成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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眠気に負けて別のところに更新してた

ソーナに厳しいです


夢と政治

「ふむ、そろそろ終わりかな?」

 

 机の上に山盛りに置かれた書類を片づけ、フッと一息。息子の眷属のデビュー戦だというのに領地運営と手掛ける商会の重要な仕事が重なるとはな。さて、息子への課題を増やさねば。

 

 ・・・・・・八つ当たりじゃ無いのだよ? ほら、将来的には領地だけでなく私と妻が別々に手掛ける商会も継いで貰わねばならないし、時期を見て合併する予定だが、調整が面倒だから丸投げするかもしれないのだからネ。いやー、可愛い子には旅をさせろと言うが心が痛んでしょうがないよ。はっはっはっはっはっ!

 

 あっ、でも孫が二人以上生まれた時の為にまだ合併はしない方が良いかな?

 

「セバスチャン、テレビを」

 

「はっ!」

 

 会場の方には私の代理として妻が行っているし、我欲にまみれて視野が狭くなった愚物共の相手をしなくて済むのは正直助かる。ワインでも飲みながらのんびり観戦させて貰おうか。勝敗の明らかな茶番のね。

 

 

 

 

「ぐぁあああああああああっ!?」

 

 画面が付くなり最新の音響システムから耳障りな絶叫が響く。ソーナ君の眷属の少年が天井にぶら下がり勢いを付けて奇襲を掛けたようだが、ゼスティ君の拳を伸ばした足に正面から叩き込まれてしまっている。

 

 うわー、痛そうだ。間接の構造上曲がらない方向に曲がった足から白い物がはみ出ているよ。しかし、空を飛べる悪魔なのに警戒されて当然で遮蔽物のない天井に張り付いて気付かれないとでも思ったのかね? もしそうなら相手を嘗めているし、本人や指導者の作戦立案能力を疑うよ。

 

『おっとこれはいけない。余りに悲惨な部分にはモザイクを掛けて放送させて頂きます。しかし即座に不意打ちが露見しましたが・・・・・・』

 

『高いだけで隠れにくい所で待ちかまえるとは人間の感覚が抜けていない、といった所ですね。悪魔の作戦としては愚策です。これでは格上の相手は厳しいでしょう』

 

 司会と解説は手厳しい意見を述べている。いや、述べるように指示されて居るのだろうね。養子の次期当主の箔付けには相手を落としてでも高く見せる必要があるし、上層部に楯突いた彼が見せしめになったという所だ。

 

「匙先ぱ・・・」

 

 少年にしがみついていた兵士の少女は顔を青くして叫ぼうとするが、ゼスティ君のデコピンを側頭部に受けて吹き飛ばされる。

 

『ソーナ・シトリー様の『兵士』一名リタイア』

 

「クソっ!」

 

 無事な方の足で立ち、翼で何とかバランスを取る少年は黒いラインを伸ばけど焦った頭では自分より素早い相手に当たるはずもない。ゼスティ君は足の先を売り物の椅子に引っかけ無造作に飛ばす。少年の無事だった足に叩き込まれた椅子は砕け、少年は地面に倒れ込んだ。

 

 

「何ふざけた戦いをしてやがるんだ!」

 

 アレで心が折れないのは評価したいが、この状況ではね。おや? ゼスティ君が彼を指さしているな。

 

「・・・・・・それ、心臓にラインを繋げているっすけど命を削って居るんっすね?」

 

「ああ、そうだ!これが俺の、俺達の夢に掛ける想いなんだよ!」

 

 少年、確かに覚悟は必要だ。戦いに命を懸ける必要性も認めよう。だがね、教師になる資格があるとアピールする場で使う戦法じゃない。

 

 

「成る程。平気でそういう手を使うって事は、アンタ達に教わる子達も命を削る真似を平気でしかねないって事っすね。・・・・・・血みどろのボロボロになって、死ぬ危険を冒してまで叶える価値が本当に夢に有るんっすか?」

 

 ・・・・・・生きることに必死で、生きたいと願いながらも手からこぼれ落ちていった命を多く見てきた彼女にとって、彼の策は許せない様だね。

 

 最後の足掻きとばかりに伸ばしたラインも避け、ゼスティ君は少年にトドメの拳を叩き込む。床に多少衝撃が響いて蜘蛛の巣状の罅が入るがセーフの範囲内のようだ。まあ、彼女の評価に響くだろうが、気にしないだろう。

 

 

 さて、ソーナ君達の夢をどうして彼女が危惧しているのか。それは今の貴族に多くの力がある事に起因している。

 

 仮に彼女達が主張するように下級悪魔でもゲームに参加して、学校で学んだことを生かして活躍したとするだろう。その場合、どのような事になるかだが……。

 

 まず、下級などに嘗められて堪るかとより強い力を持つ眷属を無理やり集めるだろう。

 

 もしくは強い眷属がステータスであるように活躍する領民が多い事が領地のステータスになると無理に動員した民に過剰な訓練を科し、無理にでもゲームに出場させるだろうね。

 

 どちらにせよゲームに出場したならば、有事の際には貴族よりも優先的に前線に出る事になるだろう。ゲームに参加さえしなければ負わなくて良かった危険を無理に背負わされる。これらを防ぐには貴族に制限を掛ける必要が有るが、それは魔王に力を集めて貴族の力を削ぐという事だ。

 

「君達が先ずすべきは受け皿を作る事ではなく、作った際に問題が起きないような社会情勢作りだ。前準備はしっかりとしないとネ」

 

