IS×仮面ライダー鎧武 紫の世捨て人(完結)   作:神羅の霊廟

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 始まります。




第70話 君ハ一人ジャナイ

 

 牙也「くぁ~……疲れた~」

 箒「そうだな、久しぶりにあんなにはしゃいだな、私達」

 

 デートもあっという間に終わり、牙也達二人は学園寮の自室に戻ってきた。牙也は部屋に入ったと同時に自分のベッドに倒れ込み、箒も自分のベッドに座り込む。

 

 牙也「今まであちこちの異世界を見て回ってたから、今日みたいに思い切り羽を伸ばす事なんて無かったからな~」

 箒「何処か異世界に向かう度に何かしらバトルしていたからな、休めないのも当然か」

 

 牙也は寝転んだ状態から天井を見つめている。箒はそんな牙也を見つめていたが、ふと牙也の顔を見ると、多少だが悲しそうな表情である事に気づいた。すると箒は、自分のベッドから牙也のベッドに移り座り直した。

 

 牙也「……どした?」

 箒「……まったく、お前はまだ私達の事を信じきれてないのか?」

 牙也「……何の話だ?」

 箒「惚けるな、お前とどれだけ一緒にいたと思っている?お前の表情がいつもと違う事くらい、良く見ればすぐに気づくさ」

 

 牙也はそれを聞いて「……はぁ」と息を吐き、起き上がってベッドに座り直した。

 

 

 

 

 牙也「…………ゼロがーー母さんが、死んだ」

 

 

 

 

 箒「……え?ゼ、ゼロが死んだ……?」

 

 その言葉を箒は信じられずにいた。だが牙也のその悲しそうな表情は、それが事実である事をはっきりと示している。

 

 牙也「さっきゲーセンで、ゼロの秘書に会ってな……何故死んだのかまでは明かさなかったけど、恐らく殺されたんだろうな。誰かに裏切られたか、もしくは恨まれている奴によって殺られたか、それとも……」

 箒「……ゼロが持つ、黄金の果実のロックシードが目的か?」

 牙也「Exactly(その通り)。まぁ十中八九ロックシードが目的だろうがな」

 

 牙也はそこまで言って頭を抱える。

 

 牙也「ったくあの野郎……ヘルヘイムの件が終わったら数発殴ってやろうかと思ってたのによ……先に野垂れ死にやがって。まぁ良いや、一番の強敵が消えてくれたからな……」

 箒「……それは本心か?」

 牙也「……」

 

 箒は真剣な表情で牙也にそう聞くが、牙也は黙ったまま何もしようとしない。

 

 箒「……本心かと聞いているんだ!」ガッ

 

 痺れを切らした箒は、思わず牙也に掴み掛かる。しかし牙也は抵抗する事もなく、掴んできたその手に自分の手を重ね、箒を見据えた。

 

 牙也「……本心だと思うか?」

 箒「……!」

 

 牙也のその言葉は、軽く、だが重く、箒にのし掛かってきた。その目は涙に濡れ、雫が一滴こぼれ落ちる。

 

 牙也「……本当に、これが本心だと思うか?敵であったとは言え、親だぞ、家族だった人なんだぞ……?そんな人が死んで、清々しただなんて、そんな事が易々と言えると思うか……?」

 箒「い、いや……だが今牙也はーー」

 牙也「ああ、今確かに俺はそう言った……いや、そう言わなきゃいけなかった……そうしなきゃ俺はーー」

 

 そこまで言った牙也の口を、思わず箒は自分の人差し指を当てる事で閉じさせた。箒のその目は牙也と同じく涙に濡れていた。

 

 箒「もう言うな、それ以上は……」

 牙也「箒……?」

 箒「……」

 

 キョトンとする牙也を箒はそっと抱き締めた。

 

 箒「……今この部屋には私とお前だけしかいないんだ。牙也……全部吐き出せ。お前のその心の奥底に溜め込んでいた物を全て、私にぶつけてくれ。お前の心がそれで少しでも癒されるのなら……」

