機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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更新です。


第22話

 

 

ある日、スバル・リョーコは夢を見た‥‥

それは、まだ自分が幼い子供の頃の夢だった。

その日、リョーコは父の肩車で家路へと向かっている最中の夕暮れ時‥‥

自分の父は連合軍の戦闘機乗りだった。

基地には当然、様々な大きさの飛行機があり、幼少の頃の自分はそれらの飛行機を眺めるのも好きだった。

なにより飛行機で大空を飛ぶ父の姿がとても格好良かった。

そんな父が自分は大好きだった。

いつかは自分も父の様なパイロットになり、大空を飛びたいと思っていた。

大好きな父のお出迎えをして一緒に帰る道すがら、空にはキラリと1つの光が見えた。

 

「あっ、一番星!!見つけた!!」

 

リョーコは空に輝く一番星を指さしながら声を上げる。

 

「いいか、リョーコ。お前もなんでもいい、自分の中に一番星を見つけろよ」

 

「何それ?」

 

「『コレだけは』って自慢できる自分だけの一番星だ。ソイツを持っていればきっと幸せになれる」

 

「‥自分の中の‥一番星‥‥」

 

父にそう言われ、改めて空に浮かぶ一番星を見ながらポツリと呟く。

 

 

「‥‥」

 

リョーコが目を覚ますとそこはナデシコの自分達の部屋だった。

 

「はぁ~‥‥つまんねぇ夢‥‥」

 

リョーコは気怠げに起き上がり、渇いたのどを潤すために部屋を出ていった‥‥。

 

軍属ではあるが、緩い空気が漂うナデシコ。

それでも乗員は一応、戦艦の乗員と言う事でローテーションが組まれ、それに沿って動いている。

その為ここ最近は、夜勤勤務となっているリョーコは昼夜逆転の生活になっている。

そんな中、ナデシコの訓練室からは人の気配と音が聞こえた。

誰かが鍛練でもやっているのだろう。

一体誰がやっているのか気になったリョーコが訓練室を覗いてみると、

其処には胴着姿のアキトとコハクが柔術をしていた。

 

「テンカワ‥‥」

 

コハクに何度も投げられながらも諦めずにコハクへと立ち向かっていくアキト。

ここ最近、アキトは、料理の修業はもとよりシミュレーションによるエステバリスの模擬戦、コハクとのああした柔術の鍛練を含めてリョーコには彼が輝いて見えていた。

アキトは自分の中の一番星を見つけたのではないか?

それに引き換え、自分はどうだろうか?

直向きに頑張っているアキトの姿を見て、彼女は自分の姿が急にみすぼらしく思えてきたのであった‥‥。

 

 

「むぅ~」

 

ユリカは通路に貼られたポスターを睨みつける様に見ていると徐にそのポスターを剥がした。

そのポスターには女の子の絵と共に『ナデシコの一番星は君だ!! 来たれ娘たちよ!! 明日の夢をその手に!! 主催 ネルガル重工 宣伝部  地球連合軍 広報部』

 

と書かれていた。

 

「一番星‥‥一番星‥‥一番星‥‥一番星‥‥どこもかしこも一番星、一番星」

 

艦内の至る所に同じ内容のポスターが貼られており、ユリカはそのポスターを見つけては1枚1枚剥がして回っていた。

その後、ユリカは剥がしたポスターの束を持ってプロスペクターの下へと向かった。

 

「なんなんですか!?これは!?」

 

ユリカが艦内で引っぺがしたポスターの束を指さしながらプロスペクターに尋ねる。

すると、彼は、

 

「ポスター‥‥」

 

ユリカが指さしたモノが何なのかを答える。

 

「じゃなくて!!」

 

「‥‥女の子」

 

次にプロスペクターはポスターに描かれているモノを答える。

 

「だからどうしていきなりそうなるんですか!?艦長の許可もなく抜き打ちに!!」

 

ポスターに書かれている企画はナデシコの艦長である自分には一切知らされずに開催されようとしていた。

ユリカは艦の長たる自分に何故、その話がされずに勝手に進められているのかをプロスペクターに問う。

そんなユリカに対しプロスペクターは微笑みを浮かべて訳を話す。

 

「皆の未来の為ですよ」

 

「えっ?」

 

「今は戦いに巻き込まれていますが、ナデシコのクルーは皆、普通の若者たちです。木星との戦争が終わった後、彼らの希望を託せる職業を今のうちから用意しておこうと思いましてね。これもその1つです」

 

「その後の就職先‥‥」

 

「ええ、我々は戦いたくて戦っている訳ではなく、平和を、希望を、そして幸せの一番星を掴み取る為に戦っているのですから」

 

