機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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第48話

 

 

 

西暦2201年 秋 地球衛星軌道上

 

地球は今、壊滅の危機に瀕していた。

2190年代の初頭以来宇宙侵略を着々と進めてきたガミラス宇宙艦隊はついに地球へ、その魔の手を伸ばし地球へ対し遊星爆弾による無差別攻撃を開始した。

地球人は地下都市を築き懸命に生き延びたが、優れた科学力を持ったガミラスに地球防衛軍はなすすべなく追い詰められていった。次第に戦力を失う地球防衛軍にとって最後の頼みは地球防衛艦隊であったが、2199年に沖田十三提督率いる地球防衛軍日本艦隊とガミラス軍冥王星基地艦隊との間で起こった冥王星会戦において地球防衛軍は惨敗し、ここに地球防衛軍は壊滅した。

もはや地球人は滅びるしかない‥‥誰もが絶望の淵に立たされたとき地球から十四万八千光年の彼方、大マゼラン星雲の中にある星の1つイスカンダル星の女王スターシア・イスカンダルからもたらされたメッセージと波動エンジンの設計図を元に第二次世界大戦の折、坊ノ岬沖に沈没した大日本帝国海軍の超弩級戦艦、大和を宇宙戦艦へと改装した地球人は沖田提督の指揮の下、放射能を除去する機械、放射能除去装置コスモクリーナーDを受け取るためイスカンダルへの航海へと旅立っていった。

多くの犠牲を払いながらもガミラスとの数々の戦闘に勝利し、ついにヤマトは大マゼラン星雲へと入り、そこでイスカンダルとの双子星であり、地球を放射能まみれにした元凶である、ガミラス星での本土決戦に勝利したヤマトは無事イスカンダルへと着いた。

 

そして西暦2200年‥‥

 

ガミラスの総統デスラーは去り、ヤマトは母なる地球へと帰り地球はギリギリの所で救われた‥‥

 

そして時は流れた‥‥

 

沖田十三がヤマトとその乗組員達と共におし渡ったイスカンダルへの航海のことさえ人々はもう忘れようとしていた‥‥

 

ヤマトの帰還から僅か1年余りで地球は目覚しい発展を遂げ、地球本土の復興を達成後その勢いを同じ太陽系の惑星や衛星へと押し広げていた。

各惑星・衛星にはそれぞれ基地が建設され、資源採掘が急ピッチで行われた。

地球は物質文明の極致と言って良いほどの平和と繁栄を手に入れた。

しかしそんな地球へ新たな侵略者が訪れた。

アンドロメダ星雲内で自分達に利用価値が有るとみなした有人惑星をことごとく攻撃し、侵略を繰り返し、小さな星や惑星は周りに纏った超重力のガス雲で粉々にしながら太陽系へ迫った白色彗星帝国ガトランティス。

再建したばかりの地球防衛軍はヤマトと新鋭戦艦アンドロメダを中心とする新地球防衛艦隊は土星圏においてガトランティス侵攻艦隊との決戦に挑み、艦隊戦には勝利したものの彗星帝国本体との決戦において地球軍は惨敗をし、アンドロメダを含む多くの艦艇と人員を失った。

この戦いにからくも生き残り、孤立無援となりながらもヤマトは単身彗星帝国へと戦いを挑んだ。

その途中木星軌道において復讐戦を誓ったガミラスの総統デスラーとの戦闘に勝利し、月軌道で彗星帝国との戦闘に突入。

再び多くの犠牲を払いながらも彗星帝国本体の動力を停止させることに成功。

艦砲とミサイル攻撃により彗星帝国本体を撃破。

ヤマト乗員と地球の人々が歓喜の声をあげる中、地球人々、そしてヤマトの乗員を絶望させる事態が起こった。

 

 

 

全宇宙は我が故郷。

 

不滅の大帝国ガトランティスに敗北はない‥‥

 

愚か者よ。戦いはこれからなのだ‥‥

 

大帝ズォーダーの怒りと共に黒色の巨大な戦艦が現れた。

 

その大きさはヤマトがまるで駆逐艦以下の小型艦艇に見える程の大きさだった。

 

 

超巨大戦艦ガトランティスは搭載されている無数の砲台をヤマトに向けた。

 

