成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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まぁた新作書いちゃったよ


全て教授の手のひらの上

「はっ! 中々栄えてるじゃねぇか。今から焦土になるがよっ!」

 

 英雄派幹部ヘラクレスはモリアーティ領の街中で人目もはばからずに笑う。部下の顔は……暗かった。生まれ持った神器を理由に迫害された者、英雄に憧れた者、使えそうだからと拉致され洗脳された者。英雄派には様々な理由から所属する者達が居るのだが、僅かな期間で士気が急落していた。

 

 主なアジトへの急襲の連続、それも敵と戦うことはなく近代兵器を利用した一方的な物に加えて、隠し財産の紛失や口座の凍結による資金の枯渇。更に顔と名前を出して世界に広まった『妄想癖のある犯罪集団』という汚名。だからこそ、今回の冥界への襲撃は士気回復に不可欠だった。

 

 多くの眷属悪魔は不遇な扱いを受けており、貴族に不満を持つ領民も数多く存在するので扇動は容易かった。だが、モリアーティ領では上手く行かず、わざわざ大人数を引き連れて出張ってきた訳だ。

 

「見ろよ。呑気だな、悪魔共は。まっ、直ぐに恐怖と混乱による絶叫が響くんだがなっ!」

 

 下品な高笑いをあげるヘラクレス視界の先、そこでは領民と次期領主のジェイルの眷属であるハムスケの交流会が開かれていた。ハムスケ本人は『それがしの勇ましい姿にメロメロでござるなぁ』と断言しているが、巨大なハムスターなので可愛いだけだ。実際、子供達は楽しそうにハムスケを触っていた。

 

 子供達と、それを見守る親という何気ない幸せそうな一時。それは心の弱った一般団員達に迷いを生ませるのに十分であったが、ヘラクレスと今回のために雇った魔女は少しも揺るがない。寧ろ阿鼻叫喚の地獄絵図に変えることを楽しんでさえいた。

 

「んじゃ行くぜぇっ!! 禁手化(バランスブレイク)ゥゥゥ!」

 

 ヘラクレスが叫ぶと同時にその体はミサイルを思わせる物体に覆われる。全体に突起物が存在し、それが同時に放たれた。神器によって生み出された無数のミサイル。それは街の至る所めがけ発射され、即座に空中で停止する。その中の一つに赤い蝶が止まった……。

 

「逃げっ……」

 

 それが何か理解した団員の一人が叫ぼうとするも、声を出した時には蝶は内包する火炎を吐き出しミサイルが誘爆を起こす。途端に紅蓮の焔と爆音が響き渡り、周囲が激しく揺れた。だが、建物のガラスは一枚も割れていなかった。

 

 爆炎が立ちこめる中、場違いな程に軽快な拍手の音が響き渡る。英雄派達が居た場所をジェームズ・モリアーティが愉快そうに見つめ、その横には怯えているギャスパーの姿があった。

 

 

「イヤー、良くやってくれたヨ、ギャスパー君。魔眼の制御訓練の成果が出て何よりだ」

 

「は、はい! で、でも、どうしてミサイルだけを停めるように?」

 

「君の神器は強力だが、対象は発動前に予兆を感じるからね。なぁに、私が指示したタイミングで実行すれば大丈夫だっただろう? 実際上手く行った。…今までよく頑張った。君はもう誰かに迷惑をかける存在ではない。一人前の男だ」

 

「は、はぃいいいいいいいいいっ!」

 

 未だに情けなくもモリアーティの言葉にギャスパーは確かな自信を得ることが出来た。能力が制御できず、自分を否定して生きてきた頃の彼はもう居ない。只、そんな彼を見てほくそ笑んでいるモリアーティに気付いていなかった。

 

 

 

 

「にょ? 花火でござろうか? 旦那様がどうして居るでござるか?」

 

「……あの、ハムスケさんに説明は……」

 

「したら顔と態度に出るからね、あの子は……」

 

 ハムスケの呑気な声にギャスパーでさえ呆れ顔。当の本人は花火が不発になったのかと残念そうだ。そんな中、爆発による煙が晴れ、死体が転がる中、唯一立っているヘラクレスの怒り心頭といった姿があった。

 

「この糞爺ぃがぁあああああっ! 絶対にぶっ殺してやるぜぇええええええええっ!!」

 

「ん? 敵でござるか? 随分と怒った様子でござるなぁ」

 

「見たまえ、ギャスパー君。あれが信念も誇りも品性も知性も存在しない愚か者の姿だ。……まあ、だからこそ容易に罠に掛かってくれたのだがね」

 

 ハムスケを無視してモリアーティはヘラクレスを嘲笑い、高く挙げた右手の指を鳴らす。途端、周囲の建物が煙のように消え去った。

 

 

 

 

「さて、自称英雄君。まんまと罠に掛かった気分はどうかナ? 君達の動きは実に読みやすくて助かったよ、いやいや本当に。ターゲットや時間帯を私が予測し、転移して来るであろう場所にレライ君が罠を張ればこの通り。準備を整えた場所に得意顔で来た訳だ」

 

 大袈裟に腕を広げてヘラクレスを馬鹿にするモリアーティ。気分は事件のトリックの解説をする探偵だろうか。ヘラクレスは怒りのあまり顔が赤を通り過ぎて白になっている。

 

「ああ、君に忠告だ。後ろを向いた方が良いヨ?」

 

 モリアーティが言葉を言い終えた瞬間、ヘラクレスの背中に高速回転したハムスケの体当たりが叩き込まれた。足が地面から離れ、はね飛ばされて宙に浮くヘラクレス。この時点で彼の意識は朦朧としており、地面に激突する瞬間、再びハムスケが迫ってきた。

 

 

「電撃ビリビリドッカンカーンでござるよぉおおおつ!」

 

 体に尻尾を巻き付け、その先端には北欧より贈られたミョルニルのレプリカ。回転するハムスケの体全体を雷神の雷が包み込む。激突の瞬間、雷光が周囲を包み込み、雷鳴が轟いた。

 

 

「むー。これやると毛が変になって嫌なんでござるよなぁ。屋敷に戻ってメイドの誰かにブラッシングをお願いしたいでござるが……」

 

 回転をやめて着地したハムスケの姿は様変わりしていた。全身が総毛立ってモコモコに膨らんでしまっている。思わず飛びついてしまいたい見た目だ。その足下で炭になっているヘラクレスだったものが気にならない可愛いらしさであった。なお、メイド一同の猛烈な反対でハムスケは暫くこの姿で過ごす事になるのだった。

 

 

 

「さて、先程モードレッド君から連絡があり、またしても我が家が敵の幹部を討ち取った訳だ。笑いが止まらんね」

 

「あの、旦那様。どうして旦那様がわざわざ来たのですか? 人を使う方が得意だったんじゃ……」

 

「簡単なことだ。息子が頑張っているのだし、偶には私も出張りたくなった、それだけさ」

 

 ギャスパーの問いに答えた時、モリアーティの携帯に新たな着信が入る。それを見た彼の表情が瞬時に変わった。

 

 

 

 

「各勢力による決議の結果、例の件が採択された。……コードS発動だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「所で囮になった子供達は一体……」

 

「警備隊の皆に子供の姿になって子供服を着て無邪気な振る舞いをして貰ったのだよ。……忘れてやってくれ」




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そろそろ終わりが近いです

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