機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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更新です。


第42話

 

星の数ほど人がいて

 

星の数ほど出会いがある

 

そして、別れ‥‥

 

 

 

 

西暦2201年 8月1日

 

 

沢山のセミ達がやかましく己の存在を自己主張している暑い夏のある日、町外れの公共墓地にあるミスマル家の墓の前でコウイチロウは墓参りをしていた。

 

「‥‥それじゃあ、行くよ‥ユリカ‥‥アキト君と仲良くやっているかい?‥‥ユリカ」

 

ミスマル家の墓には供えられた花と共にアキトとユリカの遺影が飾られていた。

 

 

コウイチロウが墓参りをしている頃、某所では‥‥

 

 

「・・・。・・・ちゃんの居場所が分かったよ」

 

「どこだ?」

 

「第八番ターミナルコロニーの『シラヒメ』だって」

 

「よし、すぐに行こう」

 

「うん。今度こそ、・・・ちゃんを助けないとね」

 

「ああ‥今度こそ、必ず‥‥」

 

 

 

 

~第八番ターミナルコロニー シラヒメside~

 

 

アステロイド帯に位置するスペースコロニー シラヒメ。

その管制室ではコロニーに接近する未確認飛行物体を探知し、守備隊の機動兵器、ステルンクーゲルの部隊を迎撃の為、緊急発進させた。

しかし、

 

「ヤマブキ小隊は青のバックアップへ!」

 

「了解」

 

未知なる敵の機動力・攻撃力は圧倒的で、迎撃部隊は次々と撃破されコロニーの防衛ラインは次々と突破されていく。

 

「第一次、 第二次、防衛ライン突破されました!!」

 

「駆逐艦、ニコチアナ、ゲイソーリザ、ランタナ被弾し、戦闘不能!!」

 

「敵、第三防衛ライン、最終防衛ラインを突破!!」

 

4つあった防衛ラインは次々と突破され、ターミナルコロニー シラヒメを大きな振動が襲う。

何度目かの振動と機動兵器の爆発による振動。

 

「後退しろ!きこえているか!おい!」

 

「うわぁぁぁあっ!」

 

「第一、 第二小隊壊滅!」

 

「くそっ!!」

 

突然の襲撃、そして味方の思わぬ損害にシラヒメの司令官は苦虫を嚙み潰したような顔でモニターを睨む。

 

「オレンジ、バーミリオンはそのまま。レッドはポイントRまで後退!」

 

恐怖のあまり、通信に応えることのできなくなったステルンクーゲルを一機、また一機と蹴散らしていく白い大型の機体。

先端にある鋭い槍らしきものが、次々とステルンクーゲルを貫いていく。

しかし、器用な事にコックピットを狙わずに攻撃していた。

謎の機動兵器がシラヒメに迫っている中、シラヒメの内部では怪しげな一団がコロニー内にある研究室へと迫っていた。

そして、目的である研究室にて、

 

バキューン!!

 

研究室内で銃声が響き渡り、1人の研究員が胸から血を吹き出しその場に倒れる。

当たり所、出血量からみて即死であった。

研究室に居るのは白衣を着て震えている研究員達とその研究員の1人を撃ち殺したマントを羽織った編み笠の男。

その男の手には銃が握られており、男の後ろには揃いのマントと編み笠を被った男達が居た。

 

「ひぃぃぃぃぃ‥‥」

 

「ま、まってくれ。我々がいなければ研究が……」

 

「機密保持だ、すまんな」

 

言葉とは裏腹に顔色をかえずに、銃を構える編み笠の男達。

そして、編み笠の一団は手にした銃でそこに居た研究者達を次々と射殺していく。

そこには一切の慈悲もためらいもなかった。

 

 

「うわぁぁぁあっ!」

 

「パープルアイ、後退しろ!パープルアイ!」

 

シラヒメに迫っていた謎の白い大型機動兵器は守備隊のステルンクーゲルを薙ぎ払い、シラヒメに強行着陸して来た。

その荒々しい突入は瓦礫で編み笠の男達を押しつぶそうかという動きであった。

だが、

 

「フン、遅かりし救済人よ‥‥未熟者め‥‥」

 

その瓦礫が到達する前に編み笠の男の身体が光りはじめる。

 

