機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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第54話

 

 

 

月にて、コハクはアキトとユリカと再会し、昔の思い出の写真や画像を見た。

しかし、今のコハクにはそのどれもこれも記憶にないモノばかりであった。

だが、アキトもユリカも記憶を失っていても、ルリ同様、コハクは自分たちの家族同然だと言ってくれた。

そして、ラピスもコハクには妹であると言って、コハクもラピスと交流をもった。

さらに、ハーリーのことも話した。

ルリにとって、ハーリーは弟の様な存在であり、ルリにとって弟であるならば、それはルリの妹であるコハクにとっても、ハーリーは弟の様な存在であることに当てはまる。

ユリカからハーリーの事を聞いて、コハクはハーリーに興味を持ち、彼に会いたいと頼んだ。

幸い、ハーリーはサブロウタと共に銀河の外で待っている。

ルリはコミュニケにて、ハーリーと連絡を取る。

 

「ハーリー君」

 

「は、はい」

 

「‥‥」

 

「艦長?」

 

「その‥‥不明艦の乗員があなたに会いたいみたいなので、来てください」

 

「えええっ!?」

 

面識もない人物が突然、自分と会いたいと言われ、思わず声を上げるハーリー。

 

「で、でも、どうして、不明艦の乗員が僕と‥‥?」

 

「それは後で話します。ともかく、来てください」

 

「は、はい」

 

急な呼び出しであるが、ルリからの頼みは断れないハーリーは銀河へと向かうことにした。

 

「どうした?ハーリー」

 

「艦長からなんですけど、なんか不明艦の乗員が僕に会いたいそうです」

 

「不明艦の乗員が?‥‥なんで?」

 

「さあ?」

 

サブロウタはどうして呼ばれたのかをハーリーに訊ね、ハーリーはルリから受けた指示をそのまま伝える。

ハーリー自身、なんで不明艦の乗員が自分に会いたがっているのかさえ分からない。

サブロウタも何故、ハーリーが呼ばれたのか気になり、彼についていく。

銀河のタラップでは、例のごとく、キュウパチがハーリーとサブロウタを待っていた。

 

「ゲッ、またコイツか‥‥」

 

「艦内ヲ勝手ニ歩キ回レタラ、困ルカラナ。シカシ、ヨバレタノハ、ハーリーとか言ウ奴一人ノハズだが?」

 

キュウパチは呼ばれたのはハーリー一人のはずなのだが、今、自分の前には二人いる。

どちらかがハーリーではないと言うことだ。

 

「ソレで、ハーリーはドッチダ?」

 

「あっ、僕です」

 

「ソウカ、ソレなら、お前はココに居ろ」

 

キュウパチはサブロウタにはこの場に残れという。

 

「ちょっ、それはないぜ。俺だけ仲間はずれかよ」

 

この場に一人だけ取り残されることに疎外感を感じるサブロウタ。

 

「ソレナラ、お前の上官ノ許可ヲ得ろ」

 

そこで、サブロウタはルリにコミュニケで自分もハーリーと一緒に行っても良いかと許可をもらう。

ルリももうこの際だから、サブロウタにコハクを会わせることにした。

火星でのサミットの席で、コハクとサブロウタと出会っている。

アキトとユリカ、ナデシコでの思い出でもコハクは記憶を取り戻すことはなかった。

しかし、それでもかつてのコハクと出会った人物と接すればもしかしたら、記憶が戻るかと思ったからだ。

 

「キュウパチ、サブロウタさんも連れて来てください」

 

「‥‥コハクは何とイッテイル?」

 

「ちょっと、待って下さい。確認してみます。こは‥‥ホシノ艦長」

 

「はい?」

 

「ハーリー君の他に、もう一人‥‥ホシノ艦長が昔、出会った人も来ています。その方は、ホシノ艦長の救助にも参加した方です。一緒に会ってもらえますか?」

 

「ええ、いいですよ」

 

ルリからサブロウタも通してよいかと言われ、コハクは快くそれを承諾した。

 

「ホシノ艦長からの許可は出ました」

 

「艦長カラノキョカガ出タノデアレバ、イイダロウ。ツイテこい」

 

