IS×仮面ライダー鎧武 紫の世捨て人(完結)   作:神羅の霊廟

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 始まります。




第65話 人デナクナル覚悟

 「……う……ううん……?」

 

 何か眩しい光が、俺の目に入ってくる。朝焼けにも似ているが、これはそれよりもう少し強めの光だ。何かと思いゆっくりと目を開けると、そこには眩しい程に青い空があった。背中や腕に草の感触がある。何処かの草原だろうか?そう考えて体を起こすと、そこは草原などではなく、どこか見覚えのある庭園のど真ん中だった。

 

 「ここ……確か、カンナがいた場所……?待てよ、確か俺はさっき……」

 

 俺は先程までに俺に起こった出来事を思い出してみる。確かあの時、俺はイチカと戦っていて、エグゼイドアームズを完成させてイチカを倒した。その後は……そうだ、突然剣が飛んできて箒と俺に……!

 

 「何処だ箒!?いるなら返事してくれ!箒ッ!」

 

 俺は周囲に向けて大きな声で箒の名前を叫ぶが、どんなに大声を出しても反応は何も返ってこない。ここには俺だけしかいないのだろうか?箒は大丈夫なのかな……?他に何か無いか周囲をもう一度見渡してみると、

 

 「あれは……確か、パーゴラって言ったかな……?待てよ、あれは以前ここに来た時は無かった筈だ。新しく追加されたのか……?」

 

 ともかく俺は、パーゴラまで行ってみる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パーゴラに入ると、そこはやはり白い壁と、パーゴラに合っているのかは微妙だが白い椿が辺り一面に咲いており、中央には白いテーブルが一つと椅子が四つ。その上にカップが四つとポットが一つポツンと置いてあった。中には何も無く、それらが使われていない事が分かる。

 

 「……誰かいるのは確かだな」

 

 カップやポットがあるのなら、ここには誰かが必ずいる。そう結論付けて、俺は一先ず誰かがここに入ってくるのを待つ事にした。そうして待つ事十分ーー

 

 

 

 

 「……誰も来ねぇ」

 

 

 

 

 誰一人として来る気配がない。

 

 「このままじゃ埒が明かないな……けどあてもないしな……このまま待つか」

 

 そう決めて俺はパーゴラの椅子に座る。

 

 

 

 ??「……待ってたよ」

 「ッ!」

 

 

 

 突然声が聞こえ、周囲の景色が歪み始める。やがて歪みが収まると、

 

 「箒!」

 箒「牙也!」

 

 箒が俺の正面の椅子に、残り二つの椅子になにやら仮面を被った二人組がいた。一人は癖のある黒髪に俺が着ているのと同じ黒一色の袴を着て、目も鼻も口もないのっぺらぼうな仮面を被っており、もう一人は白く染まった長髪に箒と同じIS学園の制服で、こちらものっぺらぼうな仮面を被っていた。

 

 ??「ようやく座ってくれたね。君が椅子に座るまでかれこれ十分前から待っていたよ」

 「……最初からいたって事かよ。声の一つや二つ掛けてくれれば良かったものを」

 ??「ごめんごめん。さて、全員揃った事だし、本題に入ろうか」

 

 仮面を被った男はそう言って、懐から何かを取り出した。真っ黒く汚れ、見るからに禍々しいオーラを醸し出すそれは、他とは明らかに違う四角いロックシードであった。するとそれを見た箒の顔色が変わった。

 

 箒「こ、これ……!何故お前が持っている!?」

 「箒、これを知ってるのか?」

 箒「ああ。以前クロトと共にノルンというバグスターと戦っただろう?その時にお前が使ったロックシードだ」

 「俺が?……覚えてないな」

 ??「まあ知らなくて当然だな。その時お前は、この『ゼロロックシード』に精神を乗っ取られていたからな」

 「ゼロ……ロックシード?」

 

 ここで女が初めて口を開いたが、俺はその女が言った名前に疑問を持った。そんなロックシード、俺は持ってないぞ?

