機動戦艦ナデシコ コハクのモノガタリ   作:ただの名のないジャンプファン

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第9話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナデシコは木星兵器の大群の前に敗北し後退、船体は酷く傷つき、火星で生きていた大勢の人々も助けることが出来ずに艦内は意気消沈、重い空気かと思いきや‥‥

 

『『3・2・1、ドカーン!!ワーイ!!なぜなにナデシコ!!』』

 

突如ナデシコの艦内放送にてN○Kで放送している様な教育番組風の番組が流れ始めた。

OPにはデフォルメ姿でオーバーオールを着て頭にはベレー帽を被ったルリとウサギさんスーツを着たユリカが登場し番組が始まる。

 

『おーい、皆集まれー!!なぜなにナデシコの時間だよ!!』

 

『あつまれー』

 

そして画面にはデフォルメ姿の時と同じく、オーバーオールを着て頭にはベレー帽を被ったルリとウサギさんスーツを着たユリカが登場する。

意外にノリノリなユリカとは対称的にルリは無表情で台詞も棒読みである。

このゲリラ放送にブリッジでは、

 

「か、かわいい」

 

ジュンはユリカウサギを見て、頬を赤らめ、ゴートは急ぎ放送を撮影しているスタジオへと走って行った。

どうやらこの訳の分からない放送を止めに行った様だ。

 

「ルリルリかわいい」

 

ミナトはウ○ダーinゼリーを飲みながら番組を見ながらオーバーオール姿のルリを見て笑っていた。

 

「私も昔こういう番組に出ていたのになぁ~」

 

メグミは自分が起用されなかったことに不満の様子だった。

 

「そう言えばコハクちゃん、もう病気治ったんですよね?どうして出てこないんだろう?」

 

メグミの言うとおりコハクはイネスの診断の翌日、羽も無くなり、熱も引き、髪も動かなくなっていた。

彼女の体内のナノマシンの適用変換が終わったのだ。

長かった髪の毛はミナトに切ってもらった。

そして、ルリが出ているのであれば当然コハクもこの番組に出る筈である。

その証拠にブリッジにはコハクの姿がなかったからだ。

 

「その内に出てくるんじゃない?」

 

番組を見ながらコハクの登場を待つミナトとメグミであった。

一方、整備員のロッカールームでは班長のウリバタケが、

 

「ぬぉぉぉっ!そうか、こうなのかぁぁぁぁっ!!」

 

早速、番組をビデオ録画すると共に目を血走らせて原型作成のために粘土をこねくり回していた。

 

『皆はナデシコがどうやって動いているか知っているかい?』

 

ルリが相変わらず棒読みの台詞でナデシコがどういう原理で動いているのかをユリカウサギを含め、ナデシコの皆に問う。

 

『え、えっと‥‥僕、分からないや。なんたって僕、ウサギだし‥‥』

 

本当にわからない様で冷や汗を流しているユリカウサギ。

自分が艦長を務めている艦なのに大丈夫なのだろうか?

 

『あーそう、それじゃあナデシコの相転移エンジンについて説明してあげましょう。ネコさん例のモノをココに』

 

『あぁ、ちょ、ちょっとまってよぉ、おねえさん。私まだ台詞が‥‥』

 

まだ台詞があったユリカウサギを無視して、笑○の座布団運びの人に座布団を頼む司会者と同じように小道具を此処へ運んでくるよう指示するルリお姉さん。

 

『に、ニャア~‥‥』

 

其処にルリ以上に不機嫌な様子で登場するコハク。

その姿は頭には黒いネコミミのヘアーバンド、手には肉球尽きの手袋、首には大きな鈴のついた赤い首輪、身体はフサフサの黒い人工毛皮で作られたネコさんスーツを着ており、尻尾は機嫌を表すかのようにピンと立っている。

何故このような事になったかと言うと、

元はと言えばユリカが地下街のことについてイネスに謝罪したところ、イネスがこの番組を流したいので手伝ってほしいと言って、1人じゃ足りないからと言ってルリに声をかけ、ルリは自分がやるならコハクも一緒にと言って、今まさにお昼寝をしようとしていたコハクを強引に拉致して、現在に至る。

肉球手袋に苦労しつつ小道具をセットし終えるハクニャン。

 

『はい、よくできました。ありがとうね。ネコさん。よしよし』

 

