ボクのモンハン見聞録!〜ただそれだけの、物語〜   作:リア充撲滅委員会北関東支部筆頭書記官

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人間転生や、非最強系主人公の作品が増えてくれることを、切に願う。
でも星焔竜は好き。




第6話、森丘のデンジャラスレディー!part1

エリア4を抜けた。

エリア3は「森丘」の中でも最も多い四つのエリアと隣接しているフィールドで、その関係上多くのモンスターが現れやすい。

 

当然細心の注意を払って歩みを進める。

 

 

ここでボクは選択を迫られる。

即ち、サシミウオの漁れるエリア11に繋がるエリア10方面に行くか、ベースキャンプに繋がるエリア2方面に行くか、という選択である。

 

………よく考えたらベースキャンプでも魚は漁れるよな。

 

しかし、距離的にどちらが近いかといえば、当然エリア11の方が近い。それに、ベースキャンプに向かうために通るエリア3もエリア2も大型モンスターがよく出現する比較的危険な地である。しかも隠れる場所が少ないため、極力そっち方面には行きたく無いというのが正直なところだ。

 

ただ、ベースキャンプに帰る道は一つではない。エリア9を通ってエリア8、エリア1と、大型モンスターが出現しにくいエリアだけを通ってベースキャンプに向かうこともできなくはない。

 

……どうするべきか。

 

 

ローブを羽織り直しながら思案する。

……そう言えばこのローブも不思議だ。アオキノコに変身した時は何故かボクの体と一緒に消えている。ひょっとしてこれもボクの身体の一部として扱われているんだろうか?

まあ、今はそんなことはどうでもいい。

 

ボクの空腹もそろそろ限界だ。

道中アオキノコと、薬草らしき草(苦かった。不味かった。)を食べながら飢えを凌いでいたけど、やっぱりタンパク質を摂りたい!いや、そんな選り好みはしないから、腹に溜まるものを食べたい!

と、思ってしまうのだ。

 

 

……空腹から始まる物語……か。

懐かしいワードが思い出されるなぁ。なんだったっけ?ココット村の村長のセリフ……

確か……そう、ハラヘットンナ。

 

「……アウィラ・タゴノ・モゥラミジャ・ハラヘットンナ。」

 

 

【ザザ(ザザザザ)…◼️◼️…(ザザ)……ザザザ……ピー………◼️◼️◼️を…(インストール)…しました。】

 

 

懐かしさのあまり、モンハン界で有名なあのフレーズを呟いたその瞬間、頭の中に何か機械音声のような音が聞こえた気がした。

でも、あまりに不鮮明で小さかったから、多分気のせいだと思う。

 

自分が置かれたあまりに異常な状況に、とうとう幻聴が聞こえるようになった?

……悲しき哉。あり得ないとは言えない…。

…まあいいか。

 

 

 

 

さて、考えていても仕方がないから、取り敢えず周囲の状況を確認して……、

 

 

……っ!!

 

 

その竜の存在に気付いた瞬間、ボクはすぐに岩陰に身を隠し、息を殺して気配を消した。なんかココ数時間で物凄く気配を消すのを上手くなった気がするけど……気のせいだよね!うん!

 

岩陰から顔だけを出し、その姿を確認する。

 

リオレウスよりもさらに一回りほど大きな巨体と、周囲の環境に溶け込む深い緑色の甲殻。

尻尾と背中には棘が生えており、姿こそリオレウスに似ているものの、彼よりも更に全体的に重々しく、そして刺々しい印象を受ける。

 

それは、空の王者、リオレウスと対を成す存在。

あらゆるハンターに、高く分厚い壁として立ちはだかる、上位存在。

 

その名も……

 

 

陸の女王、雌火竜リオレイア…

 

 

「レイア女史」として、ようやく自信を付けてきた多くのハンターの鼻っ柱を全身全霊で粉砕してきた、悪夢の飛竜……。

それが今、ボクの前に、顕現せし悪夢として、立ちはだかった。

 

 

 

幸いなことに、リオレイアの方は岩陰から覗いているこちらには気付いていない。

リオレイアの現在地はエリア3の中でも比較的エリア2に近い場所だ。対してボクの現在地はエリア4から出たばかりの地点となっている。まだ見つかるほど接近はしていない。

 

 

そして、その瞬間に、先ほど悩んでいた二択は解決する。

 

やっぱりエリア2からベースキャンプに向かうルートは無しだ。リオレイアの目の前を通ることになる。

 

 

となると向かう先はエリア9か10となる。

悩んでいる暇は無い。こうしているうちにもリオレイアが気まぐれを起こしてこちらに向かってくるかも知れないのだから。

 

 

よし、エリア10へ向かおう。

 

 

そう決心したボクは、岩陰から立ち上がり、エリア10に向けて、リオレイアに自分の存在を気付かれないよう出来る限り気配を殺して歩きだした。

リオレイアがこちらを向いていない時を見計らって一気に駆け抜けるべきだろう。

 

まだ。まだだ。

まだほんの片隅とはいえリオレイアの視界に入っている。飛竜は……否、肉食動物は動くものに敏感だ。この状態で走り出したら間違えなく確実に発見され、標的にされるだろう。

 

 

リオレイアがボクに対して横を向けた。

そのおかげで、リオレイアの頭から尻尾までの全貌が露わになる。

 

ボクとリオレイアの距離はかなり離れている。だがしかし、その巨体から醸される迫力は距離など関係ないと言わんばかりにこの身に襲いかかってくる。

 

息を飲む。

 

……やはり、デカイ。

 

もう彼女の視界にボクの存在は入らないだろうが、それでもまだ保険をかけておきたい。できれば背を向けてくれるまでは待ちたい。

 

 

 

……そして、とうとうリオレイアが、ボクに背を向けた。

 

 

今っ!