「滅」

 

そして編み笠の男達の姿が消えると同時に、その研究室があったブロック一体が大爆発を起こす。

周りにあった研究施設は粉々に吹き飛び、周囲に倒れていた研究者達は、すでに息絶えている身体をさらに細切れにされ、気圧の変化により宇宙空間へと投げ出されていく。

だがその時すでに爆発の中に白い機体の姿はなかった。

連鎖爆発を繰り返すシラヒメ。

そんなシラヒメに接近中の艦艇がいた。

地球連合宇宙第三艦隊所属、リアトリス級宇宙戦艦 アマリリスはシラヒメの近くを航行中にシラヒメからの救援要請を受けてシラヒメの救援へと向かっていた。

 

「シラヒメ!応答して下さい!シラヒメ!」

 

オペレーターの女性が声をはりあげながらシラヒメとコンタクトをとる。

しかし、シラヒメからの応答はない。

すでに1つのブロックが大爆発してから随分、時間が立ってしまっている。

そして、先ほどの爆発は誘爆に次ぐ誘爆でシラヒメのほぼ全域へとひろがっていた

 

「状況はどうなっている!?」

 

「あっ、白鳥提督」

 

アマリリスの艦橋に入って来た白鳥九十九准将は状況を確認する。

 

「電波障害の為、シラヒメと通信が繋がりません」

 

「アオイ艦長、此処は敵の捜索よりも負傷者の保護を最優先とするぞ」

 

「はい。フィールド展開しながら接近!」

 

九十九は元ナデシコ副長で現アマリリス艦長のアオイ・ジュンに敵の事よりも今はシラヒメの救助を優先するべきだと主張し、ジュンもそれに賛成する。

通信が届かず、指揮系統がマヒしているシラヒメの警備艦隊がひしめく中にそれは圧倒的な強さで、まるで風のように速く、シラヒメの防衛網を突破し、シラヒメを離脱していく。

 

「ボース粒子増大!!」

 

「何!?」

 

スクリーンへとジャンプアウトの状況が表示される。

 

「スクリーン拡大」

 

九十九が指示を出し、オペレーターの操作で対象物のシルエットが確認された。

だが距離が遠距離のと、付近の残骸やボース粒子によって確認が不可能な状態だ。

 

「識別信号は?」

 

「有りません。未確認です」

 

「センサー切り替え!」

 

「了解!」

 

すぐさま、スクリーンが切り替わる。

 

「な、なんなんだ?あれは…!?」

 

「大型の機動兵器‥‥?」

 

ジュンと九十九が目にしたそれは、白い大型の機動兵器の姿だった。

その大きさは約8~9メートルといったところで、形状はネルガルのエステバリスとも統合軍のステルンクーゲル、旧木連のジン・タイプとも異なった。

 

「あれは一体…っ!?」

 

「何なんだ‥‥?」

 

アマリリスの乗員があっけに取られている中、その大型機動兵器はボソンジャンプをして何処かへと消えた。

謎の大型機動兵器がボソンジャンプした後、アマリリスはその大型機動兵器を追いかける手もなく、本来の予定通り、シラヒメの人命救助を行った。

 

 

謎の大型機動兵器のコロニー襲撃はこのシラヒメだけではなく、7月1日にタカマガ、7月10日にホスセリ、7月20日にウワツツ、そして8月1日にシラヒメとこれで4件のターミナルコロニーが襲撃を受け、大破もしくは中破して、使用不能となり、大勢の死傷者を出している大惨事となっていた。

この事件は連日マスコミでも報道されており、テロリストの犯行説が濃厚。

ヒサゴプランに暗雲。

幽霊ロボットなど、情報が流れ、テレビやネットではその噂で持ちきりだった。

新地球連合はこの連続したコロニー襲撃事件を受け、臨時総会を開いた。

 

「宇宙を巡る大螺旋、ヒサゴプラン。そのうち4つのコロニーが連続して破壊されました。4つです!!何のために!?一体誰が!?これは決して許されない!!」

 

アメリカ代表の国連大使が会議場で声をあげる。

すると、

 

「今度は土星蜥蜴なんて言うのはなしですぞ」

 

木連の代表が口をはさむ。

 

