幼い頃、ずっとお腹が減っていた。住んでいた街は荒れ果て、建物の多くは崩れている。そんな場所で生きていくしかない人々の中でも最底辺に居たのが自分達だ。少し前に起きた紛争で親を失い、家を失い、人並みの幸せさえも失った。
誰も彼も目が血走り、子供達は大人を恨み世界を呪った瞳を浮かべる。でも、自分はだれかを恨むのも呪うのも嫌で、どうして使えるかは知らないけれど、何となく使い方が分かる不思議な力が有ったから笑って生きようとしていた。
ぼろ板を張り合わして漸く作った家を直ぐに壊された時も、酔っ払いに殴られながらはした金を稼いでいた時も、自分はヘラヘラ笑っていて、心はずっと乾いていた。
最初はどうしてそんな事をしたのか覚えていない。漸く手に入れた一日ぶりの食べ物。たった一切れのパンをお腹を減らして倒れている子に分けてあげて、その子の世話を焼きだした。自分一人で精一杯なのに馬鹿だと思ったけど、誰かが傍に居るってだけで胸の中がポカポカ暖かくなり、一人、もう一人と増えていく。
生活は苦しい一方だったけど、胸の中の温かみは増していく一方。きっとこれが幸せで、このお陰で自分は心から笑えるようになったんだと……思うっす。
「お待たせしました! ゼスティ参上っす!」
雇い主であるジェイルさんのお呼びとあらばこのゼスティ、何をおいても即参上! 取り合えず食べ掛けのチャレンジメニューを完食し、記念写真を撮ったら直ぐに転移したっす。巨人オムライス、美味しかったなぁ……。
ビシっと敬礼、背筋を伸ばして声を出すとジェイルさんが此方を向く。あっ、ハムスケも居るんっすね。今日のデザートは大福が食べたいなぁ。
「来たね、少し遅かったけど、まぁ良いや。聞いてよ。イッセーってばドラグソボールで一番強いのは悟だって言うんだ。息子の方が強いのにさ!」
「何言ってんだよ! あんな舐めプして毎回ピンチになる奴が最強の筈ないだろ!」
「えっと、どういう状況っすか? 自分は新人さんの神器を確かめるから、暴走時の為に来たんっすけど」
どうして漫画のキャラで最強が誰か言い争っているのやらさっぱりっすよ。あっ、因みに自分は最強はラスボスだと思うっす。
「ドラゴン波!!」
話を詳しく聞いたら神器を発現させる為には魔法陣の上で一番強いと思う人物の真似をする必要があると言われ、ドラグソボールの空孫悟の名を出したら言い争いになったとか。神器って面倒くさい手順踏むんっすね。
「しかしイッセー殿はどうして恥ずかしそうなのでござるか? 強さに憧れているのでござろう?」
「そりゃまぁ高校生にもなって親の前で漫画キャラの必殺技の真似をポーズ付きでしたらねぇ」
「言わないでくれ、頼むから!!」
何はともあれ、無事に神器出現。龍の腕を模した籠手が出現したっすけど……あれ? なーんか変な感じがするっす。体の中で何かがモヤモヤするような。
「これは
自分は熱に浮かされた様に意識が朦朧とした状態でイッセーさんに近寄り、ジェイルさんの言葉に返事もせずに指先で籠手に触れる。その瞬間、バチバチと電気が弾ける様な音と共に籠手の表面が光り、形が変わった。
「……あー、これは狙われるはずだ。イッセー、君の神器の名は『
成程。どうりで自分が反応した訳っす。……にしても偶然か引き寄せたのかは分からないけど、同じ眷属内に
「事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものだネ。そう思わないかい、マイロード? しかしまぁ、我が息子の人材運には驚かされる」
赤龍帝の少年が息子の眷属になってから数日後、私は自らの王であるアジュカ・ベルゼブブとティータイムを楽しんでいた。
「しかし彼の恋人となったフラン君だが、まだ言語回路が上手く働かないようだね」
「あからさまに話を逸らすのは如何なものかネ? 向き合おうじゃないか、現実と」
技術担当である我が主は魔王ではあるが、強さで選ばれたからか上層部と比べればまだまだ若造。魔王様魔王様と呼びその強さを敵への威嚇に使いながらも何処か軽んじている。まあ、仕方のない事だが、今回はしっかりして貰わねば。
「息子の眷属に集まった者達をベルゼブブ派は他派閥への牽制に使うだろうし、他派閥は強く警戒するだろう。息子が派閥争いで鍛えられるのは別に構わないが、フラン君が危ない目に合うのは避けたい」