「分かりました。そう言う事ならバンバンやりましょう!!」

 

ナデシコ乗員の未来の就職先と言う内容を聞いてあっさりと了承するユリカ。

 

「はい、では、一番星の子に艦長をやらせると言うのはどうでしょう?」

 

プロスペクターがボソッと呟いたこの一言にユリカは、

 

「いいですね。アイドルの1日署長や1日駅長みたいなのもありますし、1日艦長ってのもいいでしょう~♪」

 

「1日‥‥艦長ですか?」

 

(1日艦長なんて言ってないんですけど‥‥)

 

心の中でそう呟くプロスペクター。

1日なんて期限を設けた訳ではないのだが、プロスペクターの言葉に対してユリカはそう解釈したみたいだ。

ユリカは入ってきた時とは180度異なり、機嫌よくプロスペクターの部屋から出て行った。

今回、何故プロスペクターがこんな企画を立てたのかと言うと‥‥

ユリカが来る少し前、

 

『先日の機密漏洩事件の一件で沈みきったムードを払拭するためにはイメージチェンジを行う必要がある!!』

 

『左様、自分の考えを持つ艦長など必要ない!』

 

『新艦長は何も考えない、華やかでさわやかなアイドルの様な子が良い!!』

 

プロスペクターはネルガル本社からの通信を強引に切った。

 

「まったく、上もスポンサーの顔色ばかり窺ってろくでもない企画を押し込もうとするんだから‥‥」

 

プロスペクターは溜め息をつく。

ある種、中間管理職の悲哀を一身に浴びているのだった。

 

先日の機密漏洩‥木星蜥蜴は月を追放された地球人類だった。

自分達は機械ではなく、人間相手に戦争をしていると言う事がナデシコ艦内に広まり、ここ最近ナデシコを退艦するクルーが増えている。

ネルガルの広報部はこの事態をなんとか打開するため、ナデシコの新艦長選抜の為のミスナデシココンテストを行うようにプロスペクターに命令してきた。

ナデシコの新艦長選抜の為のミスナデシココンテスト‥‥そう言えば聞こえはいいが実際の内容はユリカを免職させて、見た目だけで選ばれた新しい艦長を傀儡にしてナデシコを骨抜きにしようと考えているだけだ。

プロスペクター自身、クルーの退艦者が増えているこの現状も不味いがこの企画自体もあまり好意的にはなれない。

ネルガルの思惑がクルー達バレたりしたらどんな反乱を起こすか‥‥それだけでも身震いするほど恐ろしい。

普段はお茶ら気ているクルーでも、ナデシコのキャッチフレーズである『人格面には問題あるが、能力は一流』その名の通り、ナデシコはこれまでの戦闘や苦難を乗り越えてきたのだから、彼らがマジギレすれば何をしでかすか分からない。

しかし、やらずに済ますわけにもいかない。

一番いい方法としてはミスナデシココンテストとクルーには思わせ続け、なおかつそのコンテストで選ばれた新艦長でナデシコが骨抜きにされないということ、そしてそれを連合軍とネルガル上層部が不審がらない結果に終わるというストーリーなのだが、そんな上手い方法はあるのだろうか?

プロスペクターは頭を抱えながらも企画を進行していった。

 

『というわけで「一番星コンテスト」を実施します。優勝者はナデシコの1日艦長さんをやっていただきます。女子クルーの皆さんの奮っての参加をお願いします~♪艦長ミスマル・ユリカからのお知らせでした~♪』

 

ユリカの艦内放送とポスターの告知にて伝言ゲームの様に1日艦長から新艦長と言う内容に変更され‥いや、本来の企画がバレ始めた一番星コンテスト。

食堂ではホウメイガールズの女子達は、仕事をこなしつつ歌や踊りのリハーサルなんぞをしてみるホウメイガールズ。

後に彼女らは名前の通り『ホウメイガールズ』と言うユニットグループ名でアイドルデビューする事になる。

で、そのお客であるパイロット3人娘達は‥‥

 

「ねぇねぇ、どうする?艦長だって~♪」

 

ヒカルが目を輝かせている。

 

「『かんちょう』ってスパイの事?」

 

「「ん?」」

 

何で艦長がスパイなのか理由が分からず首を傾げるリョーコとヒカル。

かんちょう‥漢字で書くと間諜と書き、意味はスパイの事である。

日本語って難しい。

 

「で、リョーコは出ないの?一番星コンテスト」

 

自分とイズミは出るのだが、リョーコは出ないのかと尋ねるヒカル。

 

「出ねぇよ」

 

ヒカルの質問にリョーコはあっさりとそう答える。

 

