ボクのモンハン見聞録!〜ただそれだけの、物語〜 作:リア充撲滅委員会北関東支部筆頭書記官
……ジャンルが違うけど。
でわどうぞ。
その、小さくて弱々しい息遣いを……しかしボクの耳は決して聞き逃すことは無かった。
蛍のように飛んできた火の粉が、ボクの右腕に生えているブルファンゴの毛に引火し、燃やした。炎が揺らめくと同時に灼熱が肌を焼き、激痛となって脳へと危険信号が送られる。
だが、そんな痛みを、ボクは故意に意識の外へと追い出し、火炎が頬を掠めるのも厭わず、瓦礫の中を一心不乱に探す。
空気が熱い。
滝のように湧き出る汗は、しかし瞬く間に蒸発させられていく。炎に熱されたこの場の気温は、気化熱によって下げられる温度を既に超えている。
酸素は枯渇し、体も思うようには動かない。
もって三分だろうか……。
この環境に於ける自分の活動可能時間を大まかに予測するが、それはあくまで今現在の環境が保たれることが前提であり、今なおその勢力を拡大していく炎を見れば、その時間はもっと短いであろうことは想像に難くなかった。
そんな短い時間の中で子アイルーを見つけ出し、瓦礫の中から救出して、炎に包まれた集落を脱出する方法を探る。
……正直言って無茶苦茶だ。そんなことは不可能である、と……普通ならそう思うのだろうけど。
ボクなら、出来るんじゃないか?
そう思えてしまう。
リオレウス、ランポス、ドスランポス……あの死の40メートルを乗り切ったボクならば……
危険のベクトルは違えど、危険度で言うならば同程度だ。なら、必ず脱する方法はある。
瓦礫の中を手探りで探しながら、ボクは同時にこの危機の攻略法を探す。
そんな思考は、しかし手から伝わった柔らかい感触によって中断された。柔らかい毛の感触……間違えない。
瞬間、ほぼ反射のように瓦礫を右腕で退かし、その小さな体を掘り起こした。
グッタリと動かず、所々血で汚れ、煤にまみれたその小さな体は、間違えなく子アイルーのそれであった。
…………っ!?
見つけた!
どうやら意識は失っているようだ。
しかし、僅かに感じる鼓動が、小さく上下する胸が、子アイルーが確かに生存していることを証明してくれる。
その時、ボクの心はある種の達成感に包まれるが、現状、まだ喜んでいる暇は一秒たりとも存在しない。火は既にすぐ目の前まで迫っているのだから。
素早く子アイルーを腕の中に抱え込み、顔を上げて周囲を見渡す。
……どれだけ目を凝らし、360度を見回そうとも、視界に入ってくるのは赤く逆巻く炎ばかりだ。激しい熱と光に、出口を探すことさえままならない。
……意識が保たない。
脱水か、酸欠か……どちらにせよ、限界は近かった。
判断している暇は無い。思考など無意味だ。
消防隊など存在しないし、助けなど望むべくも無い。
生き残る術は…………最も火が薄い場所を、強引に突っ切ること。
我ながら随分と適当で強引だと思う。
でも、それが現状のボクに思いつく最善だった。
そう思い、再び周囲を見回せば、確かに他の箇所より明らかに炎が薄い場所がある。まだ燃え広がりきって居ないのだろう。
……薄いとはいっても、そのフレイムはボクの胸くらいの高さがある。他の所は既に身長以上の炎が上がっているところを見れば、十分に薄いのだが。
コレに突っ込むのは相当の勇気を要するが……問題ない。それを勇気と言っていいのかわからないけど、どうせ何もしなくても火に包まれるのならば、このくらいの火で躊躇うことはないだろうと、そう判断したのた。
身を包むローブの中に、子アイルーを仕舞い込み、覚悟を決める。
どんな転生特典よりも、これまで決して揺るがなかったこのローブのことならば信頼できるとボクは思ったのだ。
……燃えてくれるなよっ!
炎目掛けて、走る。
–––––––……バキバキバリバリィィィッ!!