 

 

『ソーナ・シトリー様の『兵士』一名リタイア』

 

「これ以上は見る価値がないネ」

 

 少しは期待したのだが、無駄だったと画面を消し、背凭れに体重を預ける。書類仕事のせいで節々が痛むし目が疲れたな。

 

 

「少し昼寝でもしようかな?」

 

「いえ、追加の書類の用意が出来ています」

 

 ……ぎゃふん。

 

 

 

 

 

「おや、もう終わったのかね?」

 

 俺が怖いから適当な理由を付けて別の観覧室を与えられたんだけど、どうやらこの部屋は監視されているっぽいから俺は魔王ロールを続けている。昔から知っている子達の前で一人でごっこ遊びをしてるみたいで精神に来るんだよなぁ……。

 

「活躍が評価されるのは良いけれど、やっぱり疲れるものだね」

 

 流石に次期当主という事で既に婚約者として発表しているフランちゃんをお供に同じ派閥の貴族が集まる観覧室に行っていたジェイル君は少し疲れた顔で戻って来た。

 

「フラン、帰ったら膝枕お願い。少し眠りたい気分だよ」

 

「ウ!」

 

 並んで座った二人は監視者からは見えない様に手を重ねている。うん、リア充爆発しろ。甥っ子みたいなもんだけど、爆発しろ。

 

「もう勝負が付くかな?」

 

『ソーナ・シトリー様の『戦車』一名『騎士』一名リタイア』

 

 匙君を撃破したゼスティちゃん同様、モードレッドちゃんの方も勝負にならなかった。相手の姿を見付けるなり赤雷を噴射して擦れ違いざまに切り付ける。相手は言葉を発する間もなく消えていった。

 

 

 

 

「まさか此処まで圧倒されるとは思っていませんでした。目測を誤った様ですね」

 

 ハムスケに乗ったアウラちゃんがフィールドの中央で合流し、少し進んだ先にソーナ・シトリーは待っていた。女王と僧侶二人と力を合わせているらしく頑丈そうな障壁越しに皆を睨んでいる。

 

 

「一つだけ聞かせてください。アウラさん。貴女はこのゲームに何を懸けていますか?」

 

「自分と一族と領民皆の誇り。それ以外にあるの?」

 

 少しでもプレッシャーを掛けようとしたのか下された質問にアウラちゃんはキッパリと答える。するとさっきから大人しく話を聞いていたゼスティちゃんが前に進み出た。

 

「もう行って良いっすか? 試したい物があるんっすよ」

 

「うん、良いよ」

 

 許可が出るなりゼスティちゃんは二カッと笑って歩を進める。障壁を破る為に力を溜めるような素振りも見せず、其処に壁がないように歩き続け、障壁を通り抜けた。

 

 

「あれ、ソーナさ…ま居ないっすね」

 

「っ!」

 

 女王が歯噛みすると障壁は消え、ソーナ・シトリーの姿も消える。ああ、成程。

 

「ジェイル、どういう目的だったか分かるか?」

 

「幻を囮に全員で力を合わせた障壁で消耗狙い。もしくは大規模なフィールド破壊による自爆狙いかな?」

 

 さて、目論見が外れたようだがどう出るか……。

 

 

 

「どうやって……」

 

「どうやって通り抜けたって事っすか? いやいや、今後の為にも手の内はペラペラ話さないっすよ。でも、少し失敗っす。下着を落とさなかっただけマシっすね」

 

 ゼスティちゃんの髪がいつの間にか解けている。よく画面を見れば障壁があった場所にヘアゴムが落ちていた。あれがドライグが忘れていた力『透過』か。彼女自体のパワーと合わさればとんでもない事になるぞ……。

 

 

「んじゃ、纏めて自分が・・・・・・」

 

 ゼスティちゃんは拳を握り、その真横をハムスケの尻尾が通過する。まず、左の僧侶のわき腹に突き刺さり、直角に曲がって右の僧侶の胸を強打する。最後に勢いを衰えさせずに女王に向かっていくが、彼女の正面に鏡が出現した。そのまま向かっていく尻尾は鏡の直前で急激に曲がり、対応が遅れた彼女の顎を真下から強打する。

 

 

『ソーナ・シトリー様の『僧侶』二名『女王』一名リタイア』

 

「やったでござる!」

 

 ・・・・・・うん、空気読め。今、明らかにゼスティちゃんが戦う雰囲気だっただろ!?

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろ決着か」

 

 最後は王同士の一騎打ちの流れになり、水の魔力で作り出された獣とアウラちゃんの魔力を纏った鞭が衝突する。確かにアウラちゃんはまだ幼いけど、あれだけの魔獣を従えるには力が必要だ。もっと小さい頃から野を駆け回り獣と戯れてきたあの子は・・・・・・強い。

 

 何度も繰り返される技の応酬だが、アウラちゃんは顔に余裕がある。此処に来て体力の差が出てきたんだ。そして、遂に渾身の一撃が叩き込まれた。・・・・・・奥の手は使わなかったか。

 

『ソーナ・シトリー様の投了を確認しました。この試合アウラ・アスタロト様の勝利です』

 

『随分とハンデがあっての試合でしたが、終わってみれば圧倒でしたね。どうもソーナ選手側は実力も作戦も未熟だった気がします』

 

『ですね。今の彼女には指導力が欠けているようです』

 

 敵対派閥に雇われた解説と実況が彼女に厳しい評価を下す。やっぱり貴族社会って厳しいなぁ・・・・・・。




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