ボクのモンハン見聞録!〜ただそれだけの、物語〜 作:リア充撲滅委員会北関東支部筆頭書記官
あえてもう一度言おう。グロ注意。
………ポキッ
…乾いた音と共に、目が覚めた。
そこは、先程となんら変わりのない「森丘」のエリア5。その中腹部だった。
……そう、先程と変わりがない……ランポスの死体もなく、リオレウスも眠ったままの洞窟である。
ボクにもリオレウスに齧られたような跡は無く、完全に先程と同じ無傷な状態であった。
グゴッ……
グゴゴゴゴォォ………
ゆっくりと足を上げる。
そこには、先程ボクが折った小さな骨のかけらとまるで同じ物が、
それに、日の傾きが僅かに戻った。
それはつまり、時間が逆行した可能性が高いということだ。
一日近く経ったという見解も出来なくはないが、一日中ずっとこの場所にいて死なないなんて時間が戻るよりもっとあり得ないというのが、ボクの正直な気持ちだった。既に「転生」という非現実的な体験をしていることだし。
この現象は……?
自分は確かに先程、リオレウスの牙にかかって死んだはずであり、そもそも今こうして立っていることがおかしい。
いや、正確にはリオレウスの牙はまだボクに致命傷を齎していた訳ではないけど……あの状況から助かることはまずないと思う。
もし仮にボクが本当に死んだのならば、こうして今立っているボクは一体何者なのだろう……?
そもそも本当に死んだのだろうか……?
視界が暗転する直前に、少し声が聞こえた気がする。確か「涙」とかなんとか。澄んだ良い声だったのは確かだ。
ならばこれは、転生特典の能力の一つ?
もしこの現象が転生特典によるものだと仮定すると、実を言うとこの場合、この状況では二つのタイプの能力が考えられる。
一つは文字通り「時間を逆行する能力」。
ただし発動条件が死ぬほど(物理)難しいタイプだ。少なくとも任意発動は出来ない。聞こえた声から考えると条件は「涙」?
もう一つは「最悪の未来を想定する能力」。
つまり、先程までのリオレウスに喰われるまでの一連の流れは、言うなれば「予知夢」のようなものであるというものだ。
どちらにせよ有用ではあるが、ロクな能力では無い。
控えめに言って胸糞系だ。
しかし、この状況において、ある程度未来のことを予測できるというのは、大きなアドバンテージになり得る。そう考えればありがたい能力でもある。
さて、いつまでも呑気にこうして考えているわけにはいかない。早く行動を起こさなければさっきの二の舞だ。
……ちょっと待て。なんで今ボクはこんなに冷静な思考が出来ている?死ぬほどの痛みに、死ぬほどの恐怖に晒されたはずなのに、何故こんなにも精神状態が正常なんだ?
いや、今考えるべきところはそこじゃ無いよな。
歩みを進めながらも、対策を練る。
まずはここから起こる未来の整理だ。
残り30メートルとなった時点で、ランポス達が入ってくる。これは恐らく変えられない未来。
そしてランポス達はボクを見つけたら間違えなく襲ってくるだろう。これもたぶん変えられない未来。
そして、応戦した結果、リオレウスが目覚めてしまう。なんでこんなに寝付きが悪いのかはわからないが、これも変えられない未来だろう。
……どうするんだこれ?
多少歩みを早めてもランポス達に近付くだけ、今から全力で走ると例えギリギリでリオレウスから逃れたとしてもランポス達に真正面からかち合うことになる。
本当は誰にも気付かれることなく進みたいのだが、どうやらそれは無理そうだと思う。
どうせ気付かれてしまうのならば、恐らく脱出のための理想形はこうだ。
リオレウスにランポス三匹を殲滅させる。
ランポス達がリオレウスを引きつけている間にボクが洞窟外に脱出する。
言うは易し行うはなんとやらだね。
出来れば一発で決めたいが、状況整理に時間を食ってしまった。
しかし、だからと言って焦って失敗するわけにはいかない。
もしこの能力が「最悪の未来を想定する」という能力の場合、恐らくやり直しは効かないし、「時間を逆行する」という能力であっても、回数制限や発動条件があるかも知れない。
それに、人生普通死ぬのは一度っきりで十分すぎる。
二度と死んでやるものか。
…………ジャリ
残り30メートルの地点で、足音が鳴った。ランポス達が来たようだ。
ランポスが襲いかかって来るよりも前に、ボクが逆にランポスに襲いかかる。想定外の存在から想定外の奇襲を受けた戦闘のランポスは、対応が遅れてボクの回し蹴りをもろに喰らい、「ギャアッ!?」と悲鳴を上げながら大きく仰け反った。
だが、ランポス達の対応力の高いこと。後ろの二匹が即座にボクを敵と判断し、一匹は正面から、もう一匹は後ろに回り込んで襲いかかって来た。
そのパターンはもう見た。
ボクは頬に鉤爪を掠らせ、血を流しながらも正面のランポスの懐に回り込んだ。そして、首根っこと腕を掴み、脇に肘を差し込み、足を払って腰に乗せ、背負い投げの要領で背後から奇襲しようと迫っていたランポスに正面のランポスを投げ落とす。
二匹のランポスが絡み合い、上手く起き上がることが出来ない。
ボクはその隙に洞窟の外へ出ようと走り出す。
………が、急ブレーキをかけて踏み止まった。
ドォォオオンッ!!
