機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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更新です。


第43話

 

 

 

 

 

西暦2201年7月‥謎の大型機動兵器のよるヒサゴプランのコロニー襲撃事件が発生し、それはこの一ヶ月の間で4つのコロニーが襲撃を受け大破もしくは中破して使い物にならないくらいの大損害を受けた。

新地球連合政府、統合軍は事故調査委員会を立ち上げ、調査に乗り出すが、調査委員会の態度は正直に言ってやる気が見られない。

そうした事故調査委員会の動きに、この連続したコロニー襲撃事件には何かが隠されていると思った宇宙軍司令部はヒサゴプランの中枢であるターミナルコロニー、アマテラスへナデシコBを調査の為に派遣した。

しかし、アマテラスにてナデシコは当然、煙たがられたが、コロニー開発公団の技師、ヤマザキと名乗る男の口添えでコロニー内の臨検をする事は出来た。

だが、コロニー内全てを見回る事は出来ないと予想したナデシコB艦長の連合宇宙軍少佐ホシノ・ルリはナデシコBの副長、サブロウタと副長補佐のハーリーに対して密かにある命令を下していた。

そして、ハーリーがアマテラスのメインコンピューターをハッキングしてみるとそこには公式データには無い非公式データが数多く存在していた。

しかもそのデータの中にはボソンジャンプの非公式人体実験のデータもあり、そのデータを見ると被験者は全員死亡していた。

そんな中、突如アマテラスのコンピューターが誤作動を起こす。

原因はアマテラスに存在する非公式コンピューターが自らの存在をアピールしてきた為だと言う。

突然のコンピューターの誤作動で混乱するアマテラス。

そこへ、更に追い打ちをかけるようにこれまでのコロニー襲撃事件の際に目撃されている謎の大型機動兵器‥幽霊ロボットが出現した。

コンピューターが誤作動した時、ルリは何かに気づくと同時に敵の襲撃があると予見し、急いでナデシコが停泊している港湾地区へと急いだ。

 

「乗っていきます?ホシノ少佐!」

 

ナデシコに戻る為に、アマテラスの通路を走っていたルリは声をかけられた。

 

「あなたは!?」

 

「ガイドのお姉さんこと、マユミお姉さんで~す!」

 

ガイドのお姉さんは見学コースを回るためのガイドカートを乗り回しながら答える。

 

「ホシノ少佐、乗っていくんでしょ?」

 

「はい‥‥」

 

そういうとルリはガイドカートに颯爽と乗り込んだ。

 

「すいません!!っと‥‥どいてください!!」

 

アマテラスの通路を見学用のガイドカートが物凄いスピードで走っている。

ナデシコBが停泊している港までルリを送る為、ガイドのお姉さんが気を利かせてくれたのだ。

 

「スミマセン、わざわざ‥‥」

 

「いーのいーの!なんか燃えるっしょ、こーいうの!?」

 

「フッ‥‥」

 

マユミお姉さんの言動が面白かったのか、表情が面白かったのかは分からないが、自然とルリの口元に笑みが浮かんだ。

ナデシコへ向かっている途中、ルリの脳裏には先程、ウィンドウに表示されていた文字の印象が残っていた。

 

(予想は的中。やはり、敵が来た‥‥)

 

(あれは暗号?それとも偶然?)

 

『IRUR』 ⇔ 『RURI』

 

(でも、あの子は‥‥コハクは‥‥)

 

『ルリ』

 

「っ!?」

 

ルリの頭の中で妹だった大切なあの子の顔が浮かび上がり、聞こえるはずの無い声が聞こえた。

 