『う、ウニャァ~』

 

お手伝いのご褒美にネコさんの頭を撫でるルリお姉さん。

この時だけは無表情ではなく、優しい笑みを浮かべ、ハクニャンも目を細め気持ちよさそうに頭を撫でられていた。

 

『では、この3つの水槽でもっとも位置エネルギーが高いのはどれだと思う?』

 

ハクニャンの頭を撫で終わると、再び無表情となり、番組を進めるルリお姉さん。

台詞もやはり棒読みだ。

 

『えっと‥えっと‥‥』

 

ユリカウサギが答えに悩んでいると、

 

『正解はこの1番高いやつね‥‥で、この水槽はビックバン直後の‥‥』

 

ユリカウサギを無視し一方的に話を進めて行くルリお姉さん。しかもカメラに向かって背中越しに説明しているのでイネスが「待った」をかけた。

 

『ちょっとホシノ・ルリ、ナデシコの良い子達が見ているのよ。台本どおりおやりなさい、ハイ、さっき、ネコさんの頭を撫でたみたいにニッコリ笑ってこっち向いてお姉さん』

 

『…バカ』

 

照れ隠しなのか頬がほんのりと赤いルリ。

 

『ハハハ、ドンマイだよ。ルリちゃん』

 

「さあ、続けて行くわよ」

 

イネスが再びカメラを回そうとすると、

 

「いく必要は無い」

 

スタジオにゴートが入ってきた。

 

「これは何のバカ騒ぎだ?フレサンジュ。現在ナデシコは敵のグラビティーブラストの集中砲火を浴び、エンジン、フィールド共に出力も低下し、重力圏の脱出も出来ない状況下にある。パロディを出来る状況ではないと思うが?」

 

「私の帰る場所を失くしたのは何処の誰よ?」

 

イネスがゴートに詰め寄る。

 

「イネス先生を叱らないでください‥‥イネス先生、私のこの前のミスをクルーの皆に弁護してくれようとしているんです」

 

ユリカウサギの涙目のウルウル攻撃にゴートもたじたじである。

 

「私は‥‥私は‥‥」

 

「「バカ」」

 

イネスとルリの言葉がシンクロする。

 

「許すも許さないもあの状況じゃ仕方なかったでしょう。それに私、なんて言うのかな?ココが他の人とはちょっと違うのよね」

 

イネスは左胸を手で押さえる。

彼女のその行動にゴートは頬を染める。

 

「あー勘違いしないでね。ハートっていう意味だから」

 

「変わり者だって言うのはわかるけど‥‥」

 

ルリが思ったことをはっきり言う。

 

「私、8歳以前の記憶がないのよ。8歳って言うのも見た目で、火星の砂漠に独りでいるのを保護されたってわけ」

 

自分の不運な生い立ちを語るイネス。

 

「だからかな?今が本当の自分じゃないってそう思っているの。そのせいかな?他の人に興味が無いの、だから悪いけど死んだ人達も貴女達も私にとっちゃぜんぜん興味がないの」

 

((((やっぱり変人だ))))

 

スタジオに居る皆のイネスの印象だった。

 

「さぁ、続けましょう」

 

こうして番組は再開された。

だが、イネスの「説明」が組み込まれた番組を見ていてただでさえ眠かったのにこの番組のせいで更に眠気が倍増し、ウトウトしだすハクニャン。

 

(着ぐるみだし、汚れてもいいや)

 

とうとう眠気に負けてその場で横になる。

肉球手袋を脱いでそれを枕にして、もぞもぞと丸まるまり、本格的に眠りに入るハクニャン。

その姿はまさに本物のネコの様に見えた。

その頃、アキトは眠っていたのだが、先日火星の生き残りの人々をナデシコの皆を守るために見殺しにしてしまった後、ショックを受けていたユリカの様子を見に行った時の事が夢の中で思い出される。

 

「うわぁぁ!!」

 

アキト飛び起きて辺りを見回し、夢だった事に、

 

「‥‥惜しかった」

 

あの時、ユリカはアキトにキスを強請ったが、アキトはユリカの思いに応える事は出来なかった。

堂々とユリカとのキスを逃してしまったことに対して無意識に呟くが、

 

「違う、違う、違う!!俺は別にあいつの事なんかなんとも‥‥なぁ、ガイ?‥‥ガイ?」

 