「ヤマトよ‥‥楽には殺さんぞ‥‥我が都市帝国を壊滅させてくれた礼だ‥‥苦しんで、苦しんで‥‥逝くがいい!!」

 

無数の砲台から放たれる大小さまざまな口径のエネルギー弾は一斉射でヤマトを大破させた。

 

「フハハハハ、ヤマト、そこで地球が滅びる様を見ているがいい。地球が宇宙の塵となった後は貴様も後を追わせてやろう」

 

ヤマトを大破させた後、下部に搭載されている巨大な主砲を地球へと向けた。

ヤマトはもはや成す術も無くガトランティスの攻撃を見ているだけでしかなかった。

その時、ヤマトの前方に小さな発光物体が現れた。

 

「あれはっ!?テレザリアム!!」

 

ヤマト艦長代理兼戦闘班長の古代進は発光物体の正体に声をあげる。

 

「テレサさん!!生きて‥‥生きてらっしゃったのね!!」

 

レーダー手兼船務長の森雪もテレザート星で死んだと思っていた反物質を操る能力を持つ女性、テレサが生きていたことに驚く。

するとヤマトの第一艦橋が眩しく光ったかと思うと先のガミラスの戦闘中敵弾で被弾し宇宙へと放り出されたヤマト航海長、島大介を連れテレサが現れた。

 

「島さんを届けに参りました‥‥」

 

「あなたが‥‥島を‥‥」

 

「島さんの命は取り留めました‥‥あとは、あなた方の手で地球へ送り届けてください‥‥」

 

「しかし‥‥ヤマトは‥‥」

 

「テレサさん‥‥島くんは、あなたが地球に‥‥」

 

「いいえ‥‥もうわたしの力ではとても‥‥わたしはなんとかここまで島さんを回復させました‥‥でもこれ以上は‥‥」

 

「‥‥テレサさん‥‥あなたはご自分の血を島君に‥‥」

 

「島さんをお渡しいたします。あとは地球で‥‥あなたがた地球の人々の手で‥‥」

 

「しかしテレサ‥‥ヤマトはもう、地球に帰るわけには‥‥」

 

「ズォーダーとの戦いには、わたしが参ります」

 

「いけません!あなたはこれまで充分すぎるほどの好意を示してくれました。もうこれ以上はあなたの命が!!」

 

テレサは死ぬ気だと悟った古代はテレサをとめようとするが、テレサは首を横に振り

 

「いいえ‥‥わたしはもう死ぬことはありません。島さんの体にはわたしの血が流れているんですもの‥‥わたしは今、幸せなのです。島さんの体の中でわたしはいき続けることが出来る‥‥あの美しい地球で島さんと一緒に行き続けることが出来るのです。だから、島さんを連れて早く地球へ‥‥あなた方が生きて帰ることが、地球の未来につながるのです」

 

と、慈愛に満ちた顔で言った。

 

「テレサ‥‥」

 

古代が呟くようにテレサの名を言う。

テレサは島を古代に託すとヤマトを離れていく。

 

「さようなら‥‥古代さん‥‥島さんをよろしく頼みます‥‥」

 

テレサは古代にヤマトを‥‥島を無事地球へと帰すため、ズォーダーの巨大戦艦へと向っていく。

 

超巨大戦艦から放たれるエネルギー弾は1発で1つの都市を跡形もなく吹き飛ばし、多くの人命を一瞬で奪い去る。

 

「フハハハハハ、アハハハハハ。愚か者の地球人どもめ!死ぬがいい!滅びるがいい!ハハハハハ‥‥」

 

ズォーダー大帝は高笑いしながら主砲の発射スイッチを押しながら地球人を殺戮し、地球上の山を、街を、林を、大陸を吹き飛ばしている。

すると前方から目映い光を放つものが現れた。

 

「ん?」

 

ズォーダーが目を凝らしてその発光体を見る。

発光体の中心には青いドレスのような服に身を包んだ金髪の女性がいた。

その女性を見た途端、ズォーダーの顔からは先程まで浮かべていた余裕の笑みが消え、脂汗が滲み出る。

 

「テ、テレサ‥‥い、生きていたのか!?」

 

ズォーダーがこの世で唯一恐れる反物質を操る女、テレサ。

彼女は幽閉されていたテレザート星もろとも宇宙の塵にしたと思っていたズォーダーにとって彼女が生きていたことが凄まじい戦慄と恐怖を覚えさせる。

 

