成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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なんか短編が意外と好評でびっくり

思いつき次第で更新予定です 今も少しだけ思いつき中 感想あると捗るね


過保護と未熟者の決意

「パーティドレスぅ? どーでも良いって。俺はタキシードでいーよ」

 

「ですがモードレッド様……」

 

「決定決定っ! んじゃ、後は宜しくな」

 

 魔王主催のパーティが有るからってメイド達は俺にドレスを着せようってしてるけど、俺はヒラヒラしたもん着るのは好きじゃねぇんだよな。ってな訳で黒のタキシードを選ぶ。どうも不満そうだけど譲る気はねぇとばかりに部屋を出た。

 

 何を着ていくか決めるのが終わった事だし、ジェイルの様子でも見に行こうかと思いながら、先に厨房で何かつまみ食いでもしようかと足を向ける。料理長が今日はローストビーフだとか言ってたし、二三枚ちょろまかそうかと思ったが、最近厨房の警戒が厳しくなってきたので難しそうだ。

 

「だいぶ警戒されてるからな。ってか、並みの兵隊より厄介だろ、ウチの奴ら……」

 

 包丁で斬撃を飛ばしたりしてくる料理人達の姿を思い浮かべていた時、中庭の安楽椅子に座りながら本を読むモモンガのオッサンの姿が目に入った。

 

 

「オッサンは服選び終わったのか? メイドの奴ら。フリフリとしたドレスばっか選ぶから参ったぜ」

 

「まぁ仕方ないよ。彼女達、普段から君にそういった服着せたがっているからね」

 

 窓から中庭に飛び降り、頭をポリポリ掻きながら話し掛けるとオッサンは本から目を離して俺の方を向く、その時、指に嵌めている無数の指輪の一つが目に入った。全部何かの効果を持つんだが、中でもダチと一緒に作った指輪以外で特に自慢の一つについて聞いた事がある。最大で三回までしか使えないから残り二回か。

 

「……アンタも過保護だよな。父親よりもジェイルに甘いんじゃねぇの? アンタの力じゃ変異でも足りなかったとはいえ、その指輪は切り札だろ」

 

「急にどうしたのさ? 過保護なのは君もだと思うけどなぁ。まぁ、俺にとってジェイル君は甥っ子的な存在だしさ。俺の立場もただの客人じゃ危うくなってたし、駒による強化にも興味があったし後悔はしてないよ。……うん。注ぎ込んだボーナスに見合った使い方さ」

 

 ……あー、言っちゃ駄目な内容だったか。精神の鎮静化って感情に一定以上の強さがないと起きないんだよな。落ち込んだモモンガのオッサンに何を言って励ませばいいか迷った俺は話題を変える事にした。

 

「そ、そう言えばアンタは何着ていくんだ? やっぱ何時ものローブか? あれ、カッチョ良いよな」

 

「あ、分かる? そうなんだよ。骨の姿じゃタキシードとか着ても違和感あるし、あの装備は見た目を厳選に厳選を重ねた物でさ。幾つかの候補から選んだんだけど、作るのに休日を返上して素材を集めて……」

 

 あっ、やべ。別の地雷踏んじまった。オタクは語らせると長いからなぁ。目を輝かせて語りだすモモンガのオッサンに辟易しながらも抜け出せる空気じゃない事に嘆息する。

 

 

「そもそも防具っていうのはね……」

 

 モモンガのオッサンのオタトークは中々止まらない。こんなんならメイドに付き合ってた方が良かったなと思ったが後の祭りだった……。

 

 

 

 

 

「しかしフラン、何度も言うけど本当に似合っているよ。このまま抱きしめていたいけど、皴になるからできないのが歯痒い。レライ、どうにかならない?」

 

「はいはい、無理だから我慢しなさい。ドレス姿でイチャイチャしたいってんなら、その為の道具の開発資金を頂戴」

 

 パ-ティ当日、空飛ぶ馬車の中、純白のドレスで着飾ったフランの手を握りしめて見つめ合うジェイルをレライが軽くあしらう。此奴も青いドレスを着てるけど動きにくそうだな。

 

「イッセーさん、似合いますか?」

 

「う、うん。凄く綺麗だ」

 

 こっちはこっちでウゼェ。俺とは別のタキシードを着た一誠は黒のドレスを着たアーシアと相変らずだ。もうそろそろ会場に着く頃だし、暢気に寝てる二人を起こさねぇとな。

 

「おい、起きろ」

 

「もう朝っすか?」

 

「もう食べられないでござるよぉ……」

 

 赤いドレスのゼスティは腕を組んでウツラウツラしてたが声を掛けると起きたんだが、ドレスは似合わねぇからリボンだけ首に巻いたハムスケは相変わらずの鼻提灯だ。よし、殴って起こすか!