そして、部屋に置いてあったガイの遺品の1つであるゲキガンガーのフィギュアが無い事に気づく。

ずっと部屋にあったゲキガンガーのフィギュアが無くなっていると言う事は誰かが自分の部屋に侵入して持ち去ったと言う事だ。

 

「誰だ!?俺のガイ‥じゃなくて、ゲキガンガー超合金リミテッドモデルを持ち去ったのは!?」

 

慌てて部屋を出たアキトであったが、部屋を出た時、瓢提督とぶつかってしまった。

 

「あっ、提督!?すみません!!」

 

「ん?ん~‥‥」

 

そして、アキトはゲキガンガーのフィギュアの捜索から何故か瓢提督とお茶をすることになってしまった。

妙な空気の中、瓢提督が持っていたポットのアイスティーを飲むアキト。

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

互いに無言で、スクリーンの映し出されているなでなにナデシコの音声だけがアキトの部屋に虚しく響いている。

 

(何だろう?俺、怒られるのかな?)

 

特に瓢提督と接点がないにもかかわらず、アキトは何か言われるのかな?と委縮してしまう。

 

「美味いかね?」

 

「えっ?あっ、はい‥‥」

 

「置いていくから後でゆっくり飲むといい」

 

瓢提督はアキトにポットを差し出す。

 

「あっ、どうも‥‥」

 

ポットを受け取ったアキトが何気なくスクリーンを見ると、そこには探していたゲキガンガーのフィギュアが映し出されている。

 

「あー!!俺のゲキガンガー!!」

 

アキトは急いで放送が流されている部屋に走って行った。

 

「‥‥」

 

瓢提督はアキトに何か言いたそうだったが、出鼻をくじかれた様だった。

そしてイネスの番組もプロスペクターがキリのいいところで乱入し終了となる。

 

「おつかれさま。いや、ベリーベリーナイスな番組でした。ゴート君もお疲れ様」

 

軽く拍手をしながら、スタジオに現れたプロスペクター。

 

「いや、私は‥‥」

 

ゴートもなんだかんだで、巻き込まれウサギ耳のへアーバンドを着けていた。

 

「ですが、そろそろお開き、と言うことで」

 

懐から電卓を取り出し、なにやら計算をすると、その数字を皆に指し示す。

 

「電気代も馬鹿になりませんし、ほれ、この通りですし。それに‥‥」

 

プロスペクターの視線は床に向いている。

皆がその視線の後を追うと、その視線の先には‥‥

 

「んっ‥‥すぅー‥‥」

 

丸まって、時折もぞもぞと動きながら、床でお昼寝をしているコハクの姿がそこにあった。

 

「うわぁ、コハクちゃん、かわいい~!!」

 

(ほんとうに‥‥このまま抱きしめたいです‥‥)

 

「私の番組の最中に寝るなんて、いい度胸ね」

 

ユリカとルリは眠っているコハクの姿に思わず見とれるが、自分が主催する番組の最中、居眠りをされてちょっとご機嫌斜めのイネス。

 

「「「また見てねぇー」」」

 

クレヨンで書かれた「おわり」の文字と出演者全員(コハクを除く)の言葉と共に番組はおわり、砂嵐の後、画面は青一色になった。

 

 

~ナデシコ パイロット3人娘の部屋~

 

「はぁ~イズミわかった?」

 

同人誌を描いていたヒカルがテレビに釘漬けだったイズミに問うが、イズミは何も言わない。

 

「なんだ。寝ているのか」

 

長い付き合いだからこそ分かったのだろう。

イズミは目を開けたまま寝ていた。

ちなみにリョーコは番組が始まる以前から寝ていた。

 

「さーて、仕事だ~仕事~」

 

ウリバタケも放送が終わると仕事に向かった。

整備班のロッカールームのテーブルにはまだ未塗装のユリカウサギのフィギュアが置かれていた。

番組が終わり、皆がコハクの寝姿に気を取られていると、放映を見て頭に血を上らせたアキトが乱入してきた。

 

「お前ら!俺のゲキガンガー返せ!!」

 

「「「「シィ――――ッ!」」」」

 

「えっ?な、なに?」

 

説明の中でガイの遺品の1つである超合金ゲキガンガー3リミテッドモデルを使われたことに腹を立てて、怒鳴り込んだアキトだが、寝た子を起こすなとスタジオにいた皆から言われた為、その怒りは直ぐに収まった。

