ボクのモンハン見聞録!〜ただそれだけの、物語〜 作:リア充撲滅委員会北関東支部筆頭書記官
文才欲しいよぉ。(そう思っていない人なんていない模様。)
でわどうぞ。
「ゴッホゲホ……グッ………ゴホゴホッ!!」
短い草のみが生えた石の地面の上で、幾度となく咳き込みながら倒れ込んだ。喉からは鉄臭い血の匂いが漂って来ており、全身の繊維筋が引きちぎれたように痛みを上げる。
そんな状況であるにも関わらず、ボクの頬に現れたのは確かな笑みだった。
「後……少し。」
岩に挟まれた狭い通路を、小さくなっていく戦闘音を後ろに聴きながら這い蹲って抜けると、サラサラと静かな水の音が耳を刺激した。
「森丘」エリア11。
モンハンのゲームの中では、ココット村の村長の依頼(チュートリアル)でサシミウオを釣りに来た、影は薄いけど懐かしい場所だ。
「ハンターの基本、釣り」だっけ?懐かしいなぁ〜。
小さな滝と魚が釣れる小川。エリアには木漏れ日が優しく降り注いでおり、水面に反射して一種神秘的な空間を作り出している。
川のせせらぎは耳に心地よく、荒廃した心を落ち着かせた。
うんうん。本当に懐かしいよ。
だからさ、
そんなエリア中央の石の細道のど真ん中に堂々と陣取る、周りの神秘的な風景からすれば異物としか言いようのない、武骨で巨大な猪。
口元には白い牙が雄々しく反り立っており、その鋭利さを見れば、あれに貫かれれば一撃で死んでしまうことなど想像に難くない。
脚は体に比べれば小さいが、太く、それでいて引き締まっており、そこから繰り出される突進はかなりの速度を誇ることだろう。もちろん陸の女王たるリオレイアとは比べるべくも無いが、それでも地球のイノシシから考えても人一人殺すくらいなら造作も無いことだ。
それは、モンハン界一、二を争うお邪魔モンスターであり、そして、サシミウオを釣りに来た初心者ハンター達を容赦無く吹き飛ばす最大の宿敵。
……その名は、
"ブルファンゴ"
…そこまで忠実に再現しなくていいんだよ?
ずっと伏せている姿勢だったことが幸いしたのか、ブルファンゴはまだボクの存在には気付いていない。しかし、嗅覚の鋭いブルファンゴにかかれば、ボクの姿を見つけるのは時間の問題といえよう。
能力の副作用は、大分落ち着いて来た。「
でも、立ち上がるのはまだ難しい。
ましてや、利き腕である右腕が折れた状態で、しかも素材を足に使ってしまったせいで「焦げたドスバイトダガー(劣化型)」すら無い状態で、ブルファンゴを撃退するなど不可能だろう。
もちろん、この道を引き返せる筈もない。
また飛竜の戦いに巻き込まれに行くなんて自殺行為に他ならない。
自傷行為はしても自殺行為はしない。
進めど死。戻れど死。動かずとも死。
人は、この状況を、「詰み」と言うのだろう。
幾度となく命の危機に立たされ、生死の境を僅かな差で踏み止まり、道を切り開いたと思ったら次なる禍が訪れ、まるで詰将棋のように、ボクが死ぬことが予定調和であるかのように、死神はボクの首に鎌を突き付け、追い詰める。
何度も何度も死の淵で、それでも諦めずに生きようと足掻き、
それでもなお、世界はボクに生き残ることを許そうとしない。
ボクは一体どこで間違えたのだろうか。
ボクは、どうすれば生き残ることが出来たのだろうか。
わからない……。
後悔することは出来ない。
何故なら、「あの時こうすれば良かった」という、"正解"すらも、見つけることが出来ないから。
ただ、悔しい。
どうしようもなく……悔しい。
どっかの物語の主人公のように、成したいことがある訳でもない。護りたい存在がいる訳でもない。志も無く、ただ泥臭く生きることしかできないような存在で……それでもボクは、力が欲しいと思った。
自分の身さえも守ることのできない、ボクの弱さそのものが、何よりも悔しいのだから。
…何故、ボクはこんなにも、弱いのだろう。
プライド捨てて、倫理も捨てて、道徳も捨てて、常識的な心さえも捨てて…、
それでも生き残ることすら出来ないくらい、弱いんだ…。
神様。
もし、神様がいるのなら…。
最強じゃ無くたっていい。規格外じゃ無くたっていい。大きなことを成せるような力じゃ無くたっていい。
ただ、自分の身くらいは護れる、力を……
「………グッ!!」