「何だ?どういう意味だ?それは!?」

 

「さる筋によれば某国の陰謀と言う噂もありますが?」

 

木連代表のこの発言に対して地球各国の代表は、

 

「取り消せ!!」

 

「何を言うか。木星人!!」

 

「釈明しろ!!」

 

「それはこっちの台詞だ!!黙っていろ、トカゲ野郎!!」

 

「なんだと!?表に出ろ!!」

 

「皆さん静粛に!!静粛に!!」

 

と、会議場はまるで学級崩壊したクラスの様に荒れに荒れた。

 

 

統合軍司令本部では、ジュンと九十九が出頭を命じられ、そこで統合軍幹部、木連代表、新地球連合政府の官僚達から先日のシラヒメの件で事情聴取された。

 

「私は見ました!確かにボソンジャンプです!」

 

「私もアオイ中佐と同じ意見です。元木連優人部隊の隊員として見間違えようがありません!」

 

ジュンと九十九はやや熱くなっている。

それもそのはず、それを聞いている統合軍幹部、木連代表、新地球連合政府の官僚達からなる事故調査委員会のメンバーは全くジュンと九十九の話を信用していないからだ。

 

「コロニーの爆発により、『センサーの乱れ著し』、ともあったぞ」

 

「誤認だというのですかっ!?」

 

「その通り」

 

「よく考えたまえ。ボソンジャンプの可能な全高8mのロボットなど現時点では地球も木連も作れんのだよ」

 

地球と木連との和平協定の後、両軍は軍縮条約を結び、木連のダイマジン級の機動兵器は軍縮条約により廃棄処分となり、ジン・タイプも現時点における数のみで新たな製造は中止とされ、地球、木連共に製造される機動兵器の大きさも制限されていた。

そんな中、全高が8メートルの大型機動兵器、しかも形状はジン・タイプではないとくれば、新たな問題の火種にもなりかねない。

新地球連合の官僚はそれを恐れたのだ。

 

「では、この件に付いては‥‥」

 

「全ては誤認、その機動兵器については口外を禁止とする」

 

「バカなっ!?」

 

「引き続き事故の調査は統合軍の事故調査チームが行う」

 

いかにも自分達が正しいと主張するかのように調査委員会のメンバー達は口元に薄く笑みを浮かべながら決定事項をジュンと九十九に伝えた。

ジュンと九十九は唇をグッと嚙みしめ、拳を強く握りこんだ。

怒りを必死に我慢する様に‥‥

 

「くそっ」

 

バキッという音ともに、ジュンの放った拳は壁にヒビを入れる。

事故調査委員会からの事情聴取を終えた2人は宇宙軍司令本部へと戻り、ジュンはため込んでいた怒りを此処で爆発させた。

 

「こらこら、いかんよ」

 

そんなジュンを参謀総長のムネタケ・ヨシサダは諌める。

 

「ですが、参謀総長殿。連中は最初から、やる気がありません。あれで事故調査委員会?全くお笑いだ‥‥」

 

九十九が嘲笑うかのように事故調査委員会の姿勢を非難する。

 

「かくして、政府と統合軍の合同調査と相成り、宇宙軍は蚊帳の外と相成りましたと」

 

ジュンと九十九を尻目にコーヒーを片手に、空間ウィンドウに表示された調査委員会の報告書を読みふけるムネタケ。

 

「「参謀長!!」」

 

ジュンも九十九もこのままで良いのかと言わんばかりに声を荒げる。

のんびりと、何処か人をからかうようにニヤリと笑うとムネタケは見ていた空間ウィンドウを閉じる

 

「ハハハ‥まっ、確かに黙って見ている手はないからね。だからね、さっそく行ってもらったよ。ナデシコにね」

 

「「ナデシコ?」」

 

ジュンと九十九は唖然としていたが、それと同時にムネタケの俊敏さに驚いた。

 

 

星の海を1隻の白い戦艦が航行している。

その艦橋では、

 

『サブちゃーん、最近御無沙汰じゃないー?』

 

立体留守番電話サービスでの立体映像にはキャバクラ、スナックで働いている大勢の女性達の映像が表示されていた。

 

『たまには店に顔を出してね♪それと‥‥』

 

『ツケ払えよっ♪』

 