「こ、攻撃止め!反転180度!」

 

ズォーダーの命令一下、ガトランティスは地球への無差別砲撃を止め、その巨大さのため、ゆっくりと反転し反転終了後に全速でテレサから逃げる。

しかし、テレサとの距離は一向に開かずそれよりもどんどん縮まっていく。

 

「どけ!」

 

ズォーダーはガトランティスの舵を取る操舵手を押しのけ自ら舵を握るがそれは無駄な抵抗に終わり、テレサが自らの命と引き換えに放った膨大なエネルギー波はガトランティスを飲み込む。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁー!!」

 

ズォーダーの絶叫と目映い閃光と共に超巨大戦艦ガトランティスは跡形も無く消滅した。

眠る島をシートに横たえ、自らの命と引き換えに地球を救ってくれたテレサに対し、古代と雪は敬礼を捧げる。

 

敬礼を捧げる古代と雪、その時背後で再び、発光現象が起こった。

 

「な、なんだ?」

 

古代は咄嗟に腰のコスモガンをその発光体に向けた。

やがて光が収まるとそこにはあちこちが裂け、血がついているトーガの様な服を纏った少女が倒れていた。

突然のヤマトへの訪問者を乗せたままヤマトは戻る事の無いと思っていた地球へ傷ついた姿で帰還した。

 

 

その頃、宇宙の邪悪な侵略者、白色彗星の戦いの中で、ヤマトと戦ったデスラーは、古代 進との間に芽生えた奇妙な友情に想い馳せつつ、新国家の建設をめざし、新たな故郷となる惑星を求め、大航海の途についていた。

双胴を思わせる外観と、後方に寄せられた上部構造物群が特徴的であるガミラスのゲルバデス級航宙戦闘母艦。その一番艦であるデスラー・ガミラシアを中心に、多数のガミラス艦隊が宇宙を航行していた。

そのデスラー・ガミラシアの艦橋では‥‥

 

「只今より総統閣下よりお言葉をいただく。皆の者!清聴する様に!!」

 

と、デスラーの副官、ガデル・タランが全艦にチャンネルを開き、総統の演説が始まる事を伝えると、

ガミラス帝国総統、アベルト・デスラーは一歩前に出て、口を開く。

 

「諸君、我々がガミラス大帝星を離れて、すでに2年あまりの月日が過ぎた。だが、我々は決していたずらに宇宙を放浪していた訳ではない。大ガミラス帝国の再建、ガミラス民族の復興‥‥この宿願を果たす為である」

 

演説するデスラーの声には長きに渡る航海にも関わらず、些かの疲れも淀みもない。

 

「諸君、この宇宙は広大である。我々の新国家となるべき惑星は必ず発見されるであろう!故に、十分な戦力を増強し、来るべき日に備えなければならない。揺るぎなき本星を築き、周辺の星々をことごとく打ち従え、偉大なる我がガミラス帝国を、再びこの大宇宙の盟主とするのだ!!」

 

力強く国家再興を宣言したデスラーは、ここでひと呼吸置いて再び口を開く。

 

「これより我が母なるガミラス星に立ち寄り、一目最後の別れを告げた後、新天地への大航海へと向かう。将兵諸君のこれまでの労苦に感謝するとともに、今一層の忠誠を期待する」

 

『総統万歳!(ガーレ・フェゼロン!!)』

 

将兵達がガミラス式の敬礼をし、デスラーに忠誠を誓う。

デスラーが将兵達の歓呼に応えて右手を上げると、歓声はピタリと止む。

そして、デスラーは改めて口を開く。

 

「全艦、ガミラス星に針路を取れ!」

 

ガミラス艦隊は一路、自分達の故郷であるガミラス星を目指した‥‥。

 

 

テレサのおかげで巨大戦艦ガトランティスは消滅し、地球は滅亡の危機を回避することが出来た。

傷ついたヤマトは古代、雪、島、そして突如現れた謎の少女を乗せ地球へ帰還した。

 

地球へ辿り着いたヤマトは修理のためドックへと回航され、島と少女の二人はメガロポリスにある連邦中央病院へと運ばれた。

病院に運ばれた両名の内、島の方はテレサの応急処置のおかげで大事には至らなかったが、少女のほうはまるで陸上戦をしてきたのか、それとも巻き込まれたのか全身が酷い傷だらけで手術室へと運ばれた。

