入る。

 

『エネルギーがもう限界です!あとは第二次防衛ラインに任せて我々は撤退しましょう!』

 

デルフィニウムはロケット燃料を使用しているため、燃料がなくなれば後は地上に向かって落下するだけである。

同じロケット燃料を使用していてもシャトルならともかく、流石に大気圏の摩擦にはデルフィニュウムの機体では耐えられない。

そうなれば、当然、搭乗しているパイロットもただでは済まない。

 

『そうか…全機、宇宙ステーションに撤退せよ。僕はここに残る』

 

燃料問題を言われ、冷静を取り戻したジュン。

 

『少尉!?』

 

『行け!僕に構うな!』

 

ジュンの命令に従い撤退するデルフィニウム部隊。

 

『くそっ…機体が動かない…エネルギー切れだって!?』

 

『俺もだ~!』

 

ミサイルをメチャクチャに回避している間に2機のエステバリスはナデシコからの重力波ビームの照射圏外に出てしまった。

 

「戦闘衛星、ナデシコを捕捉」

 

「今ミサイルが来たらやばくない?」

 

ミナトの疑問にルリが答える。

 

「ミサイル、3方向より接近中、弾着まで後2分」

 

ナデシコへと向っていく戦闘衛星のミサイルを見てジュンは僅かに残っていたエネルギーを使って、ナデシコの前に出る。

そして、デルフィニウムの両手を広げた所でエネルギーが切れる。

 

「ジュン君!?」

 

ジュンの突然の行動に戸惑い、そしてその意味を理解したユリカが声を上げる。

 

『あのヤロー、ナデシコの盾にでもなるつもりか!?』

 

『止めろッ! 死ぬ気か!?』

 

アキトとガイが叫ぶ。

だが、重力波ビームが届いていない為、動く事が出来ず、見ている事しか出来ない。

 

『分かっていたさ‥‥正義の味方になんてなれやしない‥‥だから‥こうしたかったのかもしれない。好きな人を守って‥‥』

 

ジュンは目を閉じて最後の瞬間を待つ。

しかし、その時が来る事はなかった。

 

『まったく世話やかすなよ。なぁ、お前』

 

ガイの通信が入るとデルフィニウムの両側をガイとアキトのエステバリスが押さえている。

 

『動けなかったんじゃ‥‥?』

 

『ナデシコが追いついてきたのさ』

 

「相転移エンジン、まもなく臨界高度です。残り300km…250km…」

 

ルリがカウントダウンを始める。

 

『来た来た来たぁ~!エンジン回って来たぞぉ~♪』

 

ルリの報告にウリバタケの歓喜の声が重なる。

 

「相転移エンジン、臨界点突破」

 

「ディストーション・フィールド全開!エステバリスを回収後、最大戦速で防衛ラインを突っ切ります!」

 

「まだ分かんないじゃん。正義の味方になれるかもしれないじゃないか。それにユリカのナイト役立ってまだ空きがあるんだし」

 

「ナデシコならそれも自由だって言うのか?」

 

「まぁそういうこと」

 

「まっ、俺様は生まれながらにして正義の味方だけどな!!」

 

「「はいはい」」

 

ナデシコのカタパルト上で外を見ながら未来を語る若者3人がいた。

フィールドを張ったナデシコは第一防衛ラインのビックバリアに接触。

 

「バリアの出力を上げろ!核融合炉が壊れてもかまわん!ナデシコを絶対に地球から出すな!」

 

総司令部で映像を見ていた総司令が怒鳴る。

しかし、衛星は無理な負荷がかかり次々と爆発、ナデシコはバリアを突き破って宇宙へと‥‥火星を目指して飛んでいった。

 

「今頃地球では核融合炉の爆発により大規模なブラックアウトが起こっているでしょう。 まっ、自業自得ですな」

 

プロスペクターの身も蓋もない現状報告。

 

そこにジュンをつれてパイロット達がブリッジに入って来る。

 

「…ユリカ…その…ゴメン」

 

ジュンがユリカの前に来て謝る。

 

「謝る事なんてないよ!ジュン君は友達として私の事心配してくれていたんだもん!!それにジュン君が戻って来てくれて、私、ホントに嬉しいよ!!」

 

「あ、あの‥」

 

「ありがとう。アキト、私の友達を傷付けずにいてくれて!!やっぱりアキトは優しいね♪」 

 

「あのなぁ、俺は別に…ユリカ、お前のためじゃなくてだな‥‥」

 

ユリカとアキトのイチャイチャを見せ付けられ、沈むジュン。

置いてきぼりかと思ったジュンであったが、彼はこうしてナデシコの副長として乗艦する事になった。

 

「まぁまぁとりあえず、生きていればそのうちいいこともあるって。頼むから俺よりも目立つ死に方だけはしないでくれよな」

 

沈んだジュンをガイが慰める。

その手にはゲキガンガーのシールが握られていた。

 

「なんです?それ?」

 

「えっ?これ?」

 

「あっー!!ゲキガンシールだ!!」

 

ジュンはガイが持っていたシールがなんなのか分からなかったが、アキトは何のシールなのか直ぐに分かった様だ。

 

「6機も倒したんだぜ、俺のスペース・ガンガーに貼らなきゃ」

 

そう言ってガイは自らのエステバリスの機体に撃墜マークであるゲキガンシールを貼りに行った。

しかし、ブリッジ要員にとってそれが彼の生きている最後の姿となった。

 

「さあ~てと、何処に貼ろうかな~?」

 

エステバリスの整備も終わり、整備員が撤収し薄暗くなった格納庫でガイは何処にシールを貼ろうかとエステバリスの機体を見ていると、

 

タッタッタッ‥‥

 

誰も居ない筈の格納庫から複数の人間の足音が聞こえた。

ガイがその足音がした方へと視線を向けると、其処には救命艇に乗り込もうとしている連合軍の兵士達の姿があった。

 

「あれ?アンタ達‥‥」

 

ガイが救命艇に乗り込む兵士達に声をかけた瞬間、

 

バン!!

 

格納庫に一発の銃声が響いた。

その瞬間、ガイの身体はドサッと格納庫の床に倒れる。

しかし、ガイの顔は痛みや苦痛で歪んだものではなく、自分の身に何が起きたのかを理解できなかったかの様な自然で安らかな表情をしていた。

 

後に、ダイゴウジ・ガイこと、ヤマダ・ジロウ殺害事件について、あの時ムネタケ達と行動を共にしていた兵士の1人が軍事裁判所に出頭した。

ヤマダ・ジロウ殺害事件の裁判においてその兵士は正当防衛を主張したが、調査により、ガイが武器を持っていなかった事、また争った形跡が全く見られない事からその兵士が主張する正当防衛は認められず、その兵士には殺人罪で重い罰則がかせられた。

 

 

 

・・・・続く


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