ボクのモンハン見聞録!〜ただそれだけの、物語〜   作:リア充撲滅委員会北関東支部筆頭書記官

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予定していた設定との齟齬が見られたため、前話における時間軸を変更しました。



第20話、アイルーの集落!part4〜赤き腕に抱かれて〜

 

少しダークな気分に染まりつつも、状況の整理を終わらせたその時、ボクの鼻腔を香ばしい匂いが刺激した。

少しの焦げ臭さ、脂の香り、言葉では表せない川の匂いが……その匂いの発生源を否が応にも教えてくれる。

……それは紛れもなく、焼き魚の匂いであった。

 

瞬間、別に自分が食べられると決まった訳でも無いのに、唾液腺からジワジワと涎が溢れ出て来る。

子アイルーに肉を焼いて食べさせて貰ってからそこまで時間が経ったということも無いのに、現金な腹はクキュゥ〜と空腹を主張した。

 

しかし、いくらなんでもここでそれを言うのは図々しいにも程があるというものだ。元々助けてもらった身、あまり迷惑をかけ過ぎるのも良く無い。

大丈夫、ボクは我慢の子。

 

と、そんなボクの決意とは裏腹に、焼き魚の香りは刻一刻と接近してくる。

日本人の性というか、やはりこの匂いは食欲をそそるものだ。しかし我慢。ここは我慢すべきところなのだ。

……お腹すいた(←軟弱精神)

 

 

ボクが一人葛藤していると、ボクが現在進行形で寝かせて貰っているベットがあるこのテントに、一つの影が入ってきた。

 

純白の毛に透き通った琥珀色の瞳の、野良にしては随分と毛並みが整ったアイルー。

普通のアイルーより一回りから二回りほど小さいその子の手に握られていたのは、その小さな体には少々不釣り合いなほど大きな魚。

もっと正確に言うのであれば、その大きな魚を、頭から尻尾の先まで一直線に突き刺している材質不明の串だ。

 

ボクに向けて差し出されたソレを受け取り、自分が食べていいのかとおそるおそる首を上げて視線で問うと、アイルーは小さく頷いてそれを肯定した。

 

 

……一瞬、背を向けて立ち去る子アイルーの背中に天使の翼を幻視したボクは悪く無いと思う。

 

 

改めて、受け取った魚を見つめる。

やや緑がかった黄色をした大きな鱗に覆われた、頭から尻尾まで約30センチはあろうかという巨大魚。

既に絶命し、こんがりと焼き上げられているというのに、なおも真昼の太陽の光を反射して美しい光沢を放っている。

心なしか上を向いた口には、鋭い牙が並んでおり、その魚が獰猛な肉食魚であったことを教えてくれる。

 

魚としてはやや横に厚く、長大な身体に対しては随分短いものの、非常に刺々しい尖形の尾鰭。背鰭はかなり後ろの方に生えており、半ば尾鰭と一体になっているようにも見える。

その中でも一際目を引くのは、地味な体色とは対照的に鮮やかなオレンジ色をした、尾鰭の先端と背鰭の先頭の棘条だろう。特に棘条は後ろに長く伸びており、刺されたらかなり痛そうだと言う程度には鋭利だ。

そして、やはり魚竜種だからだろうか。手の鰭はシーラカンスのように太く、あまり鰭らしさは無い。

 

……これ、ハレツアロワナだね。

 

 

ハレツアロワナと言えば、専らガンナーの徹甲榴弾等の弾丸の材料としてカラ骨やらに突っ込まれる可哀想な魚……いや、魚竜だ。

 

絶命時に破裂するという危険な特徴があり、取り扱いには注意が必要……と、言いたいところだけど、爆発させずに殺すことはそんなに難しいかと聞かれるとそうでも無いらしい。その方法の一つがこんがり焼いてしまうことみたいだ。

ちなみに、関連性はあまり無いけど、某モガの村のアイシャ嬢曰く、「ペットには向いていない」とのこと。

 

さて、そんなハレツアロワナ、お味の方はどうかと言えば、正直全くの未知数だ。

そもそもアロワナなんて食べたこと無いし、あるとしても覚えてないし、ましてや魚竜を食べたことなんてあるはずもない。

 

サシミウオの見た目はサケに近いらしいけど、やっぱりそちらはサーモンみたいな味がするのかな?

