IS×仮面ライダー鎧武 紫の世捨て人(完結)   作:神羅の霊廟

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 始まります。




第78話 奪ワレタ力

 

 春輝がその手に持つ黒いソニックアローから、無数の黒い矢が放たれる。それを全て零旗で叩き落とし、牙也は春輝に向かって言い放つ。

 

 牙也「随分と堕ちたもんだなぁ……その強さを手に入れる為に、遂に悪魔にまで魂を売ったか」

 春輝「ヒャハハハハハ、悪魔だろうが何だろうが、結果俺が何になろうが関係ねぇ!!この圧倒的強ささえ手に入れば充分なんだよ!!」

 牙也「この大馬鹿が……!」

 

 牙也は内心イラつきながらも、冷静を保ちながら攻撃を続ける。春輝が振るってくるソニックアローを零旗で弾き、斬撃を受け止め、飛んでくる矢を叩き落とし、カウンターで零旗を打ち据える。しかし牙也はこれを繰り返している内に、妙な違和感を覚え始めた。

 

 牙也(くっ、何だ……?体が異様に重く感じる……それに俺の攻撃が奴に効いている風にも見えないし、何より奴の攻撃を受けると、俺の体に痛みが走る。確実に防いでいる筈なのに……どういう事だ?)

 

 

 

 

 

 

 コウガネ「……気づき始めたか?」

 

 違和感によって牙也の表情が微妙に変わったのを、後ろでオーバーロード達と共に観戦するコウガネは見逃さなかった。すかさずコウガネは春輝にテレパシーに似た方法で指示を出す。春輝はそれを理解すると、牙也に向けて怒涛の連続攻撃を開始した。

 

 コウガネ「あと少し……あと少しで、私の野望は達成される……!葛葉紘汰によって阻止された私の野望が、今この世界において、遂に果たされるのだ……!」

 

 コウガネは狂った笑みを浮かべながら、二人の戦いを静観する。

 

 

 

 

 

 

 さて、ここでコウガネについておさらいしておこう。

 コウガネーー彼の出生は遥か昔、かつてのフェムシンム、つまりロシュオ達が知恵の実を巡っての殺し会いに発展してほとんどが滅びるより前まで遡る。フェムシンムのとある科学者が、人工的に知恵の実を作れないか、と考えて実験をしている途中に、その結果として生まれた人工生命体ーーそれがコウガネである。

 まだフェムシンムが大勢生きていた当時、知恵の実は最後まで戦って勝ち残った一人だけが手に入れられる物であった。これに目を付けたコウガネは、自身を完全な存在に昇華せんとする為に、自身の力を使ってフェムシンム達の闘争心を煽り、結果知恵の実を巡ってのフェムシンム同士の殺し合いに発展させた。しかしあと一歩という所でとあるオーバーロードによって封印され、一端は眠りについた。

 しかし時は流れ、この出来事が記された碑文を発見し、これに則って人工的に知恵の実を作り出そうとしたある科学者がその調査を行っている最中、何らかの要因でその封印は解かれてしまった。そして復活したコウガネは自身の力を使って今度は人間の闘争心を煽り、それによって得たエネルギーを収束させる事で知恵の実を完成させ、元の世界を滅ぼし、新たに世界を創って自らが神になろうとした。が、その野望は自らを封印したオーバーロードの助けを得た葛葉紘汰達伝説のアーマードライダー達に阻まれて一度倒され、その後力を蓄えて再び復活したが、またも葛葉紘汰達に野望を阻まれて倒され、コウガネは完全に消滅したように見えたのだがーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在に戻る。そのコウガネは戦闘前、目の前で牙也と戦っている春輝にこっそりと『邪悪の種』を植え付けていた。この邪悪の種は、植え付けた者の闘争心を煽る効果がある。フェムシンム同士の殺し合いの時も、コウガネはこれを使ってフェムシンム達を滅びの未来に誘導したのだ。そして封印から目覚めた時も、この邪悪の種をアーマードライダー達に植え付ける事で闘争心を煽り、戦いを誘発させる事によって吸収、力を蓄えた。

 