そして、

 

「無いじゃん、右のゲキガンパンチ、もっとよく探せよなぁ」

 

「ねぇアキト」

 

「ん?」

 

「私もう大丈夫だから‥‥もうアキトに心配かけないから‥‥」

 

床に這いつくばって放送中に飛ばされたゲキガンガーの右腕を探し回るアキトとユリカウサギ。

傍らではルリとプロスペクターが眠っているコハクをどうするか話し合っている。

 

「とりあえずなんとかしませんとなぁ」

 

「そうですね。コハクはまだ病み上がりの身体ですし‥‥」

 

苦笑を浮かべるプロスペクターにルリも同意する。

 

「はぁ、仕方ありませんね。私が運びましょう。ルリさん、よろしいですか?」

 

「はい」

 

ルリが了承すると、プロスペクターはハクニャンを抱っこして部屋まで運んだ。

 

 

敵を上手く撒いたと確信したナデシコは、ボロボロの船体を引きずりながら極冠にあるネルガルの研究所へと向うことになった。

プロスペクターによれば、極冠研究所でも相転移エンジンの研究は行われていたという。

オリンポス山の研究所は既に調査済でそこには相転移エンジンが抜き取られた無人艦は残っているが、肝心のエンジンも修理パーツなども残っていない。

ナデシコにとっては藁にも縋る思いであった。

敵からの発見を避けながら、なおかつエンジンが不調のため、極冠への到着は2日かかった。

そして極冠研究所へ向う途中、コハクは改めて自分の経歴を見直してある項目に注目した。

それは‥‥

 

「ボソンジャンプ?」

 

ボソンジャンプと書かれた項目をコハクはジッと見ていた。

 

「‥‥」

 

一通りボソンジャンプについての項目に目を通したコハクは、以前オリンポス山の研究所で見つけた青いクリスタル状の鉱物をジッと見つめた。

 

 

~ナデシコ 格納庫~

 

人の気配が絶えた格納庫に光が満ちる。

やがて光が収束し、弾ける。そして格納庫からはコハクの姿が消える。

そして空き部屋に再び格納庫のときと同様の光りが満ち、人の形を作る。

光が弾けると、其処にはコハクが居た。

 

「‥‥」

 

身体のどこかに異常がないか調べたがどこにも以上はなかった。

 

「フッ‥‥ますます化け物だな‥‥」

 

自らを自嘲するかのように呟くコハク。

だが、もしルリがこの場にいたらコハクを戒めていただろう。

 

「ともかく人前じゃあまり使わないほうが良さそうだ‥と言っても出来るのは後、1回だけど‥‥」

 

そう言ってコハクは青いクリスタル状の鉱物の残りストックを思いながら、空き部屋を後にした。

 

その頃、食堂ではアキトとイネスが火星について語っていた。

なお、アキトは瓢提督から貰ったアイスティーのポットであるが、1人では飲み切れないと言う事でホウメイ達職場のスタッフ用にと食堂に置いてある。

 

「やっぱり、テンカワ博士の息子さんだったんだ」

 

「え、ええ‥まぁ‥‥」

 

「ふーン、それでよくこの艦に乗る気になれたわね?」

 

「それってどういう‥‥」

 

アキトがイネスに聞こうとすると、イネスは顔を近づけてきてアキトの顔を覗き込む。

 

「あ、あの~?」

 

「なんだか不思議‥‥貴方とは何処かで会った気がするの‥‥そう、なんかとても懐かしい気がする‥‥」

 

以前サセボシティーでもコハクに同じようなことを言われたアキトだが、昔の記憶を呼び戻してもコハクとイネスの顔も思い浮かばないし、面識はない筈だ。

 

『ちょっと2人とも近づきすぎ!プンプン』

 

ユリカが映った空間ウィンドウが2人の間に映し出される。

 

「わぁぁぁぁ!!何だよ!?お前!!」

 

『あっ、そうだ。イネス先生もブリッジまで来て下さい。大変なモノを発見しちゃいました』

 

「そう、わかったわ」

 

席を立つイネスにアキトはさっきのイネスの言葉が気になったので聞いた。

 

「あの、どうして俺この艦に乗っていちゃいけないんですか?」

 

「‥‥どうやら知らないようね。この艦には‥‥」

 