セクシーポーズを取りながら女性達の映像は切れた。

 

『こらぁ!!サブっー!!なんで連絡くれないの!?ホントもう、他の女とイチャイチャしていたら、許さないんだからねっ!!』

 

次に現れたのはセーラー服に身を包んだ女子高生の姿だった。

彼女が頬を膨らませながらそれだけ言うと、『留守番メッセージ終了』という声とともに消える。

これらの映像を見ていたのは、このナデシコB副長のタカスギ・サブロウタ大尉。

木連時代はかんなづき副長として硬派でゲキガンガー一筋だった頃の面影はすでに虚空へと消え去っており、今、そこにいるのは金髪に赤メッシュをいれたチャラそうな青年だった。

彼は木連の固い文化から様々な風習、文化の入り乱れる地球の文化にいち早く適応した木連男児なのかもしれない。

 

「モテモテですねサブロウタさん」

 

メッセージを見ながらニヤニヤと笑みを浮かべるサブロウタに対して呆れた様子で呟くナデシコB副長補佐のマキビ・ハリ(通称ハーリー)少尉。

 

「あっ、見ていたの?」

 

どこかすっ呆けるように言うサブロウタ。

 

「見たくなくても見えるでしょう」

 

「あっ、そーか」

 

「ボクは木連の軍人さんはもっと勇ましく、真面目な人だとばかり思っていました」

 

「そりゃどうも♪」

 

「高杉大尉っ!」

 

サブロウタとハーリーのやりとりを後ろで聞きながら文庫本を読みながら艦長席にいるのはナデシコB艦長のホシノ・ルリ少佐。

2人のこうしたやりとりはナデシコBではお約束と言うか定番なので誰も止める人も文句を言う人も居なかった。

 

 

その日、連合宇宙軍試験戦艦ナデシコBは連合宇宙軍総司令ミスマル・コウイチロウから直々に1つの命令が下った。

 

『君達も先日起きたシラヒメの事件は知っていると思う。その時、シラヒメにおいてボソンの異常増大が確認された。そのため、ナデシコには今から事故調査のためヒサゴプランの中枢であるターミナルコロニー、アマテラスに行ってもらいたい。もちろん開発公団の許可は取ってあるから安心したまえ。』

 

それがナデシコに下された命令だった。

そして、今‥‥

 

「艦長、前方にターミナルコロニー、タギリを確認しました」

 

サクラ准尉がナデシコBの前方にあるコロニーが視認できたことを報告する。

ナデシコBはターミナルコロニー、タギリのチューリップの中に入っていく。

艦内では先程のお茶らけたゆるゆるモードから一気に緊張した空気へと変わる。

大戦中の頃と異なり、ジャンプシステムは確立しつつあるが、それでも全くの危険がないわけではない。

クルー達はそれぞれがジャンプの為の準備を始める。

 

「ディストーションフィールド、出力最大」

 

「ルート確認、タギリ、サヨリ、タギツを通って、アマテラスへ」

 

「光学障壁展開」

 

「各員、最終チェックよろしく」

 

「通信回線閉鎖」

 

「生活ブロック準備完了」

 

「エネルギー系統OK」

 

「艦内警戒体制パターンB」

 

「フィールド出力以上なし」

 

「その外まとめてオールオッケー!」

 

『よく出来ました♪』

 

オモイカネによる全てのチェックが空間ウィンドウに現れる。

 

「フェルミオン、ボソン変換順調」

 

「艦内異常無し」

 

「レベル上昇!6、7、8、9」

 

「ジャンプッ!」

 

ルリがボソッと呟くとナデシコBはヒサゴプラン中枢のコロニー、アマテラスへと一気にボソンジャンプした。

 

 

~ターミナルコロニー・アマテラスside~

 

アマテラスのチューリップからナデシコBが出現する。

 

『ようこそ、アマテラスへ』

 

アマテラスの管制コンピューターがナデシコBに通信を開いて来る。

 

「こちら連合宇宙軍所属、試験戦艦ナデシコB。アマテラスへの誘導をお願いします」

 

『了解』

 

「これからが大変だねぇ」

 

サブロウタがアマテラスを見ながら呟く。

彼方側にしてみればナデシコは招かざる客なのだから‥‥

 

