ボクのモンハン見聞録!〜ただそれだけの、物語〜 作:リア充撲滅委員会北関東支部筆頭書記官
『矛盾』に光の罅が入った。
光無き世界で、その光はあまりにも眩しく、まるで界が真っ白に染まったかのように錯覚する。
ピキピキ…!
音無き世界に、音が生まれた。それは静謐の支配するこの世界ではあまりにも煩く、まるで耳元で鳴っているかのように錯覚する。
バキィィィイインッ!!!
『矛盾』が崩れ落ちる。
光と音、匂い、風。あらゆる情報が、一気にこの身に襲いかかり、騒がしく包み込んだ。
それはまるで、ボクの帰還を、祝福しているようだった。
目の前に広がるのは、さっきとなんら変わらない、「森丘」エリア11。少し先ではブルファンゴが地面に足を擦り付け、今にも突進せんと力を溜めていた。
状況は相変わらず悪い。
でも、何故だろう。
今迄頭にかかっていた霧が全て晴れたかのように、不気味な程に思考がハッキリとしている。
あらゆる感覚が研ぎ澄まされ、それでいて雑音は一切無く。
まるでこの空間における全てのものを把握したような、不思議な全能感があった。
さっきまでのボクは、この程度の状況を、「詰み」と言っていたのだろうか?
だとしたら、随分と愚かな話だ。
どうやら、自分の意識外で右腕が取られたことが相当ショックだったらしいが、むしろ
「「
今のブルファンゴなど、相手の頭に触れながら「
何せ、千切られた右腕が、奴の頭に触れているのだから。
《動くな。》
その瞬間、ブルファンゴはピタリと動きを止める。治ってきた頭痛が再び蘇ってくるが、触れながらの発動であり、さらに予め能力発動文言を言っておいたのでさらに副作用は減っている。
能力発動文言とは、ついさっき気が付いたシステムで、予め何を発動するか宣言すると、何故か副作用が小さくなるという不思議システムである。
ともあれ、これで時間が稼げるわけだ。
だが、今まで使った、「本人も望むことをやらせる」という使い方ではなく、「明らかに本人が不利になることをやらせる」ので、それだけ掌握時間は短い。
ブルファンゴを止めておけるのは現状3秒。重ねがけするごとにこれは短くなり、ブルファンゴも危機感を覚えるためその度に副作用は増していく。
だから、出来るだけ早く。
「「
現れた赤い壺の中に、血を垂れ流す右腕を突っ込んだ。今回は再生したり修復したりするのではない。完全に新たな部品を膝先にくっつけるのだ。
肉面を晒す右腕と……ランゴスタの腹部の先端を、融合させる。
またあの自分の体が自分で無くなるような不安感に襲われるが、それでも気にせず作業を進める。
そして、融合にかかった時間、3秒。
赤い壺から腕を引き抜くと、膝の先には節状の甲殻と、鋭い麻痺針がくっついていた。それはまるでランゴスタの腹部を膝の先に直接くっ付けたかのようである。
《動くな。》
能力から解放され、動き出そうとしていたブルファンゴが、ボクの「
今度はさっきよりも頭痛が酷く、そしてブルファンゴからの抵抗も大きい。
時間はあまり無い。フラフラと立ち上がり、ブルファンゴに向けて歩く。幸いだったのは『矛盾』の世界で休ませてくれたお陰なのかはよくわからないが、副作用と疲労が少し楽になっていたことだ。
それでも、まだ走るどころか真っ直ぐ歩くことすらままならない。ゆっくり、ゆっくり、一歩ずつ、しかし確実にブルファンゴに接近する。
《動くな。》
ブルファンゴも当然、敵が接近し始めたことに危機感を抱く。そして、「逃げねば」あるいは「反撃せねば」という意思が強まるほど、「
ここからは、精神力の勝負だ。
ブルファンゴがボクの能力を断ち切るか、それともボクが能力の副作用に耐えきるか。その戦い。
《動くな。》
一歩。
ブルファンゴとボクの距離は、3メートルも離れていない。
《動くな。》
凄まじい頭痛が襲いかかる。
脳が内側から揺さぶられているような痛み。頭が割れるような恐怖。
それでも、ボクは前へ進む。
《動くな。》
