IS×仮面ライダー鎧武 紫の世捨て人(完結) 作:神羅の霊廟
始まります。
監守「囚人番号96!とっとと起きろ!起床時間はとうに過ぎているぞ!」
春輝「……ちっ」
監守のうるさい声に春輝は起こされた。いつものように番号確認を行い、全員で朝食を食べ、運動場で体を動かすかもしくは作業室で様々な物をひたすら作る。そんな毎日に春輝は飽きていた。
春輝「あー、つまんねぇの。ったく、なんでこの俺がこんな地味な仕事をしなきゃいけねぇんだよ……面倒くさ」
この日春輝は作業室で椅子の組み立て作業を行っていた。木を組みただひたすらに同じ形の椅子ばかり作る毎日。まあこうなったのも全て春輝の自業自得なのだが、春輝は日に日に牙也達への恨みを募らせていた。
春輝「……なんとしてもここから抜け出して、あいつらに復讐しねぇと気が済まねぇ……が、まだなにも準備出来てないからな……」
『……おい』
春輝「……?」
不意に聞こえた声に顔を上げ、キョロキョロと周囲を見回すが、声の主であろう人物は見つからない。気のせいか、と思いそのまま作業を続けるーー
『……おい。お前だよ、お前』
春輝「!?」
やはり声が聞こえる。春輝が耳を澄ますと、その声は自身の心の奥底から聞こえてくる。怪しまれないよう、作業を続けながらその声に耳を澄ます。
春輝「……誰だ、お前は?」
『俺か?俺はな……お前の憎悪そのものだ』
春輝「俺の、憎悪?」
『お前、復讐したいって思ってるよな?その復讐心、俺に預けてみないか?』
春輝「なんだと……?お前に何が出来るってんだ?」
『そうだな……お前が今憎んでる奴を簡単に殺せる、と言ったら?』
声の主のその言葉を春輝が無視する筈もなく、
春輝「ハハハハハ……良いだろう、俺の復讐心、存分に使え」
『フッ……交渉成立だな。では少しの間準備をするから、それまで大人しく待っていろ。まずはこの生臭い監獄を出ねばならん』
春輝「ああ、分かったよ」
監守「囚人番号96!何をぶつぶつ言っている!?」
春輝「ああ、すみません。ここがちょっと上手くいかなくて……」
監守「何?ちょっと見せてみろ」
監守を上手くごまかし、春輝は心の中でせせら笑いを浮かべた。いよいよ牙也達に復讐が出来る、そんな喜びを心に隠し、春輝は作業を続けるのであった。
そんな単純作業を続けること、およそ二ヶ月経ったある日の夜。
監守「……」
いつものように監守が点呼の為に牢をチェックして回っていた時、何やら違和感を覚えた。いつもならブツブツ文句を垂れている春輝の声が、今日に限って全く聞こえないのだ。不審に思い春輝がいる独房を覗き込むと、既に寝ているのか春輝の後ろ姿らしきものがベッドにあった。
監守「珍しいな、奴が黙ってさっさと寝るだなんて」
不思議に思いながらも、この時はまだ「たまにはこんな時もある」というような考えでいた。監守は異常なしとしてそのまま独房から去っていく。
春輝「……よし、行ったな」
毛布にくるまっていた春輝が、遠ざかっていく足音を確認して顔を上げる。
春輝「おい、約束通り脱獄の手段を教えてくれるんじゃないのか?」
『フッ、まあそう急くな。焦らずともすぐに出してやる。俺の言う通りにすれば、必ずここから出る事が出来るからな。まずお前の右手を壁に付けろ』
春輝「こうか?」
ベッドから這い出た春輝は、言われた通りに右手を壁に付ける。
『それで、そのままゆっくりと右手を下にずり下げていけ』
春輝「こうか?」
春輝ぎ壁に付けた手をゆっくり下にずり下げていくと、なんとその壁にクラックが開いた。
春輝「こ、これは……!」
『どうだ、凄いだろ?後はここを通り抜ければ脱獄は完了だ……』
春輝「凄ぇ……!感謝するぜ!よし、すぐにここを通り抜けて……!」
『む……?一旦クラックを閉じろ、どうやら監守が戻ってきたようだぞ』
春輝「マジかよ……どうやって閉じれば良いんだ?」
『さっきの逆だ。今度は下から上へやれば良い』
春輝「こうか」
春輝は急いでクラックを閉じると慌てて毛布にくるまった。少しして、カツカツと足音を立てながら監守が独房の前を通り過ぎていった。
春輝「行ったか……?よし、今度こそ……!」
春輝は手順通りにクラックを開き直し、誰も見ていない事をドアの小さな覗き窓から確認した上で、クラックの前に立った。
春輝「はぁ~……ようやくあの地獄の日々からもおさらばか……!」
『フッ、良かったではないか。では、これから行ってもらいたい場所がある』
春輝「あ?んだよ、このままあいつらをぶっ殺しに行くんじゃないのかよ?」
『そう急くな。奴を倒す為の力を手に入れるだけだ』
春輝「へぇ……そう言う事なら、さっさと行こうぜ」
そう言って春輝はクラックに飛び込んだ。クラックがゆっくりと閉じていき、やがて独房には誰もいなくなったーー。
なお、この後に春輝の脱獄に監守が気づいたのは、朝の点呼の時間になる頃だったという。
春輝「んで?これから何処に向かおうってんだ?」
春輝がクラックを通って降り立ったのは、とある山中であった。木陰に腰を降ろし、声の主にそう聞く。
『ん?ああ、この先にある墓さ……そこに、目的の奴がいる』
春輝「へぇ……そうと決まれば、すぐに行こうぜ!」
『ああ、そうだな……そうと決まればーー
ちょっとお前の体を借りるぜ?』
春輝「は?」
と、春輝が糸が切れたかのように崩れ落ちた。がすぐに起き上がって、ある方向へと走っていった。
『フフフ……さて、何処にあるかーー
黄金の果実、そして、禁断の果実は』
次回もお楽しみに!