「サブロウタさん!!」

 

そんなサブロウタを諌めるかのようにハーリーが声をあげた。

 

「航行システム、アマテラスにコネクト。車庫入れお願いします」

 

『了解』

 

アマテラスの誘導でナデシコBはアマテラスの宇宙艦船用港へと入港。

ルリ、サブロウタ、ハーリーの3人は今回、アマテラスへの来訪目的を告げる為、アマテラスの司令官室へと赴いた。

 

「なんだ!?貴様等は!?」

 

アマテラスの司令官室では司令官のアズマ統合軍准将が声を荒げる。

 

「地球連合宇宙軍少佐、ホシノ・ルリです」

 

「同じく連合宇宙軍、タカスギ=サブロウタ大尉」

 

「そんなことを聞いているのではないっ!なんで貴様等がここに居るのだっ!?」

 

「宇宙軍が地球連合所有のコロニーに立ち入るのに問題は無い筈ですが?」

 

熱くなっているアズマに対してルリはいつもの冷静な口調で返答する。

 

「ここはヒサゴプランの中枢だ!開発公団の許可はとったのか!?」

 

「とったからいるんじゃん」

 

サブロウタがまったくといっていいほど敬意をあらわさずに、しかもそっぽをむいたまま、適当に答える。

 

「何ィ!?」

 

「い、いえ、ただの横浜弁です、じゃんじゃん…」

 

険悪なムードの中、なんとかハーリーがこの場を和ませようとするが、大して意味をなしていない。

 

「先日のシラヒメの事件において、ボソンの異常増大が確認されています。ジャンプシステムに問題がある場合、近辺の航路並びにコロニー群に影響があります。これはコロニー管理法にも適用されますのであしからず」

 

ルリは淡々と今回の来訪目的の正当性を主張する。

 

「まっ、ガス漏れ検査だとおもっていただければ」

 

そして、しっかりサブロウタが火に油をそそぐ。

 

「ヒサゴプランに欠陥はないっ!!」

 

調査の為にやってきたルリ達に対してアズマは不快の念を隠そうとはしなかった。

それは宇宙軍に対してのものであり、かつヒサゴプランは完全な計画であると言う揺るぎない信念からくるものだった。

今にも殴りかかりそうだったアズマを側にいた背広を着た男が口を挟み宥めた。

 

「まぁまぁ准将。宇宙の平和を守るというのが、我らが連合宇宙軍の使命‥‥ここはひとつ使命感に燃える少佐殿に安心して頂きましょう。あっ、申し遅れました。私、コロニー開発公団の技師、ヤマザキ・ヨシオと申します」

 

彼はコロニー開発団の技師でヤマザキ・ヨシオとルリ達に名乗った。

 

「クッ、おまえがそう言うなら、仕方が無い。勝手に調べろ!!ただし、変な事はするなよ!?万が一、貴様らのせいで不具合が起きた場合は直ちに宇宙軍へ抗議させてもらうからな!!」

 

コロニー開発公団のヤマザキの仲介もあって渋々、アズマが臨検を承諾した。

 

「‥‥」

 

(イネスさんとは違う意味で怪しい男の人ですね‥‥あまり、信用が置ける感じはしません)

 

「‥‥」

 

ルリはこの垂れ目でかなり怪しい独特の雰囲気を纏っている男に不審感を抱いた。

それはサブロウタも同じようで目を細めてヤマザキを見ていた。

とは言え、彼の口添えでアマテラスの臨検は許可されたのだからルリ達にとっては結果オーライだった。

 

 

 

 

「それで、これからどうするんです?」

 

司令官室を出たサブロウタはルリに話しかける。

 

「とりあえず、サブロウタさんとハーリー君はナデシコに戻って例の作業をしてください」

 

「や、やっぱりやるんですか?」

 

ハーリーは何か弱腰な感じでルリに確認するかのように言う。

 

「臨検と言っても多分、表面しか見せてくれなさそうですから」

 

「わ、分かりました」

 

「確かに‥あのヤマザキって男、何か怪しい雰囲気な奴でしたからね」

 

サブロウタもルリ同様、ヤマザキに対して不信感を抱いていた。

こうしてサブロウタとハーリーはナデシコBに戻り、ルリはコロニー内の臨検に向かった。

 

