成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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伝えたい気持ちとバイク

「ドラゴンクロー!」

 

 ゼスティが宙を引っかく様に腕を振るうと巨大な斬撃が五つ同時に発生して襲い来る。一つ一つの間に隙間があるので飛び込むように入り込むけど、既に目の前に左手で右手の手首を掴み、右手でデコピンを放つ構えのゼスティが迫っていた。

 

「ヤバっ!」

 

たかがデコピンと侮るなかれ。指先に宿るは伝説の龍のオーラ。更に集まるのは絶大なる力の集中。咄嗟に張った障壁は薄っぺらいガラス細工のように容易に砕け、発生した衝撃波は僕の体を紙きれの様に吹き飛ばす。翼を出して吹き飛ばされるのを防ごうとするけれど、無情にも勝負の終わりを告げる銅鑼の音が響いた。

 

「場外! この勝負ゼスティの勝利!!」

 

 武器無し魔力使用不可の模擬戦は僕の負けで終わる。着地するなり僕は肩を落として溜息を吐いた。

 

 

「どうやって接近戦に持ち込ませないかが課題だよな……」

 

 

 

 

「ウ、ウゥ……」

 

「大丈夫。落ち込んでないよ」

 

 木陰の下、フランの膝枕を堪能しながら体を休める。心配した様子で顔を覗き込んで来た彼女に笑いかけ、そっと手を伸ばすと嬉しそうに握って来た。

 

 フランは身体的接触によるコミュニケーションを好む傾向がある。もちろん親しい相手に限るし、例えるならば警戒心バリバリの大型犬が慣れたら撫でられるのを凄く喜ぶようになったって感じかな? 特にこうして手をつなぐ、手を握る、といった行為が落ち着くらしく、一緒に歩く時は無言で手を伸ばして来る。

 

 きっと化け物扱いされて世界を放浪していた頃の孤独が絡んでいると思うから、僕は出来る限り彼女の手を握っていようと思う。

 

「フラン、今度の休みに何処か行く? 遊園地か水族館か動物園か……動物園が良いの?」

 

 動物園を言った瞬間に反応したし、聞いたら頷いた。じゃあ、見た目に驚かれない為の偽装の道具の準備もあるし、話題の動物園が無いか調べないとね。

 

 

 

 

「好きだよ、フラン。君と出会った時から僕は君の事が大好きだ」

 

「……わた…し…も…す…き…」

 

 北極で自らを滅ぼそうとした事と、氷漬けになっていた影響か悪魔に転生しても言語機能に難が有るフランは話すだけでも重労働だ。でも、僕に対して好きだと何度も言ってくれる。それがとてもうれしくって、幸せで胸が一杯になる。

 

 起き上がり、フランの方を向いて肩を抱き寄せる。最初の時みたいに角が刺さらないように注意しながら顔を近付け、そっと唇を重ねた。

 

 

 しかしファーストキスが額の痛みに耐えながらだったのは今では良い思い出だ。フランとの思い出は全て良い思い出だけどさ。

 

 

 

 

「……そういえばそろそろ効果が出る頃かな」

 

 ディオドラへの嫌がらせの為に少し関係無い人にまで迷惑を掛けるけど、これも政争だ。貴族なら謹んで耐えて欲しい。

 

 

 

 

「……は? 父上、今何と?」

 

「聞こえなかったのか? 残った駒は全て私が指定する者に使えと言ったのだ。これ以上妾候補を増やす事も禁じる。……グレモリーの令嬢と婚約者のファニックスの三男坊の不仲が広まってな。どうも女癖が悪いのが影響しているらしく、貴様に同じ噂が立てば政治的な打撃となる、これは当主命令だ」

 

 

 

 

 

 

 

「よう。学校終わったみてぇだな。乗れ」

 

 放課後、校門前にバイクに跨ったモードレッドが居た。僕の顔を見るなり親指で後部を指差し、ヘルメットを投げ付ける。キャッチ出来たけど、結構な勢いだったから頭に当たってたら痛かったよ。

 

「また急だね。其れで何処に行くの?」

 

 此処で断ったら不機嫌になるから従うけど、昔から強引な所には困らされるよ。冒険だって言って山の中に連れ込まれてフランが探しに来て迷子になったり。

 

「へへっ、新しいバイク買ったからな。適当に乗り回したらゲーセン行こうぜ。そろそろ新しいゲームが入ってる頃だからよ」

 

 モードレッドが乗っているのは確かに新品のバイクで黒いボディに赤い雷のペイントがしてある。それは勿論ヘルメットもで、なんか暴走族にしか見えない。

 

 

 

 

「なんだありゃ……」

 

「派手だな……」

 

 当然注目を浴びているけれど、中にはモードレッドに見惚れている人も居た。まぁ目付きが悪いけど美少女に分類されるのは間違いない上に、短パンにチューブトップの上から赤い革ジャンを着ているだけど露出度が高い。

 

「ジロジロ見てんじゃねぇ!」

 

 だけど本人は女扱いが嫌いだし、だからと言ってあからさまに男扱いされるのも嫌という面倒な性格をしている。自分に見惚れる視線を不快に思ったのか乱暴に追い払うとエンジンを掛けた。

 

 

「んじゃ、行くぜ、ひゃっほー!」

 

 そんな彼女も大好きなバイクの運転が始まればすぐさま機嫌が良くなって、制限時速ギリギリで走り出した。

 