イネスの言葉を聞いたアキトの顔は次第に険しい表情へと変わっていった。

 

 

~ナデシコ ブリッジ~

 

「識別信号を確認、記録と一致しました」

 

「じゃあ、アレは紛れもなく‥‥」

 

「でも、おかしいです。アレが消滅したのは地球の筈なのに‥‥護衛艦クロッカスは確かに地球でチューリップに飲み込まれた筈なのにどうして火星に‥‥」

 

ナデシコの前方には氷漬けになった連合宇宙軍の護衛艦クロッカスとチューリップが発見され、ブリッジに集まったクルーは困惑していた。

 

「チューリップは木星蜥蜴の母船ではなく、一種のワームホール、あるいはゲートの類いだとすれば、地球で吸い込まれた艦が火星にあっても不思議ではないでしょう?」

 

ユリカの疑問に答えるイネス。

 

「では、地球に出現している木星蜥蜴は火星から送り込まれていると?」

 

ゴートの質問に答えたのはイネスではなく、意外にもミナトだった。

 

「そうとは限らないんじゃない?」

 

全員の視線がミナトに集中する。

 

「クロッカスと一緒に吸い込まれたもう1隻の護衛艦‥‥えっと、何って言ったっけ?」

 

「パンジー」

 

瓢提督が地球でチューリップに吸い込まれたもう1隻護衛艦の艦名を答えた。

 

「そうそう!その姿が見当たらないじゃない?出口が色々じゃ使えないよ」

 

「「「「「「ああっ‥‥」」」」」」

 

ブリッジがミナトの発言にどよめく。

 

「『ヒナギク』を降下させ、クロッカスの捜索を‥‥」

 

ユリカはまだ艦内に生存者が居るかもしれないと思い、救助を提案するが、

 

「いえ、艦長。我々には今そのようなことをする余裕はありません」

 

「でも生存者がいるかもしれません」

 

ユリカはクロッカスの捜索を進言したが、プロスペクターはこれを却下した。

今は自分達の方の身が危険なのだ。

不用意にクロッカスに近づいて近くのチューリップから敵が現れでもしたら、今度こそ撃沈されるかもしれない危険がある。

救助を行うにしてもまずはナデシコの船体を修理しなければならない。

 

「提督はどうお考えですか?」

 

ユリカは瓢提督の考えを聞いた。

 

「ネルガルの方針には従おう‥‥」

 

瓢提督もプロスペクターの方に賛同する様子だった。

そこにイネスより遅れてアキトがやって来た。

 

「あの‥俺、提督に聞きたいことがあるんですけど‥‥」

 

「ん?」

 

「なんだ?今頃ノコノコやって来て」

 

ゴートは遅れてきたアキトを注意するがアキトはそんなことお構いなしに険しい顔をしながら瓢提督に詰め寄った。

 

「提督‥‥第一次火星会戦の指揮を執っていたって本当ですか?」

 

「まぁまぁ、昔話はまた後程で‥‥」

 

プロスペクターがその話を打ち切ろうとしたが、アキトはそれを無視して瓢提督に真相を問う。

 

「瓢提督があの会戦の指揮を執っていたなんて有名だよ?どうしたの?アキト」

 

ユリカは『今更何を当たり前なことを聞いているのか?』といった表情で首を傾げていた。

イネス、ユリカの言葉を聞いてアキトはやはり、あの戦いで瓢が指揮を執っていたのだと確信した。

 

「そう‥‥初戦でチューリップを落とした英雄‥‥でも、それは地球での話だ!!あの日、火星のコロニーが1つ消滅した‥‥」

 

アキトの脳裏にまたあの日の地獄と化したシェルターの光景が浮かび上がってきた。

燃え盛る地下シェルター。

迫りくる木星兵器。

倒れている人々‥‥

そして、守れなかった少女の姿‥‥

それらの光景が一気にアキトの脳内にフラッシュバックされる。

気づけばアキトは、

 

「うわぁぁぁぁぁー!!」

 

声を張り上げ瓢提督の胸倉を掴み上げ、拳を振り上げるアキト。

 

「あんたがぁ!!あんたがぁ!!あんたがぁ!!」

 

アキトは目に涙を浮かべ怒りと悲しみに満ちた顔で、瓢提督に今まさに殴りかかろうとしたがコハクがアキトの腰周りに抱きつく。

 