 コウガネ「行け、私の忠実なる尖兵よ……勝って、私に黄金の果実を献上するのだ……!」

 

 そして今、その邪悪の種が春輝に植え付けられ、力が着々とコウガネに蓄えられている事に、植え付けられている春輝を含めた全員は気が付かない。何せ牙也達にはコウガネの情報など一つもないし、デェムシュ達オーバーロードはコウガネによって呼び出された意志を持つ人形のようなものなので、コウガネの事など知る由もないのだから当然である(牙也に関しては、名前だけはロシュオから聞いている)。そんな事露も知らないまま、二人は武器を打ち合っている。

 

 春輝「クヒャハハハハハ……!!力がみなぎる……心が震える……魂が満ちる……!!これだぁ……俺は、これを待ってたんだよぉ……!!」

 

 そんな訳の分からない事をブツブツ言いながら、春輝は狂った機械のように黒いソニックアローを振り下ろす。零旗で受け止める牙也だが、その表情は苦悶のそれであった。

 

 牙也(くそっ、どうなってやがる?受け止める度に体に痛みが走る……まさか、攻撃が貫通しているのか……?だとしたらこれ以上奴の受け止めるのは危険だ……弾くか避けるのに徹しないと)

 

 やむなく牙也は攻撃回避に徹せざるを得なくなった。春輝の攻撃を受け止めるのではなく弾いていなし、隙有らば零旗を振るって黒い炎を飛ばす。しかし春輝の怒涛の攻撃に防戦一方になる。

 

 箒「牙也が押されている……!」

 

 そしてレデュエによって蔦の檻に閉じ込められた箒達も、牙也が防戦一方になりつつある事に気づき始めた。

 

 千冬「馬鹿な……春輝がそこまで強くなっていたのか……?それとも何か理由があっての事か……?」

 ザック「いずれにしても、このままじゃ不味いのは見れば分かる。ここから早く脱出をーー」

 一夏「それは無理だ、ザック」

 ザック「あ?何でだよ?」

 一夏「この蔦、相当の強度がある。俺や千冬姉の攻撃が効かなかった程にな」

 

 一夏はスターカリバーで蔦をバシバシ叩きながら言う。

 

 スコール「斬れなかったの?不味いわね……私とザックの武器は殴打系統だからそもそも効かないでしょうし……」

 箒「牙也に何とかしてもらうしか……くそっ!」

 

 箒は地面を殴って悔しがるが、どうにもならない。そうこうしている間にも、春輝の攻撃は激しさを増していく。猛攻に押され、やがて牙也は箒達のいる蔦の檻にまで後退させられた。

 

 箒「牙也ッ!!」

 牙也「大丈夫だ……!もう少しだけ、待ってろ……!」

 

 《火縄名冥DJ銃!》

 

 春輝の猛攻をなんとか押し返し、牙也は火縄名冥DJ銃をもう一度呼び出し、腰に提げた無双セイバーと合体して大剣モードにした。そして再び春輝と打ち合う。

 

 春輝「へッ、そんな単調な攻撃で俺を倒せると思ってんのかァ?だとしたらそれは大きな検討違いだぜッ!!」

 

 《ダークネスエナジースパーキング!》

 

 春輝はシーボルコンプレッサーを二回押し込んで、黒いソニックアローにエネルギーを溜める。負けじと牙也もゼロロックシードを火縄名冥DJ銃にロックする。

 

 《ロック・オン》

 

 《一十百千万億兆・無量大数!!》

 

 牙也「ぜやぁッ!!」

 

 《ゼロチャージ!》

 

 そして大剣を春輝に向けて振るい、紫の斬撃を飛ばした。対して春輝も黒いソニックアローを振るって黒い斬撃を飛ばした。二つの斬撃がぶつかり合いーー

 

 

 

 

 

 

 いや、斬撃同士が触れた途端、牙也の飛ばした斬撃だけが消滅した。

 

 牙也「攻撃が打ち消された!?」

 春輝「詰めが甘かったな雑魚がァ……終わりだァ!!」

 牙也「しまっーーぐああああああ!?」

 

 勢い止まらず飛んできた斬撃をもろに受け、牙也の変身は解除されて地面を数回転がって蔦の檻にぶつかって止まった。

 