目の前で赤き火球が爆ぜる。
爆炎が肌の表面をチリチリと焼き、熱風が頬を撫でた。
あと数歩前に出ていたら、或いは、あのまま走っていたら、ボクは炎に包まれて上手に焼けました〜♪になっていたことだろう。
そう考えると頬を冷や汗が伝い、背筋に悪寒が駆け抜ける。
まだ、地面についた火は消えていない。
だが、ボクは敢えてここを渡る。
そりゃあ大層熱いだろうが、入った途端即死するような高温の炎では無い。それはあくまで火球の本体のことであって、この残り火にはそこまでの熱量はない。
そして、生物は本能的に火を恐れる。つまりこの火を越えれば、少なくともランポスは追ってこないのだ。
思考は一瞬。ボクは燃え盛る炎を飛び越えた。
全身を熱が包み込み、至る所から危険信号が痛みという形で脳を激しく刺激する。目は開けてられないし、息を吸うなんて以ての外だ。
だが、そんな苦痛も長くは続かなかった。
すぐに火を抜けたボクは、そのまま一目散に洞窟の外目掛けて駆ける。リオレウスは、殺さないでおいたランポス達を仕留めているため、その脅威はボクには届かない。
全身が痛む。
筋肉が悲鳴を上げる。
それでも、ボクは、ここから出なくてはならない。
人がせいぜい二三人通れるかどうかという狭い隙間に、飛び込んだ。
日の光が差した。
「森丘」エリア4。
少々の段差はあるものの基本的には平和で安全な広場。
空は見事な快晴で、雲一つない晴空の中に、太陽が燦々と輝いていた。
ランポスはリオレウスの手によって全滅。そして、リオレウスは巨大なので空を飛ばなければ外へは出られない。流石にそこまでしてボク如きを追って来るほどリオレウスも暇では無いだろう。
こうしてボクは、ようやく数多のハンターの心にトラウマを刻み込んだ地獄のエリア、エリア5からの脱出をはたし………、
グシャッ!!
身体に、鈍い衝撃が走った。
前から蹴られ、背中から僅かしか草の生えていない岩の地面の上に倒れこむ。それによって肺の空気が無理やり押し出され、苦痛に噎せ返った。
ボクの体が、何者かによって押し倒される。
いや、何者か、などでは無い。青と黒の縞模様、真紅の鋭い鉤爪、ランポスよりもさらに二回り程大きい体躯、頭頂に誇る尖った真紅の鶏冠。
それは、忘れるはずもない。ランポスの主。
全長にして7メートルを超え、大きいものでは10メートルもの巨体を誇る、青き狩人。
その名は、ドスランポス。
ドスランポスが、ボクに向けて口を開いた。
ボクはドスランポスを退かそうともがくが、少し暴れるたびにドスランポスの足の爪が腹に食い込み、激痛によって思うように動くことが出来ない。
ドスランポスの口が、すぐ目の前に迫っている。
それが異様にゆっくりと感じるのは、ボクに死が迫っているからなのか、それとも本当にゆっくりなのか……。
わからない。
ただ、ドスランポスの牙が、ボクの体に食い込んだ。
ドクン…ドクン…ドクン…ドクン
鼓動を刻むかのように、痛みが波状になって押し寄せる。
喉の奥が血で満たされ、噎せ返って口から血を吐き出す。呼吸がままならない。
視界が真っ赤に染まり、声にならない絶叫を上げる。
肉がすり潰されるような、生理的嫌悪感を誘う音と共に、薄い皮膚にドスランポスの爪が突き刺さり、腹が切り裂かれ、臓物を引きずり出され、ボクは着々と死に近付いていった。
早く……戻れ!早く!時間よ!……戻れ………早く……戻って…くれ……痛い……い…たい………こ…わ…い………
もはや僅かな望みに、苦痛からの解放に、縋るしか無かった。
思考はどんどんと、直接的な死への恐怖へと塗り替えられていく。
【「悔恨の涙」を発動します。……諦めないで、きっと貴方なら切り抜けられるわ。】
頭の中で、澄んだ声が響いた。
それは、一度目と同じ、綺麗な女性の声だった。
そして……
世界は、再び暗転した。
………ポキッ