「えぇ~どうして?」

 

「ガラじゃねぇから」

 

「まぁ、確かにガラじゃないかなぁ」

 

「そうあっさり言われるのも癪にさわるけど、オレはエステで敵を殴っていた方が性に合っているさ」

 

「ふぅ~ん」

 

なんとなくリョーコの心情が透けて見えたヒカルであったが、本人から何も言い出さないのなら深く聞かないのが長く友人関係を続けていく秘訣だということを彼女は知っていた。

食事を終えて食堂を出たところでリョーコはなにげに通路の向こうに人の姿を見つけた。

耳を傾けるとプロスペクターはコハクに何かを頼んでいた。

 

「コハクさん、どうかコンテストに‥‥」

 

「いえ、ガラじゃないです」

 

「そう言わずに、コハクさんが出れば優勝間違いないですから、それかルリさんにコンテストの出場を頼んでくれませんか?」

 

「僕もルリも艦長なんてガラじゃないし、そもそもこんな小娘の言う事なんて聞きたがらないでしょう。ルリも性格上そう言うコンテストには出たがらないと思います」

 

コハクはそう言うが、彼女達は後々にそのガラではない職に就く事になる。

 

「そうなんですよ。先程、ルリさんにも頼んだのですが、コハクさん、貴女が出ないのであれば、『私も出ません』と固辞されまして‥‥」

 

「ごめんなさい。ネルガルの所有物である僕は本来なら拒否権は存在しないのですが、ナデシコのクルーの安全の為を思うのであれば、プロスさんの頼みは聞くことはできません」

 

「そうですか‥‥」

 

コハクに断られ意気消沈しているプロスペクター。

 

「それよりもユリカさんはコンテストに出ないんですか?」

 

「彼女はまだエントリーしていません」

 

「でしたら、ユリカさんに出てもらって優勝してもらった方が元の鞘に収まるんじゃないんですか?」

 

「やはり、それしか方法はありませんな‥‥」

 

まだ、ユリカは一番星コンテストにエントリーをしていない。

だが、彼女もすぐに気づくだろう。

このコンテストは1日艦長ではなく、ナデシコの新艦長を決める為のコンテストなのだと言う事に‥‥

そうなれば、十中八九、ユリカはエントリーする筈だ。

そして、ユリカが優勝してくれれば、元通りとなる。

ネルガル本社も軍も自分達が主催したコンテストにユリカが勝ったのであれば文句はない筈だ。

 

コハクとルリのコンテストの辞退‥‥

それを聞いて何故かホッとするリョーコ。

彼女が出ないのは文字通りガラじゃないから。

でも自分が出ないのは‥‥

 

『お前も自分の中に一番星を持てよ』

 

わかっている‥‥

わかっているからこそコンテストには出られないのだ。

自分の中に一番星なんてないって事を知っているから‥‥。

 

リョーコはそっとその場から立ち去った。

 

 

~ナデシコ プロスペクターの部屋~

 

「ハルカ・ミナトさん、登録っと‥‥」

 

プロスペクターは大量に届けられた申込用紙をせっせと登録していた。

艦長になれるという触れ込みと、望めば芸能界デビューも夢じゃないという謳い文句は伊達じゃなく、ものすごい猛威を振るって女子クルーの間を駆け抜けた。

おかげでプロスペクターは申し込みを捌くので精一杯であった。

そんな中、予想通り、

 

『プロスさん!!!!』

 

ユリカがコミュニケでプロスペクターに通信を入れてきた。

 

「か、艦長~~どうなさったんですか、いきなり!?」

 

プロスペクターはユリカに尋ねるが、内容は既に予想がついていた。

 

『なんか、話がおかしくなっちゃっているんですけど?1日艦長って話だったのに、皆ずっと艦長になれるって勘違いしているみたいなんですけど、新艦長コンテストじゃありませんよね?これって今のうちに訂正した方がいいんじゃないですか?』

 

「い、いえ訂正は不味いかと‥‥」

 

『まずいって何故ですか?』

 

「いえ、それはですねぇ‥‥」

 

今更否定は出来ない。

勘違いをしているのはユリカの方なのだから。

しかし、ネルガルと軍の本心を聞けば彼女は激怒してコンテスト自体を中止にするかもしれない。

此処はなんとか誤魔化さなければならない。

 

『ねぇ、プロスさん、プロスさんってば!!』

 

「よろしいではないですか♪」

 

『よろしいって、そんな!?』

 

「ルックス、優しさ、才能、笑顔、そのいずれも艦内では貴女の右に出るものはいません!」

 

『え?そ、そうかな?』

 

