成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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亜種と終結

《しかしまぁ、随分と身勝手な話だな。無限龍をトップに据えた組織に対抗する為に同盟を組もうなどとはな》

 

 観覧中、ハーデス様が皮肉気に笑いながら呟く。あくまで独り言という体をとっているけど明かに僕達に聞かせていた。

 

《力こそ強大だが今まで動かずにいたオーフィスを担ぎ上げたのは誰だ? 内乱後に追放された悪魔に魔術師に堕天使に天使の裏切り者に何処かの神が与えた神器を持った人間だ。おや? 何処かの勢力に関係する者達ばかりだな。不始末で世界中に迷惑を掛けている分際で同盟とは聞いて呆れる》

 

 よく言うよ、と思う。既にジークから引き出した情報でハーデス様や帝釈天様は英雄派と名乗る奴らの協力者だって知っているけど、自由に話をさせられるアンデッドの証言で糾弾できる相手じゃないし、相手が相手だからアジュカ様が預かる事にして秘匿とされたんだ。あっ、もしかしてこっちの反応を確かめに来たのかな?

 

《いやいや、実に愉快愉快。組むなら組むで絞れるだけ絞る口実が出来るからな。蝙蝠や烏も少しは役に立つとは驚きだ》

 

 ここで無駄に反応する様な馬鹿はこの部屋には居ない。ゼスティとハムスケは理解出来ていないのか、”あっ、褒められてる?”、って顔をしているけど無視しよう。まあ、無駄に感情を爆発させて事態を悪化させるようなのはすでに派閥から駆逐されているんだから当然だけどね。

 

 そうして特に反応がない事にハーデス様は少し不満そうだけどそれ以上は何も言わない。やれやれと僕が汗を拭いたい気分になった時、今度はオーディン様が話し掛けて来た。

 

「所で若いの。お主、年収は幾らくらいかの?」

 

「……養っている孤児達や眷属の研究費、その他諸々の費用を差し引くと自由に使えるのは千五百万くらいでしょうか?」

 

 チラリとアジュカ様の方を見ると頷いたので正直に話す。地位や商会の事を考えれば多くはないけれど、眷属関連で

 

「なら儂の護衛のロスヴァイセを嫁にせんか?」

 

「おこ……御冗談を」

 

 危なっ! 同盟組もうって相手のトップの申し出を速攻で断る所だったよ。冗談とは言え流石に拙いからね。

 

「オーディン様っ!?」

 

「何を驚いておるのじゃ。収入も有る上に先日敵の幹部を仕留めた将来有望な若手じゃぞ? それに婚姻による同盟締結は珍しくもあるまい?」

 

「ですが……」

 

 此方を見てくるオーディン様の護衛(ロスヴァイセさんだったっけ?)は顔を赤らめながら僕をチラチラ見ているけれど断るからね。

 

「……御冗談はその辺で止めて頂きたい、オーディン様。彼には既に心に決めた婚約者が居る。幼い頃から共に過ごし、両親も彼女を大変可愛がっている」

 

「ふむ。残念残念」

 

 モモンガさん、ナイス! 冗談だったし引き下がる事もなくオーディン様は話を切り止める。さてと、ゲームに集中しなくちゃね。

 

 

 

 

 イッセーの至った禁手『赤龍帝の外套(ブーステット・サブライマント)』は本来の全身鎧と違い頭を守る帽子と体を覆うマントといった一見すると防御に大きく難があるかに見える。当然木場もそう思ったんだろうね。彼の禁手『怨嗟轟く魔剣霊団(ソード・オブ・アヴェンジャーズ)』によって生み出された悪霊達は魔剣を手にして一斉に襲い掛かる。

 

「君は聖剣を貰ったんだってねっ! さあ! さっさと出すんだっ! 僕はそれを破壊する!!」

 

 彼が憎悪に満ちて声で叫ぶたびに悪霊の力が上がって行く。どうやらコカビエルの予測した通り憎悪で力を増すようだね。

 

「悪ぃな。アスカロンなら神器と一体化させちまった」

 

「ならば神器ごと破壊してやるさっ!!」

 

 更に力を増した悪霊が迫る中、イッセーのマントが蠢いた。不定形生物のように形を変えながら伸び、イッセーを囲むようにドーム状になったマントに剣が一斉に振り下ろされた瞬間、硬質な音と共に剣が弾かれて悪霊達は仰け反った。

 

 

《重ねれば随分と強固な作りのようだな》

 

「液体の様に自在に形を変え金属のように硬い。面白い力じゃな」

 

 主神二人も感心したような声を出す。本来背中に付いている高速駆動用のブースターと全身を守る常時の防御力の代わりに得たあの形態は布を重ねる事で本来以上の硬度に変化し、自分だけでなく周囲の味方も守る事が出来る。あれこそがイッセーが望んだ敵を倒すよりも仲間を守る事を優先した能力……の一つだ。

