IS×仮面ライダー鎧武 紫の世捨て人(完結)   作:神羅の霊廟

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 始まります。




第73話 語ラレル真実(前編)

 

 「ふぅ……やれやれ、ようやく到着したよ」

 

 俺は今、俺の家族の墓の近くまで来ている。まだ夜が明けない時間から学園を出て、電車とタクシーを乗り継いでここまで来た。ちなみに学園からここまでおよそ三時間程掛かった。とある県の山奥の開けた場所に束さんが新たに建てた、俺の家族の墓。俺の予想が正しければ、ゼロのーー母さんの言っていた場所ってのは、ここで間違いない。

 

 ゼロ『葬送の地へ行きなさいーー』

 

 葬送とは確か、死体の埋葬を見送る事だった筈。つまり母さんが言いたかったのは、死体の埋葬をする場所=墓。そう、俺の家族が埋葬されている墓に来いと言いたかったんだ……多分。

 

 「確信は無ぇが、多分ここで合ってる筈だ。だが母さんはなんでここに来いと言ったんだ……?」

 

 ……まあ実際に行ってみれば分かる話か。俺は墓に続く山道をズンズンと登っていく。

 

 

 

 

 

 そうして山道をひたすら登ること十五分。ようやく開けた場所に出た。そこには俺の家族の墓がポツンと建っており、辺りは雑草で覆われている。と、

 

 「ん?あれは……」

 

 墓の前に誰かが立っているのが見えた。大きく開けた場所故に、両手に花束を持ってそこに立っている人物が黒のスーツを着た男である事はすぐに分かった。敵か、それとも味方かーー俺は慎重にその男に近づいていく。男は俺に気づいていないのか、もしくは気づいていないふりをしているのか、振り向こうとしない。俺が男のちょうど真後ろに立つと、男は花束をその場に置いた。

 

 「あんた、何者だ?」

 

 俺は男にそう問い掛ける。

 

 

 

 

 

 

 ??「……よく来たな」

 

 

 

 

 

 「っ!?」

 

 男の声を聞き、俺は思わず後退りした。何故なら俺は、その声に聞き覚えがあったからだ。いや、聞き覚えがあったという表現は似つかわしくないな……間違える訳がない、今の声を俺が誰かと間違えるなど……。

 俺が身構えていると、男は俺がここに来るのを待っていたかのようにゆっくりと振り向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……父、さん……?」

 

 

 

 

 振り向いた男は、紛れもなく、俺の父だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「……起きて。早く起きて、お姉ちゃん」

 「う……ううん……?」

 

 誰かに頬をプニプニとつつかれて、私は意識を取り戻した。重い瞼をゆっくり開けると、ぼんやりとだが先程の少女の顔が目の前にあった。

 

 少女「お姉ちゃん……起きた?」

 「……ここは?」

 

 体を起こして辺りを見回す。そしてここが何やら真っ白で何もない空間である事が分かった。

 

 少女「ここは、私の精神世界。見ての通り、何もない真っ白い世界だよ」

 「精神、世界?つまり、お前の中に私はいる、という事か?」

 少女「うん、そうだよ」

 「……何故私をここに連れて来た?お前は一体何者なんだ……?」

 少女「これからそれを全部話すよ。この世界とヘルヘイムの森が繋がった理由も……牙也お兄ちゃんの事も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「父さん、だよな……?なんでだ……なんで父さんが生きてるんだ!?父さんはあの時死んだ筈だ!」

 準也「ああ、確かに私はあの日に死んだよ。だが……私の遺体をお前は確認したのか?」

 「それは……」

 

 そう言われて俺は口ごもる。そりゃそうだ、俺は父さんの遺体を確認していない。ヘルヘイムの森から戻った時、俺は一番に実家に関するニュースを探したが、政府に隠蔽されたのか何も見つからなかった。だから今まで俺は父さんは死んだとばかり思っていた。ひっそりと生きていたのか……

 

 準也「まぁ当時のお前は、私が生きているなどと考える程心身の余裕など無かったろうから、それも仕方ないか。だが……茜の遺した言葉だけで、よくもまあここが分かったな」

 「ああ……言葉の意味に辿り着いたからすぐに分かったけど、ある意味賭けだったよ……で、なんでその事を知ってるんだ?」

 準也「本人から聞いたからな」

 「ああそうかよ」

 

 別に驚く程の事でもない、父さんが生きていたと言うのなら、もしかしたら何処かでこっそり母さんに会っていた可能性が高いからな。

 

