IS×仮面ライダー鎧武 紫の世捨て人(完結)   作:神羅の霊廟

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後編その2


オレ×ワレ×ワタシのラストステージ20XX(2)

 遡る事数分前ーー

 

 

 

 

 簪「や、やっと帰ってこれた……」

 本音「長かったねぇ~」

 

 簪と本音が実家から学園に戻ってきたところであった。

 

 簪「もう……いつも大袈裟なんだから、父さんったら」

 本音「ほ~んと、かんちゃんラブだよね~。分からなくもないけどぉ~」

 簪「でも帰ってくるなりハグ半日は長過ぎ……」

 

 親や親族との交流でヘトヘトな簪を、本音はいつも通りのにこやかな笑顔で支える。

 一年前、簪達が進級するにあたり簪は更識家を出て、新たな分家『新識家』を立ち上げた。両親や更識家に仕えている従者達には猛反対されたが、簪がとある策を用いると、両親はあっさり折れた。簪が一体どんな策を用いたのか、それは本人とその関係者以外知るよしもない。

 

 簪「それよりも急がなきゃ……私達がいない内に、学園が襲撃されたなんて……」

 本音「誰が何の目的でやったんだろうねぇ」

 

 重たい荷物を一端部屋に放置し、二人は廊下を走って会議室へと急ぐ。その途中、ふと簪は制服のポケットから何かを取り出した。それは実家に帰る直前に、あの大木の陰に置かれていたのを発見した二つのストップウォッチのような物だった。

 

 簪(……これ、一体何なのかな……?誰か知ってる人がいれば良いんだけど……)

 ??「ホウ……何処ニモ無イト思エバ、貴様ガ持ッテイタノカ」

 簪「っ!?誰!?」

 

 聞き慣れぬ男の声に、簪は立ち止まり警戒を強めた。本音は気づかなかったのか、先に行ってしまっている。現状一人ぼっちのため、簪はいつでも打鉄二式を展開できるようにし、辺りを見回して声の主を探す。

 

 ??「ココダヨ、貴様ノ真後ロダ」

 簪「っ!?」

 

 簪が振り向いた時、彼女は脇腹に鈍痛を覚えていた。見ると簪の目の前にはいつの間にか、フードを深く被った誰ともわからぬ人物がおり、彼女の脇腹にはその人物の拳が突き刺さっていた。激しい痛みに、簪は持っていたそのウォッチを思わず落としてしまう。膝から崩れ落ちた簪は、何とか脇腹を押さえながら立ち上がろうとするが、

 

 ??「邪魔ダ、失セロ」

 

 謎の人物に突き飛ばされ、廊下に転がされた。その人物は、簪が落とした二つのウォッチを拾い上げると、フードの下に狂った笑みを見せた。

 

 ??「回収完了。コレデヨウヤク揃ッタナ、総仕上ゲ二必要ナ物ガ」

 簪「あ、貴方……一体、何を……!?」

 ??「オ前ニハ関係ナイ事ダ。死ニタクナケレバ、知ラヌフリデモシテオク事ダナ」

 

 フードの人物はそう言って、廊下の窓から飛び降りた。

 

 簪「ま、待って……!」

 

 簪はフラフラ立ち上がりその人物を追い掛けようとした。と、その足下に何かが転がってきた。不審に思いそれを見ると、

 

 

 

 

 ピンが抜かれた手榴弾だった。

 

 簪「っ!?しまっーー」

 

 回避する間もなく、廊下は爆発に包まれたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「……惜シイ事ヲシタカ。マァドーデモ良イ事ダ」

 

 先程まで自分がいた廊下を尻目に、フードの人物はその場を去る。その手に持った二つのウォッチを、壊れそうな程強く握り締めながらーー。

 

 

 

 

 

 

 

 ソウゴ「さっきの爆発、このあたりの筈なんだけど……」

 

 爆発音を聞き付けて、ソウゴ達は爆発か起こったと思われる場所まで来ていた。

 