キュウパチの案内の下、サブロウタとハーリーはコハクの下へと向かう。

ナデシコとは異なる宇宙戦艦の中が珍しいのか、ハーリーは通路を歩いている中、物珍しそうに辺りを見ていた。

 

「着いたぞ、ここだ」

 

やがて、コハクの居る部屋へとたどり着き、扉が開く。

初対面の人間に対してハーリーが持った印象はそれぞれ異なっていたし反応も様々であった。

その中でも特に彼がコハクを眼前にしたときはなんとも形容しがたいものであった。

いや、逆に態度がはっきりしすぎていたとも言えるのかもしれない。

それはハーリーがルリに初めて出会った時以来、二度目の反応だった。

 

「えっと‥‥君がハーリー君?」

 

「は、はい!地球連合軍、マキビ・ハリ少尉であります!」

 

緊張しつつもハーリーはコハクに自己紹介をする。

 

「話はホシノ少佐から聞いているよ。よろしくね、ハーリー君」

 

穏静な口調と共に差し出された優美な手を握り返しながらも、ハーリーは自分の胸が高鳴るのを自覚した。

ハーリーはコハクの真紅の瞳とその容姿に惹きつけられ、目の前の女性から目が離せなくなっていた。

 

(この世で艦長と同じくらい綺麗な人がいるなんて信じられない‥‥)

 

少しずつ落ち着きを取り戻し始めたハーリーはコハクを観察して見てまずそう思った。

 

「初めまして、私は地球防衛軍中佐、ホシノ・コハクです」

 

「えっ?地球防衛軍?それにホシノって、艦長と同じファミリーネーム‥‥」

 

聞いたこともない組織の名前とルリと同じ苗字にハーリーは戸惑う。

 

「それを踏まえて、ハーリー君とサブロウタさんには、ホシノ艦長の事を話します」

 

ルリはハーリーとサブロウタにコハクの事を話した。

初めてのナデシコでルリはコハクと出会った。

ルリは当時11歳でナデシコのオペレーターを務め、その補佐役として義妹のコハクは10歳で木連との戦争に身を投じた。

地球と木連との和平後、火星で行われたサミットの後、コハクは草壁の暗殺を目的に単身で草壁の下に向かったが、逆に草壁率いる火星の後継者たちの手によって囚われの身となってしまった。

そして、夏に起きた草壁たち火星の後継者事件の終盤にて、草壁はボソンジャンプの研究データを新地球連合政府へ渡さないため、研究者ともども研究室を爆破した。

その研究室には遺跡の生体ユニットにされていたコハクも居た。

爆発に巻き込まれる寸前、コハクはボソンジャンプでどこかへと跳んだ。

その跳んだ先が、平行世界‥パラレルワールドと呼ばれる別次元にあるもう一つの地球だった。

コハクはもう一つの地球にある宇宙軍に入り、技術官となっていた。

そして、自らが設計した宇宙戦艦のテスト航海にて宇宙災害に巻き込まれ、この世界に戻ってきたのだという。

話を聞く限りではあまりにも突拍子もなく、漫画・アニメの様な話である。

しかし、この宇宙戦艦‥銀河の存在自体がコハクの話を何よりも証明している。

外見を見る限り、ルリよりも年上な印象を受けるがそれでも十分に若い。

戦争時の木連、宇宙軍にも若い艦長が多かったが、それはこの世界での話であり、もう一つの地球では分からないが、ナデシコ以上に強力な戦艦の艦長を務めているその事実だけでもコハクがすごい人物であるということが分かる。

しかし、それはあくまで経歴と外見的なことであり、ここから先の彼女の内面についてはハーリー自身の目で確かめるしかないのだが、第一印象は良好を通り越していたことだけは間違いない。

 

「やっぱり、あの時の嬢ちゃんか!久しぶりだな!」

 

ハーリーが恐らく憧憬であろう眼差しをコハクに向けていたその時、

サブロウタの声で現実へと引き戻される。

声をかけられたコハクは彼が一体誰なのかさっぱりわからない。

 

「えっと‥‥どこかでお会いしましたっけ?」

 

「おいおい、まさか俺だけ思い出されていないとか? 冷たいなぁ。火星では同じ釜の飯を食った仲じゃないか。それに突然、この戦艦で来た時、倒れていたのを助けたんだぜ」

 

