成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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キャラ設定  8

兵藤一誠

兵士 5

友人の主人公のアドバイスでトラウマは浅く、教育で変態さが抑えられている。レライ謹製のハンマーを武器とし、禁手も亜種に目覚めた模様。アーシアとの仲は順調だが手綱は握られている


閑話 メイド長の一日

 狭く埃っぽい天井裏を慎重に進む。人外には優れた感覚の持ち主が多いため、私は最低限の呼吸をしながら頭に叩き込んだ道順を思い起こし、目的の部屋まで辿り着いた。

 

 今居るのは地球と同等の面積を持つ上に海がない分さらに多い冥界の土地の辺境も辺境、誰も近付かない場所に聳え立つ古城。どうやら初代魔王達が極秘で建設した(まぁ建設した者達は口封じで消されたのでしょう)の中。緊急避難用に設置された天井の隠し穴から室内を覗けば早朝からワインを飲んで夢心地の男が居ました。

 

 穴を隠す石を音もなくずらし、滑り落ちる様に天地逆転のまま音もなく室内に侵入する。私の目と男の後ろ首が同じ高さになった時、腰に差していたナイフを首に突き刺し、柄を強く握れば刃の先端から毒薬が注入される。僅かな呻き声もなく男は絶命し、私は片手で音もなく着地するとナイフを握っていた方の手で男の襟首を掴み、全体重を受け止めた腕のバネだけで天井へと飛び上がり男の死体と共に穴を通って城の外へと脱出した。

 

 

 

「DNA、指紋共に適合。99.99%の確率でターゲットと確認しました」

 

 レライ様の望み通り血を少しだけ採取した時、背後の空間が歪み骨だけの頭が姿を現した。

 

 

 

「お疲れ様です。後は俺が始末しておきますね」

 

「有り難う御座います、モモンガ様。……ですが、私に対して敬語は不要だと何度も申したはずですが? 下の者に対して示しが付きません」

 

「どうも慣れなくて……」

 

 少し情けない声を出しながらも旦那様のご友人であるモモンガ様は男の死体を回収する。レア物好きな彼からすれば垂涎物なのでしょう。この男の血縁者であるテロリストは更にレア物と言えるでしょうが。

 

「では、今日の業務が有るので転移をお願い致します」

 

「忙しそうだなぁ。俺も今日は格闘術の講義が有るんだよな。やってみると楽しくてさ。……前に正面からサバ折りしたら服を汚されちゃったけど」

 

 私達メイドにとって時間は希少ですが目上の方を急かす訳にはいきません。ブツブツ呟いていたモモンガ様に目を向ければ私の意図に気付いたのか転移門(ゲート)を開いてくださいました。

 

 

 

「お早う御座います、メイド長」

 

「ええ、お早う御座います」

 

 この日も時刻通りにミーティングを開くことが出来て何よりです。他のメイドと挨拶を交わし、今日の予定を確認します。では、今日も一日頑張りましょう。

 

 

 

 

「若様、お時間です」

 

 私達メイドの仕事は多岐に渡り、こうして主と御家族、眷属の方々にモーニングティーをお出しするのもその一つ。ドアの向こうから何やら慌ただしい音が聞こえますが冷静に待ち、許可が出たら入室です。

 

「お早う御座います、若様」

 

 恭しく頭を垂れながらも臭いをチェック、シーツの様子も一瞬で確かめます。どうやら内緒(にしているつもり)でフラン様(我らメイドのアイドル)と添い寝をしているのですが、シーツや寝巻の様子からして最終的な所まで行った様子はない模様。……ちっ、ヘタレが。

 

「紅茶とコーヒー、どちらに致しますか?」

 

「じゃあ紅茶で。……一瞬凄い顔しなかった?」

 

「まだ寝ぼけておいでですか?」

 

 若様は勘は変な所で良いので注意しなければならないと思いなおしつつ、若様好みの濃いめの紅茶を淹れる。砂糖は無し。少し苦めが良いのだとか。

 

 釈然としない顔の若様ですがそれ以上の追求は時間の無駄と心得ており黙って紅茶を飲む。首筋を見ればキスマークが付いていますし、ドヘタレではない様で安心です。

 