プロスペクターに褒められて照れるユリカ。

これがアキトならば、彼女は狂喜乱舞するか卒倒しているだろう。

 

「そうですとも、貴女以外に艦長が務まる者などおりません」

 

『そうよね、艦長たるもの、クルーの皆さんに安心していただけるように笑顔と気配りが必要ですものね♪』

 

「そうです!貴女の魅力なら優勝すること確実です!!!」

 

『そ、そうかなぁ♪』

 

「そうです。ですから実力で艦長になりさえすれば全然問題ないじゃありませんか♪」

 

『そうだよね~♪全然問題なしですよね~♪』

 

なんか違う気もするが、プロスペクターの言葉で何故かすっかりその気になったユリカ。

プロスペクターは何とかその窮地を脱することに成功した。

流石大手企業で営業経験を積んできた経歴は伊達ではない。

その後、ユリカもコンテストの出場に登録したのが言うまでもなかった。

 

さてさて、そんな感じで一番星コンテスト実施へ邁進中の艦内では、クルー同士でそれなりの盛り上がりがあったりするわけである。

皆、どんな事をするのかを聞いたりしている。

そんな中、ミナトはルリにコンテストに出るのかを尋ねる。

 

「ねぇねぇ、ルリルリは出ないの?」

 

「出ません」

 

ミナトの問いにあっさりと答えるルリ。

 

「なんで?出たら良いところまで行くと思うんだけど‥‥」

 

「コハクが出ないからです」

 

「じゃあ、コ―くんが出るなら、ルリルリは出る?」

 

「そうですね‥私達は、血は繋がっていなくても姉妹ですから、2人でユニットでも組んで出ます」

 

もし、コンテストに出た場合の想定もしていたルリ。

本当は出たかったんじゃないだろうか?

そんな風に思えたミナトであった。

 

そしてコンテストの日となり、会場のナデシコの食堂ではウリバタケ達整備班が豪華なセットをこしらえていた。

食堂の隅にはちゃんと控室のスペースが設けられており、其処にはコンテストに出場する麗しの乙女達が居り、各々、自分の出し物の準備に余念がなかった。

 

「メグちゃん、一体どんな出し物をするの?」

 

ミナトは更衣室のカーテンから顔だけを出しながらメグミに質問する。

なぜならメグミの姿が看護婦の衣装だったからだ。

 

「これでも声優やる前は看護学校に通っていたこともあるんですよ」

 

「それで?」

 

「静注を♪」

 

「静注って静脈注射でしょう?出来るの?」

 

「はい、左手を出して軽く握って下さいね~♪あらあらお注射は飲むものじゃありませんよ~♪」

 

そう言って手元のクマのぬいぐるみ相手に注射の練習をするメグミ。

 

「‥‥」

 

それは芸か?という気もするミナトだった。

しかし、敢えて突っ込まなかった。

そんなメグミの横で、

 

ボロ~ン

 

ウクレレを持ってチャイナ服姿のイズミ。

 

「ダンダンダン、私の出番は漫談?ククク‥‥」

 

「「‥‥」」

 

控室で寒いギャグを飛ばすイズミにミナトとメグミは絶句した。

そして、コンテスト開始の時間となる。

 

「さて、とうとうやってきました、ナデシコの新艦長は貴女だ!一番星コンテストの開幕です!!!実況は私、ウリバタケ・セイヤと解説は元大関スケコマシさんでお送りします~♪」

 

「誰が大関スケコマシだって?それより、ルールの説明はいいのかな?」

 

ウリバタケの実況にツッコみを入れつつルール確認は大丈夫なのかと問うアカツキ。

 

「そうでした。本コンテストは出場者にナデシコクルーへのアピールを行っていただきます。アピールの方法は自由演技及び水着披露の2つからなります。自由演技はなんでも結構。自分の魅力を存分に引き出す出し物をお願いします」

 

ウリバタケが今回のコンテストのルールを説明し、

 

「投票は各クルー1票の無記名投票にて行うので、周りの目を気にせずお目当ての女の子にじゃんじゃん投票してくれ!もちろん、アピールを見ずに本命の女の子へ一途に投票するも良し!アピールを見て浮気するも良しだ!」

 

アカツキが投票についての説明をして、いよいよ一番星コンテストが始まる。

 

「では、トップバッターはこの方!眼鏡がキュートな整備班の皆さんの密かなアイドル!アマノ・ヒカルさんで歌は『勝利のVだ! ゲキガンガーV』をどうぞ!!!」

 

プロスペクターが一番手のヒカルを紹介し、ヒカルはゲキガンガーの登場キャラクター、海燕ジョーのコスプレをして、ゲキガンガーの挿入歌を歌う。

 