 「んで?母さんはなんで俺にここに来るように言ったんだ?父さんなら何か知ってるんじゃないのか?」

 準也「ああ、勿論知っているとも。どうやら、お前に芝居の全てを話す時が来たようだな」

 「芝居の全て?何の事だ?」

 準也「順を追って話す。まずこの世界とヘルヘイムの森が繋がった理由だが……それは牙也、お前という存在に理由がある」

 「俺に……?どういう事だ?」

 準也「今だからこそ話そう。牙也……お前は、お前の正体はーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 知恵の実ーーつまり、黄金の果実そのものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「な……!?牙也が、黄金の果実、だと……!?」

 

 私は牙也の妹だと言う少女から語られた真実に驚きを隠せずにいる。少女は私の驚いた表情を見て辛そうな表情になり、思わず後ろを向いた。

 

 少女「うん。牙也お兄ちゃんが小さい頃、体にヘルヘイムの果実を注射された事、お兄ちゃんから聞いてる?」

 「あ、ああ、それは聞いた」

 少女「その時注射したのが、黄金の果実の一部なの。それを注射した事で、お兄ちゃんの体の中で眠ってた黄金の果実が目覚めて、更には新しいオーバーロードが生まれたの。それがシュラさん」

 「シュラは、黄金の果実から生まれたのか……ちょっと待て、何故牙也の体に黄金の果実が混じっていたのだ?」

 少女「それはねーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 準也「まずお前の体にある黄金の果実というのは、本来無い筈の『二つ目』の黄金の果実なのだ」

 「二つ目……?」

 

 つまりあれか。黄金の果実は二つ存在していたって事か?

 

 準也「うむ。そして、一つ目の黄金の果実は今、葛葉紘汰が所持している」

 「葛葉、紘汰……?誰だそれ?」

 準也「数百年前……とある世界にてアーマードライダー鎧武に変身して戦っていた人間だ。彼は自分が生きていた世界を救う為、私の妻が託した黄金の果実を自ら食す事でオーバーロードに覚醒し、その世界に跋扈していたインベスを連れてどこか別の世界へと旅立った……」

 「つまりその人は、元人間で現オーバーロードなのか」

 準也「そうだ。そしてヘルヘイムの森は黄金の果実を失った事で消滅する……筈だった」

 

 筈だった?何かあったのだろうか……?

 

 準也「が、そのヘルヘイムの森に、新たに黄金の果実が実ってしまった。しかもそれは、葛葉紘汰が黄金の果実を食するより前の事だった……つまり、黄金の果実が二つも存在する事になってしまったのだ」

 「最初一つだと思っていた黄金の果実が二つ……一つは葛葉って人が食べ、もう一つが俺の体に……」

 準也「そういう事だ」

 「じゃあなんで俺の体に黄金の果実が混じっていたんだ?」

 準也「それはな……私がこの世界に流れ着いた事が、全ての始まりだったのだ」

 

 俺は父さんの言葉『この世界に流れ着いた』という部分に妙に反応した。

 

 「流れ着いた……どういう意味だ!?あんたはあれか、転生者か何かか!?」

 準也「違う。その事についてはまた後で話すが、まずは私達家族の秘密を話そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女「元々私はお母さんの連れ子でね、お母さんは私が物心ついた時にお父さんと再婚したんだけど……それより少し前に、お母さんは子宮癌にかかっちゃったの。それでお母さんは、二度と子供が産めない体になっちゃって……」

 「そうか……ちょっと待て、だとしたら牙也は誰から産まれたのだ?ゼロから産まれたのではないのだとしたら、お前の父は以前誰かと結婚して、その人が牙也を産んでいたのか?」

 少女「ううん、そうじゃないの。実はね、お兄ちゃんの出生の真実こそ、お父さんがこの世界全体を舞台とした芝居を演じた理由なの」

 「牙也の出生……?」

 少女「ここから先の話、お姉ちゃんは覚悟して聞ける……?覚悟が無いなら私は話さないけど……」

 

 すると少女は私に向き直ってからそう聞いてきた。勿論私の答えは一つだ。

 

 「……いや、聞かせてくれ。牙也と共に戦う者として……何より、牙也を愛する者として、牙也の真実を知りたい」

 少女「……分かった。それじゃ話すね」

 

 少女は意を決して話し始めた。

 

 少女「お兄ちゃんなんだけど、実はねーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間としてじゃなく、最初からオーバーロードとして生まれたの。お父さんが作った人間の入れ物に、黄金の果実を心臓にして入れて誕生した、人間そっくりの人形……それがお兄ちゃんの正体」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お、俺が……俺自身が、黄金の果実、だと……!?」

 

 そんな馬鹿な……!俺は……俺は最初から、人間じゃなかったのか……!?馬鹿な、そんな筈は……!