 牙也「箒……」

 箒「苦しかったのだろう……?辛かったのだろう……?実の親に刃を向ける事が……すまなかった、お前の本心も分からずにあんな事を言ってしまって……だから……」

 

 箒は思わず牙也を抱き締めている腕の力を少し強めた。すると牙也も箒を抱き締め返した。

 

 

 

 牙也「……バカ母が……勝手にこの世界で暴れるだけ大暴れしておいて、さっさと逝っちまいやがって……!俺の本心も知らないで、勝手にグダグダグダグダと……!俺があんたの無事を喜んでないとでも思ってたのか……!?寧ろ怒ってるとでも思ってたのか……!?」

 

 牙也「あんたが生きていると分かった時、俺は内心嬉しかったんだよ……!それと同時に恨んだよ……!なんで敵として戦わなきゃいけないんだって……!どうしてお互いに刃を交えなきゃいけないんだって……!そんな俺の気持ちが、あんたに理解出来るか……!?それこそ敵として戦った時間は短かったけど、それでも俺の心を抉るには充分だったよ……!」

 

 牙也「しかも少し前に共闘したと思ったら、すぐに死んだだと……!?ふざけんなよ!!勝手にこの世界を混乱させておいて、謝罪の一つもせずにさっさと逝っちまいやがって……!」

 

 牙也「寿命ならともかくとして……!殺されただと!?あんたはそれくらいでくたばる奴じゃないだろう……!なんで先に逝っちまうんだよ……!なんで俺を連れて行ってくれなかったんだよ……!」

 

 

 

 

 

 牙也「あんたはまた、俺を一人にするのかよ……!!馬鹿野郎……本当にあんたは馬鹿野郎だよ……!!うああ……うわあああああ!!」

 

 

 

 

 

 今まで我慢して心の奥底に溜め込んでいた思いを全て吐き出し、牙也は今まで見た事ない程に泣き喚いた。箒はそんな牙也をただ優しく抱き締め続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから小一時間後。牙也は泣き疲れたのか眠ってしまい、箒は牙也を膝枕していた。牙也の目は散々泣き喚いたせいか赤くなっており、まだ少しだが涙が出てきている。

 

 箒「……ずっと我慢していたんだな。すまない牙也、早くにこうしていれば……」

 

 箒は自分の観察力の無さを嘆き、謝罪の言葉を呟く。と、

 

 本音『ほーちゃーん、いるー?』

 簪『篠ノ之さん、今大丈夫……?』

 

 部屋の外から本音と簪の声が聞こえた。

 

 箒「すまない、今動けないんだ。鍵は開いているから、勝手に入ってきてくれ」

 

 箒が外に向けてそう言うと、ドアが開いて本音と簪が入ってきた。

 

 本音「ほーちゃーん、今日も牙っちと一緒にーーってあらら……」

 

 部屋に入ってきた本音と簪が一番に目にしたのは、目を赤く腫らして眠っている牙也と、牙也を膝枕している箒であった。

 

 簪「牙也さん、目が真っ赤……喧嘩したの?」

 箒「喧嘩……ではないな。胸中を全て吐露した、とでも言おうか……」

 本音「トロ?」

 簪「そっか……牙也さん、大丈夫なの?」

 箒「少しショックが大きいくらいだな……溜め込んでいた物を一気に吐き出したからな」

 

 そう言って箒は牙也の頭をそっと撫でる。本音は何の話なのかさっぱり分からないようで首を傾げている。

 

 箒「それで二人とも、用事があって来たのか?」

 簪「うん。実はね……」

 

 簪が箒に耳打ちすると、箒は「ほうほう」と軽く相槌を打った。

 

 箒「なるほどな。それが牙也の慰めに少しでも役立つなら、私は協力を惜しまないぞ」

 本音「ありがとね~」

 

