紅閻魔と海賊姉さんと邪ンヌと玉藻と後何か
「これは調理技術と言うよりも畜産関係の問題だね……」
盗賊共を引き渡した際に一悶着あったものの、無事に冒険者の資格を手にした私達はエ・ランテルの中を散策していた。その途中、串焼き肉の屋台があったので買ってみたが固いし不味い。文明の発達が中世レベルと聞いてはいたが、これは早々に干渉の価値なしと調査報告書を纏め上げるべきかと考えていた。
「にしても……」
あの青い髪をした剣士だが、この国ではそれなりに名が知れた男だったらしい。ジェイルさんの所の警備隊長と同名の王国戦士長が任務の途中とかで立ち寄っていたので見分を頼んだが間違いないとか。
結果、私と父さんの冒険者ランクだが特例として最初から金級とのこと。本来はもっと上でも良かったが、他の冒険者の手前や有名になった御前試合が数年前だから、とのこと。まあ、動きやすい身分が欲しいだけだったから問題ないな。
尚、父さんはハムスケの魔獣登録があるのと魔術協会とやらに第五位階まで使えるって所を見せる(この世界は人の限界がその程度らしい)から現在一人だ。時折、検問所に大勢の盗賊を捕縛して差し出した一件が話題になったのか視線を感じる。
「あれが特例で金級になった……」
「父親は第五位階まで使えるって言ったらしいぞ」
「それにしても美人だ……」
幼女なら兎も角、男に見惚れられても微塵も嬉しくないので意識から外して歩く。懐の財布には盗賊にかかっていた賞金が詰まった皮袋が入っているし、適当な宿屋に入ろうと思った時、一軒の薬屋が目に入る。既に事前調査で情報が入っている希有な特殊能力(タレントというらしい)を持った有名な薬師の店だ。
「悪いけどちょっとこれを鑑定して貰えるかい?」
店に入ると老婆が店番をしていたので今は兄さんが領主をしている実家の領地で独占販売(製造はモリアーティ領)している赤いポーションを数種類差し出す。目論見通り目の色が変わった。
「これは……神の血!? アンタ、これを一体何処で……」
「ふぅん。この国では価値があるのか。私の祖国じゃ普通に売ってるけどね。この国のポーションとは毛色が違うと思ったから見てもらいに来たんだけど……」
心底期待外れという顔をして私は背を向け、老婆の声を無視して店を出ようとして立ち止まった。
「ああ、それは差し上げるよ。かさばって邪魔だから捨てようと思っていた物だしね」
今回、私達の目的はこの世界の調査と父さんの休暇。ぶっちゃけ、普通の休暇じゃ母さん達が気苦労を掛けるからね。さて、この世界のアイテム制作技術の調査はこれで第一歩。駄目なら駄目で構わないけどね。……そこそこ名を売った後はドワーフの所にでも行こうか。雪山に生息する魔獣やドラゴンの肉の市場価値も気になるしね。うまく行けば名産品が増える。
店を出た私は素早く雑踏に入って姿をくらませる。中堅冒険者が利用する宿屋の部屋を取ってから魔術協会の建物に向かうと父さんも丁度出てきた所だった。
「何か面白い話は聞けたかい?」
「ああ、どうも私と同じ世界の者達がこの世界の魔法に関わっているらしい。四大神やら六大神やら呼ばれている者達がそれだろうな」
……父さんが異世界の出身だとは既に知っている。随分と酷い世界だったと聞いている。……さて、そんなの世界の出身と出会った際の事で悩んでいるみたいな父さんに私は地図を差し出した。
「父さん、釣りに行かないか? 宿屋から適当な場所に転移して、戻るときは部屋に転移すれば門の出入りの手間が減るし先ずは宿に行こう」
「行こう! 釣りなんて久々だから楽しみだなぁ」
私が指さしたのは町から少し行った先に存在する巨大な湖。父さんの目が仮面の奥で輝いた。肉体の疲労はなくても精神疲労は有るのに疲れないからって無茶するからね。実は報告書やら魔王としての書類作業はあるんだけど、その程度は私が終わらせよう。実際、私がやった方が早いしね。
今回、魔王ロールはしないで気楽な地の話し方をしている父さんは見た目とのギャップで大いに目立ってしまっている。さて一気に行くのも味気ないし、空の散歩をしながらのんびり行こうか。
「どうせなら周辺を見て回ろうか。平原とか行って景色が良かったら風景画でも描きなよ」
「うん、そうだな。最近ろくに趣味に使える時間がなかったし、どうせならこの街の店で画材を揃えるよ。あっ! 釣り竿も買おうかな?」
父さんが楽しそうで何よりだ。留守番が決定しているハムスケを撫で回しながら私はしみじみ思った。
「あっ、そうそう。さっき初対面で交際を求めてきたのが居たけど何かして良いかい?」
「……よし、殺そう」
「殺しちゃ駄目でござるよっ!? 二人共落ち着くでござる! 殿ー! 殿ぉぉぉ! ヘルプミーでござるぅううううううう!!」
あっ、当然殺してないよ? 顔を覚えてないしね。
「うわぁ。これは楽しそうだ。さて、構図は……」
転移で町から少し離れた場所に移動して、そこから飛行してやってきた場所で父さんは画材片手にウキウキしている。指で長方形を作って書いたときのイメージを決めていた。早速二人共描く風景を決め、購入した筆を取り出す。質は普段使ってるのと比べて劣るけど、その地域で購入したもので描くのも乙なものだ。
私達が正面から目を離したのは僅か一瞬。顔を上げた時、巨大な墳墓が出現していた。二人が居るのは建物の前の中庭部分で古めかしい門が手を伸ばせば触れられる場所に存在している。
「「……は?」」
思わず口から間抜けな声が出るが気を引き締める。空を見上げれば雲の形や場所に変わりはなく、私達が転移させられたのではなくて墳墓が転移してきたか幻で隠されていたという訳だ。取り敢えず一時撤退が望ましいと私が進言しようとするが、父さんが何やら妙な様子で建物の中に入っていった。
「……私はここを知っている? 何故か懐かしい気が……」
「ちょっと父さん!?」
何時もは慎重な父さんが不用心に建物の中に入っていくのを見た私は慌ててしまう。何らかの術であの父さんが操られたのならば増援が必要だ。モリアーティ領に行ってゼスティさんや一誠さん達を連れてくる必要が……。
「うおっ!?」
父さんの慌てた声が聞こえた瞬間、私は考えるのを止めて建物の中に飛び込んだ。地下に続く階段を駆け下りれば直ぐに父さんの背中が目に入る。よし! 即助太刀して撤退を……。
「父さ……」
「ああ、我が君! わたしが唯一支配できぬ愛しの君!」
撤退をしようと考えていた私の目には父さんに抱きついている銀髪の少女(胸パット)の姿があった。どう見ても父さんにメロメロで只ならぬ関係、少なくても初対面ではなくて……ああ、愛人か。ここ、行きつけの娼館か妾宅だった訳だ。
「……いや、別に良いけどさ」
私も眷属は好みの娘達で構成しているし、そもそも母さんが第二婦人だから他に女が居ても文句はないけど、流石に娘を置いて妾宅にフラフラ入っていくのは引く。
(……何だろう。振り返ったら立ち直れない気がする。具体的に言うと娘が虫を見る目を向けて来ているような……)
(あのモモンガ様と同じ至高の御方々特有の気配を持つのは一体何処の誰でありんしょう? さっき父さんと言っていた様な……)
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