成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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今回シリアス気味


慈悲深き神と傲慢な英雄

 美味しい物を食べるのは好きだし、皆で騒ぐのは楽しいと思う。でも、こういった貴族のパーティーは嫌いっす。美食の限りを尽くした料理に絢爛豪華な調度品。嫌でも昔の生活と比べてしまうから......。

 

 忘れてはならない。この華やかな生活の裏でどんな暮らしをしている人が居るのかを。

 

 確かに今でも多くの妹や弟達が居る。でも、多くの妹や弟を失った。家無し親無しの自分達があの地獄で生きるには綺麗なままじゃ居られない。居きる為に盗んだ食べる為に奪った。悪い事を沢山して、それでも飢えで、寒さで、病で多くの子が死んでいった。

 

 皆、自分に恨み言を向けずに死んでいった。お姉ちゃんなのに、守らなくちゃいけなかったのに、何もしてあげられなかったのに。

 

 罪人は死後地獄で苦しむと聞いている。でも、あの子達が悪い事をしたのは自分が弱かったから。だから何も悪くない。もし今苦しんでいるのなら、自分が死んだ後に全部引き受けるから、どうかあの子達をもう苦しめないで欲しい。ただ、それだけを願い続ける。

 

 

 

「聞きましたか? ルキフグスの......」

 

「あの派閥も終わりでしょうかね」

 

 時折、耳障りな会話が聞こえてくる。ドラゴンの聴覚は聞きたくもない音まで拾い、顔を歪ませたくなった。貴族達が楽しそうに話しているのは先日起きた旧ルシファーの末裔の失踪。元々雲隠れしていたその人が居なくなって、部下の人達はもう諦めて現政権に保護を申し出た。

 

 問題はその中にグレイフィアさんの死んだはずの弟さんが居たって事っす。攻撃材料には充分らしく、彼女も取り調べを受けている。保護と引き替えにもたらされた情報が役に立たなかったってのも痛いっすね。だってモモンガさんのアンデッドの方が情報持ってたっすから。

 

「案外見逃すのと引き換えにサーゼクス様と......」

 

「有り得ますな。母がこうなったなら次期魔王の座は難しいでしょうし、そうなれば我が儘姫は本当に繋ぎでしかないので価値が......」

 

「そう言えばセラフォルー様の公私混同が......」

 

 本当に嫌になるっす。他の勢力と仲良くしなきゃ駄目って時に足の引っ張り合い。敵対派閥を潰せば自分の未来は明るいって信じて疑わない。

 

 昔の自分達は違った。未来は明るいって、きっと明日は良い事があるって信じなきゃ心が折れちゃってた。だから皆が落ち込んでいる時も自分は笑顔でいた。どんなに心が折れそうで、全部投げ出したい時でさえ......。

 

 本当に理解できない。喧嘩するより仲良くする方がずっと簡単だと思うんっすけどねぇ。

 

 

 

死の支配者(オーバーロード)と名乗っていると聞いたが、成る程、満更思い上がりでも無いらしい》

 

 テロリストに対抗する為、偉い人達が外の神話の神様達に協力を持ちかけているって聞いたっすけど、まさか悪魔や堕天使が嫌いなこの方が来るとは思ってなかったっす。死者の魂を管理する死神の王ハーデス様。どうやらモモンガさんに興味を引かれたっぽいっすね。

 

「冥府の王に其処まで評価されるとは光栄だな。だが、私など小物に過ぎん。武勇伝も相手が弱すぎただけだ」

 

 流石の舞台度胸を見せるモモンガさんに感心する。内心ではハラハラしてるんっすけど、骸骨だから表情も分からないっす。圧倒的な迫力を与える二人は言葉を交わさず相手を見るだけ。きっと頭の中で色々考えて居るんだろうっすねぇ。......死神の王っすか。あの子達の事、聞いたら分かるっすかね?