「勝利のVだ、ガンガーV~♪」

 

ヒカルはコスプレ衣装を引き剥がすと中からはビキニにパレオという出で立ちが現れた。

 

「おお、見事な水着チェンジですね~♪」

 

「まさに爽やかなお色気でキュートですねぇ~♪」

 

コンテストは順調なスタートを切った。

続いてチャイナ服姿にウクレレを持ってイズミ登場。

ウクレレを弾きながら漫談をやったのだが、

 

「一番の帽子、見つけた‥‥一番星なんちって」

 

ヒュ――――――

 

相変わらず寒いギャグを飛ばしている。

 

「相変わらず寒いギャグを飛ばしておりますねぇ、イズミちゃん。案の定、得点も伸びていないようですので次ぎ行きましょうか?」

 

「そうですね」

 

本人のやる気とは裏腹にさっさとフェードアウトさせられるイズミであった。

メグミは控え室でミナトに言っていたようにクマのぬいぐるみ相手に注射を行う。

そして、水着審査にて得票を伸ばした。

ミナトの場合、ステージに上がった彼女を見て、一同は目が点になる。

彼女の着ている着ぐるみはとっても不思議なものであった。

肉襦袢の上に天使の羽、金太郎の前掛けに回し‥‥。

関取なのか金太郎なのかもうわけがわからないコスプレだ。

 

「どすこい!」

 

そう言って四股を踏むとにじり寄りながら両腕をあげていった。

 

「これは雲竜型でしょうか?元大関のスケコマシさん?」

 

「だから大関じゃないって。にしても、ミナトさん微妙に土俵入りの型が違うような‥‥」

 

土俵入りの作法を全てやり終えた後、ミナトは肉襦袢に手をかけた。

 

バサッ

 

肉襦袢を取り去った後に姿を現したミナトの水着姿はセクシーだった。

まさに大人のお姉さんと言う印象がピッタリだ。

 

「ミナトさんの票がここに来て躍進中!!!」

 

セクシーポーズが炸裂したミナトさんであった。

 

コンテストが進んで行く中、ブリッジでコンテストを見ているのはアキトにルリ、コハク、そしてリョーコの4人。

 

『続いてはホウメイガールズさんで歌うは‥‥』

 

「あっ、サユリちゃん達だ」

 

「歌‥なかなか、上手いですね」

 

「踊りも上手で息が合っている。流石、皆さんいつも同じ職場にいるだけの事はあるね」

 

スクリーンに映るホウメイガールズ達の歌って踊る姿はキラキラ輝いていた。

故にアキトもその姿を見て思わず当たり前の感想を呟いてしまう。

 

「やっぱ皆ってキラキラ輝いているよなぁ」

 

「そうか?」

 

リョーコがぶっきらぼうに尋ねる。

 

「そうだよ。戦うことしか頭にない木星の奴らとは大違いだよ」

 

「‥‥そうか」

 

「そうだよ」

 

アキトの返答を聞き、リョーコはブリッジから出て行った。

しかし、アキトは空間ウィンドウに釘付けでリョーコがブリッジを出て行ったことに気づかなかった。

アキトがソレに気づいたのはホウメイガールズの発表が終わった頃で、

 

「あれ?リョーコちゃんは?」

 

「先程ブリッジを出て行かれました」

 

「俺、なんか変なこと言った?」

 

「さあ、でも何か思い詰めている様な顔をしていました」

 

コハクはリョーコの事が気になりつつもコンテストの行方も気になったので、コンテストの後にリョーコと話してみようと思い、この場ではリョーコを追いかけなかった。

そしてコンテストはいよいよ、本命とも言えるユリカの番となった。

 

「さぁ、皆さんお待たせいたしました!!!続いてはトリもトリ、大トリのエントリーナンバー1578番ミスマル・ユリカです!!」

 

「1578人もいねぇよ」

 

プロスペクターに代わりジュンがユリカの紹介をしている。

そしてさりげなく、ジュンの紹介にツッコみを入れるウリバタケ。

 

「宇宙に咲いた百合の花、皆を虜にする可憐さで今日も見せます一番星、それではどうぞ!!」

 

「ジュンさん、ユリカさんの時だけ何か紹介が長いし気合が入っているな‥‥」

 

ブリッジでその光景を見ていたコハクがポツリと呟く。

ジュンの贔屓の引き倒しでは?と思わせるほどの過剰演出の中、ユリカはやはり正統派アイドルの出で立ちでステージに現れた。

 

「ずっと、探してた~♪」

 

