IS×仮面ライダー鎧武 紫の世捨て人(完結) 作:神羅の霊廟
第39話 残サレタ手紙
臨海学校が終わり、IS学園は夏休みを迎えた。本来なら学園の生徒達は夏休みを楽しみにしている筈なのだがーー
轡木「えー……生徒の皆さんには、この夏休みを有意義に過ごしていただきたいとーー」
生徒達『』
学園はお通夜のような雰囲気だった。原因は勿論、アーマードライダー蝕ーー紫野牙也の死である。
轡木「では最後になりましたが、今回の臨海学校にて亡くなった清掃員、紫野牙也君を偲びまして、生徒及び教員の皆さんで彼に黙祷を捧げましょう。黙祷ーー」
鈴「はあ……結局箒は終業式に来なかったわね……」
セシリア「やはり紫野さんを亡くした事が相当ショックだったのでしょう……なんと言うか、掛ける言葉が見つかりませんわ……」
終業式も終わり、生徒達はそれぞれの教室へと戻っていく。しかし、教室に戻る生徒達の足取りは重かった。特に一番牙也との交流が多かった一年一組や、鈴、簪などの一部の生徒に至っては、周囲の空気がお通夜を通り越してお葬式であった。
簪「篠ノ之さんの様子はどうなの……?」
ラウラ「臨海学校から帰ってきた日からずっと、部屋に閉じ籠ったままだ。私達も何回か部屋を訪ねたが……なんと言うか……見ていられなかった……」
シャルロット「心が完全にボロボロみたいで、私達の言葉にもほとんど反応出来てなかった。壊れたように紫野さんの名前を呟いてたよ……」
シャルロットとラウラは辛そうな顔をして言った。
本音「そう言えば私、牙っちとほとんど話せてないや……ずっとアーマードライダーのお仕事してたから、なかなか会う機会も無かったし……それに会長やお姉ちゃんも凄い悲しそうだったよ。いつもの元気が嘘みたいに静かだし……」
清香「私達皆そうだよね……紫野さん、色々忙しく動いてたから、なんか話し掛けづらくて……」
静寐「そうそう、話し掛けたらいけない雰囲気だったから……」
クラスのメンバーから次々と声が上がる。
清香「はあ……今になって、もっと沢山お話すれば良かったって思ってるよ……」
生徒達『』コクコク
清香の言葉にクラスの生徒全員が頷く。教室に戻るまでの間、生徒達は皆牙也の事を話しては悲しそうに溜め息を吐いたり涙を流していた。
教室に戻ってきても、その空気は晴れなかった。千冬が夏休みに関する説明などを話していたが、ほとんどの生徒はそれが全く耳に入らず、話している千冬も千冬でいつもの威厳が無くなり、気の抜けたような感じで話している為、真耶が心配そうに千冬を見ていた。
千冬「では私からは以上だ……皆、夏休みを有意義に過ごせよ。オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒは後で学園長室に来てくれ。凰と更識妹にも同じように伝えてある」
そう言って千冬は真耶と共に教室を出ていった。途端に教室は騒がしくなる。
静寐「学園長室に呼ばれるって……余程の事じゃなきゃ呼ばれないよ」
ラウラ「なぜ私達が呼ばれたかは大体予想がつくがな」
鈴「おーいセシリア、シャル、ラウラ。早く行きましょ」
そこへ鈴が教室の窓から声を掛けてきた。隣には簪もいる。
セシリア「分かりましたわ。デュノアさん、ボーデヴィッヒさん、行きましょう」
シ・ラ『うん(ああ)』
五人が学園長室に到着すると、ちょうど楯無と虚が来たところだった。
楯無「あら……やっぱり皆も呼ばれたのね」
鈴「はい。会長もですか?」
楯無「ええ……現場にいなかったとは言え、私は一応生徒達を取り仕切る存在だから……ま、話は中でしましょ」
そう言って楯無は学園長室の扉をノックした。
楯無「学園長、更識です」
轡木『入って来て下さい』
楯無達が中に入ると、来客用のソファにクロエが、その後ろにはオーバーロードとしての姿をしたシュラがいた。轡木はその反対側のソファに座り、その後ろに千冬と真耶が控えている。
鈴「あら、クロエ?今日はどうしたの?」
クロエ「はい、束様の代行として来ました。束様も、箒様と同様に閉じ籠った状態ゆえに……一夏様に束様をお任せして私が来たのです」