「そういえば、サブロウタさんもあの時調査団に加わっていましたね」

 

それを聞いたルリもあの火星でのサミットでサブロウタが居たことを思い出した。

しかし、コハクの方は何か怪訝そうな顔でサブロウタを見ている。

 

「あ、あれ?もしかして、忘れちまったのか?まぁ、あの時と随分とイメチェンしちまったから、分からないのも無理はないが‥‥」

 

確かにあの火星でのサミットの時のサブロウタは、木連男子らしい、スポーツ刈りに白い詰め襟を着ていた。

反対に今は、髪の毛を伸ばし、更に色を染めて、まるでサーファーのようである。

もっとも、彼がこうなったのにもそれなりの理由はあるのだろう。

 

「サブロウタさん、今のコハクは記憶喪失となっているので、あのサミットの事も覚えていません」

 

「マジですか?」

 

「マジです」

 

「そ、そうなんですか‥‥」

 

まさか、記憶喪失となっていたなんてサブロウタにとっても予想外だった。

 

「色々とあったんだな、あんたも‥‥」

 

「?」

 

「ん?それじゃあ、艦長や大佐たちのことも忘れちまったのか?」

 

「は、はい‥‥テンカワさんとは家族で、その‥‥ホシノ少佐とは‥‥し、姉妹であることを聞きました」

 

「姉妹って‥‥えっと‥‥嬢ちゃんが艦長の姉さんってことになるのか?」

 

サブロウタはコハクとルリの身長と体系、年齢から、コハクが姉であると思った。

 

「いえ、姉は私です」

 

ルリは自分が姉であることを主張する。

 

「「えっ?」」

 

ルリの発言にハーリーとサブロウタは目を見開いて驚く。

 

「どうしたんですか?二人とも」

 

「えっ?あっ、いや‥‥」

 

「てっきり、艦長の方が妹さんだと思って‥‥」

 

「‥‥一応、聞きますが、何故そう思ったんです?」

 

ルリはちょっと顔を引き攣らせ、不機嫌そうに尋ねる。

 

「年齢もそうですが、背も胸もあるじゃないですか」

 

銀河で救助した際は人命救助ということで急いでいたため、じっくり見ることが出来なかったため、サブロウタがまじまじとコハクの身体を見ながら言う。

 

「‥‥」

 

サブロウタの指摘を受けて、ルリはコハクをチラッと見る。

確かにサブロウタの言う通り、今のコハクは年齢もそうだが、身長も胸の大きさもルリよりも大きい。

どうやら、向こうの地球の流れとこちらの地球の流れは少々異なっていた様だ。

その為、向こうの地球に居たコハクは今のルリよりも成長したのだ。

そして、最初のナデシコの航海でもルリは八ヶ月の間、チューリップに居たためなのか、それとも食生活か体質なのか、この時から胸の大きさではルリはコハクに負けていた。

 

「言われてみればそうですね‥‥ホシノ少佐、姉妹を変更しますか?」

 

コハクは自分が姉、妹をルリに変更するかと問う。

心なしか、彼女もサブロウタに便乗してニマッとした笑みを浮かべている。

 

「‥‥ああん?」

 

普段のルリからは考えられない様な顔と声でコハクとサブロウタを睨んできた。

ルリの一睨みにコハクはおろか、アキト、ユリカ、サブロウタ、ハーリーもビクッと体を震わせて、ラピスは首を傾げていた。

 

 

「えっと‥‥それで、ハーリー‥君?だっけ?」

 

「は、はい」

 

「ホシノ少佐から聞いたんだけど、君は少佐の弟って‥‥」

 

「そ、そうなんですか?艦長」

 

「そうですね。私はハーリー君を弟の様に思っています」

 

「弟‥‥」

 

(がんばれ、ハーリー‥‥)

 

弟の様な存在と言われてちょっと嬉しい反面、悲しくもあるハーリーだった。

 

「じゃあ、私にとってもハーリー君は弟ってことになるんだね」

 

「ま、まぁ、そうなりますね‥‥」

 

この際、仕方なく、ハーリーは妥協する感じで自分がコハクの弟であることを認める。

 

「そ、それなら、ねぇ、ハーリー君」

 

「は、はい」

 

「その‥‥ギュってしてみてもいい?」

 

「えっ?」

 

(な、なんだろう?ギュって‥‥?)