 ラウラ「恐らく今の爆発は、手榴弾か何かかもしれん。誰かが忍び込んだとみて間違いないだろうな」

 千冬「奴の仕業か、それともーーっ、これは!?」

 

 その場所の廊下に差し掛かった時、ソウゴ達はそこにあった光景に愕然とした。そこにあった廊下は、爆発の影響か窓ガラスや扉が吹き飛んでそこいらに散乱しており、一部の壁が崩れて道を塞いでいた。窓側の壁の一部は、爆発が至近距離で起こったのか大きな穴を開けている。そしてその近くには、自身のIS『打鉄二式』を部分展開した状態の簪が倒れていた。

 

 楯無「簪ちゃん!!」

 

 楯無が慌てて簪に駆け寄り、容態を確認する。

 

 楯無「……良かった、まだ息はあるわ!虚ちゃん、簪ちゃんをすぐに保健室の篠ノ之博士に!」

 虚「わ、分かりました!」

 

 虚は簪を背負うと急いで保健室へ向かった。それを見送り、楯無は苦い表情で千冬に向き直る。

 

 楯無「……織斑先生、指示を」

 千冬「ここはしばらく立ち入り禁止とする。ボーデヴィッヒ、更識姉、スコール、オータム、M、ザックは周辺を捜索だ。まだ犯人が近くに隠れている可能性もある。他の者は私と共にこの瓦礫を片付けるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある廃工場の一角。中央に置かれた机の上で、フードの人物が何か作業をしていた。机の上には簪から奪ってきた二つのウォッチ、更に二つのアナザーウォッチが置かれている。

 

 牙也(異)「完成スルノカ?」

 

 作業をしているフードの人物の後ろから、異界の牙也が顔を出した。

 

 ??「アァ。必要ナ物ハ全部揃ッタ、後ハ総仕上ゲダケダ」

 牙也(異)「ハハハハハ、ヨウヤクカ……!必ズ完成サセロヨ、俺ノ野望ノ為二ヨォ……!」

 ??「……分カッテイル。オ前ハ体ヲ休メロ、ココカラハ俺ノ仕事ダ」

 牙也(異)「ハイハイ、分カッテルヨ」

 

 異界の牙也はヘラヘラ笑いながら奥の部屋に引っ込んでいった。そんな彼を見送り、フードの人物はポケットの中に手を突っ込み何かを探す。そして取り出したのは、何も描かれていないブランクのロックシードだった。それを見て薄ら笑いを浮かべ、フードの人物は自身の仕事に没頭するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 簪「……う、ううん」

 

 全身への痛みを覚え、簪は目を覚ました。体を起こそうとするが、激痛で起き上がれない。

 

 束「こらこら、ダメだよ。怪我が治った訳じゃないんだから」

 

 見るといつの間にか束が隣にいた。ずっと付きっきりでいてくれたのだろうか。時計をみると、既に夕食の時間を過ぎていた。2時間は気を失っていたようだ。

 

 簪「……ここは……?」

 束「保健室。自分に何があったのか、覚えてる?」

 簪「何が……そうだ、早くあの人を追いかけてーーッ!?」ズキッ

 束「あぁもうだからダメだって!寝てて寝てて!」

 

 束が無理やり簪を止めてベッドに寝かせる。

 

 簪「でも……」

 束「でもも鴨も紐もないの!怪我を治すのが先決!」

 簪「……すみません」

 

 簪は大人しく布団を被る事にした。

 

 束「明日色々話してもらうよ、何があったのか。それまでは体を休めて、ね?」

 簪「……はい」

 

 

 

 

 

 次の日。

 

 千冬「さて、更識妹。何があったのか、包み隠さず話せ」

 

 保健室には簪と千冬の他に楯無と士それにソウゴがいて、簪の話を聞こうと真剣な表情をしていた。簪は知らない人物が立ち会っている事に戸惑いを隠せずにいながらも、何があったのか全て話した。簪が話し終わると、千冬はソウゴと士に顔を向ける。

 

