「良いね、良いねー! じゃあ、次はグダッっと四肢を伸ばす感じでお願い!」
「こうでござるか?」
「うんうん、凄くキュートだよ!」
この日、僕達は新進気鋭の実力者として雑誌の取材を受けていた。記者達の主な目的は人気急上昇中のハムスケ。今回の記事が載る号の表紙と巻頭グラビアが既に決定しているらしい。
そして二番目は主の僕。もう成り上がりの次期当主だからと侮られないほどの功績をあげているからだ。僕と一緒に撮影されるのは婚約者のフラン。かのフランケンシュタインの怪物ということもあって今回注目されている。
記者に言われるがままにフランの肩を抱き寄せ、続いてお姫様抱っこをする。
「じゃあ、次はキスでも……は流石に恥ずかしいだろうから頬っぺたで……」
うん、流石に僕もそれは恥ずかしい。身内の前ならフランとどれだけイチャイチャしても構わないけど、流石に雑誌に載るのもと思ってフランが頬にキスをしやすいようにと近付けた時、頬に両手が添えられてフランの唇が僕の唇に重ねられる。
「……ウ?」
「大丈夫、問題ないよ……」
ま、まあ、功績をあげているからって、嫁に出すしかない次女三女や公に認知していない妾の子と僕を親しくさせようとするのが未だいるし、こうして二人の仲を広めるのは悪くないしね。それにフラン可愛いし! 駄目だった? って訊きながら小首を傾げるとか今すぐ抱き締めたい気分だよ。
撮影は順調に進み、他の部屋では次のゲームに出るレライ達がインタビューを受けているし、モードレッドはクラレントに赤雷を纏わせてポーズを取っている。モモンガさんは……うん。凄くノリノリでオーラ出してた。普段は見せない杖まで出してさ。
「じゃあ、最後に次のゲームについでですが勝算はありますか?」
「そうだね。……勝つとは信じている。僕が眷属を信じなきゃ誰が信じるんだって話だからね」
インタビューは進むけど、どうやら次のゲームはリアスさん側がやや優勢だってのが世間の見方みたい。大王家の特性である滅びの魔力を受け継いだ王に、堕天使最高幹部の娘、この二人の相手をする僕の眷属はソーナさんとのゲームに出た皆と違って単独での功績は今一。
……まあ、少し前なら苦戦したかな? ソーナさんの場合は眷属が上層部に喧嘩を売ったし、夢が気に入らないからってハンデを貰いながら負けたって事になったけど、リアスさんの場合は此方が勝つにしろ、ハンデはあったものの、功績をあげている僕達相手に善戦した、っていう
「それにしても最近活躍目覚ましいですが、旧アスモデウスを撃退した際には領地の警備隊の活躍もあったとか。有能な部下を育てるコツがあるのですか?」
「高い才覚を持った者に素人考えによる物ではなく、理論に基づいた指導を行った結果かな? 人に教えるならどうやって教えればいいか、を理解している人じゃないと。戦いが出来る、と、戦いを教えることが出来る、は別だからね」
体はただ鍛えればいいって訳じゃないし、集団での戦いも模擬戦を繰り返せばいいって訳じゃない。人を育てるってのは素人考えじゃ駄目なんだよ。
「……なあ、本当に次のゲームって演出は必要ないのか? いや、俺は演技の自信がないから安心だけどさ……」
帰り道、車の中でイッセーが不安そうに訊ねて来る。少し前まで相手を立てる勝ち方についても学ばせたし、ショーとしてのレーティング・ゲームにおいて、歴史の浅い貴族の立ち回り方も教えた。
そして、こんな時期に行われる名門の次期当主同士の戦いだ。公爵家を立てるのが通常。こっちは養子に入ったばかりの分家が王代理。勝っても良いけど勝ち方は上層部の気に入る勝ち方じゃないと駄目だってイッセーにも分かる。
「大丈夫大丈夫。今のグレモリー家は落ち目だからさ」
次期当主(次期次期当主の甥っ子が有望な次期魔王候補だからに過ぎない)のリアスさんの数多くの失態に、グレイフィア・ルキフグスの背任疑惑。もう息子のミリキャスが魔王になる可能性は低くなった。つまりリアスさんの貴族としての価値も下がったという訳だ。
