「も、森の賢王っ!?」
それはエ・ランテルの中を歩いていた最中の事。この世界独自の植物や香辛料の類など今後の研究によって利益に繋がりそうな物を買い込んでハムスケに背負わしていたんだけど、冒険者らしい男が叫んだ内容に私と父さんは顔を見合わせ、ナーベラルが私達に対して無礼な態度だと立腹したのを止めた。
うん、この子結構なポンコツだ。忠義が空回りしてるって言うか何と言うか……。
「ハムスケが賢王? ……失礼だが頭は大丈夫かな?」
「あの仲間の見せ場を無自覚に奪うKYの極みで物事を考えるより昼寝の方が得意なハムスケがっ!?」
「酷いでござるよ、お二方っ!?」
ショックを受けた様子のハムスケだけど私達は本当に驚いているんだ。いや、デカいハムスターが喋る上に繰り上がりの無い算数なら問題なく解けるのだから十分賢いと言えなくもないけどさ……。
「……あれ?」
いや、ちょっと考えれば変な話だ。父さんも気が付いた様子だけど、森に連れて行ってないハムスケに森の~とかの異名が付くはずもない。つまり似た生物と間違えたんだけど、ハムスケってレライさん制作のキメラなんだよね。
……レライさんと言えばモリアーティ家からも調査員が派遣されていたよね。確かメンバーは……。
「……見られているな」
俺の名はガゼフ。モリアーティ家に警備隊隊長として仕える者だ。平民出身だが部隊の者と連携すれば魔王クラスも倒せるのでそこそこ有名だと自負してはいるが……。
「俺はストロノーフではないぞ?」
異世界だというのに俺の命を狙った奴らの襲撃に逢ったのだ。便所のために仲間と離れた先で見知らぬ集団に包囲され……。
「くくく、愚かだなガゼフ・ストロノーフよ。人類のために此処で死ぬが良い」
とか言って天使と呼ばれたモンスターをけしかけて来たから途中で呼び寄せられた増援の兵士達も含めて返り討ちにしたにだが、ストロノーフって誰の事だろうか……?
「其処の者、中々の強者でござるが……某の縄張りを荒らした報いは受けて貰うで御座るよ。……おや、此方を見て驚いているでござるな。畏怖が伝わって来るでござる」
「いや、何を言っているんだ、ハムスケ? モモンガ殿にご同行したのに何故一匹で居る?」
何かお使いでも頼まれたのかと、何故か初対面みたいな事を言っているハムスケを見ながら思う俺であった。しかし、何故気絶させた者達は俺を知っていて命を狙ったのだろうか……。
「むっ。これは……」
指揮官らしき男を先ず雷の魔力で気絶させたのだが、其奴が落としたクリスタルに見覚えがある。モモンガ様が見せてくれた事のある魔法が封じられたクリスタルと同様の物だ。何故あの方が持っている物と同じ物がと疑問に思いつつ拾い上げた時、ハムスケが不意打ちで尻尾を叩きつけてきたから受け止める。
「何と!? 某の一撃を片手で止めるとは……」
驚いた様子だが本来俺より強く魔王クラスに届くハムスケにしては弱いので手加減したじゃれつき程度なのだろう。問題は先程から初対面の振りをしているが……。
「ああ、迷子になったのか。仕方ない、モモンガ様達に連絡をしてやろう」
「だから先程から何を……まさか某の同族を知っているのでござるか!?」
「分かった分かった。他人と言うことにしておいてやる」
よほど恥ずかしいのか別人の演技を続けるが、レライ殿が作ったキメラなのだから同族など居ないだろうに。世話のかかる奴だ……。
あっ、遠隔視妨害のアイテムを使っておかねばな。気絶させた者達は……遠くから来る者達に任せるか。
「戦士長! 此奴等は……」
「虐殺を行っていた帝国の鎧の集団と……法国の服か。相打ちには見えないな。寧ろ共闘して返り討ちにされた様だが。取り敢えず捕縛して話を聞くぞ」
「はっ!」
「妨害された? まさかガゼフ・ストロノーフが見たこともない魔法を使う上に其処まで……」
「平民出身とのことですが……まさか『ぷれいやー』?」
「もしくはその子孫だろう。今後は慎重に動かねばな……」
「まさか簡単にナザリックの維持費が解決するなんてな……」
ユグドラシル時代、拠点維持費を一人で稼いでいたけど、この世界でも必要と知ったときは焦ったよ。だってゲームならモンスターを倒せば手に入る上に金貨だけだったけど、この世界では銅貨や銀貨もあって金貨なんて中々稼げない上にモンスターを倒しても落としっこない。
商売で大繁盛したり冒険者として精力的に動いても金貨で必要経費を稼ぐのは大変で、それこそ強奪を繰り返す位しか方法が無いけど色んな事情で出来ない。いや、外交上の立場もあるし、子供や孫にどんな目で見られるかとおもったらさ……。
それを解決したのがコレクションの一つである神器・魔剣創造。魔法で作った武器と違ってこれはエクスチェンジボックスで換金可能な剣を作り出せるから諸経費を稼いだ上でユグドラシルの金貨を金の延べ棒にして流通させやすくしている。……冥界だと金の価格を狂わせそうで怖いなあ……。
「……しかし似ているな」
俺の目の前ではガゼフさんに連れられてやって来た森の賢王とハムスケが向かい合ってるけど本当にそっくりだ。まあ、強さは改造に改造を重ねたハムスケの方が圧倒してるだろうけど。
「こここ、これってドッペルゲンガーでござるかー!? そ、某死んじゃうんでござる?」
「おお! 初めて見る同族! 同じ雌なのが残念でござるが嬉しいでござるよ!」
「ナーちゃんと会うと死んじゃうらしいっすよ?」
「あの獣、訳の分からない事を言うわね」
自分が作り出されたオンリーワンの存在だと知るハムスケは大いに混乱しているが、森の賢王は同族と会ったことはなくても自分がたった一匹だけの存在って思ってないみたいだし、このままハムスケと似た種族が見つかれば良いんだけどな。……レライちゃん、忙しくってハムスケの同族を作る暇がないらしいしさ。
「……あー、なんだ、森の賢王。お前はトブの大森林……広大な面積の森を縄張りにしているので間違いないな?」
「そうでござるが……お主は何者でござるか?」
「こら! モモンガ殿は魔王にして某の主のお父上のご友人。某のドッペルゲンガーでも無礼は許さんでござる!」
……この後、アウラを呼んで森の賢王を服従させて支配下に置くことになった。いや、だってハムスケに同族っぽい友達が出来たら良いし、ナザリックに近い場所にある森を支配下に置く際のカモフラージュになるしね。……あとは可愛い孫娘がハムスケを気に入ってるから後々家で飼えるかも知れないしな。多分喜ぶぞー。
「こうして兄妹で集まるのは何ヶ月ぶりかな?」
その頃、以前から約束していたとかでドロシーは他の子供達とお茶会をしに冥界に戻っていた……。
そして、エ・ランテルの路地裏では……。
「ガゼフと同格のブレインを圧倒した女? ふ~ん。まあ、このクレマンティーヌ様の敵じゃないね」
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