そして臨検へ向かったルリは‥‥

 

「みなさんコンニチワー!」

 

「「「「「こんにちは――――ッ」」」」」

 

ヒサゴプランのイメージキャラクターである黄色い着ぐるみのヒサゴンとガイドのお姉さんの挨拶にルリの前にいる子供たちが答えた。

ルリはコロニーで行われている子供向けのコロニー見学ツアーの中に居た。

これはアズマのルリに対する皮肉を込めた行為でもあった。

 

「未来の移動手段、ボソンジャンプを研究するヒサゴプランの見学コースへようこそ!ガイドは私、マユミお姉さんと‥‥」

 

「ぼく、ヒサゴン!」

 

ガイド役のマユミお姉さんとヒサゴンが自己紹介している。

ピンクで統一されたマユミお姉さんとヒサゴンのコンビはどこか愛らしいものがある。

 

「なんと今日は、特別ゲストです。皆さんと一緒にコースを回ってくれるのは、あの!」

 

「そう、あの!」

 

「史上最年少の天才美少女艦長、ホシノ・ルリ少佐でーす♪」

 

「よろしく」

 

力無くルリが子供達にピースをする。

 

「わ―――い!」

 

子供達もそれに答えるように満面の笑みでピースをした。子供達はルリに出会えて嬉しそうだったし、ルリは不機嫌そうでもなく、普段のクールな姿勢を貫いていた。

 

 

「がっはははは、子供と一緒に臨検査察とは、ゆかい、ゆかい、がははははは‥‥」

 

その頃、アズマとヤマザキは司令官室で赤い毛氈を敷き、その上でお茶とお茶請けのお菓子を飲み食いしながら笑っていた。

 

「ハハ‥しかし、あの少佐さんにはかわいそうな事をしましたな。宇宙軍も最近の事件に関してメンツもあるんでしょう‥‥」

 

「ふんっ、宇宙軍にメンツなどないっ!大体、何だっ!?あの小娘は!?」

 

確かにアズマの言う通り、木連との対戦中の宇宙軍と比べ、現在の宇宙軍はその規模を大規模に収縮され、宇宙軍に代わって今では統合軍が幅を利かせている。

 

「嫌がらせですよ、宇宙軍の‥まっ、子供のお使いだと思えば‥‥」

 

「ふんっ、使いはとっとと帰すに‥‥限る!!」

 

アズマはガバッと手の平一杯にお茶請けのお菓子を握りこんだ。

 

 

~ナデシコB艦橋~

 

その頃、ナデシコBに戻ったハーリーは自席にてウィンドウボールを展開させアマテラスのメインコンピューターへのハッキングに着手していた。

ルリからアマテラスの秘密を探れといわれ、こうしてハッキングを行なっているのだがハーリーはどこか不安げだった。

 

「‥‥フム‥‥領域11001までクリアー‥‥そろそろ行こうか?」

 

『OK』

 

「データ検索、絹ごし‥‥‥できたスープを順次、僕に‥‥スピードはわんこの中級‥‥」

 

ハッキング作業は順調に進んでいる時、突然、

 

「よっ」

 

「わぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

ウィンドウボール内に突然現れたサブロウタにハーリーは驚き、周りを囲んでいたウィンドウが辺り一面に散らばる。

 

「何、驚いてんだ?お前?」

 

「い、いきなりウィンドウボールの中に、無断で入らないで下さいっ」

 

「いいじゃないか、別に知らない仲じゃないんだから」

 

「なっ!?なっ、何言ってんですかぁぁぁぁ、エッチッッッッッ!!」

 

サブロウタの誤解されるかもしれない発言をムキになって否定するハーリー。

そりゃ、確かにハーリーはやや女顔であるが、彼は決して男色ではない。

そんな2人の様子を見てナデシコの女子クルー達は楽しそうに笑う。

その手の女子がいればきっと興奮していただろう。

 

「はぁぁぁぁ~」

 

興奮が冷めて深いため息をつくハーリー。

 

「何だよ、怒ったりため息を吐いて落ち込んだり、忙しい奴だな」

 

喜怒哀楽の激しいハーリーを見て、からかう口調のサブロウタ。

 