彼女は将来的に公爵家の領地を分けてもらって其処をライザー・フェニックスと運営する。さて、フェニックス家との関係を考えれば分け与える領地もそれなりに物となるし、今は仲が良くても次や次の次の世代は分からない。つまり、その分、公爵家の力は下がるって訳だ。
最近公爵家の派閥に入った貴族は離れ、前から入っていてもズブズブの仲とまでいかない貴族は静観。僕達が顔色を伺う必要はないって訳だ。
「次のゲームもハンデを付けながら圧勝して、もっと前に進んでいこう。血だけで大した努力もしていない連中を押しのけてさ」
ソーナさんは手順を間違えた。下の者を育てて環境を変えるんじゃない。環境を変えらえれる力を手に入れてから下の者を育てるべきだったんだ。世界を変えられるのは力を持つ者だけなんだからさ。
そしてゲーム当日、僕は控室で出場する五人の様子を見に来ていた。アウラはリラックスした様子で鞭を振り、イッセーとアーシアは隣に座って話をしている。レライは研究資料を眺めていた。
「ウッ!」
「張り切っているけど無理はしないでね。戦いなんてレライ達に任せておけば……分かった分かった。君の力を信用していない訳じゃないよ」
不満そうに睨んで来るフランに慌てて謝る。今回好戦的でないフランが張り切っているのは理由があるんだ。今回のゲームで父さんが満足する内容だった場合、それぞれにご褒美が出ることになっている。フランの場合……避暑地の別荘で僕と二人っきりで一日過ごすんだ。
……それなんだけど、母さんが色々と用意していてくれる。あの人、商会で大人向けの商品も取り扱っているし……うん。
『まだ学生さんだから親になるのは早いわね。それよりはお兄ちゃんになるほうが先だわ。ふふふ、でも、色々と経験していたほうが良いわ。元気になるお薬とかゴム製品とか置いているから頑張りなさい。……乱暴にしちゃ駄目よ?』
母さんの言葉はフランは知らない。僕と二人っきりで過ごすのが楽しみなんだね。……少し良心が痛むけどさ、僕だって年頃だし、フランってスキンシップがさ……。
「さて、流石に今回のゲームだけどルールはどんなのかしら? ……まあ、落ち目と言っても公爵家が相手だし……」
分かりきったような口調でレライは呟く。
『只今よりリアス・グレモリー様とアウラ・アスタロト様のレーティング・ゲームを開始致します』
アナウンスに従ってアウラ達は転移用の魔法陣に乗り、僕は応援に来たゼスティ達と共に観覧室へと向かう。ベルゼブブ派の集うその部屋は入ると静まり返っていたけど、理由はすぐに分かった。
《ファファファ、また会ったな小娘》
「ハーデス様っ!? どうして此処に居るんっすか!?」
……さて、モモンガさんを見に来たか、それとも……。もう一人のゲスト、北欧神話の主神オーディン様がお付きのヴァルキリーと共にこの部屋に居るのを確かめた僕は平静を装いながら自分の席へと座る。何故かお二人の傍だった。席を用意したのはアジュカ様か……。
「おや、これはこれは随分と……」
通常、ゲームでは離れた本拠地に転移して準備時間がある。でも、今回は二つのチームが開始早々に傍に居た。今回は短期決戦形式か。
「……グレモリー側に有利に見えるな」
前衛向きのイッセーは強化に時間が掛かる。アーシアは後衛の援護(間違いではない)だし、レライも後衛タイプ。フランもガチガチのタンクって訳じゃない。前衛二人に大火力の砲台タイプが二人居るリアスさん達にはモモンガさんが言う通りに有利に見える。
「あれま……予想通りっすね」
「まさか予想通りとは驚いたでござる」
「はっ! 見え見えの展開だな」
「まだ完全に派閥の力がなくなった訳ではないしな」
四人は口々に同じような意見を述べる。うん、予想通りだ。
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