「アキトさんダメ!!」

 

「放せ、コハクちゃん!! こいつの‥‥こいつのせいで火星は‥‥!!コロニーは‥‥!!俺の故郷は‥‥!!皆は‥‥!!」

 

ルリとほぼ変わらない体型の筈のコハクなのだが、力が物凄く強い為なのか、アキトはコハクを振りほどくことが出来ずにいる。

 

「嫌だ!!僕は復讐をさせる為にアキトさんに強くなってもらいたいんじゃない!いつか大切なモノを守るために‥守れる力をつける為に今まで教えてきたんだ!!復讐とか言っているアキトさんは大嫌いだ!!」

 

「っ!?」

 

怖い顔と大声で叫びながらコハクを振りほどこうとしているアキトにコハクも叫び返す。

コハクのその言葉を聞いてアキトは瓢提督の胸倉から手を離し、振り上げた拳をゆっくりと下ろす。

しかし、コハクはそのままアキトの腰に抱きつき、アキトの背中に顔を埋めながら言葉を続ける。

 

「提督だってきっと今も苦しんでいる筈なんだよ‥‥火星を守れず惨敗して、大勢の部下や仲間を失って、地球へ帰ってみれば勝手に英雄にされちゃって‥‥真実を語りたくても語れない‥‥アキトさん‥提督を許せとは言わない‥でも、提督の気持ちも少しは分かってあげて‥‥あの戦いで大切な人を失ったのはアキトさんだけじゃないんだよ‥‥」

 

アキトの行動を抵抗せずにいた瓢提督もコハクの言葉を聞いて僅かに目を見開いた。

瓢提督に対して暴行未遂をしたアキトは沙汰が下るまで自室で謹慎処分となった。

 

「チッ‥コハクちゃんに感謝するんだな‥‥」

 

「アキトさん‥‥」

 

ブリッジを後にするアキトは去り際に瓢提督にボソッと呟いてブリッジを後にする。そんなアキトの後姿を見て、コハクは寂しそうな顔をする。

そんなアキトとコハクのやり取りを見たパイロット3人娘達は、

 

「へぇ~やるじゃねぇか、アイツ」

 

「なかなかおいしいシチュエーションだったね」

 

何やら感心しているリョーコに囃したてるヒカル。

 

「早死にするタイプね」

 

「えぇ~でも、漫画のネタになりそうだったよ~。復讐に身を焦がす青年とそれを必死で止める美少女‥良いねぇ~良いねぇ~」

 

突っ込みを入れるイズミに漫画のネタが出来たと喜ぶヒカル。

 

「むぅ~」

 

一方でコハクとアキトのやり取りを見ていたユリカは、

 

(本当はあのポジションは私の位置なのに‥‥)

 

と、アキトを止めたコハクにまたもやヤキモチを焼いていた。

 

「いかなる理由があろうと艦隊司令たる提督にパイロットが手を挙げるなんて許される事じゃない!!これが軍なら軍法会議モノだ!!ユリカ、いや、艦長!!ここは厳重な処分を!!」

 

ジュンはアキトに対して厳罰を望むとユリカに意見具申する。

 

「しかし、ジュンさん。ナデシコはネルガルの民間船です。軍とは違います」

 

激昂するジュンをなだめようとするコハクだが、ジュンは耳を貸す気配は全くない。

 

「処分‥お仕置きだよね‥‥?アキトにお仕置き‥‥何がいいかなぁ~♪いやだ、ユリカ迷っちゃう~」

 

顔を赤らめ、身体をくねらせるユリカ。

一体何を考えているやら‥‥

 

「「バカ」」

 

そんなユリカを見て呆れる様に一言呟くオペレーター娘達だった。

 

「まぁ、その件も有りますが、まずはこちらを見てください。火星の極冠地域‥‥此処にも我が社の研究所がありまして、もしかすると相転移エンジンのスペアーもしくは修理パーツがあるかもしれません」

 

「提督」

 

「うむ、エステバリスで先行偵察を行う」

 

瓢提督がエステバリスによる先行偵察を決め、

 

「「「了解」」」

 

ナデシコの行動が決まり皆配置に着くため移動を開始する。

そんな中ルリの隣に居たイネスが何やら呟いたのだが、その内容がルリの耳に入った。

 

