ボクのモンハン見聞録!〜ただそれだけの、物語〜   作:リア充撲滅委員会北関東支部筆頭書記官

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第2話、最も長い通路!part2〜涙と回帰〜

 

やや薄暗い、無音の洞窟。

 

 

ボクの現在地は、エリア5に入ってから30メートルほど進んだところだ。

ここまでかかった時間は忘れた。一分かも知れないし、一時間かも知れない。時間感覚なんてとっくに吹っ飛んでる。

 

 

リオレウスはまだ眠っている……と、思われる。もしこれが演技ならボクはもう終わりだ。

でも、そうではないはずだ。リオレウスがここまで役者だとは思えない。ランポスを騙した時はイビキは出ていなかった。

つまり、逆説的にイビキをかいている今のリオレウスは本当に寝ていることになる。

 

確証がある訳ではないけど。それを言い出したら起きているという確証もまた無いのだから、考えていてもキリがない。

 

 

おっと、思考が逸れた。

集中集中。

 

 

また一歩、足を踏み出す。

その動作がひどく焦ったく……そして、静寂に包まれた洞窟の中ではその僅かな足音も、それどころか自分の呼吸の音も、鼓動でさえ煩く感じてしまう。

それは見つかったら終わりという、なんともわかりやすい「生命の危機」に直面したことによる緊張感のせいでもあった。

 

緊張によって鼓動が早まる。

 

その度に、心臓の音でこちらの居場所がバレてしまうのでは無いかとリオレウスの方を見つめた。

…リオレウスはイビキをかいて寝たままである。

当たり前だ、どこの世界に相手の心臓音で居場所を感知できるような奴がいるものか。

 

それは少し考えれば当然のことではあるが、極々僅かな音でさえ気になってしまうほど、ボクの精神は極限状態に追い詰められていた。

 

 

 

40メートル地点に到達。残り半分。

 

 

まだ半分しか進んでいないという事実に、物凄くため息を吐きたくなるが、ぐっと堪える。まだ命の危機は目の前だ。ため息なんかついたら何もかも終わりである。

 

 

それでも、人間の緊張感というものはそう長続きするものでは無く、呼吸を整えるためにも一旦足を止める。

…リオレウスはすぐ近くにいる。

 

イビキは先程よりより鮮明に、より大きく聞こえるようになり、グゴゴゴゴォォ…という重低音が響くと共に生暖かい風が頬を吹き抜ける。

 

 

………デカい。

 

ゲームで見ただけのリオレウスとは、その大きさが違って感じる。

画面越しと実際に目の前にいるのでは訳が違う。

 

圧倒的な大きさ然り、生命力溢れる全身然り、威圧感に満ちた雰囲気然り。どれもゲームでは感じられない、本当の「モンスター」の姿であった。

 

声を出さないように堪えながらも、口の中に満ちた唾をゆっくりと吞み下す。自分的にはその音さえも物凄く煩く感じたが、リオレウスは気に留めていないようだ。

 

 

 

……。

 

リオレウスの並々ならぬ存在感に圧倒され、思わず立ち止まって見入ってしまったが、今はそれどころでは無い。

 

しっかりと前を向き、生き残るために足を踏み出す。

 

 

 

……ポキッ

 

 

(っ!?)

 

 

何かが折れる音が洞窟の中に響いた瞬間、背筋を冷たいものが走るような感覚と共に、ヒュッ!と短く息を吸う。

悲鳴を上げたくなるのを必死で堪え、ガクガクと膝を笑わせながら、冷や汗を垂らしてリオレウスを振り返る。

 

 

グゴッ……

 

!!!!!

 

グゴゴゴゴォォ………

 

 

一瞬乱れはしたものの、すぐにさっきと同じ一定のテンポのイビキに戻った。良かった…、起こしてはいなかったらしい。

本当に心臓が止まるかと思ったが、心の底からホッとした。しかし、ため息を吐いたり気を抜いたりはしない。ここで奇跡的にバレなかったのに安心した結果ドジしてオジャンなんてゴメンだ。

 

大丈夫、見つかってない。見つかってない。

 

自分に言い聞かせてなんとか冷静さを取り戻し、気を取り直して前を向く。今度こそ失敗は許されない。

 

 

 

一歩一歩、慎重に。

 

…前世のことはまるで思い出せないが、これほど長く感じられる通路が今まであっただろうか?

無いといいなぁ。前世はモンスターもいないし戦争も起こらない平和な国にいたようだから…。絶対無いだろうけど。

 

あぁ、この状況を「超実感!臨死体験ツアー!!」として売り出せば儲かるかもしれないぞ(錯乱)

スリル満点のアトラクションだ。

ただし、ツアーの前には命を失っても訴えませんという証文にサインしてもらって、遺言書を整理してもらってからになりそうだけど。

 

 

気を紛らわせながら、また一歩足を踏み出す。

 

 

残りは30メートル。この距離なら本気で行けば5秒もかからずに走破出来るはずだ。

ただし、だからと言って走ったりはしない。リオレウスが目覚めればボクを殺すのに5秒必要としない。瞬殺されるだろう。少なくとも20メートル、出来れば10メートルまで距離を縮めておきたい。

 

 

そのためにも、確実に前へ……、

 

 