 

「ギュっ」の正体もわからないままハーリーは‥‥

 

「い、いいですよ」

 

と、コハクの申し出を了承した。

 

「それじゃあ‥‥」

 

コハクは一歩ハーリーに近付いて、ハーリーの後頭部に両腕を回し、ハーリーをギュッと抱きしめた。

 

「っ!?」

 

コハクから抱きしめられたハーリーは一瞬、何をされたのかわからなかったが、改めて事態を把握すると、自分はコハクに抱きしめられたのだと確認することが出来た。

しかも自分の顔がコハクの胸を押し付けているのだということが分かると、再び胸が高鳴り、顔が熱くなる。

その様子をみてルリとサブロウタは頬を赤く染める。

一方、ユリカは微笑ましい表情で見て、アキトは羨ましそうにハーリーを見ていた。

 

「こ、こ、コハクさん!?」

 

「ん?なに?ハーリー君」

 

「な、なぜこのようなことを?」

 

「ホシノ少佐の弟ならハーリー君は私の弟でもあるからね♪」

 

コハクはニッと笑ってハーリーを見る。

その顔を見てハーリーは顔を赤らめて俯いてしまう。

 

「オーイ、コハク、ちょっと来てクレ」

 

遠くでキュウパチの呼ぶ声が聞こえたのでコハクは、

 

「あっ、すみません、ちょっと行ってきます」

 

ハーリーから離れ軽く手を振りコハクはその場から去っていった。

 

 

コハクが部屋から出ていくと、

 

「‥‥目がハートになっているぞ、ハーリー」

 

サブロウタが早速ハーリーにジャブを入れる。

 

「な、何を言っているんですか!!ぼ、僕は突然あんなことをされて、お、驚いただけです!!」

 

サブロウタに茶化され反論するハーリー。

 

「でも鼻血が出ていますよ」

 

ルリが冷ややかに言う。

コハクに思いっきりハグされたことを少々根に持っている様子だ。

 

「か、艦長まで冗談はよしてくださいよぉ~」

 

否定するハーリーだが、

 

「ありゃ?ほんとにハーリー君、鼻血出ているよ。ボタンに鼻をぶつけちゃったのかな?」

 

「えっ?」

 

ユリカは指摘しながら、懐からコンパクトを出してハーリーに渡す。

ハーリーが鏡に映った自分の顔を見ると鼻から真赤な血が出ていた。

 

「「「「「‥‥‥」」」」」

 

テンカワ夫妻、ルリ、サブロウタ、ハーリーは暫し無言で気まずい空気が部屋中に漂った。

 

それから宇宙軍とコハクの間にて交渉が続けられ、銀河関する取引が行われ、以下のようなことが決定した。

 

・銀河が元の世界に戻れる方法を探し、戻れる場合にはラキシスを元の世界に返す。それまでの期間は宇宙軍に銀河を貸与する。

・銀河の人事権に関してはコハクにも発言権を認める。

 

宇宙軍はこの条件をのみ、銀河は宇宙軍所属となり、コハクも銀河艦長兼地球連合宇宙軍中佐の地位につくことになった。

しかし、コハクの記憶は未だに戻っていない‥‥

 

 

宇宙軍との取引を終え、銀河は本格的な技術調査のため、地球へと回航される事になった。

修理に関しては月のドックにて、行ったので、航行には問題ない。

銀河の地球への回航時、となりにはナデシコの姿もあった。

ナデシコは銀河を先導するかのように航行している。

銀河の方は、ナデシコを追い越さないように補助エンジンで航行している。

 

 

「それで、ハーリーよぉ」

 

「はい?なんですか?」

 

航行中、サブロウタはハーリーに声をかける。

 

「どうだった?」

 

「えっ?なにがですか?」

 

ハーリーは、サブロウタの意図がつかめずに首を傾げる。

 

「なに、かまととぶっているんだよ。あの美人艦長に思いっきりハグされたじゃねぇか」

 

「なっ!?」

 

サブロウタに言われて、彼が言わんとしたことを理解したハーリー。

 