ルリがナデシコへと向かっている中、コロニー周辺の警備艦隊は迎撃を開始する。

ミサイルの弾幕と共に、戦艦からはレーザー砲やグラビティブラストが撃たれる。

白い大型機動兵器はディストーションフィールドを全開にし、迫りくるミサイルをものともせずに突き抜けていく。

そして、レーザー砲、グラビティブラストの合間を抜けるように‥普通の機動兵器では考えられないようなスピードで攻撃をすり抜けていく。

ただでさえディストーションフィールドの前にはグラビティブラストは効果が薄い。

グラビティ―ブラストの合間を抜け、最低限の接点で流すようにぬけられては、攻撃力は無いに等しい。

 

「第一防衛ライン、突破されます!」

 

「弾幕をはれ!コロニーに近づけさせるな!」

 

「第三中隊、出すぎるな!」

 

「キルタンサスは現状維持!」

 

管制塔では統合軍中佐、シンジョウ・アリトモが叫ぶようにして指示を出す。

だがそれをかき消すかのように、

 

「肉を切らせて骨をたぁぁつっ!!」

 

「じゅ、准将、何を‥‥?」

 

「コロニー内及びその近辺での戦闘を許可する!」

 

いきなり自分の後ろでアズマの声がした。

シンジョウが驚いて振り向くと、何時の間にか、席ごと下から上がってきたアズマが居た。

 

「し、しかしそれではコロニーが‥‥」

 

コロニー内で発砲なんてすれば、コロニー自体に被害が及ぶかもしれない。

シンジョウはそれを恐れてアズマに意見するが、

 

「飛ぶ蝿もとまれば打ちやすし!多少の犠牲はかまわん!」

 

アズマは敵を倒す為ならば、被害を出しても構わないと言う。

すると、

 

『よっしゃあああっ!!!』

 

アズマのその命令が出た瞬間、さきほどのアズマよりも嬉しそうな声と共に巨大な空間ウィンドウがアズマの前に出現した。

空間ウィンドウに映っていたのは元ナデシコクルーのスバル・リョーコだった。

現在彼女は統合軍中尉でエステバリス隊、『ライオンズシックル』の部隊長を務めていた。

リョーコの赤いエステバリスカスタムと青の量産型エステバリスが被っていたステルスシートを剥ぎ取り、その全貌を現す。

その数、リョーコの機体を含めて12機。

ライオンズシックルの存在を感知した白い大型機動兵器は即座にデータを確認、回避行動を開始する。

 

「遅い!!」

 

即座にリョーコのエステバリスカスタムのレールガンが火を吹く。

確実に命中コースだったはずだが人が乗っているとは思えない動きで回避する白い機体。

その周りでは、いまだにもたついているステルンクーゲルが大量に浮いている。

それを蹴散らすように駆け抜ける白い大型機動兵器。

 

「わーッ!?」

 

「ごめんよッ」

 

そして白い大型機動兵器の後を追う為、味方をはじきとばしていくリョーコ達であった。

 

 

~ナデシコB艦橋~

 

コロニー周辺でアマテラスの警備艦隊と白い大型機動兵器が激しくドンパチをしている頃、ルリはナデシコBへと戻った。

 

「おまたせです」

 

『おかえり』

 

帰って来たルリをオモイカネが出迎える。

 

「戦闘モードに移行しながらそのまま待機、当分は高みの見物です」

 

「加勢はしないんですか?」

 

ルリは艦長席に座り、ナデシコをいつでも戦闘可能状態にしておくだけで警備艦隊には加勢しないと言う。

 

「ナデシコBは避難民の収容を最優先します‥‥それに向こうの方からお断りってかんじですから」

 

「はぁ‥‥」

 

「その通り!今や統合軍は陸海空、そして宇宙の脅威をも打ち倒す無敵の軍だ!!宇宙軍など、もはや無用の長物!!まぁ、貴様等はそこでゆっくり見学でもしているがいい!!がはははは‥‥」

 

ルリとハーリーの会話を聞いていたのかアズマが超がつく程のドヤ顔で統合軍の自慢と宇宙軍の批判を言って通信を切った。

 

「何か熱血ですね」

 

(暑苦しい‥‥)

 

