成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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今日までに得た物 かつて失った物

 ナザリック大墳墓、俺が嘗ての仲間達と築き上げ、最期は一人で守っていた場所。もう、二百年程前に失った場所。でも、所詮はゲームの中にしか存在しない架空の存在、その筈だったんだ……。

 

 

 

 

「……要するに引き続き使用するレーティング・ゲームの様な物の拠点のギミックであり、設定だけの意思のないゴーレム的存在だったが、この世界に転移すると同時に意志を持っていたと。……九十九神的な存在かも知れないな」

 

 この二百年で手に入れた宝の一つである家族の一人、次女のドロシーに俺はナザリックについて説明をした。まあ、ジェームズさん以外に俺の姿や力もゲームの存在だって喋ってないし少々誤魔化してだけど。流石に言えないよなぁ……。

 

「……えっと、信じてくれるのか? 胡散臭いと思うのだが……」

 

 ゲームのアバターの姿で異世界に来てシャーロック・ホームズの敵役と親友になって悪魔になって今魔王をやってる俺が言うにも何だけど荒唐無稽過ぎる。でも、ドロシーの顔は俺を全く疑わず、与えた情報から考察まで始めていた。

 

 九十九神、確か器物百年がどうたらのアレだよな? 終末世界もいい所の世界からシャーロック・ホームズの時代のロンドンに飛んで二百年程。データの存在も魂を宿すのだろうか? でも、実際に意志を持っているっぽいし。俺と同様に異世界に来た事で実体化したのかもな。……確か人を怨んで害をなすのも居たはずだし、二百年間放置されたのをレベル百の存在が襲ってきた場合。

 

「父さんが嘘を付いてるかどうかなんて分かるからね。何年親子だと思っているのさ」

 

 い、痛い! 良心が痛い! あと、この子絶対俺が何か隠しているの理解してるって顔だよ! 親子だから分かる! ……あー、でも嬉しいな。ナザリックを見て家族も親しい友人も居なかった頃を思い出したけど、今の俺には家族が居るって改めて嬉しく思えるよ。

 

「……後は反応からして二百年ぶりって感じじゃなかった事だけど、記憶が中断されているのか? そもそも現れたタイミングからして父さんに引っ張られてこの世界にやって来たと思えるけど……冥界や人間界とは違う何かがあるのか……」

 

「まあ、敵意は感じないし情報も少ない。それに後もう少しでやって来る頃合いだろうし、話はそれからにしよう」

 

 さっき俺に抱きついてきたのは第一から第三階層守護者の……シャルティアだ。取り敢えず不測の事態だから第四と第八を除く守護者と王座の間に居た奴らを集合させるように命じたけど……。

 

 もしもの時は一応持ってきた神滅具とかの切り札の使用……そしてギルド武器であるスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを破壊してナザリックを崩壊させてでも娘を守らなくちゃな。……あの頃の思い出は今も宝だ。でも、失ってからの二百年で俺は……。

 

 

「来たようだよ、父さん。……魔王ロールを忘れずにね」

 

 ドロシーの言葉で思考を切り上げて前を見れば入り口からぞろぞろと階層守護者達……レベル百の奴らがやって来る。ここは気を引き締めないとな。俺が覚悟を決める中、守護者統括のアルベドが一歩前に出る。

 

 しかし並べて見れば別人だけど特徴を箇条書きにすればアルベドもシャルティアも嫁さん二人に似てるよなぁ。あっ! アウラちゃんなんて名前もモンスターを操る所も同じだよ! モリアーティ家の関係者にも結構特徴が似た人多かったし凄い偶然だ。

 

「では、至高の御方に忠誠の儀を」

 

 シャルティアから聞かされているのかドロシーにも注目が行き落ち着かない様子だったが、アルベドの号令と同時に階層守護者は爪先を揃えて跪く。他のNPCも背後に控えて跪いていた。設定の上下関係が適用されているのか……。最上級悪魔や魔王として過ごした経験がなければ気圧されていたかも知れないと俺が思う中、順次口を開いて名乗りを上げた。

 

「第一、第二、第三階層守護者 シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」

 

 恭しく頭を下げていく彼らをドロシーは特に特別な感情を向けることなく眺めている。これが生まれた時から貴族だった者と俺の違いって奴かぁ。多分些細な事柄から情報を集めているんだな。俺が娘を頼もしく思っていると俺にしか聞こえない大きさの声が耳に入った。

 

 

 

「……男の娘かぁ」

 

 あっ、アウラの弟のマーレを見てたんだ。確かに女の子だったらストライクだよな、お前の! 男だから範囲外だけど! しかし服の上から男の子だって判断するなんて……。頭が痛くなるのを感じながら平静を装っている俺の前でアルベドの名乗りが終わる。さて、お仕事お仕事。娘の前じゃ恥ずかしいけど、仕方ないな。

 

 

「皆の者、大義である。さて、シャルティアから聞いてはいるとは思うが正式に紹介しよう。私の実の娘であるドロシーだ」

 

