成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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パイザーさんをガチで忘れていました


決着と彼女の願い

「え? スクール水着と体操服のどっちが良いかって? 僕はビキニの方が好みかな。露出が多いし。でも、君が好きな服を着て喜んでくれるのが一番だよ」

 

 周辺住民が寝静まった頃、それがし達は堕天使共の根城の傍に集合していたでござる。アーシア殿の護衛にあの方置いているでござるが、大丈夫でござろうか? 子供達には『骨のおじさん』や『ゴージャスキン骨マン』とか呼ばれて人気でござるが、彼女は顔面蒼白でござったからなぁ。

 

 しかし姫、急に変な事を訊くので若様も驚きでござるよ。所で服とか必要なんでござるか? 

 

「え? リアス先輩達来ないのかよ。戦う所見たかったのに」

 

「ラッキースケベを期待していたのなら残念だったね、イッセー。あと、公爵家のリアスさんは勿論、女王の方もお付き合いは無理だと思った方が良いよ。社交界で二人とも男には興味がないとか男は嫌いとか言ってたし」

 

 今回のそれがし達は建前上はリアス殿の助っ人なのでござるが、急に大公家より侵入したはぐれ悪魔の始末を依頼されたとかで、それがし達だけで戦う事に。

 

 これはそれがしの忠義と力を若様に示すチャンス! 張り切るでござる!!

 

「じゃあ、ハムスケとゼスティ。僕が先制攻撃を入れたら突っ込んで!」

 

「了解っす!」

 

「お任せを!」

 

 ゼスティ殿は拳をぶつけ合わせ、それがしは鼻息荒く胸を叩く。流石若様、家臣の気持ちを察しているでござるなぁ。

 

「……所でイッセー。本当に良かったの? 会うの怖くない?」

 

「大丈夫だ。って言うか此処で逃げちゃ俺は何時までも克服できやしねぇ!」

 

『boost!!』

 

 イッセー殿の気合に応えるかのように籠手から音声が鳴り響き力が上がる。試合なら兎も角、こうして奇襲の際には最初から限界まで高めるのは当たり前でござるな。一応護衛にモードレッド殿が居るとして……。

 

 

 

「レライ殿は来てないでござるか?」

 

キョロキョロと目的の相手を探すも姿は見えない。全員集合の筈だったのではなかったでござろうか……。

 

「呼んだんだけど、インスピレーションが湧いたから無理だって」

 

 締まらないでござるなぁ……。

 

 

 

 

 

 

「なあ、そのレライってどんな人なんだ? 俺、一度も会った事ないんだけど」

 

「常識的なマッドサイエンティスト。研究室に籠ってばかりだし、基本的に研究優先って契約で眷属にしたから強く言えないんだ。……じゃあ、始めようか」

 

 やや疲れた様子で溜息を吐いたジェイルが両手を前に突き出すと蝶の姿をした様々な色の魔力が現れた。まるで長旅をする群れの様に視界に広がる蝶はキラキラ輝いて綺麗だと思った。

 

「そう言えばイッセーさんはジェイルさんが得意な属性を知っているっすか?」

 

「いや、知らねぇ」

 

 火とか水とか風とか氷とか雷が有るのは知っているけれど、何が得意かは聞いてないな、そういえば。俺のそんな反応を期待していたのか、ゼスティちゃんは自分のことを自慢するような得意顔を俺に向けて来た。

 

 

「正解は……」

 

「若様は全部得意でござる! 弛まぬ修練の末、あらゆる属性を使いこなせるのでござるよ!」

 

 ムッフーと鼻息荒く誇らしげに語るハムスケ。うん、空気読もうぜ。で今まさに言おうとした子が隣で頬を膨らましているからさ。

 

「……行け」

 

 蝶が羽搏き教会に殺到する。赤い蝶が壁に触れると爆炎が広がって壁が吹き飛び、水色の蝶が触れた場所が凍り付く。黄色い蝶から出た鱗粉が何かに当たるたびに激しく放電し、緑の蝶は小規模な竜巻を巻き起こした。

 

 

「じゃあ突撃っす!!」

 