「で?どうだった?あの別嬪さんに抱かれた感想は‥‥?」

 

サブロウタに訊ねられ、ハーリーはあの時の事を思い出す。

軍服越しではあるが、ルリとは異なる大きく柔らかい胸。

女性特有のいい匂いもした。

それを思い出すとまた自分の身体が熱くなる。

 

「えっと‥‥それは‥‥その‥‥」

 

ハーリーは茹でたタコのように顔を真っ赤にして俯く。

 

(お子様のハーリーにはまだ早かったな‥‥)

 

彼の態度を見て、宇宙軍の少尉と言う立場ながらもまだまだハーリーは初心な子供なのだと思った。

ルリ自身もコハクの熱烈なハグをしてもらったハーリーを羨んだが、そんなことで一々目くじらを立てるほど、人として‥‥姉として小さくはない。

 

銀河の艦橋では、コハクとキュウパチがこれから向かうもう一つの地球‥‥自分が生まれたとされる地球をモニター越しで見ていた。

 

「あの地球が‥‥私が生まれた地球‥‥」

 

「ソノヨウダナ。例エ、次元ガ違ッテも地球ハ、地球の様ダ」

 

銀河の艦橋にあるモニターには自分の知る地球‥銀河が生まれた地球と同じ青い星が映っていた。

目的位置である日本、神奈川県の横須賀にあるドックへ向かうため、着水し、東京湾を航行する銀河。

その様子を見て、ナデシコでは、

 

「やっぱり、あの艦は星の海よりも海上の方が何かしっくりきますね」

 

「そうですね、やはりあの形状だからでしょうか‥‥」

 

サブロウタがナデシコの後方を航行している銀河を見て、ポツリとつぶやき、ハーリーもそれに同意見の様だ。

銀河の原型となった宇宙戦艦ヤマトも第二次世界大戦中に撃沈された戦艦大和をベースに作られていたので、サブロウタが言うように銀河もまた海がよく似合っていた。

 

日本が夜になった頃、銀河とナデシコは夜陰に乗じて神奈川県のヨコスカ基地にあるヨコスカドックへと入渠する。

深夜にも関わらず、ドックにはネルガル、宇宙軍の幹部数名が銀河の到着を待っていた。

そして、ドックに入ってきた銀河の姿を見て、唖然とする者が多かった。

コウイチロウも緊張した面持ちで銀河を見ていた。

やがて、タラップが降ろされ、コハクが降りてくる。

銀河もそうだが、成長したコハクの姿を見てその姿に見とれる者も居た。

 

「地球連合宇宙軍、総司令官のミスマル・コウイチロウだ」

 

「地球防衛軍、宇宙戦艦銀河、艦長のホシノ・コハクです」

 

たがいに敬礼しながら、名を名乗るコウイチロウとコハク。

 

「我が宇宙軍は、戦艦銀河、及びホシノ艦長を歓迎いたします」

 

「はい‥‥ありがとうございます。ミスマル総司令」

 

宇宙軍の責任者であるコウイチロウとあいさつを終えた次は、銀河が借りる宿主であるネルガル重工の会長、アカツキがコハクの前に出る。

 

「やあ、コハク君。久しぶり」

 

「えっと‥‥」

 

突然、親しそうにあいさつをしてくるアカツキに困惑するコハク。

自分は記憶喪失になる前、このロン毛の男性とどんな関係だったのだろうか?

 

「ああ、失礼、確か君は記憶喪失だったね」

 

「え、ええ‥‥」

 

「では、教えよう。記憶を失う前、君は僕のモノだったんだよ」

 

「えっ?えっ?‥ええぇぇぇぇぇー!!」

 

コハクはいきなり、アカツキから記憶喪失前は『僕のモノ』と言われて混乱する。

 

(えっ?えっ?『僕のモノ』?それって‥‥)

 

コハクは記憶を失う前、自分とアカツキは恋仲だったのかと勘繰る。

 

「何か勘違いしているようだけど、保護者ってことよ」

 

エリナが訂正するようにコハクへ伝える。

流石にネルガルの所有物だったとは言えない。

 

「そ、そうなんですか‥‥ん?でも、ワタシノ家族はテンカワさんたちじゃあ‥‥?」

 