 

 ??「ほら、シュラから貰った二つのロックシードがあっただろう?片方はザクロで、もう片方がこれなんだ」

 「ああ、そう言えば確かにシュラから受け取ったな……ってなんでお前シュラを知ってるんだ?」

 ??「シュラとは私達も接触しているからな、顔馴染みなんだ。それと、今お前達と共にいるカンナは、私達の仲間だ」

 箒「何!?」

 牙也「カンナがあんたらの……あんたら、なんでカンナを俺達の所に寄越した?何のために俺達を助けるような事をした?」

 ??「まあまあ落ち着いて。取り敢えず今は、このロックシードについて話すよ」

 

 そう言うと男はゼロロックシードを俺に差し出して言った。

 

 

 

 ??「このロックシードはね……君自身の力で生まれたロックシードなんだ」

 

 

 

 「俺……自身の?」

 ??「そう。君が今まで心に抱え込んでいた大いなる闇。常人なら既に押し潰されている程に大きく、重く、そして真っ黒い闇。それが具現化して、このロックシードは生まれた」

 「闇……」

 ??「本当ならこれは私が没収しておきたいのだが……そうもいかない。これは、君に返しておくよ」

 

 そう言って男はゼロロックシードを俺に差し出した。が、俺はそれを素直に受け取る気にはなれなかった。それを見て男は首を傾げる。

 

 ??「どうしたんだい?」

 「……なあ、箒。これを使ってた俺、どんな感じだったよ?正直に答えてくれ」

 箒「え?えっと……正直に言うと、怖かった。何と言うか……こう、怒りと憎しみとがごっちゃになって、ただただそれを敵にぶつけている……そんな気がした」

 「そうか……」

 

 それを聞いて、俺は怖くなった。もしこれを使って、もし暴走でもして、箒を……皆を傷付けてしまったら……そんな事を考えると、俺はこの真っ黒いロックシードを使っちゃいけない気がした。

 

 ??「……怖いのか?」

 

 すると、女がそう聞いてきた。俺は何も言わずただ首を縦に振る。

 

 ??「そうか。それで良い……それで良いんだ。もしそれに恐怖を感じなかったとしたら、お前は壊れているのだろうな。だが、お前はそれに恐怖を感じた。そうだ、それで良いんだ。初めて物事を行う時、人は必ず恐怖を持つ。それは『もし失敗したら……』とか、『もし私には無理だったら……』とか、そんなネガティブな事ばかり思い浮かぶ筈だ。それが普通の人間なんだ。それをちゃんと分かっている限りは、お前はれっきとした人間だ」

 「どーだか……蔦を自在に操れる奴のどこら辺を普通の人間と思うよ?」

 ??「たとえ人間でなくとも、人間と同じように生きる事くらいは出来るよ。蔦を使わなければ君はどう見ても人間なんだから」

 「だが……」

 

 俺は反論しようとしたが、良い言葉が思い浮かばず口ごもる。すると男が「はぁ……」と息を吐いてから言った。

 

 ??「……君はさ、彼女を信じてないのかい?」

 「……?」

 ??「いや、厳密に言うと……君は仲間を信じてないのかい?君は今まで、たった一人で戦ってきたのかい?」

 「馬鹿言うなよ、そんな訳無いだろ。今まで俺が戦ってこれたのは、皆が協力してくれたからこそだ」

 ??「だったら……なんで信じてあげないんだ?」

 「!」

 ??「なんでそんな大事な仲間を信じてあげない?何故無理だと決めつける?最初から無理だと、不可能だと決まった訳じゃ無いだろう。もし今までの事で仲間に感謝しているのなら……彼らを、彼女らを信じてあげてやれ。お前には多くの仲間がいるんだ、苦しい事や辛い事があったなら、構わず頼れ。仲間とは、そう言うものだ」

 「仲間、か……」

 

 そんな事考えた事も無かったな……俺は今まで、とにかくこの世界の異変を解決する為、そしてゼロの悪行をこの手で断ち切る為に戦ってきた。けど、それは俺一人でやってきた事じゃない。箒や一夏に束さん、千冬さんや理事長にスコール達……他にも沢山の仲間がいてくれたから、応援してくれたから出来てたんだな……なんで気づけなかったんだろうな……。と、男が再びゼロロックシードを差し出してきた。

 

 ??「……それを踏まえて、改めて聞こう。君は、この力を欲するかい?」

 

 男は俺の顔をじっと見ながらそう聞いてきた。……はっ、そんなの決まってんだろ?俺はゼロロックシードを手に取り、改めて男を見た。

 

 「……俺が皆を信じないでどうするんだ、って事だ。大丈夫、俺ならやれるさ」

 

 その返答を聞いてか、男は小さく頷いた。「それで良い」とでも言いたげだな。箒も「良かった」というような表情を見せる。

 

 ??「さて、次はお前だな」

 箒「……私?」

 

 すると女の方が箒を見ながらそう言い、懐から強く輝く何かを出した。俺がそれを覗き込むと、それは見覚えのあるロックシードだったが、少し異なる点があった。

 

 「マスカット……?いや、違うな……こんなに光を放つロックシードは見た事無いな」

 箒「なあ、これは一体……?」

 ??「……これが、お前のこれからを左右する」

 箒「?」

 ??「……これを使えば、お前はオーバーロードの呪縛から解放される……その代わりお前は、人間として生きる事が出来なくなる」

 「……どういう事だ?」

 ??「簡単に言うと、これを使ってオーバーロードの呪縛を解き放つ代わりに不老不死になるか……それともこれを使わずオーバーロードの呪縛に囚われっぱなしで最期まで生きるか……どちらか選べって事さ」

 『!?』

 

 不老不死、だと?つまりそれは、一生死ねないし、一生年も取らないって事かよ……て言うか、このロックシードは一体何なんだ?