 千冬『篠ノ之、いるか?』

 

 と、また部屋の外から声が聞こえた。今度は千冬の声だ。

 

 箒「あ、はい!すぐ行きます!悪いが二人とも、牙也を見ていてくれないか?」

 簪「分かった……いってらっしゃい」

 本音「分かったのだ~」

 

 箒は牙也の頭をそっとベッドに降ろすと、静かにベッドから降りて部屋を出ていった。残された二人は、未だ眠っている牙也をじっと見つめていた。

 

 簪「牙也さん、色々溜め込んでいたんだね……」

 本音「水臭いよ~、たまには私達を頼ってくれても良いのに~」ブー

 簪「私達にあんまり迷惑を掛けたくなかったんじゃないかな……牙也さん、普段から私達に出来ない事、沢山してたし……」

 本音「むぅ~……それでも少しくらいは私達を頼っても良かったんじゃな~い?」

 簪「そうだね……今の私達に、何か出来る事って無いかな?」

 本音「私達に出来る事……そーだ!」

 

 すると何を思い付いたのか、本音は眠っている牙也にガバッと抱き付いた。

 

 簪「ほ、本音……!?牙也さん起きちゃうよ……!」

 本音「いーの!たまにはこんな悪戯するなりして、適度に気を抜かなきゃ駄目でしょ~」

 簪「それで気が抜けるのかな……」

 本音「じゃあかんちゃんは何もしなくて良いの?ほーちゃん今いないから、私が牙っち独り占めしちゃうよ?」

 簪「むぅ……じ、じゃあ私は……こう!」

 

 簪は牙也の頭を持ち上げると自分の膝に乗せた。膝枕だ。

 

 簪「本音には負けたくない、から……!」

 本音「私だって~!」

 簪・本『むぅ~!』

 箒「まったく、牙也もモテモテだな」

 

 二人が見てて可愛く思える表情で睨み合いをしていると、いつの間にか箒が戻ってきていた。

 

 本音「あ、お帰り~。牙っち堪能させてもらってるよ~」

 簪「あ……お、お帰りなさい……」

 箒「大丈夫だ、簪。私は気にしてないからな。それより二人とも、そろそろ行かなくて良いのか?」

 

 箒にそう言われて二人が時計を見ると、既に時刻は午後6時を回っていた。

 

 簪「あ……もう行かなきゃ、時間が……」

 本音「そーだね。じゃあほーちゃん、予定通りお願いね~」

 箒「ああ、任されたぞ」

 

 二人はベッドから降りると牙也の頭を一撫でしてから部屋を出ていった。二人が部屋を出たのを見送り、箒はベッドに座り直す。

 

 牙也「……んむ……」

 

 と、さっきので目を覚ましたのか、牙也が体を起こした。

 

 箒「もう起きたのか?もう少し寝てて良かったのだが……」

 牙也「あまり寝過ぎると、かえって疲れるからな……ごめんな、色々八つ当たりして」

 箒「気にするな……少しはすっきりしたか?」

 牙也「まぁな……」

 

 牙也は頭を軽く掻き、箒の肩に寄り掛かる。箒はただ「ん」とだけ言ってそれを受け入れる。と、牙也のお腹から「クゥゥゥゥ~」と音がした。

 

 牙也「……腹減ったな」

 箒「そうか。少し早いが、今日は食堂で食べないか?」

 牙也「賛成~……流石に今日は自炊する気力が無いわ……」

 

 こうして牙也は箒に伴われて食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒「……なぁ、牙也」

 

 食堂に向かう途中、箒は先ほどの事を気にしてか牙也に話し掛けた。

 

 牙也「なんだ?」

 箒「……私ではーー私達では、代わりにならないのか?」

 牙也「代わり……?ああ、家族の事か」

 

 牙也は少し考えてからこう言った。

 