ハーリーは自分が所属する軍が非難されてもムッとすることなく、何だか呆れた様子で呟く。

ルリの方は内心呆れている。

 

「ハーリー君、アマテラスにもう1回ハッキングして」

 

「えっ?またですか?」

 

「そう‥キーワードは‥‥『RURI』‥です」

 

ルリは『IRUR』と書かれた空間ウィンドウを反転させてハーリーにキーワードとなる言葉を伝える。

 

「『RURI』?それって艦長の名前じゃないですか?それがどうしてキーワードなんですか?艦長」

 

「いいからやって」

 

「は、はい」

 

「IFSのフィードバック、レベル10までアップ。艦内は警戒パターンA。システム統括」

 

ハーリーは何が何だか分からないと言った様子だが、ルリからの指示なので、渋々と言った感じでハッキング作業を開始した。

そして、ハーリーがハッキング作業中、ルリはかつて自分の妹として慕い、そして可愛がった1人の少女の事を思い出す。

彼女と一緒に居た楽しかった日々を‥‥

昔の事を思い出すと自然とルリ口元に笑みが浮かんだ。

 

「コハク‥‥」

 

ルリは首から下げている銀のロケットペンダントを手で撫でながらその少女の名前を呟いた。

 

 

アマテラスの周辺では相変わらず謎の大型機動兵器とアマテラスの警備艦隊とのドンパチが続いていた。

白い大型機動兵器を数機のステルンクーゲルが追いかけていく。

 

「こらっ!邪魔すんな!そいつはオレの獲物だっ!」

 

そしてそれをさらに追うようにリョーコのエステバリスカスタムが追いかける。

 

「敵、第二次防衛ライン上まで後退!」

 

「がはははは‥‥見たか!?シンジョウ君!!これが統合軍の力ぁ!!新たなる力だぁっ!!」

 

「はぁ‥‥」

 

力説するアズマの斜め後ろでシンジョウは迷惑そうな顔をして文字通りドン引きしている。

 

「宇宙軍の奴等め!戦争中はデカい顔をしていたが、今は違うぞ!!地球連合統合平和維持軍万歳ぃ!!ヒサゴプランばんさぁぁいっ!!」

 

声を張り上げ、手を高らかにあげ万歳をするアズマ。

そんな中、

 

「ポーズ粒子増大!」

 

「「え?」」

 

オペレーターの報告にシンジョウとアズマが唖然とした。

突然ボソンジャンプしてきた白い戦艦。

その戦艦はアマテラスの警備艦隊に向けてグラビティブラストを撃ち込んできた。

 

「守備隊の側面へグラビティブラスト、被害多数!」

 

「質量推定…戦艦クラスです!」

 

再びグラビティブラストを放つ白い戦艦。

正体不明の白い大型機動兵器も反転して再びアマテラスに向かってくる。

 

 

白い戦艦が突然ボソンジャンプをして、警備隊を襲撃している頃、アマテラスの通路をヤマザキが数人の護衛と共に歩いていた。

 

「今度はジャンプする戦艦かい?」

 

「ネルガルでしょうか?」

 

ヤマザキが護衛に突然ジャンプしてきた戦艦について尋ねるが明確な答えは出なかった。

 

「さあね‥‥あの連中は?」

 

「5分で行く‥と‥‥」

 

「はぁ~そりゃ大変だぁー」

 

ヤマザキの口調からは緊張感が全くない。

そしてそのままアマテラスの研究室へと入ると、

 

「緊急発令!5分で撤収ぅ」

 

研究室の中に居た研究者達に撤収命令を出すと、研究者達はあわてて荷作りをはじめた。

 

 

「みなさんこんにちわ。ナデシコB艦長のホシノ・ルリです。これよりナデシコBはアマテラスより離脱。第二次ラインで避難民の収容をします」

 

ルリはアマテラスに残っている一般人に対して救助を伝えるとナデシコを出航させた。

 

「ナデシコB、アマテラスから離脱します」

 