 

「守ってばかりじゃ僕には勝てない……」

 

「いや、俺の勝ちだぜ、木場」

 

 マントの表面が更に蠢き、周囲へ向けて無数の突起物が出現した。昆虫標本の如く悪霊達が串刺しになり、瞬時に貫いた先端がフックになって逃さない。まだ仕留め切れていないようだけど、もう終わりだ。

 

 

「まだだっ! 皆が消える前に僕が君を倒してアスカロンを壊すっ!!」

 

「お前、さっきから何を見てんだ? お前の相手は俺だぞ、木場ぁっ!! それに言ったよな? アスカロンを取り込んでいるってよっ!」

 

 魔剣を手に向かって来る木場に対しイッセーは吼える。自分を侮るな。敵をちゃんと見ていないお前なんかに負けて堪るか、と。その瞬間、マントは悪霊を貫いたままバラバラになり宙に浮く。全体から聖剣のオーラを放ちながら。

 

龍殺剣弾(アスカロン・ブリッツ)!!」

 

 細切れになったマントが木場に殺到して全身を撃ち抜く。鏃の様に形状を変えた布は体に深く突き刺さり、体が消滅しない程度に手加減された聖なるオーラが体内から彼の体を駆け巡った。

 

 

『リアス・グレモリー様の『騎士(ナイト)』一名リタイア』

 

 ……勝負は決した。相手を倒すたびにイッセー達は元の場所へ戻っていく。そう。アウラがリアスさんと一騎打ちしている場所へと。一騎打ちだから手は出さないけれど、その時点で勝者が誰かなんて誰の目にも明らかだ。たとえリアスさんが勝ったとしても、誰も彼女の勝利を称えない。

 

 

「皆負けたのね。なら、私だけでも勝つわっ!!」

 

「うん。こっちも負けられないよ? 背負っている物があるからねっ!!」

 

 アウラは的確にリアスさんの魔力を無効化しながら魔力を纏った鞭を打ち付ける。ただ生まれ持ったパワー任せに放つだけの相手に負けたりはしないけど、まだ発達段階なので力が不足して決め手に欠ける。

 

「……だからさ、もう奥の手使わせて貰うよ? 本当は自分だけで勝ちたかったんだけどさ」

 

 アウラが残念そうに呟きながら片手で腕に巻いた赤い布、イッセーの禁手の切れ端に触れると表面に緑の宝玉が出現する。そう、使うことにしたんだね。

 

『Boost!!』

 

 宝玉から音声が発せられ、アウラの力が倍になる。やや傾いていた戦況が傾斜を増し、リアスさんが反撃する頻度が減る。

 

『Boost!!』

 

 またアウラの力が倍になる。もう凌ぐので精一杯だ。

 

『Boost!!』

 

 三回目の倍化、この瞬間、決まっていた勝負が決まった。手を鞭で絡め取られ体勢を崩したところに魔力が直撃する。数度のバウンドの後、リアスさんは起き上がれなかった。

 

 アレこそイッセーの禁手の奥の手『赤龍帝の勲章(ブーステット・リース)』。倍の回数分の負担をイッセーが受ける代償が有るけど離れた場所にいる味方も神器の能力を使えるという破格の力。爆発的な攻撃力のゼスティとは別方向に赤龍帝の力を進化させた結果だ。

 

『リアス・グレモリー様の投了(リザイン)を確認しました。この試合アウラ・アスタロト様の勝利です』

 

 ……さて、これで日本に居る目的は殆ど結した。表向きは貴族社会だけでは学べないことを学ぶって理由だけど、本当は違う。未熟な魔王の妹達って餌に食いつく獲物を手柄にすることと何かの役に立つかもしれない繋がりを作る事だったけど大学からは冥界に帰ろう。同世代の貴族との繋がりを社交界以外で持たなきゃね。

 

 

「じゃあインタビューがあるから此処で失礼します。行くよ、皆」

 

 眷属を引き連れてインタビュー会場へと向かう。リアスさんにトドメを刺す為にもね。

 

 

 

 記者は僕に問い掛ける。今回の相手への感想は? と。だから僕は応えた。不愉快です、と。

 

 

 

「このゲームは若手の未来を、延いては領地領民の未来に関わる大切な試合。他勢力の方々も観覧し、費用は血税からだされています。なので最後に。……やる気がないなら最初から試合に出るな。ゲームに関わる全員への侮辱だ」

 

 ゲームは勝てば良いだけじゃない。チームワークに見栄えのする戦い方、そして試合前後のインタビュー。それも含めてゲームの実力なんだ。勝てば官軍、恨んだら駄目だよ?

 

 

 

 そして数日後、僕はフランと二人だけで別荘に来ていた……。




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