IS×仮面ライダー鎧武 紫の世捨て人(完結)   作:神羅の霊廟

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 始まります。


第86話 最期ノ一仕事

 

 コウガネの完全撃破を見届けた牙也と箒は、地面に突き刺した大剣に力なく寄り掛かっている準也に歩み寄った。

 

 牙也「終わったよ、父さん。何もかも全て」

 準也「そうか……よくやってくれた。私の我が儘に、文句一つ言わずにやり遂げてくれて、ありがとう。箒ちゃんも、本当にありがとう」

 箒「礼なんて……牙也が今まで負ってきた傷と比べたら……」

 準也「謙遜しなくていい。私は今の自分が情けなく思えるんだよ……二人のような若者達にこんな大事を、私の我が儘を押し付けて……」

 

 準也の力ない言葉に、二人は何も言えなくなる。

 

 準也「とにかく、二人には感謝の言葉しか出てこないよ……本当にありがとう。これでようやく、ゆっくりと眠れるよ……」

 箒「眠れる……?それってどういうーー」

 

 そこまで言って、二人は気づいた。準也の体が、粒子となって消え始めている事に。

 

 準也「元々奴をーーコウガネを倒すまでの命だったのさ……目的を果たした今、私の生きる意味は無くなった……これでようやく、愛する妻の元へ行ける……」

 牙也「父さん……!」

 箒「準也さん……!」

 準也「私なんかの為に泣いてくれるな、牙也、箒ちゃん。私はな、牙也……お前の親として、やってはならない事ばかりしてきた。これは、その報いのようなものなんだ……何も言わず、ただ送り出してくれ……こんな愚かな父を……」

 

 牙也は知らず知らずの内に流していた涙を拭い、準也の手を取る。

 

 牙也「誰があんたのような人を愚かだって言うんだよ……!もし誰かが父さんの事を愚かだって言うなら……俺はそいつをぶん殴ってやるよ……!」

 準也「フン……馬鹿者が……まぁ、良いさ……運命に振り回された一生だったが……それなりには楽しめたよ……」

 

 準也は一度牙也を見、次に箒を見た。

 

 準也「箒ちゃん……どうか牙也の事を、最期までよろしく頼むよ……君なら安心して、牙也を任せられる……」

 箒「ッ……はい、一生を賭けて、私は牙也を愛します」

 準也「うんうん、良かった……では、さらばだ……束ちゃん達にも、よろしく……と、伝えて……くれ……」

 

 この言葉を最後に、準也は力尽きたかのように目を閉じ、そして粒子となって消えていった。辺りで戦っていたあの黒く汚れたインベス達はいつの間にか姿を消しており、後には準也が使っていた大剣だけが残された。

 

 箒「牙也……」

 牙也「……大丈夫、折れちゃいないよ。皆がいるから」

 箒「そうか……」

 牙也「さ、帰ろう。皆が、俺達の帰りを待ってる」

 箒「……ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也達がコウガネを倒し終えた頃、学園での戦いも終止符が打たれていた。

 

 鈴「吹っ飛びなさい!」

 

 鈴のIS『甲龍』に搭載された龍砲の一撃で、最後のインベスが倒され、これで学園に現れたインベスの掃討が終わった。

 

 鈴「おしまい!ふぅ……なんとかなったわね」

 ラウラ「後は牙也達だが……大丈夫だろうか?」

 千冬「ボーデヴィッヒ、今私達にできる事はただ一つーー信じて待つ事だ。信じろ、信じて待て、牙也を」

 ラウラ「教官……はい!」

 

 三人が話している所に、他の場所で戦っていたメンバーも次々と合流する。そして全員がその場に揃った時、メンバーの目の前に先程の歪みのようなものが現れ、その中から大剣を担いだ牙也と牙也に寄り添う箒が出てきた。

 

 牙也「ただいま戻りました」

 束「おっかえり~!三人とも無事でーー牙君、準也さんは?」

 

 戻ってきた二人を総出で迎えた時、いち早く準也がいない事に気づいた束が牙也にそう聞くと、牙也は静かに首を横に振り、担いでいた大剣を目の前の地面に突き刺した。それを見て察したのか、束は「そう、なんだ……」と呟いて後ろを向く。その目にはうっすらだが涙が見えた。

 

 束「そっか……役目を果たしたんだね、準也さん……」

 箒「はい……準也さんは最期に、『姉さんによろしく』とだけ言い残して……」

 束「そっか……」

 

 束は目をゴシゴシ擦り、空を見上げる。

 

 束「生きてて欲しかったなぁ、準也さん。私まだ準也さんに、何もお返しできてなかったのに……」

 箒「姉さん……」

 束「他にもまだ沢山やり残した事があったのに……また一緒に、IS談義したかったのに……」

 千冬「束……今は泣け。思いきり泣けば良い。誰もお前を責めはしないから」

 束「う、うぅ……うわぁぁぁぁぁん!!」

 

 肩に手を置いてそう言う千冬に、束はすがり付いて泣き崩れた。他のメンバーもそれにつられて涙を流す者もおり、それからしばらくの間、束が泣き止む事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 束「うぇぇ……準也さん……準也さん……!」

 千冬「まったく……いつまで経っても子供のようだな、お前は」

 牙也「けど、そんな父さんの決死の覚悟が……この戦いに終止符を打った」

 一夏「やっと、全部終わったんだよな……」

 楯無「実感沸かないけど、これで全部ーー」

 

 楯無がそこまで言った直後、突如地面が大きく揺れ始めた。

 