 

 準也「無い、と果たして言い切れるか?ではお前の記憶の中に、人間としての記憶が残っているか?」

 「当たり前だ、残ってるさ!」

 準也「じゃあどんな記憶があるか具体的に言えるか?」

 「え?えっと……」

 

 俺はそう言われて必死に思い出す。が、

 

 「なんでだ……なんで思い出せない……?なんで一つも、頭の中から出てこない!?」

 

 人間としての記憶が、一切出てこない。出てくるのはどれもオーバーロードとしての記憶ばかり……なんでだ……なんで思い出せない!?頭の中で辛うじて思い出せるのは、インベスに関する事ばかり……人間としての記憶、つまり箒達と一緒にいた時の記憶が、何故か一切出てこない。なんでだ!?今までこんな事無かったのに……!

 

 準也「そういう事だ。オーバーロードに限らずインベスとなったら最期、人間としての記憶など灰や塵程度の物になる。お前に人間としての記憶がなくなっているのは、お前が最初から人間ではなかったという事に他ならない」

 「嘘だ!」

 準也「嘘ではない!現にお前を生み出した私が言うのだ、間違いなどない!!」

 「生み出しただと!?あんたは俺を何だと思ってやがる!?」

 準也「勿論お前を息子だとーー」

 「だったらなんで『生み出した』なんて表現した!?あんたは俺の事を物扱いしてたのか!?あんたにとって俺は家族でもなんでもなかったのか!?」

 準也「牙也……」

 「なんでだよ……なんで人間として産んでくれなかったんだよ……!なんであんたは俺を作ったんだよ……!」

 

 あまりに衝撃的過ぎる真実に、俺は泣く事しか出来ない。けど父さんは何も言わない。いや、何も言えないのだろう……

 

 「答えろ……なんで俺を作った?なんで俺にこんな虚し過ぎる運命を託した!?」

 準也「……コウガネ」

 「……コウガネ?」

 準也「奴から……コウガネから、黄金の果実を守る為だ」

 「おい、誰なんだよ、そのコウガネって」

 

 すると父さんは「はぁ」と息を吐いてから話し始めた。

 

 準也「コウガネ……奴ははるか昔、あるオーバーロードが人工的に知恵の実ーー禁断の果実を作ろうとした時に生まれた人工生命体だ。かつての人類ーーフェムシンムは知恵の実を手に入れる為に戦いを始めた。その裏でコウガネは彼らフェムシンムの闘争心を煽る事で、結果的に自らの手を汚す事なく彼らを滅ぼした。しかし奴はあるオーバーロードによってヘルヘイムの奥深くに封印されていたのだが……何の因果か奴は復活を果たした。自らである人工的な黄金の果実を完成させ、先程言った葛葉紘汰が生きていた地球を滅ぼし、新世界を作って自らが神になろうと画策してな。しかしそれは葛葉紘汰達に阻まれ、奴は消滅した、かに見えた」

 「……また復活したのか?」

 準也「そうだ。再起を志したコウガネは手始めにかつてのアーマードライダー変身者に襲い掛かり、その力を見せつける事で人々を恐怖に陥れた……が、唯一残っていたアーマードライダー龍玄と、加勢に現れた葛葉紘汰によってまたも阻まれ、奴は今度こそ消滅……したかに見えたのだが……」

 

 父さんはここで一旦話を止め、呼吸を整えた。そして俺に向き直ってから続きを話し始めた。

 

 準也「奴は、またもしぶとく生き延びた。自らの力の一部と、力の一端であったあるロックシードを犠牲にしてな。そして奴は魂だけの存在となってこの世界に流れ着いた」

 「な……!?」

 準也「かつてヘルヘイムを支配していた私は妻からそれを聞き、急ぎ奴を追い掛けてこの世界にやって来た。そして奴の目的が、二つ目の黄金の果実を手に入れる事だと知り、奴より先回りして黄金の果実を回収し、茜に事情を打ち明けて協力を仰ぎ、カモフラージュの為に自作の人形に入れて、お前を生み出した……これが全てだ」

 「ヘルヘイムを支配……?父さん、あんたまさか……!」

 準也「気づいたか……そうだ、私はお前と同じ、オーバーロードなのだ」

 

 そう言うと、父さんの体がみるみる内に変化し、呪術師に似た白い見た目の怪物になった。顔付近からはイカの触手のようなものが伸びている。

 

 準也「私の真の名は、ロシュオ……お前の生みの親であり、かつてのヘルヘイムの王だ」

 

 

 

 

 

 

 

 





 牙也の記憶は現在、インベスやアーマードライダー、それにヘルヘイムに関する記憶だけが残り、人間と同じような生活をしている時の記憶が全て抜け落ちた状態(名前等の固有名詞はちゃんと覚えてる)。ますますオーバーロードに近づいている証拠でもある。

 さて準也ーーロシュオの暴露はまだまた続きます。


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