あとエレシュキガル フォウさんが良かった
「予想外の事態が続いているが、困難を乗り越えてこその英雄だ。それにこれはチャンスじゃないか」
「大活躍のジェイル・モリアーティを倒せば俺様達の名は一気に上がるって寸法だな。負け続きでボロボロの他の派閥の奴らは残った幹部を殺して取り込んだし、後は俺達が勝つだけだ」
「でも本当に大丈夫? フェンリルを圧倒したって話の化け物が居るんでしょう。それにあの子が居ないし……」
「不安になるな、俺には切り札がある。それに圧倒的な化け物にも弱点がある。強者であるが故の慢心って奴がね。英雄は人を超越した化け物を倒してきた。なら俺達もそれに倣おうじゃないか」
「ああ、その通りだ。取り敢えず見張りは任せてくれ。おそらくあの化け物は戦闘特化だ。なら、僕の監視に気付く心配もないだろうし、万が一、いや億が一気付かれたら止めれば良い。さて、じゃあ新しい時代の英雄譚を始めようじゃないか」
まだ早朝の時間帯、僕は最高に可愛い声で目を覚ます。僕が悪魔でなかったら天使のようだ、女神のようだ、と例えること間違い無しの超絶に可愛い声と共に頬をペチペチ叩いて僕を起こしたのは世界一可愛いい愛しのフラン。いや、もう僕の貧相な語録じゃ彼女の魅力を語り尽くせない。
「おきてー! ジェイル、おきてくださーい。フランちゃんがよんでますよー!」
「まだ早いけどどうしたの? まあ、君の顔を見る時間が増えて嬉しいけど」
フランの頬にそっと手を添えれば柔らかい手が重ねられる。思わず抱き締めれば嬉しそうに微笑んでくれる。もう彼女の魅力を表すに相応しい言葉など過去未来現在ありとあらゆる世界を探しても見つからないとさえ確信したよ。
「あのねあのね。ジェイルとしばらくあえないからさびしいのです」
レライの発明した剣と水着の効果で話せるようになったフランだけど疲れるのは同じだからたまにしか使わない。でも、修学旅行に行くからって昨日は着て貰って。今は辛うじて引っかかっている状態だ。照れて顔を手で隠しながらも甘えてきたフランとの夜は本当に盛り上がったよ。
「そう。だったら……」
より強く抱きしめながら唇を重ねる。こうすれば僕もフランを強く感じられて本当に幸せだ。愛の言葉を交わせないの残念だけど、起きる時間までずっとこうしていよう。……もう少し先の段階でも良いけどね。
ああ、本当に君が愛しいよ、フラン。君と出会えて僕は本当に幸せなんだ……。
「ジェイル、眠そうだけど夜更かししたのか?」
「あっ、うん。少し早く起きたから
修学旅行の目的地である京都への新幹線の中、僕が大欠伸をすると週刊誌のグラビアを眺めていた元浜が手を止めて尋ねてきた。端から見ても眠そうなみたいだし、京都では向こうの人員とも会うからシャキッとしないと恥になると思った僕は鞄の中からレライ特性のドリンクを取り出して一気にあおる。眠気と疲労が一気に吹き飛んだけど、材料は頑なに教えてくれなかったから不安が残っているんだよね。
「うわっ。俺達と大して変わらないだろこの子達。可愛いけど引くな。ちょっと見て見ろよ」
言われた通りに週刊誌の記事に目を向けると世界中で誘拐や殺人を繰り返しているとして指名手配されたという数人の顔写真が掲載されていた。
「重度の妄想癖と非常に強い攻撃性を持ち、非常に危険な集団だってよ。最近もレオナルドって子供を浚った上に狙撃銃で殺したらしいし……」
スマホで検索してみると週刊誌に載っている連中の本名や出身地まで細かく広まっているし、被害者も凄まじい数らしい。まぁ、口座も隠し資産も押さえてあるし、こうやって知れ渡れば行動は狭まる。でも本人達も驚いているだろうね。身に覚えのない悪事まで自分の仕業になっているんだからさ。
七割以上が本当は悪魔の仕業の事件のリストのページを閉じた僕は読みかけの文庫本を取り出す。アーシアが見える場所で笑っているからイッセーも二人が始めた猥談に入れなくって退屈そうにする中、新幹線は順調に京都へと向かっていった。
「……おや?」
一瞬、空に異変が起きた気がした。僕達が何かされたって言うよりは何かされそうになって何かが起きたって感じだったけど……。
ああ、それと誘拐殺人を繰り返している危険な集団だけど、最近では幼い少女に非常に露出の高い格好をさせているって情報があり、児童売春の強要の容疑もあるそうだ。全く世も末だと思ってしまう。
未だに人間に多大な迷惑をかけ続けて繁栄している悪魔の僕が言うことじゃ無いけど、人間だって他国や他人を犠牲にして自国や自分達の利益を得ている人は大勢居るし、これから付け込まれないように共存の道を探れば良いよね。
「ふむふむ、他の派閥がほぼ壊滅した為か結構な資金を持っていたようだね。まぁ、新しい領地の領民への優遇措置で全部消えるのだが……」
「旦那様、今後の奴らの行動は大丈夫なのですか? 自爆覚悟で自棄になる可能性、何より聖槍の奥の手が……」
「ああ、それなら既に想定内だ。奥の手とは知られていないからこそ最大効果を発する。無論、、警戒させる威圧の効果も期待できるから知られていても意味はあるのだがね」
「……彼の様にでございますか? フェンリルを圧倒した映像、既に他の神話に広まっております」
「ああ、彼は私を大切な友と思い、息子や息子の眷属のアーシア君を可愛がってくれているからね。……友とは何よりの宝とはよく言ったものだネ。そんな事よりも早く各神話の了承を得ねばならないヨ」
京都に到着した途端、僕達を監視する視線に気付く。絶対に術での監視をしないようにと言い含めているから目視での監視なのだろう。
(まあ、警戒するのは当然だ。神器は聖書の神が創り出したもので、テロリストの殆どが僕達三竦みの勢力の関係者。内心ではマッチポンプでも狙ってるのでは、と疑ってるのかな?)
でも、この程度気にしていたら貴族なんか出来はしない。イッセーとアーシアは旅行中のデートをしたがっていたけど、監視されながらじゃ楽しめないだろうね。少し可哀想だ。
「取り敢えず何処に行く? 僕、雀の丸焼きを食べてみたいけど」
旅行中はアーシア達の班と一緒に行動する事になっている。問題は一般人である元浜達を巻き込むような手に出ることだけど、助っ人がいるからそれ程不安になっていなかった時、僕の服の袖が急に引っ張られる。
「……」
先程まで居なかった場所に湧き出たかのように出現した少女。彼女は感情を感じさせない深い闇のような瞳で僕を見上げていた。
「何用かな、オーフィス? 頼まれて僕達を倒しに来たのかい? 言っておくけど僕達如き倒せない奴らじゃ倒したい奴相手には役に立たないよ」
「違う。今の我、お前達に興味有る」
どうやら修学旅行はいきなり波乱みたいだ。取り敢えずこの場で一番のアザゼル総督に押し付けて、父さんやアジュカ様に報告しよう。
感想お待ちしています
あっ、この章で完結予定