 さっきので拗ねているのかゼスティちゃんはやや力強くハムスケの背中に飛び乗る。あのモコモコでバランスが取りにくい背中の上で揺れる事なく彼女は立ち、混乱しながらも姿を見せた堕天使やはぐれ悪魔祓い達目掛けてハムスケが疾走した。

 

 

 

 

「あの強大な魔獣は何者だ!?」

 

「糞! 勝てる気がしねぇ!」

 

「ええい! ウチの底力を見せてやるっす!」

 

 ……なんでだよ!? ハムスケには元教会関係者限定の幻覚でも掛かっているのか!? 此処からでも聞こえてくる畏怖と驚愕の声に脱力しそうになった俺の力がまた上がる。

 

 

 

「先ずはそれがしが!」

 

 ハムスケの伸縮自在の尻尾がうねり、鞭のように横薙ぎに振るわれて正面の堕天使を含むはぐれ悪魔祓い数人を纏めて叩き飛ばした。血反吐を吐きながら宙を舞い地面に叩き付けられた後はピクリとも動かないけど生きてるよな?

 

「近距離で仕留めなさい! 尻尾に注意よ!」

 

「私に続け!!」

 

 女の堕天使が叫びぶとオッサンの堕天使が光の槍を構え、周りの奴らも光の剣を構えて走り出す。その目の前にザスティちゃんが飛び出し、抵抗する事無く攻撃を正面から受けた。

 

「馬鹿めっ! 一人殺ったぞ!」

 

「いや、全然効いてないっすよ? んじゃ、気合序での……ブーストっす!!」 

 

 振るわれた剣も槍も彼女の皮膚を切り裂いていない。顔を見ても少しヒリヒリする程度だろう。そして彼女の力が一気に上がり、拳を振るうと数人纏めて吹き飛ばされた。拳が叩き付けられた地面は陥没して少し周囲が揺れる。

 

 

「なあ、本当にあの子って何者なんだ?」

 

「そうだね。安易に頼るといけないから黙っていたけど、神器に宿る龍との取引で体の一部を龍に変える代わりに一時的に力を得る事が出来る。それに龍に変えた部分は龍の力を通しやすいから永続的に力が上がるよ」

 

 俺は思わず籠手に目を向ける。体の一部を龍に変える。少し怖ろしい気がした。少なくても日常生活じゃ苦労しそうだ。力の為に其処までするなんて信じられないぜ。

 

「そして歴代の赤龍帝の中には内臓や筋肉に目玉など、一部を除いた表面以外のほぼ全てを差し出す程に力を求めた奴が居て……差し出した物の中には子宮まで含まれた。赤龍帝の力を持つ人型の龍の子は当然のように生まれ、代を重ねるたびに龍の因子は薄くなっていくけれど、先祖返りってのはあるんだよ」

 

「じゃあ、あの子は……」

 

 

 

 

「言うならば人の姿をした赤龍帝ドライグと言った所だね。まだ成長中だから其処まで力はないけれど、追いつけるだけの潜在能力はある筈だ」

 

 ゴクリと唾を飲み込む。俺の神器と対になる神器の持ち主、いずれ歴代の所有者みたいに戦わなくちゃならないかも知れない相手もそうだけど、同じ能力を天然で持つ上に仲間だからこそ比べられるだろう相手の姿に俺は見入っていた。

 

 

 

「これがフルパワーのマックスマキシマム限界フルチャージ全力パンチっす!」

 

「頭は少しアレなんだけどね......」

 

 

 

 

 

「なぁ、そろそろ力も十分上がった頃だし、俺様も出陣させて貰うぜ。さっきから体が疼いて仕方がねぇんだっ!」

 

「仕方無いなぁ。フランと一緒に行ってきなよ」

 

 え? フランさんも行くのかよ!? 後方待機かと思ってたのに。

 

 

「それじゃあ蹂躙するかぁあああああああっ!!」

 

「ウゥアアアアアアアアアアっ!」

 

 咆哮と共に二人は駆けだしていく。モードレッドさんは全身鎧に身を包み、赤雷の魔力を推進力に加速し、剣や蹴りに纏わせて攻撃する姿は人の姿をした嵐だ。どんなに頑張っても人は災害に勝てない。彼女の戦う姿はそんな事を思わせた。

 

 

 

「アァアアアオオオオオオッ!!」

 