歯を食いしばり、苦悶の声を飲み込みながら、既にボロボロの全身の筋肉を無理矢理動かし、咄嗟の判断で左へと飛ぶ。
体のありとあらゆる箇所の筋肉が、まるで刺々しい石にでもなってしまったのかと思うほどの激痛を上げ、意識が飛んでは痛みのあまり覚醒しを、僅か1秒に満たない時の間に、数回、数十回と繰り返す。
石の上に全身で着地し、ゴロゴロと転がり、壁にぶつかって咳き込み、そして凝り固まった首の筋肉を動かして顔を上げる。
ボクの視線の先に映ったのは、急ブレーキをかけて止まり、そしてこちらに振り向こうとするブルファンゴの姿であった。
とうとう気付かれてしまったようだ。
ブルファンゴがゆっくりとこちらに振り向いたその瞬間、ふと、気になる点が生じた。
ブルファンゴの白い牙の先に、まだ真新しい人の腕のようなものが突き刺さっていたのだ。
その腕からは新鮮な血が勢いよく吹き出し、ブルファンゴの顔を真っ赤に濡らす。
……まさか、ボク以外にも襲われた人がいた?
一瞬、そんな考えが脳裏に浮かぶ。
しかし、近くにそれらしい姿や気配は無い。ならばどうして?
その答えは、自分の肩を見た瞬間に、解決した。
……折れた右腕が、肘先から無くなっているのだ。
それを認識した瞬間、ボクの右腕に激痛が走り、血が溢れ出す。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!!
止血する、手段も時間も無い。
逃げる、体力も道も無い。
ブルファンゴが、その血塗れの双眸でジッとボクを睨みつけ、そして数回程足を地面に擦らせた。
ああ、そうか。
『詰み』だ…。
【「処女の涙」より、「諦観の涙」を発動します。………それが望んだ結末か?】
––––––––––
重い……。
苦しい……。
焼け付くように熱いのに、刺すように冷たい……。
潰れそうなくらい強く押されているのに、全身がズタズタに引き裂けそうでもあり…。
『黒』。
目の前の光景に、一つ名を与えるならば、『黒』だ。
自分が瞼を閉じているのか開けているのかわからないほど、少しの光も、そこには存在しなかった。
一切の光無き闇。
一切の救い無き深淵。
一切の、一分の隙さえも許されない、純然たる黒。
いや、或いはそこには、闇さえも存在しないのかも知れない。
ただ、「何も無い」という状況を、脳が理解することが出来ず、取り敢えず「黒」を表示しているだけなのかも知れない…。
自分の姿さえも見えず、自分の存在さえ感じられない。
光も無く、音も無く、匂いも無く、触覚も無く、上も下も無く、
なのに何故か、重く、苦しく、冷たく、熱い。
虚無のようで、虚無でない。
虚無というのは、その存在そのものが矛盾しているのだから。
この世界、仮に『矛盾』と呼ぶことにしよう。
『矛盾』…。
その世界を前にして、ボクの心には不思議な感覚が生まれた。
一度たりともこの世界を訪れた事などあるはずも無いのに、何故かボクにはこの世界が異様に懐かしく、まるで、長く長く帰っていなかった故郷に戻った時のような、不思議な感慨を抱いたのだ。
苦しく、辛いはずなのに、何故かその苦痛こそがボクを優しく包んでくれる。
ああ、ずっと此処に居たいな……。
【それが望んだ結末か?】
頭の中で、声が響いた。
音の無い世界で、声が響いた。
幼子のようにあどけなく、老人のように枯れていて、母のように暖かく、他人のように冷たく、歌手のように美しく、それでいて醜い。
楽しげで、暗く、リズミカルで、ちぐはぐで、優しく、残酷で、親しみやすく、恐ろしい。
そんな声。
その声を聞いた途端、ボクの中に途轍もない不安が駆け抜けた。
心臓を鷲掴みにされたような、世界にただ一人ボクだけが取り残されたかのような、激しい不安が。
【生きろ】
【生きろ】
【強くなれ】
【諦めることは許さない】
【殺せ】
【殺せ】
【殺して食え】
【食って奪え】
【全てを奪え】
【生きろ】
【生き続けろ】
【許さない】
【許されない】
【許すべきで無い】
【死なない】
【死なせない】
【
【生きて苦しむ】
【苦しみ生きる】
【何度でも】
【何度でも】
【何度でも】
【何度でも…】
畳み掛けられる言葉。
言葉に表せない不安が、ボクの心をを蝕んだ。
煩い。煩い。煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い!