 千冬「どうだ常磐。更識妹の話を聞く限り、私は奴が奪った物こそ、お前が探す『ライドウォッチ』と見るが」

 ソウゴ「間違いない……形状、特徴、どれも『ライドウォッチ』に当てはまる……君が持ってたのか」

 士「どうりで学園中探しても見つからない訳だな。とんだ骨折り損だったという訳だ」

 

 士はそう言って保健室の扉に目を向ける。そこには簪を心配してか、セシリアや鈴といったいつものメンバーが勢揃いして扉の隙間から様子を伺っていた。最もセシリアは先程の士のセリフに怒り心頭のようだが。そんな事気にする様子もなく、士は首に提げた二眼トイカメラでセシリア達を写す。

 

 ソウゴ「問題は、何故そいつは『ライドウォッチ』を奪っていったのかだね」

 千冬「む?お前に使わせない為ではないのか?」

 士「それならいっその事、その場で壊してしまった方が手っ取り早いだろう。わざわざ奪う必要はない」

 ソウゴ「何か別の目的があるのかもね」

 

 そう言ってソウゴは立ち上がり、保健室の扉へと歩き出す。

 

 士「何処へ行く気だ?」

 ソウゴ「……試しに20XX年に向かう。仮面ライダー零について、俺は知る必要がある」

 士「ここはどうするつもりだ?」

 ソウゴ「あんたがいてくれればいいだろ。とにかく何か行動を起こさなきゃ、奴の目的も分からずじまいのままだし。それに俺には、ライダーの記憶を継承するって目的があるから」

 士「……それは魔王として、か?」

 

 士のその言葉にソウゴは思わず立ち止まる。しかしソウゴは振り返りもせず言った。

 

 ソウゴ「いや……同じ仮面ライダーとして、だ」

 

 

 

 

 

 

 千冬「継承……?それに魔王とは?どういう事だ?」

 

 ソウゴが出ていった後、彼の言葉の真意が気になったのか、千冬はそう士に問いかけた。先程までドアから立ち聞きしていたセシリア達も興味津々のようだ。

 

 士「あいつ、話してないのか……はぁ」

 

 士はため息を吐くと、ソウゴについて千冬達も知らない事実を全て話した。

 

 千冬「全てのライダーの歴史を継承した時、常磐ソウゴは魔王として君臨する、か……どこのRPGの話だ」

 士「そこいらにあるRPGと一緒にするものじゃない。あいつの力はそれ以上に危険だ、よく分かっただろ?これを聞いて、まだお前達はあの魔王に頼るのか?」

 

 士のセリフに全員が押し黙る。当然と言えば当然だろう、確かにアナザー零を倒せば歴史は元に戻る、しかしそれは歴史をソウゴが継承する形で元に戻るのであり、仮面ライダー零が存在した世界に戻る訳ではない。しかしアナザー零を倒さなければ歴史は完全に消えてしまう。どちらを選ぶにしても、結局歴史は元には戻らないのだ。

 

 箒「……迷う必要はない。答えは一つだろう」

 

 と、箒が立ち上がりながら口を開いた。

 

 シャルロット「篠ノ之さん?」

 箒「ここは、牙也がその命を賭けて守ろうとした世界だ。ならば牙也がいない今、この世界を守るのは残された私達の役割。結末がどうであろうと、それは変わらん」

 束「……何もかも忘れちゃうんだよ?牙君と束さん達との繋がりも、牙君との楽しい思い出も、全部……それでも良いって言うの?」

 箒「良い訳ないでしょう!でもここは……この世界は、牙也の唯一の故郷なんです。たとえ歴史が無くなったとしても……私はここをーー牙也の帰る場所を、守らなきゃいけないんです」

 

 そう言って箒は保健室のドアに手をかけ、保健室を出ていく。

 

 箒「姉さん、紅椿の点検急いで終わらせて下さい。近い内にまた奴等は来る筈ですから」

 束「え、ちょーー箒ちゃん!?待ってよぉ~!」

 

 束も後を追い掛け保健室を飛び出していった。姉妹のそんなやり取りに、千冬達は頭を抱えてため息を吐く事しかできなかった。

 

