成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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短編 の勢いがすごい まさかあそこまで伸びるとは ほんの少し評価下がったが頑張ろう モチベーション続く限り


英雄と化け物

『・・・・・・・この様な力が俺に合ったとはな。久しく忘れていた』

 

 此処は神器の中の世界、俺が封印されている場所。外の世界では相棒の横で籠手の宝玉に手を当てた小娘が意識を此処に持ってきている。人型の龍というべき存在だからこそ出来た芸当で、俺の血を引いて居るとも言えるからこそ奥底に眠る封印された力に辿り着けた。

 

 惜しむべくは今の状態では相棒がこの力を使うのは無理と言うことだな。

 

「え? 自分の力なのに忘れてたんっすか? あっ、ドライグさん、長生きだから・・・・・・・」

 

『違うからな? 封印の影響だからな?』

 

 悪意の無い分質が悪いと思いながら小娘を見下ろして溜息を一つ。何故かこのままでは妙な異名が付くという悪夢を見た気がした。『ボケ龍帝耄碌ドラゴン』・・・・・・どんな悪夢だ。

 

『いや、おっぱいドラゴンよりはマシか。……何か変な電波を受信したな』

 

「ドライグさん、いきなり訳分からない事言わないで下さいっすよ。馬鹿っぽいっすよ?」

 

『馬鹿っ!? よりにもよってお前が俺に馬鹿っ!?』

 

 今、生まれて最も心にグサッと来たぞ。酒で忘れる事が出来れば良かったのに……。

 

 

「取り合えず力の感覚は大体掴んだっすし、後は練習っすね」

 

 張り切っている小娘の姿は少々微笑ましい。まあ、遠縁の餓鬼の様な物だからな。少しは愛着も湧くという物だ。

 

 

 

 ……そうそう、忘れる所だった。英雄派とか名乗る小僧とモモンガが戦った時の話だな。あの時、相棒も気分転換という事で見学に向かった。

 

 

「やあ、君がモモンガだね。僕はジーク。偉大なる……」

 

 森の奥で待っていたのは背中から四本の腕を生やした白髪の小僧。それぞれの手に光の剣や魔剣を握りしめ、得意そうに笑みを浮かべている。

 

「既に情報を聞き出したから知っているさ。ジークフリートの魂だか血を引いているのだろう。態々名乗らなくても良い」

 

「……ノリが悪いね。英雄とは高々に名乗るものなんだからさ。まぁ側近が負けて落ち込む気持ちは理解できるよ。僕もかなりの消耗をしたし、部下も全滅だ。……だが、切り札があるのさ」

 

 確か向かわせたアンデッドは十把一絡げの雑魚と聞いているのだが、何を勘違いしているのか上から目線で語る己に陶酔したジークは懐から取り出した薬品を自分に注入する。モモンガが立ち尽くして眺める中、ジークの体に異変が起きた。腕の肉が膨れ上がり魔剣を取り込む。まるで蜘蛛の化け物だな。

 

 

「ははははは! これこそ英雄に相応しい圧倒的力だ! 化け物は化け物らしく倒されろっ!!」

 

 魔剣を振り上げて向かってくるジークの脚力は神器の力でか人を超越している。だが、奴は気付いていない。自分が思い描く英雄としての将来しか見ていないのと同じように、モモンガの瞳はジークではなく、手に持つ魔剣にのみ向けられている事に。

 

 

「監視されているだろうから手の内は少しだけ見せるか。それにしても確か最強の魔剣、魔帝剣グラムか。他の魔剣もレア物だし……コレクター魂を刺激されるな。確かレライが死体を調べたいと言っていたし……『(デス)』」

 

 ジークの顔から突如表情が消え、手足の動きが止まる。先程までの勢いがあるから直ぐには前進が止まらず、バランスを崩して前方にスライディングして漸く止まったジークは既に事切れていた。

 

 

「此奴自体もレア物だが……グラムで満足するか」

 

 神器は消え失せ、剣は周囲に散らばる。英雄になる事を夢見る小僧の生涯は呆気無く幕を閉じ、モモンガはコレクションが増えてご満悦だった。

 

 

 身内にはあれほど甘いのだが、根本はやはり生者を憎むアンデッド……いや、そもそも大して興味がないのだろうな。

 