「あんな小娘放っておけ!!それよりも敵戦艦に反撃だ!!キルタンサスとよいまちづきを向かわせろ!!急げ!!」

 

アズマはデスクを叩きながら反撃命令を出す。

警備艦隊の艦がいっせいに白い戦艦に向けて艦首を回頭するとグラビティブラストとミサイルを一斉に放つ。

だがそれらは全て白い戦艦の強固なディストーションフィールドに阻まれてしまう。

 

 

 

 

「・・・ちゃん。バッタを全機射出、・・・の援護をするよ」

 

「わかった」

 

白い戦艦からは無数のバッタが射出されると警備艦隊に襲い掛かった。

 

 

「くそっ!オレの相手はやつだ!おまえらなんかじゃないんだよぉ!」

 

迫りくるバッタを撃破しながら必死に謎の大型機動兵器を追いかけるリョーコ。

そして、リョーコは白い大型機動兵器をレールガンの射程内に捉える。

 

「そこかぁっ!」

 

レールガンを3発打ち込む。

だが、その内2発はフィールドにはばまれかろうじて1発は命中するが、それほど大きなダメージはなく、相手の装甲を一部剥がしただけだった。

 

「へたっっくそっ!」

 

「「「「隊長!お供します!」」」」

 

「これればなっ!」

 

自分を叱咤すると、部下であるライオンズシックルのメンバーとともに再び白い大型機動兵器を追いかける。

 

オモイカネがこれまでのアマテラスで行われているドンパチの経緯を簡単な図で表記する。

 

「敵の不意な出現に、そして強襲。反撃を見透かしたような伏兵による陽動‥そしてポイントを変えての再突入‥‥」

 

「敵さんもなかなかやりますね」

 

「気付いたリョーコさんもさすがです」

 

「どうします?」

 

ルリは空間ウィンドウに映るサブロウタと敵の作戦を見て思わず感嘆してしまう。

 

「もうちょっと待ってください」

 

「は?」

 

「敵の本当の目的‥知りたくありませんか?」

 

サブロウタは既にナデシコBの格納庫にある自らの愛機のコックピットにおり、いつでも出撃が可能だったが、ルリはサブロウタに待機命令を出した。

 

突入ルートを変更し、白い大型機動兵器はまっすぐアマテラスへと向かっていく。

それを追っていく、リョーコ達ライオンズシックル。

すると白い大型機動兵器は、

 

「なっ!?」

 

突然、自らの装甲の一部を剥がし始めた。

剥がされた装甲は慣性の法則とあいまって、一種の武器となる。

 

「だ、脱出!」

 

「脱出しますっ!」

 

剥がされた装甲の直撃を受けて味方のエステバリスが次々と脱落していく。

そして、遂にライオンズシックルのメンバーはリョーコ1人だけとなってしまった。

 

「てめぇはゲキガンガーかよっ!?」

 

その場の機転で無茶苦茶な戦い方をする敵にリョーコが不平をもらす。

その間に白い大型機動兵器がアマテラスに接近する。

 

「撃ぅてぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

そこへ、待機していたエステバリス、重砲戦フレームが一斉に攻撃を開始する。

とにかく『下手な鉄砲数打ちゃあたる』精神なのだろう。

 

「撃ぅちまぁくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

白い大型機動兵器に向けてレールガンやらガトリングやらが乱射される。

これにはさすがに突入のタイミングがとりにくいのか、白い大型機動兵器が動きを止める。

だが、フィールドを展開すると、これまた合間をぬけていく。

 

「野郎っ!!」

 

リョーコが追い付き、白い大型機動兵器にむけてレールガンを撃とうとするが、

 

「おわぁっ!と、わぁっ!!」

 

味方の砲戦フレーム部隊の無差別攻撃をうける。

 

「撃てェ!落とせぇ!打ち落とせぇぇぇっ!!!!」

 

「バッキャロ――――――――――――――――!!!!」

 