 フランさんの叫びが響くと体にゾクリと冷たい物が走る。あの叫びを聞くだけで本能を刺激されて恐怖を駆り立てられるような……。

 

 

「ああ、イッセーはちゃんと戦うフランを見ていなかったっけ。良い所を見せたいからって戦場に自分の女を連れてくると思った? 戦えるんだよ、彼女はさ」

 

 フランさんがメイスを頭上に掲げて飛び上がる。踏み込みの強さに地面が砕けて土塊が飛び散り、メイスから緑の雷が溢れ出る。はぐれ悪魔祓い達はその場で震えて動けず、勢い良く地面に叩き付けたメイスから激しく放たれた雷に包まれる。

 

 

 

 

「とった!」

 

 危ないと声を出すよりも前に堕天使の光の槍がフランさんに投げ付けられる。棒立ちのままジッと見詰める顔に切っ先が吸い込まれるように向かって行き、本当に吸い込まれた。

 

「ウ!」

 

 僅かに微笑んだフランさんの体が放電し、呆けた顔にメイスが叩き込まれた。明らかにさっきよりも速度が上がっているけど......。

 

 

 

 

「『ガルバニズム』、それがフランの能力の一つだ。魔光、魔風、魔弾、実体のない攻撃を瞬時に雷に変えて放電する事で無効化する。更には蓄電によって回復や強化も可能。……強いんだよ、彼女は。強くて可愛くて素直で純粋で天然で一途で美しくて努力家で、超絶最高な僕の愛しい恋人なんだ」

 

 時間にして僅か一分少し。其れだけで大勢のはぐれ悪魔祓いと堕天使三人が無効化された。……後は一人。

 

 

 

「最後は俺の仕事だよな、マイロード」

 

「オッケー! 行ってこい、我が下僕よ!」

 

 互いに歯を見せて笑い、後方で戦いを眺め、予想外の結果に固まっていた夕麻ちゃん……本当の名をレイナーレというらしい、に視線を向けて駆け出した。

 

 

 

「ふ、ふん! 何だ、貴方悪魔になってたの。……それにしても親友が私を……あれ? あの伝説級の魔獣が親友?」

 

 例の『全種族魅了(チャーム・スピーシーズ)』とかいう魔法が解けかけたのかレイナーレの動きが僅かに止まり、今の俺が接近するのに十分な力が出来る。

 

 

「速いっ!? ちぃ! 死になさい!!」

 

「らあっ!!」

 

「そんなっ!? 正面から殴って砕いたですってっ!?」

 

 慌てて放たれたのは俺の命を奪いかけた光の槍。前回はなす術もなく突き刺された威力と速度だったけど、ハムスケの伸縮自裁の尻尾の方が鋭いし、ゼスティちゃんの拳の方が重いし、モードレッドさんの蹴りの方が速いし、ジェイルの魔力の方が威力が有る。

 

 

 

「く、来るなっ! 私は至高の堕天使になってアザゼル様達の寵愛を……」

 

「ぶっ飛べっ!!」

 

 槍を砕かれて固まっているレイナーレの腹に拳を叩き込み、全力で殴り飛ばす。錐揉み回転しながら飛んで行く姿を見た俺は解除された強化の影響か脱力感に襲われた。

 

 

「……グッバイ、俺の初恋」

 

 彼奴にはある意味感謝している。今の俺が有るのはお前のお陰かもしれないからな。でも、もうお前は俺には必要ない。俺はお前を越えて先に行くんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「……っという訳で君を利用しようとした奴らは全部彼方に引き渡した。君に慰謝料を払うってさ。願いが決まったって聞いたけど」

 

「願いは二つ有ります。......私が今まで人を癒してきたのは主より癒しの力を与えられ、聖女として振る舞うのを望まれたからです。確かに傷付いた人を助けることは嬉しかったですが、誰かや何かを理由にしての行動しかしてきませんでした。......学校に行きたいです。知らなかった事を学び、聖女の称号が関係無い、私個人として人と付き合い友達を作りたいんです」

 

「オッケー、手配しよう。それで二つ目は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい! 私を騙した悪魔さんを何時か思いっきりひっ叩かせて下さい」

 

「最っ高だね、君。確約は無理だけど機会が有れば平手じゃなくてグーで殴ればいい。殴り方は教えるからさ」

 




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