セシリア「そうでしたか、束博士も……」
簪「牙也さんと交流が多かったから、もしかしてと思ってたけど……」
全員が残念そうな顔をして肩を落とす。
轡木「まあとりあえず皆さんはこちらに。今回皆さんを呼んだのは、織斑春輝君の処分内容が決定した事をお伝えする為です」
ラウラ「どのような処分になったのですか?」
轡木「はい、まず彼の専用機の白式は没収、機体は製造した倉持技研が、コアは篠ノ之博士が預かる事になりました。白式の今後はまだ明らかになっていませんが、恐らく解体されるか、もしくは新しくコアを付けて他の誰かに渡されるかでしょう……そして織斑君ですが、遺体が見つからないとは言え牙也君とギリア君を殺害、ザック君を殺害未遂、そしてロックシードの強奪という二つの罪がありますので、臨海学校から戻ってきたその日に警察に連行されました。IS委員会や女利権は、織斑先生の弟であるという事を理由に彼の釈放を望んでいますが……」チラッ
そこまで言って、轡木は千冬を見た。
千冬「私は一夏と相談した結果、春輝と絶縁する事に決めた。相応の罰を春輝には受けてもらわねばならんからな」
轡木「という事で委員会や女利権には、私の妻が話をつけておきました。彼を擁護する人は、最早誰もいません。恐らく懲役20年、多くて30年、最悪終身刑でしょう」
シュラ「そうか……ところで轡木、ザック・ヴァルフレアはどうなった?」
轡木「彼は重要参考人として、今も警察で聴取を受けています。牙也君を殺害しようとしていた人が、参考人として聴取を受けるとは、皮肉ですね……」
シュラ「まあザックは結果論として、牙也と戦って負けた。しかし殺害までには至っていないから重い刑にはなるまい」
轡木「私からも彼の保釈を求める文書を送りました。恐らく数日あれば無事に出てこれるでしょうね」
虚「それと、彼と共に牙也さんと戦ったギリア・フレイアですが、遺体は更識家と布仏家で引き取り埋葬する事が決定しました。調べたところ、彼には肉親や親戚が既におらず、引き取り手もいないと分かりましたので」
シュラ「二人が使っていた戦極ドライバーとロックシード、それに織斑春輝が設計した戦極ドライバーは、我が回収して調査する。出来れば修理・初期化してまた使えるようにしておきたい」
轡木「と言ったところですね。何か質問はありますか?」
轡木が尋ねたが、全員首を振った。
轡木「では、私からは以上です。戻って良いですよ」
轡木が話を締めた事で、楯無達は轡木に一礼して次々と部屋を出ていく。
千冬「私も部屋に戻ります。牙也の遺品を整理しなければならないので……」
シュラ「我は暫くここを留守にする。牙也の為にも、この一件を早く解決せねばならん。それに、奴によって使えなくなったこれを埋葬せねば」
千冬も部屋を出ていき、シュラはブルーベリーロックシードを腰に提げると、クラックを開いてヘルヘイムの森に戻っていった。残された轡木と真耶は、日が沈むまでただじっと窓の外を見つめていた。
千冬「牙也の私物は少ないな……まあ自分の事よりも、他人の事を優先するような奴だったからな……」
自室に戻った千冬は、牙也の遺品を整理していた。しかし千冬が思っていたよりもその数は少なく、服やパソコンくらいしかなかった。元々牙也は本業のアーマードライダーとしての仕事が忙しく、副業の清掃員としての仕事もあって自分の趣味のようなものをする機会はなかなかなかった。それゆえに、たまに箒達が無理やり外出させるなどして充分な休みを取らせていた。
千冬「ここまで物が少ないと、私達がどれだけ牙也を頼ってきたかが良く分かる……」
そう呟きながら、千冬は牙也の机の引き出しを開けた。すると、
千冬「これは……手紙か?」
なにやら白い封筒を見つけた。手にとって見ると、中に手紙に加えて何か入っているようだった。封筒を裏返すと、『箒へ』とだけ書いてあった。
千冬「…………牙也の最後の頼み事のようだ。篠ノ之に渡さねばな」
整理もそこそこに、千冬はその封筒を持って箒の部屋に向かった。