「テンカワ君たちに引き取られる前にアナタはネルガルで保護されていたのよ」

 

「な、なるほど‥‥」

 

エリナの説明を受けて納得するコハク。

 

「それで、銀河の詳しい技術調査は日が昇ってからにして、今日はもう休んではどうかな?こんなこともあろうかと、近くのホテルの部屋をとってあるよ」

 

アカツキはドックの近くのホテルを予約していた。

 

「えっ?寝泊りなら、銀河の艦内でも構いませんのに‥‥」

 

コハクは寝泊りをするなら、銀河でも構わないというが、

 

「せっかくのご厚意ですから、ここはありがたく受けましょう」

 

ルリはアカツキが用意したホテルへと行こうと言う。

 

ルリの後押しもあり、ホテルへと行くことになったコハク。

 

アキト、ユリカ、ラピスの三人は同じ部屋に泊まる。

そして、チェックアウトの後は、自宅兼お店に戻るらしい。

コハクの方は、自分は一人部屋だと思っていたら、

 

「あっ、この部屋ですね」

 

「そ、そうだね‥‥」

 

何故かルリと同じ部屋だった。

ルリと同じ部屋と言うことで、ハーリーはなんか羨ましそうな目でコハクを見ていた。

 

(えっ?なんで?ホシノ少佐と同じ部屋何だろう?)

 

(そりゃあ、異性よりも同性の方がましかもしれないけど‥‥)

 

コハクは何故、自分はルリと同じ部屋に泊まるのか理解できないまま部屋へと入る。

時差ボケになり、眠れるのかと言う思いを抱きつつもまずは疲れを癒すためにお風呂に入った。

体を洗っていると、後ろの扉がガチャッと開く音がした。

コハクが後ろを振り返ってみると、そこには‥‥

 

「ほ、ホシノ少佐!?」

 

ルリは体にタオルを巻いて立っていた。

 

「しょ、少佐!?なんで‥‥!?」

 

「い、一緒に入った方が、時間の短縮になりますし‥‥」

 

「た、短縮?」

 

「そ、それよりも、背中や髪の毛、洗ってあげますよ」

 

「えっ?」

 

「あなたの髪の毛は長いから洗いにくいでしょう」

 

「えっ?ええ‥まぁ‥‥」

 

ルリはそういうが、実はコハク‥‥

自分の背中や髪は、髪の毛を手のような形にして洗っていたので、別に一人でも問題はなかった。

しかし、ルリはコハクのそんな事情など知る由もなかった。

それにルリはもう、衣類を脱いでいるので、そんな事を言うのもなんだか気が引けるので、コハクは黙っていた。

そして、ルリに背中と髪の毛を洗ってもらうことにした。

背中はともかく、髪の毛は長いので、ルリは心なしか洗いにくそうだった。

洗ってもらったので、コハクはルリの背中と髪の毛を洗ってあげた。

ルリの背中を洗っている中、

 

(綺麗な肌に綺麗な髪‥‥)

 

(でも‥‥とても、華奢な体‥‥)

 

自分も決して例外とは言えないが、ルリは今の自分よりも若い、16歳‥‥

その年で、艦長と言う役職についている。

自分の知る世界では、外宇宙からの侵略に晒させていた。

その為、地球防衛軍‥とくに宇宙戦艦の艦長となると乗員と地球人類の運命さえも背負うことになる。

責任は自然と重くなる。

 

(この世界での歴史はまだ知らないけど、少佐も重責に耐えてきたんだろうか‥‥?)

 

この小さな背中には少なくともナデシコの乗員の命がかかっているのだ。

彼女はその責任の重さに耐えられるのか?