ステージで歌うユリカの歌は意外と上手かった。

普段はブリッジでよく鼻歌を歌っている姿を目撃するが、その時はお世辞にも上手いとは言えない。

実際にエリナには「艦長、下手な歌は止めなさい!!」と注意を受けている所を何度も見ている。

彼女は「能ある鷹は爪を隠す」または「火事場の馬鹿力」の言葉通りなのかもしれない。

普段はお茶ら気ているが、戦闘時は有能な指揮官に見えるし‥‥

結構上手いユリカの熱唱に皆はノリノリで、中にはリズムを取る者もいた。

そう考えるとユリカは結構アイドル属性があるのかもしれない。

その証拠にジュンは完全にアイドルの追っかけみたいだった。

 

 

~ナデシコ 格納庫~

 

その頃、リョーコは制服を脱いでラフな格好で自分のエステのコックピットに座っていた。

端っこにはコンテストの様子を小さい空間ウィンドウに出して表示させて置いた。

流れてくるのはユリカの歌う「私らしく」である。

 

「私らしくっていってもな‥‥」

 

『戦うことしか頭にない木星の奴らとは大違いだよ』

 

さっきのアキトの言葉が心に突き刺さる。

確かに戦うこと以外に輝ける何かを持っている奴の方が素晴らしいのかもしれない。

アキトはエステバリスの操縦以外に料理と言う輝けるモノがある。

ヒカルは漫画、イズミはウクレレなどいろんな多趣味で夢中になるモノが多い。

しかし、自分はどうだろうか?

自分だけの一番星‥‥

強いてあげるならばエステバリスの操縦と戦闘‥‥

そう自負してきたつもりだし、その為の努力もしてきた。

しかし、ここ最近はそれも自信が無くなってきた。

コックを自称しているアキトがメキメキと腕を上げてきたからだ。

最初は頼りなかったのに‥‥

それがいつの間にか力を付けてきた。

でも、アキトがどれだけ頑張っているかはリョーコだってちゃんと理解はしている。

それでもアキトに負けてしまったら‥‥

戦うことだけを誇りにしてきたのにコックを目指しているアキトにすら負けてしまったら‥‥

アキトには料理という別に輝けるものがあるというのに‥‥

この戦争が終わってしまったら‥‥

戦う相手がなくなってしまったら‥‥

自分は用済みのガラクタに成り果ててしまうのではないか?

 

「私らしくか‥‥私らしいって一体なんだよ‥‥」

 

段々とやさぐれてきた今の自分にユリカの姿はあまりにも眩しすぎて、彼女の姿など直視できなかった。

ぼんやり何も考えないようにつとめながら星空を見ていると、

 

キラッ‥‥

 

何かが瞬いたたように見えた。

 

「ん?何だ?」

 

リョーコは気になりブリッジに報告を入れた。

 

 

 

ユリカがステージで歌い、リョーコが宇宙で何かが光るのを見つける少し前、

歌っているユリカの姿を見て、ルリはなんかソワソワしているように見える。

ナデシコに乗りたての頃のルリは無表情で自分の感情や行動を見せる事はなかったが、段々と周りの環境の影響で感情も豊かになり始めてきている。

エントリー期間中、ルリはコンテストに興味無さそうであったが、今こうしてコンテストを見て心境の変化があったのだろう。

 

「‥‥ルリ‥もしかして、出たいの?」

 

コハクが恐る恐るルリに尋ねる。

すると、彼女は頬を赤く染めて俯きながら小さく首を縦に振る。

 

「‥‥じゃあ、出ようか?」

 

「えっ?でも‥‥」

 

「大丈夫、飛び入りってやつだよ。それに万が一、優勝しても僕達は正式なエントリー手続きをしていないから、無効票だよ」

 

そう言ってコハクは自動監視体制機能にして、ルリの手を引いてブリッジを一時離れた。

 

「それじゃあ、アキトさん、僕達はちょっとお色直しをしてきますね」

 

「あ、ああ‥‥」

 

アキトはコハクがどんな衣装で戻って来るのかをちょっと楽しみにしていた。

それからユリカの歌が終わる少し前にステージ衣装に着替えたルリとコハクがブリッジに戻ってきた。

 

 

「私の未来を~♪見つけたくて~♪」

 

コハクとルリが飛び入り準備を整えた直後、ユリカの歌が終わった。

 

「ありがとうございました~」

 

「はい、皆さん拍手!!!!!!」

 

会場の皆がユリカの拍手をする。

その直後、

 

ウィーン!ウィーン!ウィーン!