「……息子よりも将来の義娘の方が大切かい?」
「息子、息子ねぇ。可愛い子には旅をさせろとも言うし、別に構わないんだが、目に入れても痛くないレベルで可愛い彼女は別さ! 義娘にするよりも養子にしたいレベルで可愛いのさ。孫は何方に似ても良いが、出来れば彼女に似て欲しいものだ、ははははは!」
私は魔王眷属といえど悪魔の中では若造(見た目はアラフィフ)、それほど立場は強くない。だからこそ、利用出来るものは利用する。既に蜘蛛の糸は用意した。犯罪界のナポレオンの異名にかけて邪魔者は処分させてもらうよ。むろん、私が直接手を下さずにネ。
「遅れているぞ新入り! 十週追加だ!!」
「ひぇえええええええっ!!」
ジェイルの眷属となって早数日、他の友達にはバイトを始めたと嘘をついて冥界のジェイルの家でトレーニングを続けている。俺の神器は力は強力だけど、今の俺じゃ強くなる前にやられるし、力を上げ過ぎると体が付いていかないんだ。
だから警備部隊の鍛錬に参加させてもらって基礎体力から鍛えているんだけど、スゲェ辛い! ガゼフ隊長や隊員の皆さんはむさ苦しいけど気のいい人達で色々と面倒を見てくれる。でも、容赦が全くない。
此処で容赦したら実戦で死ぬだけだ、ってスパルタで鍛えられるんだ。実際、実戦訓練では神器で最高まで倍加させて貰って負けた。体の動かし方が全くなっていないって言われたよ。まぁスペックだけで決まるならスポーツや格闘技は体力測定だけして終われば良いからな。
「糞ぉおおおおっ!! 絶対にハーレム作ってやるぞぉおおおおおっ!!」
「自分の眷属も持てるって事はハーレム可能なのかっ!?」
「君が君の眷属とどういう関係になろうと自由だけど……まかり間違っても無理に眷属にしないようにね? それ、誘拐や人身売買と変わらないから。むしろ形成したハーレムメンバーを眷属にするのをお勧めするよ」
「そうだぞ、イッセー。悪魔になったからと言って人の道に外れる事はするな」
「そんな真似したら二度と家の敷居は跨がせないから」
眷属を持てるかもしれないと盛り上がった俺だけど、三人に注意されて少し落ち着いた。まぁ俺も覗きはするけど強姦とかしたくねぇし、人は見た目や財力や強さとか好みは色々だけど悪魔は強い奴が好かれる傾向にあるって話だし、頑張って強くなってやる!!
「ところでジェイルは眷属とそういう関係なのか?」
「一人はね。他にも女は居るけど、そういった目で見ていないから。……先に言っておく。君と同じ兵士のフランは僕の恋人だ。……手を出そうとするなよ」
最後、死にそうな時すら味わった事のないレベルで怖かった。
「よし! 今日は此処まで!!」
今日もヘトヘトになって仰向けに寝転がる。しばらくは起き上がれないんだけど、この後で振舞われる飯が美味いんだよな。週に何度かはこっちでトレーニングの効果を上げる為のメニューを食べるんだけど、動いた後で皆でわいわい騒ぎながら食べる飯は最高だ。……可愛い女の子が居るともっと良いけど。
メイドさんとか滅多に来ないからね! 何人かは既に相手が居るしよ! 長袖ロングスカートのヴィクトリアンメイド服こそ清楚で至高ってジェイルが熱く語っていたよ。エロ本ならフレンチメイド服らしいけど! 俺はどっちもフレンチメイドが良いな。
さて、今日は凄い楽しみがある、何時も飯の前に風呂に入るんだけど、特訓前にガゼフ隊長に言われたんだ。
「そうだ、イッセー。若様が言っていたんだが、今日中に譲渡の力に目覚めたら可愛い女の子と一緒のお風呂だそうだ」
勿論目覚めました!! 神器は感情が大きく関わるそうなので欲望がブーストしたんだ。俺は思い出すなり元気になり、指定された風呂場へと向かって行く。因みに俺とその子だけしか居ないって話だ!!
「お嬢さーん! お背中お流ししまーす!!」
湯気で前が良く見えない浴室に入るなり俺は叫び、返事が聞こえて来た。その声はまさかの……。
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さて、一人しかいないはずの赤龍帝が二人? そして風呂場に居たのは一体…二つ目、わかる方には分かるかと