IS×仮面ライダー鎧武 紫の世捨て人(完結) 作:神羅の霊廟
ちょびっとだけ、一夏と鈴の過去に触れます。
時空間を爆走するゼロライナー。その先頭車内に、一夏、カルマ、デネブの姿があった。デネブがゼロライナーを運転し、カルマはゼロノスベルトの点検、一夏はその間ずっとゼロライナーが進む線路の向こう側を見つめていた。
一夏「この線路の先に、あの雪だるまが……」
カルマ「スノーマンイマジンが向かった時間は特定出来ました、今から三年前の八月八日ですね。何か心当たりは?」
一夏「三年前の八月八日……忘れる訳がありません。あの日は鈴から告白を受けて、正式に鈴と付き合う事になった忘れられない日……かつて虐められていた昔の俺を鈴が救い出してくれた日。懐かしいです」
デネブ「この世界の一夏は、鈴と付き合っているんだったな。あそこまでラブラブとは思わなかったが」
カルマ「私も正直に言いますと、一夏さん=朴念仁という感じでしたね。私の世界の貴方がそんな感じでしたので」
一夏「あはは……まあそう思われても仕方ないような気がします。あの日までは、俺もそんな感じでしたから」
一夏はそう言って自虐の笑みを浮かべると、自身の右足を軽く叩いた。カンッという音が運転席に鳴る。その音を聞いてカルマとデネブは疑問を覚えた。
カルマ「うん、カン?一夏さん、今貴方の足から……」
一夏「ああ、そう言えばアガレスさんは知らないんでしたね」
一夏がそう言ってはいているズボンの左右の裾を上げると、以前カンナから受け取った白い義足が左右共に露になった。
カルマ「義足……!?」
露になった義足を見て、カルマはとても驚いていた。
一夏「アガレスさんは知っていますか?第二回モンド・グロッソで俺に起こった出来事と、俺の弟の事を」
カルマ「ええ、多少は聞いてます。モンド・グロッソの日に誘拐されて、ドイツ軍から知らせを受けた千冬さんに救出されたと。弟さんについては牙也さんが言ってましたね、多少はぐらかしていましたが」
一夏「まあアガレスさんの世界の俺はそんな感じなんでしょうね。ですが、俺の場合はちょっと違います」
そう言うと、一夏は少し悲しそうな顔をして言った。
一夏「……間に合わなかったんですよ、千冬姉の救援が。千冬姉が到着した時には、既に俺の足はその場にいたISを纏った女によって切断されていました」
カルマ「そんな……!?」
一夏「アガレスさんには話しておきましょうか、鈴と付き合うに至るまでを」
一夏は引き続き正面を見つめながら話し始めた。
一夏「幼い頃ーー俺がまだ小学生だった頃、俺は虐められていました。原因は、俺が凡才であった事……ただそれだけ。俺と違って優秀だった弟に出来る事が、俺には出来なかった。それが原因で、俺は周りから白い目で見られるようになりました。『弟に出来て、お前に出来ない筈がない』とか、『織斑千冬の弟なんだから、これくらい出来て当然』とか散々に言われましたよ。無駄に期待されてたんでしょうね」
一夏「そしてそれと平行して、弟が先導して俺を虐めに虐め抜いたんです。毎日嫌がらせやカツアゲは当たり前、犯罪紛いの行動もさせられた事もあります。そして俺の周りからの反応も、時間が進んでいく毎に段々酷くなっていき、千冬姉が第一回モンド・グロッソで優勝してからはそれが顕著になりました。誰一人として、俺の事をきちんと見ようとはしなかったんです」
一夏「当時ブリュンヒルデの称号を得てから更に忙しくなって、家庭に関する事を見守る事が出来なかった千冬姉の代わりに、そんな俺をずっと見ていてくれたのが、箒と鈴だったんです。箒は所謂『ファースト幼馴染み』で、幼い頃から剣道を通して仲が良かったんです。『重要人物保護プログラム』によって小学四年の時に箒が転校するまでは、ずっと箒に助けられてきました。転校後も定期的に連絡してくれて、とても感謝してます」
一夏「そして、箒と入れ違いに入ってきたのが鈴です。その頃は初めての日本だった事もあって、俺よりも鈴が虐められていました。鈴が悪口を言われていたのを助けたのが切っ掛けで、俺と鈴は虐められていた者同士仲良くなりました。虐めはその後も続きましたが、俺と鈴は何とか耐え抜いてきたんです……けど、あの事件が起こって……」
カルマ「一夏さんの誘拐、ですか」
一夏「はい。モンド・グロッソ決勝戦当日、弟に間違われて俺は誘拐され、任務失敗の腹いせに、俺の両足は切断されました。切断された時の事は覚えてません、激痛で気を失ってしまいましたから。その後千冬姉に助けられ、俺は束さんのラボで治療を受けましたが、切断面がグチャグチャで、義足を付けるのは無理だと束さんに言われた時は、なんというかこう……半ば絶望してましたね」