その時執刀した医師は彼女の血液の中に小さな機械が無数に存在するのを発見し、その血を保存した。後にこの血液中に存在しているナノマシーンがこの世界の医療に大いに貢献することとなった。

 

ヤマト乗員を見舞うため、地球防衛軍司令長官藤堂平九朗は連邦中央病院へと向かった。それと同時に帰還途中のヤマトに突如現れた少女も見舞った。

藤堂は古代と雪から少女の現れた状況を聞き、医師から彼女の症状と持ち物も調べた。

身元を証明するものは何も持っておらず、ただ服以外唯一身につけていたのは金色のロケットペンダントだけで、中には銀髪の少女と一緒に写った写真とフタの裏にこの少女の名前なのかホシノ・コハクと書かれていた。

 

 

それから一週間後‥‥‥

 

「ん‥‥こ、ここは?」

 

「おぉ、気が付いたか」

 

少女の目がゆっくりと開いた。

医師が症状の確認後、特に話しても問題ないと判断したので古代と藤堂が少女の病室に赴いた。

病室に入った古代と藤堂が見たのはただ呆然と窓の外を見る少女の姿だった。

 

「気がついたようだね」

 

藤堂が話しかけると声に反応して少女が顔を向ける。

少女の真紅の瞳が藤堂と古代を見つめる。

 

「あ、あの‥‥ここは‥‥?」

 

「地球だよ。地球のメガロポリス・トウキョウの中にある連邦中央病院だよ」

 

古代が少女の質問に答える。

 

「地球‥‥?」

 

少女は首をかしげる。

 

「まずはこれを君に返そう」

 

藤堂は病院の医師から預かっていた金のロケットペンダントを少女に渡した。

 

「早速本題に入りたいのだが、君の名前は?それと君は一体どこから来たんだい?」

 

古代が少女の名前とヤマトに来る前どこにいたのかを聞くが少女は質問の意味が理解出来ていないのかただ首をかしげるばかり。

 

「そのペンダントにホシノ・コハクという名前が書かれていたのだがそれは君の名前かな?」

 

藤堂がロケットペンダントのフタに書かれていた名前を聞くと少女は確認するかのようにロケットペンダントのフタを開ける。

 

「ホシノ・コハク‥‥」

 

「そう。それは君の名前なのかい?」

 

藤堂がもう一度聞くが、少女はロケットペンダントのフタを閉じて首を横に振る。

 

「分かりません‥‥これが本当に自分の名前なのか‥‥そしてここに来る前どこに居たのか‥‥」

 

「「えっ!?」」

 

古代と藤堂の声が重なる。

 

「‥長官。これって‥‥」

 

「うむ。いわゆる記憶喪失というやつか‥‥」

 

少女の証言を疑うわけではないが、念のため検査を受けたのだが検査の結果はやはり記憶喪失と診断された。

記憶喪失の少女をそのまま戦後混乱中の世間に放り出すわけにもいかず、記憶が戻るまで少女の身請けを藤堂が買って出た。

少女は藤堂の家で保護されることとなり、名前はロケットペンダントにあった名前の通りコハクと名乗ることになった。

戦災の復興の中、失われた軍備の方もまた再建しなければならず、当然防衛軍長官である藤堂も連日再軍備のための会議や書類整理に追われていた。

特にガミラスと彗星帝国との間で失われた人員の育成が今後の大きな課題となっており、一人前の宇宙戦士を一人育てるのには時間がかかった。

そのため今後暫くは防衛軍艦艇のほとんどが無人艦を中心することとなり、建造するための資材は地球衛星圏に漂っている防衛軍や彗星帝国の艦船の残骸を回収し、それらを加工して再利用することとなった。そして比較的損傷が低い彗星帝国艦艇はそのまま鹵獲品となり、若干の改造と修理をした後、防衛軍所属艦艇となった。

コハクも居候のままでは失礼かと思い、藤堂に情報処理業務や艦船の設計を買って出た。

当初コハクの申し出を断っていたが、コハクが独自でまとめた資料や設計を見て藤堂や技術者達はイヴの年齢と資料や設計の結果を見て驚いた。

特に「相転移機関論」には造船技術者が食いついた。

出力では波動エンジンには及ばないが、真空の宇宙では無尽蔵にエネルギーを得る事が出来るので、新たな補助機関として注目され、波動エンジンと相転移エンジンの組み合わせた新たな機関の開発も進められた。