 

警報がなった。

だが、それはリョーコの放った警告ではなかった。

リョーコの放った警告はオモイカネのオートパイロットに阻まれた。

オモイカネは状況をチェックし、問題なしと判断したのだ。

今のオモイカネにとってはリョーコの警告よりもルリとコハクのステージを見て記録する方が大事だった。

 

「突然ですが‥‥」

 

「歌います」

 

「ルリちゃんにコハクちゃん!?」

 

ユリカが驚いたのも無理はない。

警報とともに開いた空間ウィンドウに現れたのはルリとコハクの姿だったからだ。

しかもドレスは色違いのモノを着て‥‥

ルリは水の様な青を基調としたドレス。

コハクは火の様な赤を基調としたドレスを着てルリと共にデュエットをする。

 

ルリとコハクがデュエットをしている時、リョーコは、

 

「やっぱり気になる‥‥」

 

ブリッジから何も言ってこないということは気のせいだったのだろう。

そう思おうとしたが、胸騒ぎがしてエステバリスを発進させた。

 

その間にもルリとコハクのステージは続き、オモイカネが舞台効果で煙幕を放出、煙幕に包まれた2人のシルエットは自分のドレスに手をかけてバサッと剥ぎ取る音がする。

シルエットだけに想像をかき立てられるクルーが続出した。

そして煙幕が晴れると、そこには水玉模様のワンピースタイプの水着を着たルリとコハクの姿があった。

色もドレスに合わせてルリが水色、コハクが薄紅色である。

やがて、2人が歌い終えると、

 

パチパチパチ‥‥

 

「2人とも上手かったよ」

 

「テンカワさん‥‥」

 

「ありがとう、アキトさん」

 

ルリは今更ながらに自分のやってしまったことに気づいたみたいで真っ赤になって俯くが、コハクはアキトに微笑みながら礼を言った。

 

その頃、宇宙へ出たリョーコは、

 

「やっぱ気のせいか‥‥」

 

自分が見たのは流れ星か何かかと思い、ナデシコへ引き返そうとした時、

 

「ん?」

 

前方にロケットの様なモノを見つけた。

 

「ミサイル!?‥‥人間!?」

 

それは、大型ミサイルの上に小型の宇宙艇が取り付けられた木連の有人ミサイル艇だった。

 

「な、なんで!!!」

 

リョーコは咄嗟にどうしようかしたが、方法が思いつかなかった。

ただ相手は自分の乗っているコックピット部分を切り離し、ミサイルの部分をリョーコのエステバリス目掛けて撃って来た。

 

「んなろぉ!!!」

 

リョーコは思わず手を出した。

考えたことが素直に動きに現れるIFSである。

リョーコのエステバリスも同じ動きをし、大型ミサイルを手で防ごうとした。

しかし、エステバリスはサ〇ヤ人ではないので、大型ミサイルを素手で受け止める事など不可能。

よって‥‥

 

ドカ―――ン!!!!

 

大型ミサイルがリョーコ機を直撃した。

 

当然リョーコ機被弾の知らせはナデシコに届き、そして今度は本物の警報が鳴った。

もちろん一番星コンテストは一時中断し、リョーコの救助と敵機迎撃に向かった。

 

「コイツら、ふざけたモノに乗りやがって!!!」

 

リョーコは左手を失ったエステバリスで襲いかかってくるミサイルを必死に撃破しようとしていた。

幸い、最初の直撃は左腕を失っただけで機体そのものは無事だった。

でも、ライフルどころかナイフさえも持ってくるのを忘れた為、武器と言えば残った右腕のパンチか両足のキックのみだ。

それでもリョーコはこの場から逃げようとはせず、果敢に有人ミサイル艇へ向かっていく。

 

「来る‥‥」

 

そこへ、アキトから通信が入る。

 

「リョーコちゃん!どうして1人で出撃なんかしたんだ!?」

 

「どけ!!」

 

リョーコはアキトの通信に動揺し、ミサイル艇を見逃してしまったので、慌てて追いかけて破壊する。

 

「あたしには戦うことしかないんだよ!」

 

「いいじゃないか、それが君の一番星だ!今の君は最高に輝いているよ。それでいいじゃないか」

 

「いいわけねぇだろう!! あいつらだって人間なんだ。あたしのやっていることは人殺しなんだぞ‥‥」

 

リョーコは吐き出すように言う。

 

「けど、あたしからそれをとったら何にも残らねぇ‥やっと見つけた一番星がこんなんだ‥‥どうせ無くなるなら丸ごと無くなっていいさ!!」

 

「よくない!!」

 

「えっ?」

 

「リョーコちゃんがなくなったら、俺は悲しい。きっと皆だって悲しい」

 

アキトの言葉に賛同するかのようにリョーコの下にナデシコクルーの言葉が届く。

 