 改めて俺から告げられる事によって驚きや感嘆の表情を見せるNPC達。ざわつきだした時、静かな声が響いた。

 

 

 

「静粛に。汝等が真の忠信たらんとするならば心を乱さず次なる言葉を拝聴せよ。……父上、どうぞ」

 

「……うむ」

 

 あー、うん。此奴も仕事上の顔を使い分けてたっけ。最近は俺の本性知る人相手の仕事が殆どだったし、それ以外でもドロシーが口を出す機会がなかったから忘れがちだったけどさ。声は静かなのに体の中まで響くような重みがあるし、俺の力を受け継いだのか使用できる絶望のオーラまで使ってるよ。

 

 NPC達もドロシーの言葉で気を引き締める中、俺も演技を続ける。……あー、力が強いが懐柔できるって思われたら厄介だってジェームズさんに言われて始めた魔王ロールだけど、やっぱ心労が溜まるよ、マジで。

 

 

「さて、見ての通りナザリックは未知の場所に転移しているが……アルベド、確認したい。私が王座の間から消えて何年経過した?」

 

「何年、ですか? いえ、モモンガ様がお姿をお消しになられてシャルティアが連絡してくるまでそれほどの時間は経っておりません。ですが、モモンガ様が他の至高の御方々同様にお去りになったのではと思ってからの時間は何百年もに……」

 

「あー、うん。確認したい事を聞けたから黙ってなさい」

 

 ……うん。やっぱ奥さんの片方に中身がそっくりだ。扱いになれてなかったらどうなっていたかなぁ。俺はアルベドを手で制しながら考察する。どうも二百年前のサービス終了の直後からこの世界に来るまでの間は途切れているみたいだ。それに辞めていったギルメンへの認識はそんな感じなのか。

 

「……信じられない話ではあるが、ここは皆が知る世界ではない。そして私は王座の間から更に別の世界に転移させられ二百年もの時を過ごしたのだ」

 

 再びざわめくNPC。さて、今度は俺が静めるべきか。娘に頼ってばかりはいられないからな。

 

「静粛に! さて、話を続けるぞ。転移の理由は未だ不明だが、私は二百年もの間に新たな友を作り、悪魔が住まう冥界での地位を手にし……家族を得た。訳あって迎えた養子を入れて子は五人もになり、長男には既に子がいる。この世界には休暇半分の調査に赴いたのだが、ナザリックが急に現れたと、そういう訳だ。今後のことは後々考えるとしてお前達に問おう。私はどの様な存在だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……彼奴等マジだ」

 

 他人の忠臣を見てきたがら分かるけど、NPC達の忠誠は本物だ。ドロシーにも確認したから間違いないだろう。……俺を褒め称える様な返答を聞いて笑いを堪えていたのは忘れよう。

 

「細かい説明などの雑務は私がこなしましょう。父上の忠臣たる者共との交流も兼ねておきますので、どうぞごゆるりと」

 

 なんて言ったドロシーに任せた俺は自室の椅子に腰を下ろして図書館から持ってきたシャーロック・ホームズの内の一冊を開く。ジェームズさんが実在したあの世界では存在しない本なだけに興味が湧いたんだ。まあ、ドロシーの観察眼は俺よりずっと上だし大丈夫だよな。

 

 俺の子達は全員モリアーティ家で教育を受けさせて貰ったし、ジェームズさんも孫や子供達に教えるついでに色々と鍛えてくれた。俺は休暇で心労を癒すか。……絶大な戦力が手に入った事で起きるトラブルは後で相談しよう。俺だけじゃ絶対に無理だ。

 

「さて、ちゃんと読んだ事はなかったが……」

 

 興味本位で選んだけど面白いのかな? ジェームズさんが悪役だし、途中で止めるかも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「モモンガ様、読書をなさっている所申し訳御座いません。姫様から、ご家族でお食事をする際はモモンガ様も同席しているとお聞きになりましたのでお迎えに上がりました」

 

「……うん? ああ、つい夢中になっていた。直ぐに向かうとしよう」

 

 気付けば二冊目三冊目と読み続け、戦闘メイド部隊プレアデスのナーベラルに声を掛けられ本に栞を挟む。家族と一緒の食事、そんな平凡な幸福を人間だった頃の俺は失っていたんだよな……。うん、今の俺は本当に幸せだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姫様、お飲み物は如何致しましょうか?」

 

「ああ、私が持ち込んだ処女の血があるから赤ワインと半々にしてくれ。甘めが良いな」

 

 ……あ、うん。ドロシーの母親は吸血鬼だもんね。別に嫌悪感は無いけど未だに慣れないや。目の前で血液が混じったワインを飲む娘の姿を眺めながら俺はワインの香りだけを楽しむ。酒に逃げるとも言う。……これ、血は入ってないよね!? 何か別のことを考えて……あっ、ハムスケ宿屋に預けたままだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お腹減ったで御座るなあ。夕食は未だで御座ろうか……」

 




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