 

その一瞬の隙を見計らい、エリア10までの道のりを全速力で一気に駆け抜ける。エリア3にポツンと立っている木の横を駆け抜け、エリア10への道へと一気に突き進む。

 

…ふっ、「森丘」エリア5に比べればだいぶイージーモードだ。

 

 

走り出し、タイミング、全てが完璧だった。

 

……ただ、その慢心が、致命的なミスを生んだ。

もう少し足元に注意していれば、起こらなかったであろうミス。

 

 

 

ボクの目の前で、地面が突如として盛り上がる。

全速力で走っていたボクは、あまりに唐突かつ予想外の事態に、対応しきることができなかった。

 

結果、ボクは盛り上がった地面に足を取られ、前のめりに転倒した。

 

 

 

……ドサッ!!

 

 

「うっ!?」

 

 

全速力で走っていたために、それだけの力で地面へとダイブする事になったボクは、思わず苦悶の声を上げてしまった。

そしてそれは、女王に、ボクの存在を知らせるには、十分すぎる音だったのだ…。

 

 

口に入った土をペッと吐き出し、痛む身体に鞭打って無理やりに起き上がる。転倒の衝撃で肺の空気を急激に押し出された影響なのか息が整わず、フラフラと倒れこみそうになるのを必死で抑え、立ち上がった。

 

しかしそれでもやはり膝に衝撃が残っていたのか、ガクリとバランスを崩してしまい、今度は抑えきれずに地面に膝をついた。

 

 

 

……その直後、ボクの頭上スレスレを紅蓮の火球が高速で通過した。

 

 

高温が頭上を炙り、髪を僅かに焦がす。

 

火球が通り過ぎたのだから熱い筈なのに、背筋は凍るように冷たく、流れる汗は冷や汗ばかりだった。

 

ボクの頭上を通り過ぎた火球は、そのままボクの目の前で爆ぜ、草木を焼き尽くした。

……あのまま立っていたら、あのように焦げていたのはボク自身だった事だろう……。それを想像すると武者震いでもなんでもない純粋な恐怖による震えが込み上げ、膝がいっそ面白いくらいに笑った。

 

ギギギギギ……と、まるで油が切れたブリキ人形のようにゆっくりと後ろを振り返る。

すぐ目の前には、全身に付いた土を振り落とすブルファンゴ。こいつがどうやらボクが躓いた原因らしい。

そして、その遥か向こう側には……

 

 

口元から煙を上げながら、橙色の双眸でじっとこちらを睨み付ける、陸の女王がいた。

 

 

 

「グギャオォォォォォォァァァァッ!!!!」

 

咆哮が、「森丘」に木霊した。

リオレイアとボクとの距離はかなり開いている。開いている筈なのに、その轟音はボクの鼓膜を激しく震わせ、音というよりは衝撃波としてボクの体を穿つ。

 

目の前にいたブルファンゴも、地中から飛び出した瞬間にリオレイアの怒気に晒され、逃げるように何処かへ走り去っていった。

 

しかし、ボクは未だリオレイアの咆哮の影響を受け、その場から動くことが出来ないでいた。

そして女王は、その隙を逃しはしない。

 

 

緑色の巨躯が新緑の大地を猛然と駆け抜け、リオレウスをも上回る速度で迫り来る。

リオレウスの異名は「陸の女王」。その名の通り、地上戦に特化している。中でも突進は一番の脅威として知られており、数多のハンターを屠ってきたその威力は、凶悪としかいいようがない。

 

それにリオレイアの体重はリオレウスよりもかなり重い。さらに、地上に於ける足の速さもリオレウスより優れており、こと突進の威力に関しては、対となるリオレウスよりも遥かに格上。

一部のハンターからは、リオレウスよりも強いとさえ言われる。それが「陸の女王」リオレイアだ。

 

 

リオレウスの風格が空を舞ってこそ発揮されるのであれば、リオレイアの風格が発揮されるのはその両の足を地につけた時。

 

緑色の甲殻は、自然に紛れるためのものではない。

それは、自らが自然と一体化し、自らの領域として大地を支配するための色なのだ。

そう、ここは、既に女王の支配領域ということである。

 

 

咆哮の拘束が解けてなお、ボクは動けなかった。

雌火竜の、その圧倒的風格に飲まれて……。

 

 

結局、ボクがようやく動けるようになった頃には、両者の距離は10メートルを切っていた。

10メートル。エリア5ではあれほど長く感じられた距離も、今は信じられないくらい短い。

 

 

キノコに変身しても無駄だ。それこそリオレイアに踏み潰されて終わるだけだろう。

ボクはただ我武者羅に、必死に、横へと跳んだ。

 

 

リオレイアの足がすぐ後ろを通過する。翼は頭上スレスレを通り、それらに追従するように通過した尻尾が、僅かにボクを掠める。

 

そう、それは、ただ僅かに掠めただけであった。

リオレイアが意図したわけではない、事故のような一撃だった。

 

それでも、その衝撃にボクの体は易々と吹き飛ばされ、緑の地面をゴロゴロと転がる。

 

 

視界が真っ赤に染まる。

呼吸がうまくいかない。

全身を鈍痛が襲いくる。

視界が定まらない。

 

 

足を止めた女王は、そんな様子を、観察するように見ていた。

或いは、脆弱な敵を、見定め、甚振るかのように……。

 

 

 

痛い。苦しい。何故上手くいかない。納得できない。死にたくない。

 

 

……でも。

 

 

 

 

でも、時間は、巻き戻らない。

 

……笑う。

 

 

リオレイア、この程度じゃボクは、泣かないんだよ?

 


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