 

 

 

 

「痛いでござるよぉ」

 

「見ても跡が分からねぇように手加減してやっただろ、馬鹿野郎が。起きねぇお前が悪ぃ」

 

 今回のパーティの警備は魔王連中主催とだけあって厳重で、確かモモンガのオッサンのアンデッドも数体貸し出してるんだっけか? アイボ……何とかいう奴。

 

「んじゃ、行くか」

 

 一応此処ではジェイルの奴を立ててやらなくちゃ駄目だからって一番先頭を行かせる。会場に入ると俺たちに視線が集まった、まぁ、活躍してるしな。少し鬱陶しい視線も交じってやがるが、陰口しか叩けねぇ奴らを気にしても仕方ねぇ。少しムカつくけどな。

 

 

 

「あっ! おーい! って、はしたなかったか。失敗失敗」

 

 こういったパーティは初めてじゃないので挨拶周りのお供は一誠とゼスティに(少し心配だが)任せ、俺は料理を楽しもうと皿を片手にテーブルに向った時、こっちを見付けたアウラが手を振ってきた。ったく、相変わらずのお転婆っぷりか。直さねぇと駄目だろ。

 

 本人も自覚はあるのか首に手をやって気まずそうにしているし、今後の教育で何とかなるだろうけどよ。

 

 

「……あー、アウラ……様。久しぶりだ……ですね」

 

 どーも敬語は慣れねぇ。いや、騎士として振舞っていた時は使ってたけどよ。この場だけでも一応此奴相手に使わなくちゃならないってのは分かってんだが……。

 

 

「うわっ。似合わないね、やっぱ」

 

「……うっせ。そんな事よりも挨拶周りはすんだのか?」

 

「うん、大体ね。後からもう一回来てなかった人達の所を回るけど、今は良いや。そんな事よりも話してようよ」

 

 他の奴らの邪魔にならないようにって会場の端っこに行った俺達は周囲に誰も居ないからって言葉使いを崩す。お付きのメイドは此奴の実家から付いて来た顔見知りだし構わねぇしな。

 

 

 

 

「もう直ぐゲームだね」

 

「ああ、ちゃんと戦術の勉強はしてんのか?」

 

「うん! レライから貰った武器の練習もしてるよ。あれ、凄いよ! ……でも、ソーナさん達も大変だよね。完全に潰す気じゃん」

 

 その言葉に賛同しながらも、また腹が立ってきた。下らねぇ殊に俺達を利用したり、俺の仲間を侮っている事にだ。良いぜ、その思惑に乗ってやるよ。ただし、最後まで思い通りに行くと思うなよと考えていた時、耳飾りに仕込んだ通信機に連絡が入る。

 

 

「どったの?」

 

「どうも誰かが使い魔を会場に忍び込ませたってよ。森の方に主が居るそうだ。……うぇ」

 

 追加で入った内容に思わず声が漏れる。流石に少し同情するな。

 

 

「こりゃ俺の出番はねぇな。モモンガのオッサンが出るならよ」

 

 

 

 

 

 

 

「なぁドライグ。俺ってお前のオマケなのかな?」

 

 初めて参加したパーティだけど俺はジェイルのお供で貴族への挨拶回りで忙しい思いをしていた。『赤龍帝』に会ってみたいからってゼスティちゃんと俺がお供をしたんだけど、多分誰も俺を見ていなかった。ゼスティちゃんは兎も角、俺に対しては俺を通してドライグを見ていたんだ。

 

『思い上がるな、相棒。何か貴様自身の力で成し遂げたか? 他者に自慢できるスキルを持っているか? 高々戦いの世界に入って四か月程度の素人が何を言っている』

 

「だよなぁ。なんか楽になったわ」

 

 だけど、こうして面と向かって指摘されたらすんなりと納得出来る。兵藤一誠は訓練期間に対してそれなりの力があるけど凄い神器を持っている、ってだけだもんな。でも、出来れば兵藤一誠は強い上に凄い神器を持っている、って呼ばれるようにしたいよな。

 

『取りあえず今は飯を食え。学び励み食い休む。強くなるにはそれだけしかない』

 

 確かに料理も旨そうなのが揃ってるし、既にアーシアが向こうでレライさん達と食事を始めている。……なんか凄い量を食べているのは気にしないでおこう。身体能力強化の魔法を覚えたけどカロリー消費が激しいからスポーツ選手同様に沢山食べなきゃ痩せすぎてしまうらしいし。

 

 

 

「この体になる前は食事など栄養摂取の手段でしかなかったが、こうして匂いを嗅いでいると気が変わりそうだな。尤も、私は食事など出来ないのだが」

 

 妙に人が遠巻きにしてると思ったらモモンガさんを怖がっているみたいだ。俺も慣れたから気にならないけど、普通は怖いんだった。飯を食っても味は感じないし隙間から落ちるだけだからって少し残念そうにしているモモンガさんだけど、そっとワイングラスが差し出された。

 

「はい、どうぞ、お義父さん。ワインは香りを楽しむ物でもありますから」

 

「むっ。そうだったな。貰っておこう」

 

 一応養子になっているアーシアはこういう場所ではモモンガさんをお義父さんって呼ぶ事にしているらしい。偶に他の家の人とが居ない場所でも呼んでるけどな。アーシア自体家族に縁ががないし……ッ!?

 

 魂を鷲掴みにされるような感覚、モモンガさんとの特訓で、死の恐怖に慣れておいた方がいいって、アーシアとのデート後に受けた絶望のオーラよりは幾らか格が落ちるけど、これは生命の根源的な恐怖だ。

 

「どうやら大物の登場らしいな……」

 

 何かで聞いた事のあるモーセとかいう爺さんが海を割ったっていう話。まるでそれみたいにアレだけごった返していた人達が逃げるように左右に分かれていく。ちょうど俺達、いや、モモンガさんとを線で結ぶように発生した直線の先にそれは居た。

 

 

 

 

 

《ファファファ、成程成程。話には聞いていたが興味深いな……》

 

 冥王ハデス。冥府の住人である死神を統べる王、二天龍クラスの存在が俺達の目の前に現れた。




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