 『牙也!!』

 

 箒達が声をあげるが、牙也は大ダメージの為か動く事も話す事も儘ならない状況に陥っていた。必死に何か言おうとしているが、声が出ない。そうこうしている間に春輝が近づいてきて、牙也の首を掴んで持ち上げた。その右手には何かが握られている。

 

 春輝「ヒャハハハハハ……無様な姿だなぁ、お前。ま、俺にとっちゃどうでも良いがな。さあて……頂いていくぜ!!」

 

 春輝はそう言って、右手に握った何かを牙也の心臓目掛けて突き刺した。その途端、牙也の体から紫電が発生し、エネルギーのようなものが牙也の体から溢れてきて、春輝が右手に握るそれに吸収されていく。やがてその全てが吸収されると、春輝はぐったりして動かなくなった牙也の体を放り捨て、手に持ったそれをマジマジと見つめる。それは、様々なフルーツが彩られた鍵の形のロックシードであった。

 

 春輝「クヒャハハハハハ……遂に、遂に完成だァ!なぁコウガネ!遂に完成したぜ、なぁ!!」

 

 春輝は高らかに笑いながら変身を解除し、コウガネに走り寄る。そしてその鍵形のロックシードをコウガネに見せた。

 

 コウガネ「これか……遂に、遂に果たされるのか……!私は遂に、神になれるのか……!!」

 

 コウガネはそれを手に取り高らかに笑う。そして、

 

 コウガネ「やった……無事に完成したぞ、神へと続く道が……!漸くだ……漸く果たされるのだ……!!ハハハ、感謝するぞ、織斑春輝。私はこれを手に入れる為にお前に力を貸したのだ……よくやってくれた!!」

 春輝「ヒャハハハハハ、礼なんかいらねぇよ、それより力は!?俺に分けてくれるんだよな、その力を!!」

 コウガネ「ハハハハハ、勿論分かっているさ。お前にも勿論授けようーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 『死』というプレゼントを、な」

 

 

 

 そしてコウガネ以外のその場にいた全員が気づいた時、春輝の腹部には、いつの間に呼び出したのか、剣が突き刺さっていた。

 

 春輝「……ぁ…………なん、で……?」

 コウガネ「ふん。所詮お前も私の駒の一部であった、という事だ。お前の役目は終わった、とっとと失せろ」

 

 コウガネは剣ごと春輝を放り投げた。地面に数回バウンドして、春輝の体は蔦の檻の前で止まる。

 

 千冬「春輝……この、大馬鹿者が……!」

 

 変わり果てた弟の姿に、千冬はそう吐き捨てながらも、身内たる弟にひっそり涙する。

 

 コウガネ「さぁ……今日の今こそ、新世界誕生の瞬間となるのだァ!!頭を垂れて屈せよ人間!!これが、神の力だァァァァァァァァ!!」

 

 コウガネはそう叫んで、鍵形のロックシードを自身の心臓に突き刺す。と、凄まじい程の紫電が発生して辺りを火の海に変え、コウガネの体は段々と異形のそれと変化していく。また、近くにいたオーバーロード達も粒子状になってコウガネへと吸収されていく。レデュエが吸収された事で蔦が消え、それにより何とか動けるようになった箒達は、その様子を呆然としながら見つめる。やがてコウガネの体は、巨大で炎を纏った馬の姿になった。

 

 コウガネ『我コソ新世界ノ神ナリ!マズハココニイル貴様等カラ蹂躙シ、世界ソノモノヲ我ガ手デ創リ直ストシヨウカ!!』

 

 コウガネーーいや、馬の姿の異形は、手始めに火球をあちこちに吐き始めた。

 

 スコール「不味いわね……!全員回避、回避ーーーーっ!!」

 

 スコールがそう叫ぶも、火球の着弾によって辺りは火の海に包まれ、箒達は炎の中に呑み込まれたーー。

 

 

 

 





 力を奪われ戦闘不能に陥った牙也、牙也の力を手に入れて蹂躙を始めようとするコウガネ、それに抗おうとする箒達……成す術は果たしてあるのかーー?


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