 牙也「……分かんねぇ。俺にとって箒は恋人だし、学園の皆や束さん達も仲の良い友人みたいなもんだからな……家族の代わりになるか、と問われるとどうにも……返答に困るな」

 箒「……学園の皆という事は、簪と本音も友人という立場として見ているのか?」

 牙也「勿論あの二人の好意は気づいてるさ。けど俺は、まだ二人の本心に触れられてない。それに……お前の事もあるから、もし好意をはっきりと示されたとして、まだどう返答するか迷ってるんだ」

 箒「……返答に困るか、お前らしいな」

 

 箒はそう言って牙也の正面に立つと、その顔をじっと見ながら言った。

 

 箒「この際私の事は隅に置いておけ。お前自身がどうなのか、それをはっきりと二人に伝えれば良い。お前が決めた事なら、あの二人もちゃんと納得してくれるだろう」

 牙也「俺の……俺自身の……」

 

 牙也はその言葉にハッとした。

 

 牙也「……そうだな、そうだよな。ありがとう箒、少し心が晴れたよ」

 箒「それは良かった……さ、早く食堂に行くぞ、面白いものが見れるからな」

 牙也「面白いもの?っておい、待てって!」

 

 そう言って箒は先々廊下を進み、牙也は慌ててそれを追い掛ける。

 

 

 

 

 

 

 

 牙也「ったく、先々行きやがってからに……おーい、ほうーー」

 

 

 『ようこそ、IS学園食堂へ!!』

 

 

 食堂内に入った牙也を待ち受けていたのは、メイド服やら執事服やら、様々な服を身に纏った学園の生徒達。中には定番の黒の執事服の千冬や、胸をやたらに強調したメイド服の真耶等、教員や亡国企業のスコール達も混じっている。

 

 牙也「なぁにこれぇ?」

 千冬「学園の為に必死になって働いてくれている牙也を、たまには私達が労ろう、という事で集まってくれた有志達だ」

 牙也「ああそう……で、千冬さんと山田先生まで何悪乗りしてんの……」

 真耶「うう……織斑先生に強制的に着させられました……」

 M「私達まで着させられるとは……どうしてこうなった」

 オータム「あたしに聞くなそんな事!!」

 スコール「フフフ……案外楽しいわね、これ」

 

 真耶とオータムは恥ずかしさのあまり縮こまっており、Mは慣れない格好に頭を抱えるばかり。よく見ると奥の席では、赤のメイド服を着た鈴が一夏の世話をしており、一部の生徒が混じろうとしているが、その度に鈴の一睨みで追い返されていた。

 

 牙也「やれやれ……なるほどなぁ」

 箒「何がなるほどなんだ?」

 

 するとメイド服姿の箒が顔を赤らめながら隣に来た。牙也は箒の頭を軽く撫でながら言った。

 

 牙也「いや……俺なんかの為にこういう事を皆で平気でやってのけるあたり、ある意味ここの人達は家族みたいなもんなんだな……って思ってな」

 箒「なるほど、一理あるな……って、私のメイド姿には言及しないのか!?ある意味恥ずかしいんだぞこれ!!」

 牙也「おっと悪い悪い」

 

 牙也は箒にこっそり耳打ち。

 

 牙也(後で部屋でも楽しませてくれよな、その姿)

 箒「!?////」ボンッ

 

 箒の顔は一気に真っ赤になり、頭から湯気がわき出る。そんな箒を牙也がお姫様抱っこすると、他の生徒達がキャーキャー騒ぎ出す。

 

 牙也「さーて……取り敢えず飯と行こうかね!」

 『はい!!少々お待ち下さ~い♪』

 

 料理を運ぶ役目の取り合いになっている生徒達を見ながら、牙也は「ハハハ」と笑みをこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 牙也(……俺は一人じゃない。こんなにも俺の事を信頼してくれて、一緒にいてくれる人がいるから。だから……母さん。空の上から見守っていてくれよな)

 

 

 

 

 

 





 次回もお楽しみに!


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