その声を振り払うように、耳を塞ぐ。首を振る。
しかし、塞ぐ耳はそもそも存在せず、振る首も無い。ただ、声は、声だけは淡々とボクに語りかけてくる。
一切の慈悲も容赦も無く、言葉を紡ぎ続ける。
【空を見よ】
【海を見よ】
【大地を、】
【彼方に在る山を、】
【風を聞け】
【波を聞け】
【草木を、】
【清き川の細流を、】
【全てを見よ】
【全てを聞け】
【全てを知れ】
【生きろ】
【生きろ】
【生きて苦しめ】
【苦しみ足掻け】
【涙を拭え】
【立て】
【立ち上がれ】
【何度でも】
【何度でも】
【…見捨てない】
ヤメロ。黙レ。
キミに何が解る。
ボクの苦しみが、ボクの悔しさが……
……悔しさ?
悔しいって……何?
ボクは何をここまで悔しがってる?
ボクは……
【ボクよ、キミは何を望む。】
突然、声が澄んだように統一された。
まるで、ボク自身の声を聞いているかのような。
何を望む……?
わからない。知らない。
いったい何なんだ。キミは誰で、ボクの何を知っている?!
【ボクがキミの事を知らないはずがない。】
【キミはまだ諦めてなどいない。折れてなどいない。】
【ただ諦めたフリをしているだけ。折れたフリをしているだけ。】
【今尚、キミは生に執着している。】
【だってキミはボクなのだから。】
ボクは……キミ?
キミは誰?ボクは誰?
キミならボクを助けることができる?生きる術を与えることが出来る?疑問だらけなんだ。
【それは出来ない。】
【知っているはず。】
【信じろ。自分の力を。】
【道はある。】
【いくらでもある。】
【何にでもなれる。】
【自由だ。】
ボクの、力。
この転生特典のこと?この世界にそぐわない、忌むべき力を?
神様とやらに、与えられただけの力を?
【いずれ解る。】
【その力の意味を、】
力の……意味?
いずれ解るって?
転生特典じゃ無いとでも言うの?
…。
しかし、声は答えない。
いや、或いはその不気味な沈黙こそが、答えなのかも知れない。
でも、何故だろう。自分自身の声だからだろうか。
ボクはその声を信じる気になった。
【ボク、キミは何を望む。】
それは先程と、一語一句、アクセントまで全く違わない、完全すぎるほどに同一の質問であった。
違いがあるとするならば、それはボクに答えがあるか否かだろう。
……ボクが欲するは命。
【それを邪魔する者は?】
……敵。
【敵は?】
…殺す。
【……ならば何度でも問おう。】
【それが望んだ結末か?】
……否!
……ふぅ。
執筆早くなりたい。(そう思っていない人はry)
もう少し明るい内容のも書きたくなってきたなぁ…。