耳鳴りがさながら警鐘のように鳴り響き、視界は真っ赤に染まる。
ブルファンゴとの距離は、既に2メートル無い。
《動くな。》
血の涙を流す。
それはボクの頬に赤い軌跡を残し、地面に流れ落ちて染みを作った。
《動くな。》
最早抑えてはいられなかった。
本格的に命の危機を感じたブルファンゴは、拘束から抜け出し、ボクに向けて牙を振おうとする。
だが…
《逃げるんだ!》
ボクの体に届くはずだったその白く鋭い湾曲した牙は、ブルファンゴが
そして、ボクはそんなブルファンゴの隙を見逃しはしない。
ボクは、血の涙を流しながらも、ブルファンゴの白い首に、ランゴスタの麻痺針を突き刺し、毒を注入する。
普通、ランゴスタが小突いただけでは、厚く硬い毛皮がその身を守り、ブルファンゴが麻痺することはない。
しかし、柔らかい部位を狙って突き刺し、しっかりと麻痺毒を注入すれば、結果は違う。
「ピギィィィイ!?」
ブルファンゴが突如動かなくなった体に、悲鳴を上げる。先ほどのように「
そしてボクは、副作用の苦痛のあまり地面にひざを突き、倒れかけながらも、それでもブルファンゴを倒すべく動く。
「
それは、火竜、リオレウスの爪だ。
鋭いリオレウスの爪を、左腕に握りしめ、振りかぶる。
利き腕では無いせいか、上手く力は入らないし、器用に握れている訳では無い。でも、今はそれで十分だ。
ボクは、リオレウスの爪を、ブルファンゴの体に精一杯突き刺した。
左腕からは、グシャリと生々しい感触が伝わってくる。
ブルファンゴの毛皮を引き裂く。
傷口からは、激しく血が噴き出した。
刺す。切る。裂く。
何度も、どれだけ返り血を浴びても、左腕に感覚が無くなってきても。
ただ、ボクは生き残るためだけに、ブルファンゴの命を刈り取る。
ランゴスタの時は、それでも命の重みが軽いわけでは無いが、やはり昆虫だったからか、この手で直接命を取るという行為に、さして忌避感は感じなかった。
でも、ボクにかかる血の温もりが、傷だらけでなお立とうとするその懸命さが、今、ボクは生き物を殺しているのだと、嫌でも実感させた。
どれぐらい、時間が経ったのだろう。
いや、少し考えれば、数秒も経たないうちだったというのは聞くまでも無い。
でも、ボクにとって、その瞬間は、まるで時間が引き伸ばされたかのように長かった。
体に、衝撃が襲いかかる。
麻痺から解けたブルファンゴの抵抗により、ボクは吹き飛ばされ、頭は守ったものの壁に背中を打ち付ける。
肺の空気が強制的に排出され、咳き込む。
ブルファンゴと目が合った。
その双眸は、ボクを憎々しげに、しかししっかりと捉えていた。
身体中血まみれで、各所で肉が晒され、酷いところでは骨が剥き出しになっている。
それでも彼は、走る。
ブルファンゴの突進。今の状態で食らったらひとたまりも無いだろう。
ブルファンゴとの距離は3メートル程。ブルファンゴが弱っていなかったら一瞬で詰められてしまうような距離。
ボクは、「
ランゴスタの翅は、脆いが鋭い。
脆いといっても、握れば潰れるような柔なものでは無いし、鋭いといっても、毛皮を引き裂けるような業物ではない。
でも、目に当てれば、失明させることぐらいは出来る。
ボクが投げた二枚の翅は、見事にブルファンゴの双眸を捉えた。
光を失ったブルファンゴは、一瞬減速しながらも、それでも一直線にボクに襲いかかる。
既に、それは突進と呼べるような速度ではない。
フラフラと、歩み寄っているだけだ。
それでも、ブルファンゴは前へと這い進む。
白い牙が、ボクの右腕を刺したまま、ボクの目の前に迫る。
「
そして、必要もない。
……彼我の距離、僅か20センチ。
最後の障害、ブルファンゴは…
ボクの目の前で、事切れた。
エリア11に辿り着き、お邪魔虫ブルファンゴも討伐!これで万事解決……とは問屋が卸さない。
言うなれば、「帰るまでが遠足」なのですよ。
毎度お読みくださり有難うございます。
感想、評価等宜しくお願い致します。