藤堂がコハク本人に聞くとコハクは「なんとなく」というだけだったが、コハク自身もこの世界で採用されている波動エンジンの性能には驚いていた。

 

地上で防衛軍が再軍備を図る中、防衛軍艦隊司令部は士官学校の教官らを急遽、彗星帝国戦役において無事だった残存艦や急ピッチで建造した新造艦船の艦長職に異動させ、乗組員の方も繰り上げ卒業させた士官学校生や幼年学校生を乗せ、彗星帝国軍残党狩り作戦を2202年の一月末に決行することとなった。

ヤマトも新しい乗員を乗せ、残党軍討伐のため再び星の海へと旅立っていった。

 

ヤマトは途中、月において、艦載機科を卒業した新人たちの乗るコスモタイガー隊と合流し、近くのアステロイド帯で演習した後、木星圏、ガニメデ軌道上で新造主力戦艦 蝦夷 アイル・オブ・スカイ メリーランド と合流し彗星帝国残党軍掃討作戦「雷王作戦」のため、土星圏へ向けて出港準備をしていった。

しかし、残党艦隊は土星圏に展開していた防衛軍駆逐戦隊の包囲網をワープで突破し、木星圏の近くへと侵攻してきた。

雷王作戦を指揮するガニメデ駐屯基地司令 山南は急遽作戦場所を変更し土星圏からこの木星圏において雷王作戦を決行することとなった。

山南は土星圏に展開していた包囲艦隊を至急木星圏に急行させたが、それでも到着まで時間がかかる。

ヤマト率いる戦艦部隊には包囲艦隊到着まで敵艦隊を足止めするよう命令が下された。

残党艦隊は左右両翼に高速駆逐艦隊を展開し、中央に旗艦である大型回転空母と護衛のミサイル艦数隻を展開している。

左翼側の駆逐艦隊にはガニメデ基地から発進したコスモタイガー隊があたり、右翼側にはヤマト所属のコスモタイガー隊が対応した。

ヤマトは作戦通り敵旗艦を短時間で沈めるため、波動砲のチャージを開始する。残りの三隻もヤマトに習い波動砲へエネルギーチャージを開始する。

やがてエネルギーチャージが終了すると四隻の戦艦から波動砲が放たれる。

放たれた波動砲は中央部に展開していた敵艦隊を跡形も無く消滅させた。

 

残党軍 後衛 副司令官座乗 ミサイル艦

 

地球軍の戦艦から放たれた高エネルギー砲の威力を見て、兵士達に動揺が見られる。

 

「ふ‥‥副指令!!我が方の旗艦が‥‥轟沈を!!艦隊に混乱が生じています!!このままでは‥‥!!」

 

「なんという‥‥なんという電光石火の攻撃だ‥‥!!」

 

副指令は事態の深刻さを認識し、暫しの間今後の艦隊運動を考えた後、結論を出した。

 

「‥‥特攻だ。混乱する指揮系統をまとめるには一つしかない!!我々が先導して特攻し、他の艦に今何をすべきかを伝えるのだ!!」

 

「しかし‥‥それでは‥‥!!」

 

「後のことは十一番惑星に残っている本隊がなんとかしてくれる‥‥今我々がなすべきことは木星圏の地球軍勢力を出来る限り消耗させる事!! 敵を倒さぬままで退却することは断じて許されん!! 彗星帝国ガトランティスの兵士として、誇りと共に潔く散ろう!!」

 

「は‥‥はい‥‥!!」

 

戦艦部隊は当初の目的どおり、敵旗艦を沈めたのを確認し、敵戦列後方へ離脱するための行動をとった。

しかしここで敵艦隊は思わぬ行動に出た。

それを最初に察知したのは航海長補佐の太田健次郎だった。

 

「ン?‥‥これは‥‥!!艦長代理!!て、敵艦隊が転進を開始しています!!」

 

「なに?」

 

「敵はガニメデ基地に向って突っ込んできます!!」

 

その報告を聞き、一番驚いたのは新人士官の北野哲だった。

彼は士官学校を主席で卒業し、卒業間近で今回の雷王作戦を立案した秀才だった。

 