まだ乱射していた砲戦フレームのエステバリス群の内の2機にレールガンがぶつけられて攻撃が一時止まる。

このレールガンは敵の大型機動兵器のモノではなく、リョーコは投げたモノだった。

 

「てめぇら邪魔なんだっ!黙ってみていろっ!!」

 

「今はそれどころじゃないっ!お前こそ、邪魔だぁっ!!」

 

「邪魔はそっちだぁっ!!」

 

「き、さ、まぁぁぁぁぁっ!!」

 

空間ウィンドウ越しに睨み合うアズマとリョーコ。

だが、そこに水をさす様にルリが通信を入れる。

 

「ゲート開いちゃっていますよ、いいんですか?」

 

「「え!?」」

 

ルリの仲裁?で言い合いを止めるアズマとリョーコ。

 

「13番ゲート、オープン!敵のハッキングです!」

 

空間ウィンドウに『No.13 遺跡搬入口』とかかれた入り口が映る。

 

「13番?なんだ?そりゃ‥?わしゃ知らんぞ‥‥」

 

このアマテラスの責任者でもある自分でさえ知らない隠しゲートが存在し、それが開口している事に唖然とするアズマ。

 

「それがあるんですよ。准将」

 

無表情に後ろのシンジョウがつぶやく。

 

「何!?どういうことだ!?シンジョウ君!?」

 

振り返り背後に居るシンジョウに事情を訊ねるアズマ。

しかし、彼はその言葉を無視し、

 

「茶番は終わりと言う事です准将‥‥人の信念‥いや執念とでも言うべきか‥‥?」

 

悟ったように呟く。

 

開口した13番ゲートに外部パーツをパージした白い大型機動兵器は物凄いスピードでその中を突き進んでいく。

まるで何か急かされているかのように‥‥

そしてその後を追うリョーコの赤いエステバリスカスタム。

だが、

 

「おわぁっ!ああっ!?」

 

突如、ゲート内部で響く爆風に閃光、そして撃破音。

 

「お久しぶりです。リョーコさん」

 

「ああ、久しぶり‥2年ぶりか?元気そうだな」

 

リョーコがルリと最後に出会ったのはアキトとユリカの葬儀会場だった。

あの時、自分は人目も気にせずに号泣したがルリだって辛かった筈だ。

家族同然のアキトとユリカの2人を一度に失い、しかも妹と慕い、可愛がっていたコハクも行方不明になっていた。

意気消沈しない方がおかしい。

でも、今空間ウィンドウ越しで見るルリは昔、ナデシコで見たルリと変わらない様子だった。

 

「相変わらずさすがですね」

 

「へっ、無人機倒した所で自慢にゃなんねーよ」

 

リョーコの機体の周辺には残骸と化した十数機のステルンクーゲルが漂っていた。

 

「無差別に侵入する敵を排除する為のトラップみたいですね」

 

「なるほど」

 

「この先にトラップはありません。道案内します」

 

「すまねぇなぁ」

 

リョーコはルリの案内の下、ゲートの奥へと進んで行くが、その途中で大事なことに気が付く。

 

「ん?ああ!!お前ら!!人んちのシステムハッキングしているなぁ!?」

 

「敵もやっていますし、非常時です。そして、犯人はこのハーリー君です」

 

表情を変えずにルリは自分が命令したにもかかわらず、ハッキングの犯人はハーリーだと言って彼を売った。

 

「か、艦長~!!」

 

突然のルリの裏切りにハーリーは泣きそうな声を出した。

 

「ハハッ…!」

 

そんなルリとハーリーのやり取りを見てリョーコは自然と笑みがこぼれた。

まるであの頃のようだと思って‥‥

 

外では白い戦艦とバッタがアマテラスの警備艦隊と未だに激しいドンパチを繰り広げており、管制室では、

 

「敵、第五隔壁に到達!」

 