「やっぱり彼、思った通りの行動にでたわね。ただあの娘の行動は意外だったけど‥‥」

 

「テンカワさんに何を吹き込んだんです?」

 

「彼にあの男(瓢提督)の事を教えただけよ。彼も知っておくべき事だと思ったし‥だからあの行動は彼の意志よ。それにしてもタケミナカタ・コハク‥‥やはり、あの娘は興味深いわ。常人より素早い瞬発力と反射神経‥それにアキト君があれだけ振りほどこうとしてもビクともしなかった‥‥一度念入りに彼女の身体を調べてみたいわね」

 

怪しい笑みを浮かべるイネス。

 

(マッドサイエンティストって奴ですか?それでも、コハクは渡しません)

 

心の中でイネスに敵愾心と警戒心を抱くルリであった。

 

 

~火星 極冠地方の平原~

 

火星の極冠平原では雪煙をあげて、パイロット3人娘たちがエステバリスで先行偵察を行っていた。

 

「チッ、トロトロ走りやがって、どうもこの砲戦フレームってのは苦手なんだよな。いいなぁ~お前達はいいなぁ~」

 

リョーコは重武装タイプの砲戦フレームでイズミとヒカルの2人は陸戦型エステバリスに乗っている。ちなみにフレーム選択はじゃんけんできめたらしい。

攻撃力は陸戦型エステバリスに比べると勝るがその分、重量が重すぎて機動性が犠牲になる砲戦フレームになったことを愚痴るリョーコ。

 

「‥で、その研究所ってのは何処にあるんだよ?」

 

リョーコが先を走っている2人に聞くが、

 

「さっきから地図と照合しているけど研究所なんて極冠にはないよ?」

 

未だ目的の研究所はセンサーに引っかからない。

その時、

 

「静かに!何かいる!?」

 

イズミが僅かなセンサーの乱れを感知した。

 

「だから~、いきなりシリアス・イズミにチェンジしないで‥‥キャアッ!」

 

突然ヒカル機の足元が爆発する。

 

「なんだ!?イズミ、敵はどこだ!?」

 

「わからない。見えている範囲に敵はいない」

 

ヒカル機の傍に駆け寄り、警戒するイズミ機。しかし、その足元が再び爆発する。

地中から飛び出してきたのは木星の虫型機動兵器『オケラ』。

そしてそのオケラに体当たりされて、転倒するイズミ機、するとオケラは再び地中に潜り、今度は真っ直ぐにリョーコ機へ向かう。

 

「リョーコ、ごめん!そっちに行った!」

 

「っ!?」

 

リョーコの反応が一瞬遅れ、足元の氷が砕ける。砕けた氷に足元を取られ、リョーコ機が転倒する。オケラはリョ―コ機の上にのしかかると口部からドリルを出し、コクピットに近づける。

 

「ああ‥‥!」

 

リョーコの表情が恐怖に歪む。

 

「お、おい‥待てよ‥‥ヤダ‥‥ヤダよっ!イズミっ!ヒカルっ!‥‥テンカワっ~!」

 

しかし、オケラのドリルはリョーコ機のコックピットを貫くことはなく体制を立て直したイズミ機がオケラに体当たりし、リョーコ機からオケラを引き剥がす。

オケラは今度、高くジャンプし上方から襲い掛かってきたが、イズミとヒカルがライフルで援護射撃して足を撃ち抜き、最後はリョーコのレールカノンでその体を貫かれ、爆発した。

 

「サンキュー、ヒカル、イズミ」

 

リョーコが安堵の溜め息を吐く。

 

「何奢ってくれる?」

 

ニヤリと笑顔を浮かべるイズミとヒカル。

 

「ち、違うよ!バカ! あれはもう1人いたらフォーメーションがだなぁ‥‥」

 

顔を真っ赤にして言い訳するリョーコ。

 

「「ほほぉ~」」

 

「な、何だよ?その顔は?」

 

「「テンカワ~!」」

 

イズミとヒカルが先程のリョーコの台詞の声真似をする。

 

「分かった!分かったよ!奢る、奢るよ!」

 

リョーコの叫び声が火星の極冠平原に響いた。

 

「私、プリンアラモード!」

 

「玄米茶セットよろしく」

 

後日、リョーコの財布が少し軽くなったとか‥‥

 

 

 

・・・・続く


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