「そ、そんな‥‥指揮系統の混乱がそう早く収まるはずはないのに‥‥」

 

「相原!!包囲艦隊の到着はまだか!?」

 

古代が通信長相原義一に聞く。

 

「だめです。到着まで最低でもあと五分かかります」

 

「これが実戦だ‥‥紙の上で計算して立てた作戦通りにはいかないんだよ、北野」

 

「‥‥」

 

古代の言葉を聞き、改めて実戦の困難さを実感する北野。

 

「全艦、戦闘態勢を崩すな!!包囲艦隊の到着まで何とか耐え切るぞ!!敵をガニメデ基地に向かわせるな!!我々に引き付けるんだ!」

 

戦艦部隊はガニメデ基地と敵艦隊の間に割り込んで砲撃戦を開始した。両翼の高速駆逐艦隊もコスモタイガー隊を振り切り戦艦部隊に特攻をしかけようとするが、後方からコスモタイガーのミサイル攻撃、前方からは戦艦部隊の砲撃とミサイルが容赦なく襲い装甲の薄い駆逐艦隊は次々と撃沈されていった。

それから五分後、敵艦隊の後方、左右に土星圏から到着した駆逐艦隊が砲雷撃戦を開始し敵残存艦隊は殲滅された。

 

「戦闘宙域に反応!!包囲艦隊の到着です」

 

雪がコスモレーダーで捉えた包囲艦隊の反応を見つけ報告する。

 

「なんとか切り抜けたな、古代」

 

「ああ、新乗組員達もよく頑張った」

 

島が額の汗を拭いながら古代に言い、古代は新乗組員に労いの言葉を掛ける。

 

「それにしても、敵が特攻をかけてくるとは思わなかったですよ。敵にしても早々に撤退を開始すれば、包囲艦隊前に大部分が離脱出来た筈なのに‥‥」

 

敵の特攻に疑問を抱く太田。

 

「地球をあんなふうにした奴らです。当然の報いですよ」

 

北野は怒気を含んだ声で宇宙に漂う彗星帝国艦艇の残骸を見ながら言う。

 

『古代艦長代理、よくやってくれた。これより防衛軍は第十一番惑星へ大部隊を派遣する』

 

山南司令より通信が入り、敵の大部隊が壊滅した今、土星~地球圏に展開していた艦隊が全て集結次第、第十一番惑星へ出兵することが伝えられ、ヤマトには土星圏の拠点防衛の任務が与えられ、ヤマトは土星へ向った。

イレギュラーが起こるも無事に彗星帝国の残党艦隊の殲滅という作戦の主目標は達成され、防衛軍側の被害も軽微ですんだ。

雷王作戦の第一段階の報告を受けた藤堂は残務処理と次の作戦のために必要な補給計画の見積書に目を通していた。

コハクも藤堂の秘書として軍の再編成を手伝っていた。

彗星帝国残党軍の討伐が順調に行われていたある日、防衛軍司令部にある長官室にいた藤堂の下に通信文を持った参謀の一人が入室した。

 

「長官。奇妙な電文を受信しました」

 

「どこからだ?」

 

「そ、それが‥‥デスラーからの電文です」

 

「デスラーから!?‥‥間違いないのか?」

 

「はい、何度もチェックしましたので間違いありません」

 

「それで内容は?」

 

「はっ、ガミラス星が正体不明の敵に襲撃され爆発。その反動でイスカンダルが軌道を外れ暴走し、遂にはワープしてしまったとのことです」

 

「あのイスカンダルが‥‥」

 

「イスカンダルのワープアウト地点は銀河系の外れ方位25の空間だそうです」

 

「‥‥」

 

「しかし、電文の発信源があのデスラーですから何かの罠かもしれませんが‥‥」

 

「うむ‥‥」

 

 

参謀が退室した後、藤堂は電文を手に取り何度もその内容を目で追っていた。

 

「長官、どうぞ」

 

電文とにらめっこをしていた藤堂にコハクがお茶を出す。

 

「ああ、ありがとう」

 

お茶を出され、藤堂は電文を机に置いた。

 

「あの?先程の会話に出ていたデスラーやイスカンダルって何ですか?もし差支えがなければ教えてもらいたいのですが」

 