 

 

 

………ジャリ

 

 

…足音が鳴った。

それは小さな小さな音だったが、静謐が支配するこの空間において、その音はあまりにも大きく感じた。

 

ボクが立てた音では無い。流石にこんなすぐにそんな途轍もないヘマはしない。……と、言うことは…。

 

安全をとって足元へと向けていた視線を、ゆっくりと前に戻す。

 

 

…ランポス。

 

 

三匹のランポスが、飛竜の巣に足を踏み入れた。

エリア4に繋がる比較的小さな穴から入ってきたランポス達は、皆一様にボクの方に注目した。火竜しかいないはずの飛竜の巣に、何故か火竜以外の存在が、それも目の前にいるのだから当然である。

 

 

この時、ランポス達は腹を空かしていた。

それこそ命の危険を冒してまでリオレウスの食べ残しを奪おうとするほどまでに。

 

…そんなランポス達の目の前に、新鮮で、鱗も毛皮も無く食べやすい人間が現れたら、どうなるか…。

 

 

先頭のランポスが、ここが飛竜の巣であることも忘れてボクに襲いかかってくる。

 

ボクは素早く身を屈め、前転するように転がってランポスの足元を抜ける。するとすぐに二匹目のランポスが襲いかかってくるが、ボクは壁に向かって大きくジャンプすることでその凶爪を躱し、壁を強く蹴って方向転換すると、襲いかかってきた二匹目ランポスの首をロックして地面へとダイブ。その後頭部を盛大にクラッシュさせた。

 

その直後すぐに三匹目のランポスが大きな口を最大まで開いて噛み付こうとしてくるが、ボクは転がるように横に退避、すぐに立ち上がるとロンダートで半身を捻り、そのままの勢いでバク転して再度爪を振るおうとしたランポスの顎を思いっきり蹴り上げた。

 

バク転が終わるとすぐにランポス達に向き直り、三匹と相対する。

 

 

先程は相手も空腹で弱っていて判断力も鈍っていたし、一番先頭の奴の独断専行、何よりこちらを侮っていたのでなんとかなったが、ここからは本気の狩人としてのランポスだ。一匹相手でも分が悪い。

 

……というかボクってこんな動き出来たんだ…。これも転生特典の一つ?いや、転生者には基本として身体能力を向上させる何かがあるのかな?

場合によっては卵から生まれた瞬間からモンスターと戦ったりしてるし…。

 

 

まあ、そんなことはどうでもいいだろう。

 

 

ランポスが襲いかかってくる。その速度はさっきまでの比では無く、眼光も鋭く、一挙一動を逃すまいと言わんばかりにボクを睨みつけている。

完全に躱したつもりだったが、腕を切り裂かれる。痛みの警鐘が脳に響くと同時に、真っ赤な血が地面に垂れ落ち、染みを作った。

 

ボクが正面の一匹にきを取られている間に、他の二匹はそれぞれ後ろと横に回り込んでいたらしい。背中に鋭い衝撃が走るとともに、ボクの体は地面へと押し倒される。砂が口の中に入り、ジャリジャリと不快な音を立て頭蓋骨内に響かせるが、今は背中の痛みの方が上回っているので気にならない。

 

なんとかランポスを振い落したいが、背中に乗ったランポスはそれを許さない。他の二匹もボクを押さえ込もうと牙を剥いた。

しかし、その牙はボクには届かなかった。

 

 

 

ドドォォンッ!!

 

 

紅蓮が爆ぜた。

 

火が迸り、熱風と高熱がボクの体を撫で、ランポス三匹の巨躯が軽々と吹き飛ばされる。

 

おかげでボクは拘束から逃れることが出来たが、何一つ状況は改善していない。むしろ悪化しているとしか言いようが無い。

 

 

「グギャオォォォォォォッ!!!」

 

 

リオレウスの咆哮。

ゲームの中では「そのくらい無視して動けるだろ。」とか思っていた気がするが、アホだ。

 

無理に決まってるじゃないか。

耳を塞ごうとも三半規管に直接響く轟音によって、その場に膠着するどころか立っていることすら難しい。

 

 

火竜が目覚めてしまった。

さらに、エリア4への出口は不幸なことに燃え上がるランポスの死骸によって塞がれ、通れなくなっている。

 

逃れる術はなかった。

 

 

棒立ちになったボクに、リオレウスの口が開かれた。

 

ボクは逃げる間もなくリオレウスの顎によって食らい付かれ、全身に牙が食い込んで血を吹き出す。

痛み……というよりは、熱だ。

 

途轍もない熱がボクの体を、そして、意識を、蝕んだ。

 

 

熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いあついあついあついあついあついあついアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイアツイ!!!

 

クソがっ!やめろ!

ボクはボクはボクはボクハボクハボクハボクハ!!

 

 

こんなところで……終わりたく…ない。

 

 

ボクの頬を、一筋の涙が伝う。

それは、悲しみからか、怒りからか、後悔からか…或いは全てか。

 

 

 

【「処女(おとめ)の涙」より、「悔恨の涙」を発動。……大丈夫、きっと貴方なら切り抜けられるわ。】

 

そして、世界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

……ポキッ




ボク、死す。(嘘じゃないですごめんなさい)

最後の音、意味深。

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