 セシリア「な、なんですの、この揺れは!?」

 ラウラ「も、もう終わったのではないのか!?」

 シャルロット「み、皆!そ、空を見て!」

 

 空を指差したシャルロットの言葉に全員が空を見上げる。その先にはーー

 

 

 

 「ヘルヘイムの、森が……!」

 

 

 

 誰かがそう呟いた。学園上空に突如逆さまの状態のヘルヘイムの森が現れたのだ。しかもそれは、段々と近付いてきている。

 

 鈴「な、なんで!?なんでヘルヘイムの森が!?」

 簪「段々と、こっちに近付いてきてる……!一体、何が起こるの……?」

 束「ま、まさか……このままぶつかって……双方消滅なんて事、無いよね……?」

 

 束のその一言に、全員が青ざめる。束の言葉は、あながち嘘ではないかもしれないのだ。現に今も、ヘルヘイムの森はゆっくりと迫ってきている。

 

 オータム「ふざけんなよ……!折角守りきれたと思った矢先に……!」

 シャルロット「僕達はこのまま終わっちゃうの……?」

 

 

 

 

 

 牙也「……させねぇよ……!」

 

 

 

 

 

 牙也は知らず知らずの内に、大剣を握り締めていた。牙也のその言葉に、全員が牙也の方を向く。

 

 牙也「このまま終わってたまるかってんだ……!絶対に守る……俺が……いや、俺達が……!」

 

 牙也はポケットからロックシード状態のヒガンバライナーを取り出して解錠しようとしたが、束がそれを止めた。

 

 牙也「束さん……」

 束「嫌、行かないで……!牙君まで死んじゃったら、私……!」

 牙也「束さん……それでも俺は、行かなきゃいけないんです。生きる為に」

 

 その言葉に、束はハッとした。

 

 牙也「以前一緒に墓参りした時、言いましたよね……?誰かが死んで、残された人達がすべきなのは、生きる事だって。死んでしまった人達の分まで、必死になって生きる事だって」

 束「」コクリ

 牙也「俺は生きたい、この世界で。俺を受け入れてくれた、この世界の中で。だから……行かせて下さい」

 

 束は黙り込んだままだったが、少ししてようやく手を離した。そして牙也をじっと見つめながら言った。

 

 束「必ず、帰ってきて。どんな姿になっても良い、生きて私達の元に帰ってきて。それだけ、それだけ約束して」

 牙也「……はい!」

 

 牙也が周りを見回すと、他のメンバーも牙也と目が合うと、小さく頷いてそれに答えた。箒もまた目が合うと、同じように頷いた。それを確認し、牙也は改めてヒガンバライナーをスタンバイし、

 

 牙也「変身」

 

 《絆アームズ!名・名・名・名・名軍師!!》

 

 一瞬で『仮面ライダー零 絆アームズ』に変身すると、大剣を肩に担いだ状態でヒガンバライナーに飛び乗った。そしてアクセルを全開にして、

 

 牙也「じゃ、行ってきます。約束、必ず果たしますよ」

 

 そう言い残し、ヘルヘイムの森が見える上空へと飛んでいった。学園の生徒教員達は、ただ祈った。世界が救われる事、そして、牙也が無事に帰ってくる事をーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也(呼んでる……誰かが、俺を呼んでるんだ……)

 

 ヒガンバライナーを運転しながら、牙也はそんな事を考えていた。上空にヘルヘイムの森が突如現れた時、牙也だけには声が聞こえていた。それも短く「……助けて」とだけだが。牙也はそれが気掛かりだった。誰の声なのか、何故助けを求めているのかーー考えても答えは出そうにない。そうこうしている間に、ヒガンバライナーはヘルヘイムの森の中央までやって来ていた。

 

 牙也(こうやって見てみると、改めてデカイな……止められるか、俺に……?)

 

 そんな不安が頭の中をよぎる。冷や汗がジワジワと吹き出す。大剣を握る手に汗が溜まる。不安で頭の中が一杯になる。と、その手に誰かの手ーー手は手でも、細かい粒子でできた手だがーーが添えられた。牙也がその手の方を見ると、そこにはシュラがいた。更にもう一つ粒子の手が添えられた。また見ると、そこには狗道供界がいた。そして最後に、牙也の両肩に手が添えられた。振り向くと、そこには準也、茜、瑞穂がいた。彼らは牙也に向けて頷くと、笑顔を見せながら消えていった。

 

 牙也「……ははっ、そうだったな……俺、色々背負ってんだったよな。……俺がやらなきゃ、誰がやるってな!」

 

 牙也はヒガンバライナーに乗った状態から立ち上がり、大剣を構える。その顔には最早迷いも不安もなく、ただ単に晴れやかだった。

 

 牙也「我が心に眠る黄金の果実よ……今一度、我の魂となれ。この世界を覆う厄災に……今こそ終止符を打たん!!」

 

 牙也の体と大剣、それにヒガンバライナーが黄金と漆黒の光に包まれていく。そして、

 

 牙也「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 流星の如くヘルヘイムの森へと突っ込んでいき、それを大剣で豪快に斬り裂く。

 

 

 

 

 

 箒「行け、牙也ッ!!」

 

 

 

 

 

 箒の叫び声と共に、世界は真っ白く塗り潰されたーー。

 

 

 

 

 

 





 次回が一先ず最終回になります。その後は『ラストストーリー』と題して、またその後の世界を書いていこうかと。物語は次回で一旦終わりを迎えますが、これからも応援よろしくお願いします。
 では、最終回にてーー。


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