 

 

 では、次の仕事に参りましょう。朝一からメイドの仕事は山積みです。掃除に洗濯ベッドメイク、お茶の用意に客人の応対、暗殺偵察謀略知略、持ちうるスキルと知識を活かし、お仕えする方々に忠義を捧げる事こそが私達の誇りですから。

 

 

 

 

「いやいや、無理を言ってすまんね」

 

 この日、朝から来客が御座いました。旦那様が経営する商会が所有する工場を売って欲しいと前々から交渉して来たお方です。尤も、交渉と言っても自分は純血だから話が通るのは当然と言った態度で経費度外視の格安での売却を提案し、来る度に私達メイドを嘗め回すように見てく下種野郎です。

 

 今日も当たり前のようにメイドの一人のお尻に手を伸ばすも自然な動きで避けられて手は空を切る。ざまぁみろ、ですね。

 

「では、商談成立という事で」

 

「これからも君とはこの様に良好な関係を続けたいものだ」

 

 いえ、それは無理だと思いますよ? 貴方様の不正やらテロ組織への関与の証拠は既に提出しており、午後にも捕縛部隊が動き出しますから。それにお馬鹿様には分かり辛いでしょうが、不正などで失脚した場合、負債を除く財産の五割を当家が頂けると契約書に記載しています。残りは領民の為に魔王様が何とかしようとし、他の貴族に好きにされるでしょう。

 

 では、逝ってらっしいませ、塵屑様(ごみくず野郎)

 

 

 

「メロリンクィーン……何者でしょうか?」

 

 交替で取る昼休憩の時間、今日のランチはサンドイッチとウィンナーなどのオカズ。カフェオレ飲みつつそれ等を口に運びながら本を読むのが私の日課です。最近のお気に入りは詩集なのですが、何時の間にか付け足されたページに乗っている奇妙奇天烈珍妙で意味不明なポエム擬きに首を傾げながら次のページを読み進める。しかし妙なペンネームですね。

 

 

 

「ム。ヨクキタテクレタ」

 

 午後からの仕事で向かった先で、何処か人間離れした感じのする声で迎えられる。此処は旦那様が経営されている孤児院で、彼は院長です。他の領地や世界に散らばったハーフ悪魔の孤児を集め教育を施しています。確か警備隊の副隊長も此処の出身でしたね。

 

 

『人材は集めるよりも育てる方が最終的には利益になる。利益だけでは縛り切れないからネ。恩と利益、両方で縛る事が出来るし優しい領主との評価も得る。それに恩に報いろうとしない()()なら不要。不純物を除き、価値有る物を拾い上げれば良い』

 

 旦那様がこう語る通り、この孤児院では様々な教育が行われます。基本的な学問から始まって経済商業政治戦略、直接行うのでなくても優秀な補佐官に成り得る才能を発掘する、其れが目的です。余程のポンコツでない限り、特出した才能が無くてもある程度は使い物にはなるとの事。

 

「今日は何時もの視察ですが、新しい子の中に何か光る物を持つ子は居ますか?」

 

 ちなみに体育との建前で戦闘の才能の有無も調べています。一人の天才が十人の凡才を凌駕するのが悪魔ですが、訓練を積んだ凡才なら使い物にはなりますから。

 

「イヤ、残念ナガラ天才ト呼ベル者ハ居ラヌ。ダガ、平均ハ越シテイルゾ」

 

 それにしても悪魔には様々な姿の持ち主がいますが、彼の種族も中々奇抜な姿をしていますね。まるで蟲と鎧を融合させたかのような……。まぁ西洋鎧の姿をした方々や海洋生物に酷似した一族もいらっしゃいますし驚きはしませんが。

 

 

 

 

 

 

「さて、今日も平凡ながら忙しい日でした」

 

 私が休めるのは夜遅くです。では、明日も仕事が御座いますので寝ると致しましょう。夜会巻きにした髪を解き、眼鏡とチョーカーを外してベッドに潜り込む。目を閉じれば直ぐに心地よい睡魔が襲って来た……。




オリジナル短編書きました

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