 

 

……と、そんなことを考えていたら折角の焼きたての魚が冷めてしまうね。

 

でわ頂きまーすっ!

 

 

 

…………鱗が頗る邪魔だね。

 

そんな感想が出てきたが、しかしボクは贅沢を言える立場では無いことも重々承知であるため、口には出さない。……出しても伝わらないだろうけど。

更に言えば、貴重な食料であるため、鱗どころか骨まで食い尽くすべきだと判断した。

 

ハレツアロワナの鱗に()を立て、少し固いその皮ごと強引に噛みちぎる。まず最も栄養が集中している内臓から貪ると、続いて堅牢な頭殻と鋭い牙によって守られた頭部を強引に噛み砕いて喰らう。

苦味が強いが、今はそれでさえ美味しく感じられた。

 

そうして残った胴体から尻尾にかけてを、口を目一杯に広げて丸ごと呑み喰らう。咥えた状態で首を擡げれば、巨大な魚はスルスルと胃に落ちていった。

その過程で口の周りに付いた油をペロリと舐めとると、ボクは漸く一息吐く。

 

 

食べ始めてから約1分。ボクの手元には串だけが残っていた。

 

 

……1分?

え?ボクたった1分であの量を食べ終わったの?というかあのサイズ胃の中に収まりきったの?

……一心不乱に食べてたけど、改めて思い出すと凄まじくモンスターっぽい食べ方をしていたような……。気のせいであって欲しい。

 

しかも驚くべきことに、あれほど大きな魚を食べたというのに、まるで腹が膨れていない。

それどころか、まだまだ余裕がありそうでさえあった。

 

そういえば、ブルファンゴの死体を喰らってからそこまで時間が経った訳でも無いのに、ボクはこんがり肉に対して腹を鳴らしていた気がする……。

 

……え?ひょっとしてボクって物理法則を超越した食いしん坊キャラ?

 

 

まさかのここに来て、自分の以外過ぎる一面に逢着した。いや、その設定要らねぇ……って、別にボクは誰かに設定されたキャラクターって訳じゃ無いんだけど……でもそう思ってしまっても無理は無いと思う。本当に要らないです、その設定。

 

まあ、腹は膨れないけど、ずっと飢餓感に苛まれているという訳では無いから、食える時に食い溜め出来ると考えれば有難い限りではあるんだけど……。

 

 

串に付着した油を舐め取りながら、取り留めのない事を考える。

 

 

 

……そういえば、さっきから一つだけ気になっていた事があった。

それは単純な疑問。何故、このアイルー達は、見ず知らずのボクに優しくしてくれるのか。

 

だっておかしいでは無いか。

外では大型の飛竜達がうろつき、歩くだけでも死のリスクが付き纏う。そんな状況であれば当然食料を採取できる範囲は減り、危険を避けるためには備蓄の食料を少しずつ切り崩して集落内に籠城し、災いが過ぎ去るのをじっと待つのが正しい行動なはずだ。

しかし、飛竜達が果たしていつこの森丘を離れるのかなんて事は、完全なる不確定事項であり、万が一籠城が長引けば、最悪備蓄の食料だって底をつくかもしれない。

そんなリスクを避けるためには……口は出来るだけ少ない方がいいはずだ。

 

ましてや余所者を増やすなんて正気の沙汰とは思えない。

 

しかし、騙されていると考えるには、その理由が無い。

現状、アイルー達が無一文無情報無力の三拍子が揃ったボクを騙したところで、何の得も無いのだから……。

 

 

何がおかしい?

何が間違っている?