 

 バイクに乗って風を切ると景色が矢の様に後ろに飛んで行く。うん。モードレッドがバイク好きなのも分かるよ。ハムスケに乗った方が速いけれど、自分が動かしているって感じがするからね。後ろで掴まっている僕でさえそうなんだから、本人はもっと気持ち良いんだろな。

 

「僕も免許取ろうかな……」

 

「取れ取れ! 最高だぜ、バイクはよ! バギーもジープもスポーツカーもたまらねぇがなぁ!」

 

 領地を駆け回ったら楽しいと思う。フランを後ろに乗せたりツーリングしても楽しそうだ。流石に制服だと拙いと思ったので魔力で私服に偽装してゲームセンターに入るとモードレッドは直ぐにお目当てを見つけ出した。

 

 

「格ゲーにガンシューティング、結構新台が増えてやがるな。なぁ、どれから遊ぶ?」

 

 基本的にモードレッドは強引だ。だけど遊ぶ時は僕の意見を聞いてくれる。聞いた上で自分の意見を押し通すことも多いけど、聞かずに決めはしない。

 

「格ゲーかな? この前は僕の負けで終わったし」

 

「よし! また叩き潰してやるよ!」

 

 この日、久しぶりにモ-ドレッドと二人だけで遊び回った。格ゲーでハメ技を連発したら怒ったり、ガンシューティングでボーナスキャラを独占したら怒ったり、ナンパされて怒ったりしたけれどモードレッドも楽しそうで何よりだと思う。

 

 

 あれ? 何か怒られてばかりの様な……。

 

 

 

 

 

「っと! また俺の勝ちだ!」

 

 あの後、クレーンゲームでフランが好きそうなヌイグルミをゲットし、今は河原にバイクを止めて水切りをしているんだけど、全然勝てない。半分も跳ねなかった。

 

「お前は投げ方が悪いんだよ。こうやって回転を付けながら……おい、彼奴が例のシスターじゃねえのか」

 

 本人に気取られない様な小声で指差した先には肉体的疲労と精神的疲労が溜まりに溜まった様子のシスター服の少女がトボトボと歩いていた。町外れの教会が拠点の筈だけど……。

 

 

「迷ったのか?」

 

「迷ってるようだね。……どうする?」

 

「取り合えず声掛けてみるわ。おいっ! 其処の奴!!」

 

 止める間もなくモードレッドはアーシアらしきシスターに呼び掛けながら近寄って行った。

 

 

 

 

「良かった。会話が通じなくて困っていたんです。道も分かりませんし……」

 

 どうやら彼女がアーシアで間違いないらしく、道に迷っていたのも間違いないらしい。

 

「其れで教会が何処か知りませんか?」

 

 困った様子でおずおずとざっとした地図を差し出してくるけれど、これは周辺住民でも分かりにくい。ましてや地図を見慣れていなかったりしたら辿り着ける筈が無かった。

 

 

 さて、僕達はどうすべきか。此処で案内して貴重で協力な神器が敵勢力に渡るのは惜しいけど、モードレッドって敵以外に手を出すのを嫌うから、騙されているだけの彼女を手に掛けるの筈が無いし僕も出来ればしたくない。

 

 でも、無理に連れ去るのもな。

 

 

 

 

「此処をこう行ってああ行って、そうしたら……」

 

 僕のそんな思考など知るかとばかりにモードレッドは道案内をする。……予想はしていたけどさ。

 

 

「有り難う御座います! ……あれ? あの方は教会の方でしょうか?」

 

 遠目に見えるのは白髪頭の神父。白髪なのに年は少年位。……教会の戦士育成機関の出身か。

 

「一応下がれ、ジェイル」

 

 警戒した様子のモードレッド。向こうはこっちが悪魔だと気付いているらしく殺気を向けて既に武器に手を掛けている。

 

 

 

「ったく、来ないから探しに来てみれば! 初めまして悪魔の皆さん!」

 

「言っておくが俺達は、はぐれじゃねぇし、この女とも偶々出会っただけだ。誤解が解けたならさっさと散れて行きやがれ」

 

「誤解? 俺っちは豪快に君達をぶっ殺したいねぇ!!」

 

 目を見ていて思ったけれど、此奴は狂人の類いだ。生れ付きか環境のせいかは分からないけれど光りの剣を抜いて切りかかって来るんだから気にする必要はないけどね。

 

 

「止めて下さい!」

 

 僕達を守る為かアーシアが間に入って来るけれど神父の動きは勢いが付いていて止まらない。

 

 

 

 

 

「うるせぇ!!」

 

 彼女の頬すれすれを石が飛んで行き神父の顔面に着弾するなり砕け散る。骨が折れたのか鼻は曲がり、裂傷だらけの顔から血を流しながら気を失った。

 

 

 さて、これで動けるな。何せルシファー派筆頭であるグレモリー家の令嬢が任された土地に侵入した堕天使の部下が他の派閥に属する家の次期当主を襲ったんだ。味方になってくれる家は沢山あるよ……。

 

 

 

 

 

「あの、貴方方は一体……」

 

「正真正銘の悪魔だよ、元聖女さん」

 

 悪魔の翼を広げ、笑みを見せる。彼女にはそれが威嚇に見えたのか、怯えた様な表情になった。




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一応言っておく フラン単独ヒロインだ

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