カルマ「……」
一夏「でも……でもそれでも、箒や鈴は俺の為に色々手伝ってくれたり励ましてくれたりしました。二人の俺への好意に気づいたのもその頃ですかね……」
そこまで言うと、一夏は懐から一枚の写真を取り出した。そこには、夜空の下で満面の笑みでピースサインをする中学生くらいであろう一夏と鈴が写っていた。
カルマ「これは?」
一夏「俺達が今向かっている時間……三年前の八月八日の夜に撮った写真です。俺は千冬姉や束さんにアドバイスを受けながら悩みに悩んだ末、鈴の告白を受け入れました。鈴はとても喜んでくれましたが、裏腹に俺は心苦しかったです、箒の事もありましたから」
カルマ「人を振る、という行動……とても勇気がいりますよね……自分を好きになってくれたのですから、尚更心苦しい事でしょう」
一夏「はい。ですがいざそうした時、箒は爽やかな笑顔を見せていました。そしてこう言ってきました、『私がお前を好きになった分も含めて、鈴を幸せにしてやれ』と。その顔にはうっすらと涙が見えたのをよく覚えています」
カルマとデネブは一夏の話をじっと聞いていた。
一夏「アガレスさんは楯無……いえ、刀奈先輩とお付き合いされてるんですよね。告白された時、どうでしたか?」
カルマ「そうですね……実を言うと、私もつい最近刀奈から告白されまして」
一夏「そうだったんですか?」
カルマ「刀奈と私も幼馴染みなのですが、刀奈には私の付き人という任務がありましたし、何より私が皇族ですから、刀奈もなかなか言い出せなかったのです。その障害を乗り越えての告白……嬉しかったですね」
デネブ「俺も嬉しかったぞー、カルマー!!」ナミダダバー
デネブが感涙状態だが、カルマは気にも留めない。
カルマ「ところで一夏さん。貴方は何故戦うのですか?」
一夏「え?」
カルマ「牙也さんから聞いた話なのですが、貴方は少々特殊な事情からアーマードライダーとして戦うようになったと聞いています。それが一体なんなのか……教えてくれませんか?」
一夏「あ、はい……俺が使っているロックシードーースターフルーツロックシードは、カンナちゃんから義足と一緒に受け取ったものなんです。カンナちゃんが何故俺にこのロックシードを預けたのか……カンナちゃん本人に聞いてみましたが、はぐらかされました。ただその時、カンナちゃんはこう言いました」
カンナ『貴方はどんな世界においても常に、誰かと戦わなければならない存在……ですがこの世界の貴方は、戦う為の刀を無くしました。私は貴方に仮の刀を授けた、ただそれだけの事です』
カルマ「戦う為の刀、ですか」
一夏「意味は分からなかったけど、これが俺が戦う為の力になる、という事は理解出来ました。牙也もそれを理解したのか、俺に戦極ドライバーを渡して、『せっかく受け取った力だ。使わなきゃ持ち腐れだぜ?』って言ってましたね」
カルマ「カンナちゃんは何かを知っていて、気取られぬように隠しているのでしょうか……」
一夏「それは分かりません。牙也もカンナについては詳しく知らないみたいで……」
すると、段々とゼロライナーの速度が落ちていくのが分かってきた。
カルマ「さ、そろそろ到着する筈です。この話はまた帰ってからにしましょう。降りる準備をして下さい」
一夏「はい!」
三人を乗せたゼロライナーは、目的の時間へと爆走を続けるーー。
一夏(中)「綺麗だな~」
鈴(中)「綺麗ね~」
織斑家の近くにある山、そこには自由に走り回れるくらいに大きく開けた場所があり、そこは視界の邪魔になる木々がないために空が良く見える。その中央付近に、中学生時代の一夏と鈴が座って星空を見上げていた。
スノーマンイマジン「ふふふ……見つけました。では早速……」
その後方、木々が生い茂る場所から、スノーマンイマジンがその様子を伺っている。スノーマンイマジンは二人を見つけるなり、複数の氷柱を作り上げて、二人目掛けてーー
一夏「させるかよ!」
投擲した途端、横から飛んできた小型火球に氷柱は溶かされた。スノーマンイマジンがその方向を見ると、ホオズキアームズを纏った一夏とゼロノスに変身したカルマ、そしてデネブがいた。
スノーマンイマジン「ぐっ……!ここまで追い掛けてくるとは……!」
カルマ「貴方のような愚か者を倒すのが私の使命……さて、覚悟していただきましょうか」
一夏「鈴を苦しめやがって……!これ以上、鈴の記憶を壊されてたまるか!」
二人はそれぞれの武器をスノーマンイマジンに向け、デネブも戦闘態勢に入る。
カルマ「では、最初に言っておきましょう」
デネブ「俺達は!」
一夏「かーなーり!」
カ・デ・一『強いッ!!』
最終決戦へーー。