 

 ??「……これは、所謂『神のロックシード』。禁断の果実の一部から生まれた禁忌のロックシード。そして、ヨモツヘグリの暴走を唯一自力で抑えられる存在だ。恩恵には代償が付き物だが、これは他の比にならない程にハイリスクハイリターンなロックシード。けど、使いこなせればハイリスクも気にならなくなる。使いこなせれば、だがな」

 箒「『神のロックシード』……」

 ??「さぁ、どうする?どうするかは、君次第だ」

 

 箒は悩んでいた。そりゃそうだ、下手すりゃこれも暴走の危険がある。まして『神のロックシード』だなんて物騒な物だと余計にな。けど、何故か俺には箒がどうするのかある程度予想できていた。何故って?さっきの俺と同じ、って事さ。と、

 

 

 箒「……使わせてもらう」

 

 

 俺の予想通り、箒はそれを手に取った。

 

 ??「あまり躊躇わなかったな。何か思う事でもあったか?」

 箒「まあな。私は仲間を信じているからな、牙也とは違って」

 「おっと、耳が痛い一言だな……」

 箒「止めてくれるのだろう?もし暴走したなら」

 「無論。俺が……いや、俺達が、な」

 箒「……ふふ」

 「ははっ」

 

 お互い笑い合う。ああ、久しぶりだな。こんな笑顔を見せられたのは。

 

 ??「さて、そろそろ時間かな?私達が君達に力を貸せるのは、これで最後。後は君達の手で、未来を切り開いてくれよ」

 「ああ。必ず救う、俺の……俺達の世界を」

 箒「その為なら、どんな苦境にも入り込むさ……誰かの助けを借りてでもな」

 ??「私達も、影ながら応援するぞ」

 「誰かは分からんが、ありがとな」

 ??「気にしないでよ。それじゃ、最初入ってきた所から出てくれれば戻れるよ、頑張ってね」

 「ああ。それじゃ行くか、箒」

 箒「……ああ!」

 

 俺が手を差し出し、箒がその手を取って、一緒にパーゴラの門をくぐる。と、俺達の体は光に包まれて消えたーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ??「……なぁ、二人はやってくれるよな?」

 ??「勿論。お前も知ってるだろ、あの世界の結末をさ」

 ??「それはそうだが……」

 ??「ははは、やっぱり心配か?大丈夫だって、あの二人なら、どんな苦境だって乗り越えてくるよ。それに今はまだカンナがいる。カンナがいれば心配する必要もないだろ?」

 ??「……そうだな、いらぬ心配だったか」

 ??「だろ?それじゃ俺達は帰ろっか。俺達の故郷、ヘルヘイムの森へ」

 ??「ああ……カンナもすぐに帰ってくるんだよな?」

 ??「おう、バ神を潰したら帰ってくるよう言いつけてある。もう俺達はあの世界に干渉しないで大丈夫だろ、母さんの遺言も問題なく伝わるだろうしな」

 ??「そうだな。だが戻ってからが面倒だぞ、ラファアやミェドゥウン、それにフォンエジェが私達の帰りを今か今かと待ってるらしい」

 ??「ディムシャウとオムシャシュの事か?」

 ??「ああ、相変わらず喧嘩していて、デェムベムとショデュインが仲裁しているとオアデュアンボが泣き付いてきた」

 ??「またあいつらは……ああもう、さっさと帰るぞ。ヘルヘイムの森を荒野にされたらたまったもんじゃない」

 ??「ふふ、そうだな。では帰ろうかーー『キバヤ』」

 ??「ああーー『ホウキ』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 最後の謎の名前ですが……全てオーバーロード語に直すと、

 ラファア=ほのお(炎)

 ミェドゥウン=みず(水)

 フォンエジェ=だいち(大地)

 ディムシャウ=せんこう(閃光)

 オムシャシュ=あんこく(暗黒)

 デェムベム=しんりん(森林)

 ショデュイン=かぜ(風)

 オアデュアンボ=あおぞら(青空)

 を意味します。ネタバレですが、本編では登場しません。ご了承下さい。

 では次回もお楽しみに!


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