未だ記憶がないコハクには地球を滅亡寸前まで追いやったガミラスの名もその星の指導者の名前も地球を救ったイスカンダルの名前さえも知らなかった。

藤堂はコハクに分かりやすく端的にガミラスのことイスカンダルのことそしてヤマトのことを教えた。

 

「なるほど、地球を救った星の危機を知らせてきたのがかつて地球を滅亡させようとした星の指導者なので、長官は罠の可能性もあり迷っているということですね?」

 

「‥‥コハク。君はどうしたらいいと思う?」

 

「そうですね。長官のお考えは分かりますけど、もしそのデスラーという人物が言っていることが事実ならば地球を救ってくれた星を見捨てることになりますからね」

 

コハクは顎に手をやり暫し考え、

 

「ここはヤマトの乗員にもこの電文の内容を伝え、どう考えているのかを聞いてみては如何でしょう?おそらくガミラスやデスラーの人となりをもっともよく知るのは彼らでしょうし‥‥」

 

と、ヤマトの乗員の意見を聞いてみるようにと進言した。

 

 

ヤマト 第一艦橋

 

「確かにデスラーからの通信なのか?」

 

「間違いありません。何度も確認しましたから‥‥」

 

古代の問いに相原がデスラーからの通信文を読み上げる。

防衛軍司令部でデスラーの伝聞を受信したのと同じくヤマトでも同じ内容の電文を受信しどう行動すべきか迷っていた。

特に決断を迫られていたのが古代だった。

 

「古代!イスカンダルにはお前に兄さんが‥‥!!」

 

「そうだ。守がいる。スターシアと一緒に‥‥」

 

「たしか士官学校で真田さんと同期でしたよね?」

 

「ウム」

 

北野の問いに頷く真田。

技術班長、真田志郎の言うとおりイスカンダルには彼の兄、古代守が女王スターシアともに暮らしていた。

しかし、ヤマトは現在作戦行動中で命令もなく勝手に戦列から離れるわけにもいかない。

だからといってイスカンダルが危機に晒されようとしている中、何もしないというわけにもいかない。

ガミラス戦役からのヤマト乗員はイスカンダルへ行くべきだと主張しているが、艦を預かる古代としては私情で動かすわけにもいかなかった。

 

「古代、すぐ行こう!守とスターシアを救いに‥‥」

 

「‥‥」

 

古代は決断を下せないまま一度、艦橋を降り、自室のベッド脇に置いてある写真立てに手を伸ばす。

 

「兄さん‥‥」

 

防衛軍の艦長服に身を包んだ守の写真を見ているとドアをノックする音が聞こえた。

古代は咄嗟に写真立てを毛布の中に隠す。

 

「誰だ?」

 

「私よ」

 

一声かけた後、古代の部屋に雪が入ってきた。

 

「古代君早く行ってあげないと‥‥」

 

「私情で艦を動かすわけにはいかない」

 

「私情じゃないわ!!地球はイスカンダルに大変な恩があるのよ!!」

 

「‥‥」

 

「あのコスモクリーナーが無かったら地球は放射能に覆われて私達地球人は滅んでいたわ。このヤマトだってスターシアさんの協力があったからこそ建造出来たのよ。何を迷っているの?古代君」

 

古代が俯き雪の説得を聞いていると艦内放送が入り、古代は第一艦橋へと戻った。

 

「司令部からの通信ですメインモニターに映します」

 

相原が通信機器を操作するとモニターに藤堂の姿が映し出された。

 

「長官」

 

『古代、そちらでもデスラーの通信を受信したそうだな?』

 

「はい。彼の通信内容は十分に信頼できるものだと思います」

 

『君達の現在位置からイスカンダルのワープアウト地点までどれくらいかかる?』

 

「ワープを重ね全速航行を続ければ三日ほどで到着できます」

 

『よかろう。すぐにイスカンダルへ救援に向いたまえ』

 

「しかし、地球は今再建の途上です。我々も作戦行動中ですし‥‥」

 

『古代、君は地球がイスカンダルから受けた恩義を忘れたのか?』

 

「‥‥」

 

『何を遠慮しておる。今度は君達がイスカンダルを‥‥スターシアと守を救う番だ』

 

「わかりました。長官」

 

『しっかり頼むぞ。古代‥‥』

 

長官の命を直々に受け、ヤマトは戦列を離れてイスカンダル救出のため、太陽系を後にして三度星の海へと旅立とうとしていた。

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。

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