スクリーンには侵入していく白い大型機動兵器を示すマーカーが表示され、その後ろには、それを追うリョーコ機をしめす赤いマーカーが映し出されている。

 

「プラン・乙を発動!各員は至急持場につけ!」

 

シンジョウが声を上げる。

 

「放せ!ワシは逃げはせん!」

 

「准将お静かに!」

 

そんなシンジョウの背後では管制室から強制退去させられそうになり、抵抗するアズマの姿があった。

彼を取り押さえている兵士もアズマの抵抗に苦労している。

 

「シンジョウ君!これはどういうことだ!?君達は一体‥‥」

 

「地球の敵、木連の敵、宇宙のあらゆる腐敗の敵‥‥」

 

「なんだと!?」

 

「我々は火星の後継者だっ!!」

 

シンジョウは統合軍の軍服を脱ぎ捨てるとその下からは赤とベージュを基調とし、腹部には大きく火星のマークが描かれた制服が姿を現す。

こんなに着込んで彼は動きにくかったり、暑くなかったのだろうか?

しかも手をかけたのは上着だけだったのに下も脱ぐと言う器用な真似をしていた。

 

 

シンジョウが自らの正体を現した頃、アマテラスの某所では、

 

「隊長、表の同志達が動き出しました」

 

「我らはどうなさいますか?」

 

アマテラスの某所では編み笠にマントを着た6人ほどの男達が姿勢を低くし、眼前で立って居る男の命令を待っていた。

 

「‥‥やはり、来たか‥救済人よ‥‥迎え撃つ‥全員騎乗せよ」

 

「外の戦艦の方はいかがなさいますか?」

 

「今は今後、我らの障害となりうる救済人の抹殺を優先とする」

 

「「「「「「はっ!!」」」」」」

 

その一言に男達は傍にあった機動兵器に次々と乗りこんでいく。

 

「次は逃がさぬぞ、救済人‥いや、・・・・・・・。クッククク‥‥」

 

男はニヤリと不気味な笑みを浮かべると、赤い鬼のような起動兵器に乗りこむ。

 

「跳躍」

 

そして男達が乗った機動兵器は消えた。

 

 

ゲートの前にたどりついた白い大型機動兵器。

そのコックピット内ではパイロットが緊張した面持ちで機器を操作しようとする。

そこへ、

 

「おうし、そのままそのままー」

 

リョーコのエステバリスが突入し、有線通信式のワイヤーを白い大型機動兵器に打ち込んだ。

プロテクトを無理矢理こじ開けて白い大型機動兵器のパイロットに通信を送る。

 

「オレはたのまれただけでね、こいつらが話をしたいんだとさ」

 

白い大型機動兵器のコックピットにリョーコを含め、2つの空間ウィンドウが開く。

 

「こんにちは私は連合宇宙軍少佐、ホシノ・ルリです。無理矢理ですみません。あなたが通信にプロテクトかけていたのでリョーコさんに頼みました」

 

ルリは律儀に白い大型機動兵器のパイロットに自己紹介をした後、こうして通信を送って来た経緯を説明する。

それに対して白い大型機動兵器のパイロットは沈黙を貫く。

 

「あの‥‥教えてください。あなたは、誰ですか?」

 

「ラピス、パスワード解析」

 

白い大型機動兵器のパイロットはルリの言葉を無視して淡々と作業を進める。

 

『パスワードを入力してね』

 

マニュピレーターを伸ばし、パスワードを入力する。

 

『Golden Valkyria』

 

白い大型機動兵器がパスワードを入力すると轟音を立てて眼前のおおきなゲートの扉が開いていく。

 

「時間がない。見るのは勝手だ」

 

パイロットのその言葉を聞いて、リョーコとルリは思わず生唾を飲む。

ゲートが完全に開き、奥に見える光‥‥そしてその先にあったのは‥‥

 

「なにぃっ!?」

 

ソレを見たリョーコは驚き、信じられない思いで、確認しようとエステバリスをソレに近づける。

 