そんな不安がコハクに過ぎった。

 

お風呂に入り、寝間着に着替え、歯磨きをして、互いにベッドに入る。

部屋の電気が消え、暗くなる。

お風呂に入る前は時差ぼけで眠れるかと思ったが、部屋が暗くなると、自然と眠気が押し寄せてくる。

ここ最近はずっと、緊張しっぱなしだったので、体は自分の知らないうちに疲労が蓄積していたのだろう。

眠気でウトウトしており、もうすぐで眠れそうだという時、ベッドに誰かが入ってきた。

 

「っ!?」

 

突然の侵入者の出現で眠気が一気に吹っ飛ぶ。

布団をめくると、そこにはやはり‥‥

 

「しょ、少佐!?」

 

寝る前、部屋にあるもう一つのベッドに入ったはずのルリの姿があった。

 

「ちょっ、何やっているんですか!?」

 

「‥‥何か問題でもあるんですか?」

 

ルリは首を傾げながら、この行為に何か問題があるのかとコハクに聞いてくる。

 

「いや。問題ありまくりでしょう!?」

 

「私たちは同性であり姉妹ですから問題はありません。それに昔はよくこうして一つのお布団で一緒に寝ていたんですよ」

 

(ほ、本当かな‥‥?)

 

この場にアキトかユリカが居れば、ルリの言っている事が事実かそうでないか分かるのだが、わざわざその確認のために二人を起こすのは申し訳ないので、この場はルリの言葉を信じることにした。

ルリはコハクの体に両手をまわして、ギュッと抱きしめる。

身長差があるため、コハクが言ったように妹が姉に抱き着いているかのような構図となる。

 

「‥‥」

 

コハクもルリの体をギュッと抱きしめる。

二人は互いに互いの温もりを感じながら眠りについた。

ルリに抱かれ、コハクは彼女の温もりをなんだか懐かしくも思った。

 

 

翌日から、ネルガル、宇宙軍の技師の立会いの下、銀河の本格的な技術調査が行われることになった。

しかし、コハクはその前に銀河のメインコンピューターに記録されているガミラス、ガトランティス、暗黒星団帝国、ボラー連邦などの記録を消去した。

この地球で起こるか分からない外宇宙からの侵略者のデータで無用な混乱を避けるためだった。

だが、コハクのこの行為が後に大きな障害となることをこの時、彼女はまだ知る由もなかった。

 

ネルガル、宇宙軍の技師たちによる技術調査の結果はネルガル本社のアカツキと宇宙軍総司令のコウイチロウの下に届けられた。

 

「むぅ~‥‥やはり、あの銀河と言う戦艦の力は現在の我々の技術と戦力を凌駕しているな‥‥」

 

報告を受けて、コウイチロウは木連との戦争時、ネルガルが建造したナデシコの強力な火力、グラビティ・ブラストを初めて見た時と同じような感覚を思い出す。

銀河の艦首にもナデシコや他の宇宙艦艇同様の戦略砲、波動砲が装備されているとの報告を受けた。

まだ実際にその威力を見たことはないが、あれだけの戦艦の切り札ともいえる戦略砲なのだから、グラビティ・ブラストよりも威力があるのだろうと予測するコウイチロウだった。

 

一方、ネルガル本社にて、銀河の調査報告を受けたアカツキは、

 

「ハハハハハ‥‥なんてしろものだ。ハハハハハ‥‥・」

 

機嫌良さそうに報告書を見ていた。

 

「何がそんなに面白いの?」

 

そこへ、秘書のエリナがやってくる。

 

「これさ」

 

アカツキはエリナに銀河の調査報告書を手渡す。

 

「‥‥」

 

始めは何気ない感じで銀河の調査報告書に目を通していたエリナであるが段々と顔色が変わる。

 

「こ、これはっ!?」

 

「だろう?すごい、技術さ‥‥相転移エンジン、グラビティ・ブラスト‥‥あのボソンジャンプでさえ、旧時代の遺物にしてしまうほどの技術かもしれない」

 

「波動エンジン‥‥」

 

「そう、その波動エンジン‥‥ワープに波動砲‥‥その調査報告書に記載されていることが事実ならね」

 

「‥‥」

 

エリナはもう一度、報告書に目を通すと武者震いする。

アカツキの言うようにこの報告書に書かれている事が事実ならば、相転移エンジンやボソンジャンプなんて、過去のものになる。

この波動エンジンのライセンスを取得できれば、業績不振になっている会社の業績は一気にあがる。

反ネルガル企業を見返し、そして潰すことだって出来るかもしれない。

 

「コハク君‥‥やはり、君は我々に大いなる栄光をもたらす宝物だよ」

 

アカツキは調査報告書とコハクの写真を見ながら愉快そうに呟いた。

そう、それはまるで宇宙への大航海時代を予見したかのように‥‥

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。

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