箒は窓際に椅子を置いて腰掛け、沈んでいく夕日を見ていた。
箒(牙也……)
その頭の中は牙也の事しか考えていなかった。臨海学校が終わってからは箒は授業に全く参加せず、布団にくるまっていたずらに一日を過ごす事が多くなった。たまにクラスの仲間達が心配して部屋を訪れる事はあったが、牙也を失った事で心がボロボロになっていた箒には、彼女らの話は全く耳に入ってこず、曖昧な反応しか出来なかった。
箒(私があの時撃墜されていなかったら……)
そんな後悔ばかりが箒を苦しめる。
コンコンーー
箒「……?」
ドアをノックする音に反応し、ふらふらよろめきながらドアに向かい、ドアを開けると、
千冬「篠ノ之……」
ドアの前には千冬が立っていた。
箒「織斑先生……」
千冬「篠ノ之……本当にすまなかった、牙也を助ける事が出来なくて」
千冬は箒の顔を見るなり頭を下げて謝った。
箒「謝らないで下さい……私だって……私だって……!」
箒は強く両手を握り締める。すると千冬が、何か封筒のようなものを箒に差し出した。
箒「これは……?」
千冬「お前宛の手紙だ。読んでおけ」
封筒を箒に渡すと、千冬は部屋を後にした。
箒「手紙……誰からだろうか……?」
箒はベッドに座って封筒から手紙を取り出した。すると手紙と一緒に何かが封筒から出てきた。箒が拾い上げると、
箒「……リボンと、ヘアピンか?」
それは赤色のリボンと、同じ赤色で桜の飾りを付けたヘアピンだった。ひとまずこの二つは置いておき、箒は手紙を開いた。
『箒へ
初めて他人に出す手紙ゆえに、拙い文章になる事をまずは許してほしい。
さて、ちょっと遅くなったが、誕生日おめでとう。臨海学校直前になって束さんから箒の誕生日の事を聞いて、慌ててプレゼントを用意したんだが、気に入ってくれただろうか……?俺はファッションとかアクセサリーとかのセンスが無いから、いまいち何が箒に似合うのか分かんなかったけど、気に入ってくれたのならとても嬉しいよ。
俺と箒がアーマードライダーとして学園で活動を始めてから、もう既に3~4ヶ月になるだろうか……色々迷惑や心配かけただろうけど、一緒に付いてきてくれて本当にありがとう。箒が一緒に戦ってくれたお陰で、今までなんとか大きな騒ぎを鎮静化する事が出来たよ、感謝してもしきれない。勿論それだけじゃなくて、普段の生活においても俺は箒に沢山助けられたな。今更ながらここでお礼を言う、ありがとう。
さて、ここからが本題なんだが……どうにも俺はこの手の話は苦手でな、なかなか言い出せずにいたんだが、思い切ってここで言ってしまおうと思う。
さっきもズラズラと言葉を並べていたけど、今まで俺は箒と共にインベスと戦ってきた。時には別世界に行って戦ったり、別次元の奴等と戦ったりーー本当にいろんな奴等と戦ってきたな。いろんな敵と戦って、いろんな仲間と助け合って……そんな事を繰り返してる内に、俺は箒の事をよく気に掛けるようになってる事に気づいた。しかもそれは時間が経つにつれて、戦い以外でも箒を気に掛けるという風に変わっていった。俺自身なんでこうなっていってるのか分かんなかったけど、こないだ俺と箒と更識姉妹でコスプレして楽しんだ帰り道、箒と話してる時に、俺ははっきりと理解したんだーー
俺は、箒の事が大好きになってたんだって。
最初は自分でも良く分かんなかった。でもあの時はっきりと理解したよ、箒への純粋な気持ちを。
あー……他に言葉が出てこないや。なんて言うか、他の表現が出来ないんだよ。やれやれ、他に言いたい事があるって言うのに……自分でももどかしいぜ……』
手紙は書いている途中だったのか、ここで文章が途切れていた。
箒「馬鹿者……」グスッ
手紙を読み終えた箒の目には、涙が浮かんでいた。側に置いていたリボンとヘアピンを手に取り、胸の内で優しく握り締める。
箒「馬鹿者だ……!お前も、私も……!お互いの心が一致していながら、なぜ何も言わなかったのだ……!」グスグス
箒の目からは絶えず涙が溢れてくる。
箒「牙也……!」
箒は泣きながら、手紙とリボンとヘアピンを握り締めていた。
次回、束のラボでーー。