今にも炎の中に駆け出そうとしたボクの歩みは、しかしそんな音と共に遮られた。
熱風が爆ぜ、無数の火の粉が眼前で飛び散る。
高熱を孕んだ光球がボクの髪や肌を瞬く間に燃やしていくが、そんなことさえも意識の外へと追いやられていた。
数秒の停滞の後に、目の前で起こった事象を漸く脳が理解する。
ゴウゴウと燃え盛る木が、目の前に倒れかかったのだと。
もしボクの歩みがもう少しでも早ければ、その時点で木に押し倒され、死んでいただろう。
だが、今となってはどちらでもいい。何故って……
……唯一生きて抜けられそうな場所が、一握りの小さな希望が、たった今潰えたのだから。
ボク一人ならばこうなる前に抜け出せた筈だ。
子アイルーを助けようとしなければ、脱出は容易だった筈だ。
……愚かだった。
どうしようもないくらいに。
誰かを助ける?
自分の身さえも守れないような奴が?
何故ここまで来てそのような「傲慢」を抱けるのか、我がことながらその神経が理解出来ない。
他人に構うな。
【キミは自分が生き残る事だけを考えていればいいんだ。】
……そうだ。
生き残るために、他を犠牲とする。
それは何でも無い、生き物の本質そのものなのだから。
だから…………ボクは何も悪くない。
両腕に抱き抱えた子アイルーを、そっと灼熱の地面に置いた。
……それは、言ってしまえば無意味な行為だった。
今更助けるのをやめたところで、何も変わりはしない。状況は限りなく詰んでいる。
だけど、本質的には、ボクがこの地に置き去ったのは、子アイルーだけでは無いのだと思う。
『ボク』という人間性そのもの。
それを今、棄てたのだ。
生きる為に。
…………何故?
何故そうまでして、ボクは生きなくちゃいけないの?
……だけどそれは、そう簡単に棄てきることができるものでも、また無かったのだ。
何処からともなく溢れ出す涙が、視界を遮ってしまう。
生きるべきか、死ぬべきか。
相反する感情に、身体が引き裂かれそうだった。
「………にゃぁ。」
っ!?
灼熱の地獄の中、突然聞こえたその声に、ボクは後ろを振り返る。
子アイルーが意識を取り戻し、コッチを見ていた。
地獄の中でも変わらない、清らかな瞳で。
ねぇ……キミは一体、今なんて言ったのかな?
キミを置いて行こうとするボクに、どんな言葉を掛けたのかな?
そんな穏やかそうな声で、そんな優しい声で……
何でもっと感情的に、声を荒げてボクを罵倒しない。
何でもっと感情的に、生き、足掻こうと絶叫しない。
違う。
生き物はもっと醜くあるべきだ!
生き物はもっと生に執着しなければいけないはずだ!
ヤメロ、馬鹿馬鹿しい。
見ず知らずの怪しい人間を助けたり、あまつさえ貴重な食料を分け与えたり……一人なら助かるのに、他人を助けようとしたり。
……そんなこと、あってはならないんだっ!
だって………そうじゃないと。
……っなんでボクは、ここまで苦しんでいるんだよぉ。
なんのためにボクが、ここまで苦しんで来たんだよっ!
わかった。
否定してやるよ。
キミのその愚かしさを、ボクの愚かしさを、全部否定してやるっ!
全部否定して、ボクの生き方を肯定する。
だから生きろ!生き延びろ!……生き残させてみせる!!
業火が身を包んでいく。
自分の肉が焼ける匂いはこの上なく不快で、自分の肉が焼ける音はこの上なく醜く、自らの命が焼き尽くされる感覚はこの上なく苦痛で……でも、今は大して気にならない。
ボクの心の炎の方が、熱い。
涙が頬を伝う。
この灼熱の中では、本来瞬く間に蒸発してしまうはずのその一滴は、しかし地面に落ちるその瞬間まで、決して消えることは無かった。
これは、ボクの過去への悔恨であり、それと同時に、未来への誓いでもあった。
さぁ、時間よ、戻れ。
【「
登場人物紹介を挟もうか挟むまいか。悩み時ですね。
読者層が似ている作品が凄まじくカオスな事に気がついた今日この頃。