「ルリ!!見ているか‥‥!?」

 

自分の目の前にある物が信じられず、リョーコはルリが見てもはっきりと分かるくらい動揺していた。

勿論リョーコから送られてくる映像を見てルリ自身も信じられなかった。

 

「リョーコさん」

 

「なんだよ?ありゃ‥‥」

 

「リョーコさん。落ち着いてください」

 

「なんなんだよ!?ありゃあ!!!!」

 

「リョーコさん!!」

 

「くっ‥‥」

 

「形は変わっていてもあの火星の『遺跡』です。あの戦争で地球と木連が狙っていたボソンジャンプのブラックボックス‥ヒサゴプランの正体はこれだったんですね‥‥」

 

映像の前にあるのは間違いなく3年前、確かにYユニットと共に宇宙の彼方へと飛ばしたはずのあの遺跡が鎮座していた。

その証拠に遺跡の近くには半分解体されたYユニットが放置されていたからだ。

 

「そうだ」

 

白い大型機動兵器のパイロットはルリの推測を肯定する。

 

「ルリ‥‥これじゃあ、あいつらが浮かばれねぇよ‥‥」

 

「リョーコさん‥‥」

 

「なんでこれがこんなところにあるんだよ‥‥?」

 

リョーコが悔しそうに呟くと同時に巨大なウィンドウが遺跡の前に開く。

 

「それは!!人類の未来のため!!!」

 

「っ!?」

 

「く、草壁‥中将!?」

 

其処にはかつての木連の指導者で熱血クーデターにて行方不明となっていた草壁春樹木連中将の姿が映し出されていた。

草壁の姿を見て唖然とするリョーコ。

ルリも草壁の姿を見て目を見開いて驚いている。

 

「リョーコちゃん!!右っ!」

 

「っ!?くッ!くッ!うわぁ!」

 

草壁の姿を見て唖然としていたリョーコの機体になにかが迫る。

反射的にかわそうとしたリョーコだったが、半歩遅れていたため、躱しきれずに、錫杖の様な槍で床に縫いとめられた。

 

 

「ヒサゴプランは我々火星の後継者が占拠する!!」

 

シンジョウの宣言と共にアマテラスに居た統合軍の将兵や技術者、研究者達は次々と纏っていた軍服や作業着からシンジョウが着ている火星の後継者の制服に着替え始めた。

そして、彼らは武装しアマテラスの主要ブロックを次々と占拠していった。

 

「占拠そうそう、申し訳ないが我々はこれよりアマテラスを爆破・放棄する!敵味方問わず、脱出してくれたまえ!!繰り返す‥‥」

 

シンジョウの通信はナデシコBを始めとするアマテラス周辺に展開する艦艇、エステバリス、ステルンクーゲルへと送られる。

 

「律儀な人達だな‥‥」

 

爆破宣言と態々敵にまで目的と避難指示を出すシンジョウにハーリーがボソッと呟く。

 

「データはとれた?」

 

「あっ、はい。取れました」

 

「サブロウタさん、リョーコさんの救助をお願いします。敵には構わず、リョーコさんの救助を優先してください」

 

「了解」

 

火星の後継者がアマテラスの爆破を宣言したのでルリはリョーコ救出の為、サブロウタを現場に向かわせた。

 

「リョーコさん、大丈夫ですか?」

 

「今度は、かなり、やばい…かな?」

 

リョーコは炸裂ボルトをつかって、錫杖で縫いとめられている右手と右足をパージする。

だが、無理がたたったのか機体はもがくようにしか動けない。

周りには敵と思しき機動兵器が6機‥意外とピンチな状況だ。

 

「アンタは関係ない。さっさと逃げろ」

 

「今やってるよ!」

 

白い大型機動兵器のパイロットからは敵に囲まれている中にもかかわらず、冷静な声でリョーコに逃げろと言う。

その忠告に対して思わず逆ギレするリョーコ。

やがて、シンジョウの発言通りアマテラスの彼方此方で爆発が起き始めた。

その振動はこの秘密区画まで広がって来た。

 