「いえ、ただこんな事をしていいのかなぁ?‥なんて思ったものですから……」

 

ハーリーはルリの言葉を思い出しながら呟く。

確かにハッキング行為はあまり褒められた行為ではない。

もしバレたりしたら厄介な問題となる。

 

「いくらあの人達が協力してくれないからって、これは問題ですよ?」

 

「しょうがないさ、調査委員会も統合軍も何かを隠している様だし、艦長だってそれを分かっていてこんな事をお前に頼んだんだろう?」

 

「そりゃそうですが……でも、艦長がかわいそうじゃないですか」

 

サブロウタはニヤリと笑い、ハーリーの両頬を引っ張り上げる。

 

「いひゃい、いひゃい」

 

「その艦長が道化を演じてあいつ等の目をそっちに向けさせているんだ。そんな艦長の行為にお前が頑張らないでどうする?さっさとやって掴めるもんを掴んでおこうぜ」

 

「は、はい」

 

ハーリーは引き続きアマテラスのコンピューターのハッキング作業を再開した。

 

 

~アマテラス見学コース出入り口~

 

その頃、コロニー内の見学が終わり、順路の出入り口にてガイドのお姉さんとヒサゴプランのマスコットキャラクター、ヒサゴンが子供達におさらいの説明を行う。

 

「さて、超対称性色々と難しいお話をしましたが…」

 

「わかったかなぁ?みんな?」

 

「「「わかんなーい!」」」

 

ルリやコハクは兎も角、普通の子供にまだボソンジャンプについての理解は早かった様だ。

 

「ようするに、このチューリップを通る事によって、とても遠い距離‥火星から地球まで一瞬で移動できちゃうってことなの。ただしですね、現在の段階では普通の人は利用できないんですね。これを利用するにはですね‥‥身体を‥ですね‥‥」

 

お姉さんは少し困った顔で、チラッとルリの方を見る。

 

「改造しちゃうんですか?」

 

「いえ、そこまで露骨なモノではなくてですね‥‥その‥‥」

 

「私の事は気にしなくてもいいですよ」

 

困っているお姉さんにルリは手を差し伸べる。

すると、お姉さんはルリに感謝の意をあらし微笑んで見せる。

 

「つまりですね、今の技術でジャンプするにはDNAという組織をいじらなければならないんです」

 

その言葉に子供達は驚きを見せると、その視線をルリに向けた。

ナノマシン処理は大戦後の今日でも抵抗があったし、ナノマシン処理をした人に対してもやや差別意識があった。

その為、ナノマシン処理をしなければ動かせないエステバリスと異なり、いささか機動力が落ちるが完全手動のステルンクーゲルが軍では採用され始め、今日のネルガルはこうした機動兵器の分野においても開発が遅れている。

 

「少佐、改造人間なの?」

 

素直な子供の意見に対してルリは別に気にした風でもなく子供達に笑って見せる。

そして、ナノマシン処理をしなくてもディストーションフィールドを装備した宇宙船であればジャンプは可能であることを子供達に教えた。

 

 

~ナデシコB艦橋~

 

その頃、ナデシコBでは、ハーリーがデータの中でアマテラスの設計図で公式記録と非公式記録のモノを見つけた。

 

「やっぱり‥公式の設計図にはない部分があります」

 

「襲われる理由ってヤツか?続けていってみようか?」

 

「はい」

 

続けてハッキング作業をすすめていくとボソンジャンプの非公式実験記録もあった。

参加したジャンパーは全員死亡と言うゾッとするデータであった。

すると、《注意!》とかかれたウィンドウが出て来る。

 

「っ!?」

 

「バレたのか!?」

 

「モード解除!オモイカネデータブロック!侵入してきたデータはバイパスへ!!」

 

「何っ!?‥‥これは一体!?」

 

『IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRIRUR IRURUR IRUR  IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR IRUR』

 

全ての空間ウィンドウはひたすらに『IRUR』と謎の文字を繰り返し始めた。

それはナデシコだけでなく、アマテラスでも同様の事態が起きていた。

 

「何だ!?これは!?早く何とかしろ!!こんな所を襲われたらどうする!?」

 