 千冬「馬鹿者が……牙也の事となると、いつもあれだ」

 ラウラ「ですがあれがいつも通りなのですから、なんとも言えませんね、教官」

 千冬「まあな。だが篠ノ之の言葉も一理ある。今私達がすべきなのは、私達の手でこの世界を守る事だ。皆気を引き締めて警備にあたれ」

 『はい!!』

 

 千冬達がそんなやり取りをしている間に、いつの間にか士は保健室からいなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方保健室を出た箒は、一端機械室に向かう束と別れ、あの大木が聳え立つ植木地帯を訪れていた。二年の間に立派な大木に成長したそれを前に、箒は膝をついて拝む。

 

 箒(……すまない、瑞穂。お前から受け継いだ物を、私は易々と奪われてしまった。情けないな、本当に)

 

 アナザー零の二度目の襲撃の際、箒は『アーマードライダーレオン』の能力に加えて、自らの体内にあった禁断の果実のほとんどを同時に奪われていた。その影響もあってか、箒の髪は白髪から元の黒髪に戻り、瞳も普通の人間のそれになっていた。代表候補生の座に登り詰める事ができたのはひとえにそれのお陰でもあり、現状の箒の生身での実力は普通の人間とさほど変わらないレベルにまで落ちていた。

 

 箒(だが、この程度で折れる私ではない。私はーーいや、私達は必ず取り戻してみせる。牙也をーーそして、牙也と共に過ごした記憶を。だから少しだけで良い……私に勇気と執念を分けてほしい)

 

 心の中でそう拝み終えた箒は立ち上がり、ふと後ろを振り向く。

 

 士「なるほど、この木がお前の原点か」

 

 いつの間にやって来ていたのか、士がそこにいた。

 

 箒「門矢士か。私に何か用か?」

 士「用という程の物じゃない。お前に興味があってついてきただけだ」

 箒「……貴様の嫁にはならんぞ」

 士「あいにく略奪愛が趣味ではないんでな」

 

 軽口を叩きながら、士は大木に歩み寄る。大剣に巻き付くように育った大木を見、そして彼はふと箒に問いかけた。

 

 士「お前……いつまでこいつの幻を追い掛けているつもりだ?」

 

 その質問に、箒の肩がピクリと震える。

 

 箒「……何の話だ?」

 士「お前はよく理解している筈だ、もうこの世界に、雷牙也という存在はない事を。そして、仮面ライダー零の物語はもう帰ってこない事を。それが分かっていて、何故未だにこいつの幻を追い掛け続ける?何故物語の終わりを認めようとしない?」

 

 その問いかけに箒は少し考える素振りを見せる。そしてこう呟いた。

 

 箒「……私はまだ信じているんだ。いずれ牙也がひょっこりと帰ってくる事を。またいずれ牙也に再会できる事を。だから私はこれからも待ち続ける、牙也の帰還をーー」

 士「その雷牙也はもういない。そしてお前達の前に現れたのは偽物の雷牙也だ。いい加減逃げずに現実を見ろ。そして知るべきだ、物語は終わったと」

 箒「……まだ物語は終わってない。まだ続いているんだ、私達の望まぬ形で。だから私は物語を元に戻したい、そして再び牙也の帰りを待つのだ。どれだけ年月が経とうとな……用はそれだけか?ならば私は戻る」

 

 そう言って箒は去ろうとする。

 

 

 

 

 《KAMEN RIDE DECADE》

 

 

 

 

 突如響いた電子音声に箒が振り向くと、『仮面ライダーディケイド』に変身した士が殴りかかってきた。咄嗟に両腕でそれをガードする箒だったが、士のパンチはそのガード毎吹き飛ばしてしまった。強力なパンチに箒の体は大きく後ずさる。

 

 士「……なら、俺がその夢幻から覚ましてやる」

 

 士の敵意に対し、箒もまた応戦の構えを取る。

 

 箒「……やってみろ!」

 

 

 

 

 


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