 

《其処の小娘が蝙蝠になった天然の赤龍帝か。儂に何か用があるという顔だな。構わん、申してみよ。無論無礼な内容ならしかるべき措置を......ファファファ、冗談だ》

 

 多分自分の心が顔に出てたんだろうっすけど、これって正直に言って良いんっすけねぇ? ジェイルさんは頷いたし、変に誤魔化した方が駄目なんっすね。

 

「あ、あの、自分は戦災孤児で、他の子達と一緒に暮らしてたっす。でも、子供だけだから悪い事も沢山しなきゃ生きられなくて......守りきれなかった子達が死んだ後で罪を償わされて居ないっすか」

 

 言い切って拙いと思った。どうしても訊きたかった事だから教えられた言葉じゃなくて何時もの言葉遣いだったっす。ビクビクしながらハーデス様を見上げると、モモンガさん同様に奥が光る眼窩をジッと自分に向けている。悪魔が嫌いって聞いているし、これは何か口実にされて......。

 

《興が冷めた。行くぞ》

 

 ハーデス様は踵を返して去ろうとして行く。部下の死神さん達が後に続く中、急に立ち止まった。

 

 

《貴様ら蝙蝠と違って儂は忙しい。問うべきでない罪を裁いている暇など無いわ》

 

「あっ......有り難う御座いました!」

 

つまり、そう言う事だ。ちょっと意外っす。悪魔が嫌いなはずなのに、少し気を使ってくれたみたいで......。

 

 

 

「確かに悪魔が嫌いな方だけど、同時に慈悲深い神様でもあるからね」

 

 自分の心中を察してかジェイルさんが笑いかけてくれる。長年の胸のつかえが取れて......なんかお腹減ったっす。挨拶ばっかりで何も食べてないし、自分は料理を取りに行く事にした。

 

 

 

 

「あっ! 確か......誰だったっすか?」

 

「匙だよ、匙元志朗! 会長の眷属の!!」

 

 あ~、思い出したっす。自分達三人だけで相手をするってハンデを背負って戦う相手の一人っすね。功績有りまくりの自分達とはレベルが違うからって一回目と二回目はメンバーを減らして戦う事になったっすけど、上層部のチョイスからして叩き潰せって事っすよねぇ。

 

「......絶対に俺達が勝つからな。会長の夢を叶えるんだ。ゲームは幅広く開かれるべきなんだからな」

 

 

 

 

 

「うん、決めたっす。......アンタ達は絶対に叩き潰すっす。グッチャグチャのボッロボロにしてやるから覚悟するっすよ」

 

 ローストビーフと牛肉のワイン煮と鶏肉のハーブ焼きとタンドリーチキンとポークソテーとスペアリブと舌平目のムニエルとポテトサラダとアップルパイとチョコタルトとピラフと寿司とパスタを山盛りに皿に載せながら宣戦布告に殺気を込めて返す。何も分かっていない此奴には絶対に活躍なんてさせてやらないっすよ。

 

 

 

 レーティング・ゲームは眷属の強さ自慢や箔付けの為に行われる。地位の向上に繋がるのは有事の際に戦う貴族だからこそっす。でも、ソーナ様達は貴族でなくても出場出来るようにしたいって言ってる。

 

 ......絶対にさせないっす。だって箔付けの為に強い人を集めるのに手段を選ばない人が居るんだから、そんな人が領地の箔付けの為にどんな手に出るか......。戦いたいって人が戦うのは構わないっすけど、戦いたくない人が無理に戦わされるのは嫌っす。

 

 自分は馬鹿っすから穴だらけの理論だと思うけど、それでも絶対に止めたいと思うっす......。

 

 

 

 

 

「また随分と盛って来たな。後でもう少し野菜も取ってくるのだぞ。......むっ」

 

 テーブルに戻ると両手と頭に乗せた皿を見て呆れ声のモモンガさんが何かに反応する。ゴッキーでも居たんっすかね?

 

「何者かが使い魔を忍び込ませたのを警備につかせた集眼の屍(アイボール・コープス)を発見してな。既に警備の者が数人ほど主が居ると思われる森に向かったが......暇だし私も行こう。私を恐れて此方に近付けない者が多いみたいだしな」

 

 ......誰か知らないけど終わったっすね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し興味があったから来たけど収穫はあった。死の大魔法使い(エルダーリッチ)か......。まさか禁手を使わされることになるとは思わなかったけど......間違い無くモモンガとやらの側近、懐刀だろうね。随分と部下をやられたが十分な価値があった」

 

「......でっ、もう帰るのかにゃん? 随分と騒ぎになったし」

 

「部下の敗北を察知して向かってくるであろうモモンガの首を持って帰るよ。......まだ未完成だけど切り札も有る。それに......英雄である僕がアンデッドに負けるはずが無い。グラムの錆にしてやるさ。君は邪魔だからさっさと消えろ、目障りだ」

 

 

 

 ......敵が何かレアな物を持ってたら良いんっすけどねぇ。今回、モモンガさんストレス溜まってそうっすもん。




忘れがちな設定  ゼスティの過去はめちゃ暗い

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