「な、何だ!?」

 

すると、爆発の他にどこからか‥‥

 

シャン‥‥

 

シャン‥‥

 

シャン‥‥

 

と静かで不気味な金属音が聞こえてきた。

続けて、

 

「一夜にて 天津国まで伸び行くは 瓢のごとき 宇宙の螺旋…」

 

赤い機動兵器が出現する。そしてそれを守るように、先程リョーコ機を床に縫いとめた茶色い土偶の様な6機の機体が隊列を組む。

 

「救済人よ‥‥戦乙女の前で死してヴァルハラへと逝くか?」

 

「戦乙女?」

 

赤い機動兵器のパイロットの言葉に対していぶかしげにリョーコがつぶやく。

するとその言葉に反応したかのように遺跡が一枚一枚とまるで花が咲くように外壁が開いていく。

 

「っ!?」

 

「う、嘘‥‥」

 

リョーコとルリはその光景を見て草壁を見た時以上に驚いた。

遺跡の中から出てきたのはアキトとユリカの大事な家族だったもう1人の少女‥‥

ホシノ・ルリが妹と慕った少女だった。

 

「そんな‥‥嘘でしょう‥‥コハク‥‥」

 

ホシノ・コハク‥‥それが遺跡の中に居た少女の名前だった。

 

アマテラスの爆発の影響がいよいよこのブロックにも迫って来た。

 

「アキト!!アキトなんだろう!?だからさっきリョーコちゃんって‥おい!」

 

リョーコはこの白い大型機動兵器のパイロットがかつてのナデシコの仲間であり、ルリとコハクの家族とも言える大切な人‥テンカワ・アキトなのではないかと思い声をあげる。

 

「滅!」

 

赤い機動兵器のパイロットのその掛け声とともに6機の茶色い土偶の様な機動兵器、そして白い大型機動兵器は動き始める。

白い大型機動兵器と6機の茶色い様な機動兵器が戦闘を開始すると、

 

「ひさっしぶりの登場っ!!」

 

サブロウタの乗った青いスーパーエステバリスが天井を突き破って入って来る。

そして巧みにリョーコ機のアサルトピットだけを取り外してその場から撤退する。

爆風の中を抜けていくサブロウタのスーパーエステバリス。

その手の中にはしっかりとリョーコが乗るアサルトピットを持っている。

 

「コラ、バカ!!引き返せっ!仲間が‥‥アキトとコハクが!!」

 

リョーコはサブロウタに引き返してアキトとコハクを助け出せと声を荒げるが、

 

「わりぃな、艦長命令だ、文句なら艦長にいってくれよ、中尉」

 

一蹴するサブロウタ。

確かにこの状況ではリョーコは戦えないし、敵の数が多すぎる上に相手の実力も計り知れない。

しかもアマテラスは火星の後継者が自爆させているので、この場に長く留まるのは危険だ。

リョーコは悔しそうに顔を歪め、ナデシコのルリに伝える。

 

「おい!!ルリ!!聞いているんだろう!?」

 

ルリは前を向いたまま表情を一切変えない。

 

「生きていたんだよ!あいつら!今度も見殺しかよ!ちきしょう‥‥ちきしょう‥‥」

 

リョーコの涙ぐんだ声を聞いてか聞かずか、ルリは相変わらず表情を変えずに命令を下す。

 

「戦闘モード解除。タカスギ機を回収後、全速でこの宙域を離脱します」

 

「りょ、了解」

 

ナデシコBは、大爆発をおこすアマテラスをバックに遠ざかって行った‥‥

ハーリーはルリをチラッと見るが、彼女はジッと無表情のままで前を見つめるだけであったが、左手は首から下げている銀のロケットペンダントをギュッと握りしめており、その手は小さくカタカタと震えていた。

 




ではまた次回。

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