アズマは内線電話で電算室へ電話を入れて早急に事態を収束させろと言う。

そんな中、ヤマザキは茶菓子が入った皿を持って人知れず司令官室を出て行く。

アマテラスの彼方此方で突如出現した意味不明な文字が表示された空間ウィンドウにアマテラスは大混乱となり、ウィンドウを呆然と見つめる者、慌てふためく者、反応はさまざまであったが、子供達は楽しそうに辺りを飛びまわる空間ウィンドウを追いかけている。

 

「落ち着いて、皆さん、落ち着いてください!一列に並んで、ほら静かに…」

 

ガイドのお姉さんは子供達を落ち着かせようとしているが、一向に興奮は収まらない子供達。

 

「「「「キャ―――キャ―――ウワ――――」」」」

 

すると、ブチッと何かが切れる音がして、

 

「静かにせんか、落ち着けオラァ!!‥‥さっ、並んでくださいね」

 

さすがベテランのガイドさん、子供達はピタッと静まった。

 

「ハーリー君、ドジった?」

 

背後でガイドのお姉さんと子供達のそんなやり取が行われていた中、ルリはコミュニケでナデシコBにいるハーリーが何かミスをしたのかと問う。

 

「ち、違いますよ!!僕のせいじゃありません。これはアマテラスのコンピューター同士の喧嘩です」

 

「喧嘩?」

 

「はい、アマテラスには存在しない筈のコンピューターがあって、今、ソイツが表に出てきて自己主張をしているみたいなんですよ!!」

 

「‥‥」

 

ハーリーから訳を聞いたルリは辺りを飛び交っている空間ウィンドウを何気なく見ていた。

そして、それがたまたま、ほんの一瞬だが裏返った状態のモノがルリの眼に映ると、

 

「っ!?」

 

ルリは大きく目を見開いた。

『IRUR』 裏返るとそれは 『RURI』 と明記されていた。

『RURI』‥‥それは自分の名前でもあった。

それを見たルリは急いでナデシコが係留されている港に戻る為に走り出す。

その後ろをハーリーが映る空間ウィンドウが追いかけていく。

 

「艦長、どうしたんですか!?艦長!!」

 

「ナデシコに戻ります」

 

「へ?」

 

「敵が来ます!」

 

ルリはハーリーに敵の来襲が来る事を告げた。

 

 

此処で時間を少し巻き戻して、ハーリーがアマテラスのコンピューターにハッキング作業をかけている頃、

アマテラス近くの宙域では‥‥

 

「・・・。・・・ちゃんはやっぱりアマテラスに?」

 

「ああ。プロスさんの情報では、あそこにはアレがあるみたいだし、そろそろアイツらが動くかもしれないと連絡があった」

 

「だったら、早く助けてあげないと」

 

「ああ」

 

「・・・、・・・」

 

「ん?どうした?・・・」

 

「誰かがアマテラスのコンピューターにハッキングをしている」

 

「誰か?」

 

「うん」

 

「それに今、アマテラスにはナデシコがいるみたい」

 

「ナデシコが!?」

 

「どうする?・・・」

 

「‥‥例え、ナデシコが‥ルリちゃんがあそこに居ても関係ない。俺達の目的は・・・ちゃんの救出だ」

 

「でも、いいの?ルリちゃんが居るのに?」

 

「いずれルリちゃんとは会う事になる‥その時にルリちゃんにはちゃんと伝える」

 

「わかった」

 

「ん?どうしたの?・・・」

 

「アマテラスに別の意志があるみたい‥今、それが起きて、アマテラスの警備システムに障害が起き始めている」

 

「アマテラスの別の意志‥‥っ!?まさかっ!?時間が無い!!急がないと!!・・・、俺は先に出る。お前達はタイミングを見計らって表の警備をかく乱してくれ!!」

 

「分かった。気をつけてね、・・・」

 

 

 

それからすぐにアマテラスの管制室のレーダーが突如、ボース粒子の増大を観測した。

 

「っ!?ボース粒子の増大を確認!!」

 

「敵襲!幅約16メートル、高さ9メートル!」

 

ルリの予見した通り、突如アマテラスの近くでボソンジャンプの兆候であるボース粒子の増大が確認されると先日のコロニー襲撃事件で目撃された白い大型機動兵器が出現した。

 

 




ではまた次回。

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