 

 

 

 

 

 そしてレーティング・ゲームの日がやって来た。相手はソーナ・シトリーとその眷属。対して此方はアウラと小娘達三人だけ。実力に差があり過ぎるからとの上層部の判断で最初の二回だけ眷属を減らし、王をアスタロトの時期当主のアウラが代役を担う事になった。

 

 

 

「うっし! 気合い入れて行くぞ」

 

「若様の名に泥を塗らぬように励むでござるよ!」

 

 モードレッドは胸の前で拳をぶつけ合わせハムスケは鼻息荒く張り切っている。その様な中、何時もは能天気で少し足りない小娘は無言で佇んでいた。その様子が気になったのか、フランが心配した様子で近付いて行く。

 

 

「アー?」

 

「いや、お腹は減ってないっす」

 

 俺も空腹なのかと思った。しかし奴らはどうして彼奴の言葉が分かるのだ? 俺にはどれも同じに聞こえるのだがな。

 

 

 

「レーティング・ゲームなんて戦争でどれだけ役に立つかってアピールの場っす。つまり出場者は戦争に出る義務があるのに、奴らは戦場に尊い物があると、武勇や武勲が素晴らしいものであると勘違いして多くの人を出場させたいと思っている。自分はそれが腹立たしいっす。戦場に存在するのは絶望と血の代償で得られる勝利という名の罪科だけなのに……」

 

 何時になく真剣な表情と声の小娘は今回共に戦う者達に頭を下げる。

 

 

 

 

「お願いするっす。今回のゲーム、相手に全く評価する点を与えずに叩き潰すのに力を貸して欲しいっす」

 

 

 

 

 

 

 

 

『只今よりソーナ・シトリー様とアウラ・アスタロト様の試合を開始致します』

 

 魔法陣によって転移したゲームフィールドは見覚えのある場所。確かここは学園の近くのショッピングモールっすね。

 

「……にしてもお前が此処まで誰かに敵意を向けるのとか珍しいな、おい」

 

「多分偏見が混じっているっすけど、自分はどうしてもあの夢が気に入らないんっすよ。……試合開始まで集中して来るっす」

 

 まだ準備時間で、方針としてはハムスケがアウラちゃんの警護をしてモードレッドさんと自分が二手に分かれて攻め込む。問題はルールっすけど……。

 

 

 

 

「フィールドを大規模に破壊するのは禁止っすか……」

 

 ちょーっと自分には難しいルールっすね。モードレッドさんも面倒臭そうにしてるっすし、此処は慎重にいくっすね。

 

「所でアウラち……様はどうするっすか? 陣地で待っているっすか? それとも……」

 

 危ない危ない。今の自分はジェイルさんの眷属として居るんだし、目上相手にはちゃんとした呼び方をしないと。今の様子も見られているかもしれないっすもん。

 

「折を見てあたしも攻め込むよ。もうあたしは僻地に住む分家の子供じゃない。大勢の領民を背負うアスタトロ家の次期当主だもん。人任せだけにしていられないよ。王相手にはあたしが戦う。……良いよね?」

 

「当ったり前だ。邪魔な奴らは俺達に任せな。全部叩き切ってやる」

 

 レライさんが作成した鞭を手にして気合を入れているアウラちゃん。じゃあ、自分達の任務は眷属を全滅させてソーナさんに心理的プレッシャーを与えて少しでもアウラちゃんが有利になるようにする事っすね。モードレッドさんも張り切っているっすし負けてられないっす!

 

 

 

「じゃあ、此処からお別れっすね。合流は中央の広場で」

 

「おう! 遅れた方は後でジュース奢りな」

 

 うげっ! 自分、ヴァイオレットに小遣い減らされてるから節約したいんっすよね。立体駐車場に向かうモードレッドさんと別れた自分は店内を進む。

 

 

 

 

 

「……来たぞ」

 

 広場まであと少しの所で来た時、天井に張り付いていた匙さんともう一人の兵士の人は、匙さんの神器から伸びたラインで天井に引っ付き、やって来た自分を発見するなり勢いを付けて飛び掛かって来る。

 

 

 

 

 

 

 グシャリ、と肉の潰れる音が響いた……。




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新ハロウィンでエリシュキガル来るかな? ハロウィン的に

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