「そりゃ、今は戦うことしか出来ないもん」

 

「何故戦うかと問われれば、他に術を知らないからとしか言えない。だが、それで良いとも思わないか?」

 

皆の励ましにリョーコはようやく気づいた。

 

「よし!!!!各自、散開!!招かれざる客をとっとと追い返すぜ!!!」

 

「「「了解」」」

 

かつてアキトだって同じ悩みを抱いていた。

でも、まだ答えを出すには早い。

この戦争が何時まで続くか分からない。

悩むのは戦争の終わりが見えてからでもいいじゃないか‥‥

戦争が終わってからでもいいじゃないか‥‥

まだ分からない未来の事をウジウジ悩むなんて自分らしくなかった。

リョーコの迷いは吹っ切れるのであった。

 

木連側もナデシコからエステバリスが出てきたのは確認していた。

 

「人型戦闘機が5機に増えました」

 

「作戦を続行しますか?それとも中止にしますか?」

 

有人ミサイル艇からは作戦続行かそれとも中止かを尋ねてくる。

 

「いや、続けよう。ただし我々の目的はあくまでもデータ収集だ。無理はするな。必ず生きてデータを持って帰って来いよ!」

 

「了解」

 

有人ミサイル艇部隊の指揮官、阿良々木は作戦の続行を命じる。

今回の有人ミサイル艇の目的は任意の地点にミサイルを送り込めるかと言う実験だった。

無人兵器はチューリップから侵入したらもう一度チューリップに入らなければゲートアウトできない。

しかし、跳躍体質の人間が通ればある程度の距離ならゲートアウトする側のチューリップがなくても跳べることがわかっている。

その為、どれだけの距離を跳べるのか、どれだけの精度で跳べるのか、それを実験するのが彼らの目的だった。

それが兵器として、敵に対して有用かどうかを検証することも含めてだ。

しかし、今回の実験から奇襲攻撃にはもってこいの作戦であるが、レーダーの届かない範囲外から打ち込んでもかなり手前にしかゲートアウトできないところを見ると有用性はあまりないのだろう。

それに有人であることから後で彼らを回収しなければならない。

跳躍体質の人間は木連でも貴重な人材だ。

まさかその貴重な人材を特攻させて無駄に消費するのはあまりにも非効率だ。

では何故、阿良々木は作戦を続行させたのか?

その理由は‥‥

 

(データを持って帰るんだ‥‥なにしろ、まだコンテストの結果を聞いていないではないか、このままではあの2人が優勝したかどうかわからないじゃないか)

 

実は阿良々木の座上している艦でもナデシコの一番星コンテストの映像が映し出されており、阿良々木はルリとコハクに一目惚れした。

今回、阿良々木が作戦の続行を命じたのは一番星コンテストのデータが欲しいなどとは口が裂けても言えなかった。

 

それからすぐにリョーコ達は木連のミサイル艇を全機撃破出来たことは言うまでもない。

ミサイル艇の乗員は皆、戦闘宙域から撤退し、後に本隊に無事に収容された。

木連の有人ミサイル艇部隊を退け、ナデシコに戻る途中、アキトがリョーコをナデシコまでエスコートしようとしたら、照れ隠しで重力波ビームの圏外に殴りとなされてまた遭難しかけたハプニングはあった。

 

「一番星、見つけたかな‥‥」

 

ナデシコに戻る中、リョーコはボソッと呟いた。

 

やがてコンテストの集計結果が出た。

 

「えっと最高得票は‥‥」

 

「得票は?」

 

「艦内の得票をほぼ全て集めました。ホシノ・ルリさん、タケミナカタ・コハクさんペアです」

 

「おおおお!!!!」

 

予想通りの結果に艦内は沸き上がった。

だが、

 

「ですが‥‥」

 

「ですか?」

 

「えぇー御2人は正規の手続きでコンテストへエントリーされていないので全て無効票扱いとなります」

 

コハクの言う通り、ルリとコハクは正式な出場参加者ではないので、最初から投票権は無かったのだ。

 

「ええええ!?」

 

まさかの無効と言う事でクルー達はがっかりな声を出す。

 

「従いまして、有効投票のみを再集計し、上位者のじゃんけん大会の結果で今回のコンテストの優勝者を決めたいと思います」

 

結局最後はじゃんけんで勝った者がコンテストの優勝者となりその結果、ミスマル・ユリカが優勝者となった。

この結果にネルガルと軍の宣伝部・広報部は驚愕と共に愕然とした。

だが、プロスペクターにとっては最も理想的な形となり、一番星コンテストは終了した。

 

 

 

・・・・続く




ではまた次回。

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