 

 

……ダメだ、わからない。

せめて言葉が通じれば、何か糸口を掴めたかも知れないのに。

 

…………。

 

 

「……ッゴホッ!ゲホッ!?」

 

錯綜する思考は、激しい咳き込みによって強制的に中断される。

 

……そういえば、さっきから妙に煙い。

アイルー達が何かを燃やしているのだろうか?

 

 

ボクのそんな推察とは裏腹に、煙は次第にその姿を明確にさせていき、より濃く、より大きく広がっていった。

何か燃えているんじゃ無いか!?

 

ボクは慌てて口元を万能ローブで覆い、身体を無理矢理に動かしてベットから立ち上がる。

瞬間、節々に焼けた鉄串を刺されたかのような激痛が走るが、既にボクにはそれを気にするほどの精神的余裕が残されていなかった。

 

気温は加速度的に上がっていく。それに伴ってボクの額には玉のような汗が無数に浮かび、地面に滴り落ちては小さなシミを作った。

 

 

 

テントから飛び出し、視界が開けたその瞬間、その光景はボクの目の中に飛び込んで来た。

 

 

………………火。

 

 

赤く渦巻き、まるでそれが怒りの象徴であるかのように盛る炎。

何かが崩れ去ると共に、黄色く輝く火の粉が、さながら無数の蛍の群れのように美しく舞った。

距離は離れているというのに、灼熱がボクの頬を掠める。

それだけで、あの炎本体がどれだけの熱量を持っているかなど想像に難く無い。

 

 

 

 

「逃げなくては。」

 

 

本能はそうボクに語りかけてくる。

だが、同時にこうも思うのだ。

 

 

……何処へ?

 

 

既に四方は炎に取り囲まれている。

エリア11に繋がる出口には木の棒のような何かが倒れており、そこを進むには炎の上を通っていくことになる。

リオレウスの吐いた炎の残り火とは訳が違う。自然現象の炎は、そう簡単には超えられない。

 

どうすればいい。

考えろ、思考を止めるな。

 

どうすれば生き延びられる?

判断を迷ってはいけない。一瞬の思考停止が命取りだ。

 

 

 

 

–––––––––––にゃぁ……。

 

 

……っ!?

冷静さを取り戻そうとしていた思考は、しかしその一声によって打ち消された。

驚愕と焦燥が一気に湧き上がる。

……子アイルーの声……火に近い!?

 

そう考えた瞬間、不思議と身体が動いていた。

 

それは、この炎の中を生き延びるという目的を達成するためには、愚行としか言いようがない行いだった。

 

……そう、それは例えば、いつ飛竜に襲われるかわからないという危機的状況の中、しかしボクを助けてくれたアイルー達と同じように。

 

 

それは別に、ボクが死にたがりな訳でも、自己犠牲を顧みない正義漢だったわけでも、ましてや、恩返しだなんてそんなつもりでも無いのだろうと思う。

 

 

–––––––––ただ、後悔するだろうなと、思ったのだ。

 

たった一人逃げ伸びた後、焼け焦げた集落を見つめて……見つかるはずもない死骸を幻視して、後悔するのだろうと……

 

 

声は聞こえた。まだ生きてる。

方向は3時。距離は不明……瓦礫のようなものが積み重なっていて目視で確認は出来ない。

 

火はすぐそこだ。瓦礫には燃えやすいものばかり……闇雲に探しても間に合わない。

聴覚を研ぎ澄ませ。最大限に……どんな小さな音も聞き逃さない。

 

 

 

 

 

パチパチ……ゴォォォォォォォォ…………

バリバリバリィ………ズゥゥゥウウン…………

グルァァァァァアアア…………

 

 

(………ヒュー……)(……ヒュー………)

 

 

 

…………聞こえた。





大変申し訳ありませんが、残酷な描写lv3の作品「我らが女王に、跪け」は原作および原作者の消失に伴い、更新を停止とさせていただきます。
お読みくださった方々には、深くお詫びと感謝の気持ちをあらわさせていただきます。

残酷な描写lv4である当作は変わらず続けますので、引き続きご愛読いただけると幸いです。

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