モモンガ
オーバーロード より
ご存知最強の魔導王 本名 鈴木悟
ジェイルの父親の少年時代にこっちの世界に転移して友好を深め、悪魔になった後は冥界で協力していた。ジェイルのことは甥っ子か何かみたいに思い、女王が変異の駒だった時は自分から眷属にしないかと提案した。
成長の為に力を貸すのは最低限と決めているらしい。
映画に読書にアロマキャンドルにバイクに釣りにと金と時間が有るので多趣味で、新たな人生を謳歌している。身内以外の前では魔王ロール。
何故か何処かの誰か達みたいな性格や口調の女性に好かれている(ストーカーーされている)
「いやー! 態々来て貰って悪いね、ジェイル達」
参考にする様に言われて渡されたアメーバの拡大映像を遅くまで見ていたせいか感じる眠気を隠しつつ、俺達はジェイルに連れられて向かった屋敷で一人の少女に会っていた。
色黒で金髪のオッドアイのこの子からは活発な印象を受け、中性的な容姿やボーイッシュな恰好から女の子だって聞いてなきゃ男だって勘違いしたぜ。
「それにしても分家って言っても末端なあたしが次期当主とかビックリだよ。いやー、参った参った」
ニシシと笑いながら背後で寝転がるデッカイ狼を撫でると、狼は彼女の顔を舐める。他にも沢山飼ってるみたいだし、どれも大人しく従って居るんだな。
この子がディオドラの代わりにアスタロト家の次期当主になることが決定していて、近い内に養子になる為に家を出るんだそうだ。まだ十歳くらいなのにさ。
「この子はブリーダーとしての才能が有ってね。次期使い魔マスター候補だったんだ。其処ら辺も選ばれた理由みたいだよ」
ちなみにジェイルとは同じ派閥の関係上か知り合いで、領地が近いからって昔から遊び相手になっていたらしい。ハムスケも此処の魔獣の細胞を使ったし、使い魔のエリザベートも彼女のペットの子供の一匹だとか。
「そりゃもう、あたしは調教に関しては自信あるよ。次期当主の自信はないけどね。そんなの双子の弟にやらせたら良いのに、あの子はもう婚約者が決まってるから仕方ないってさ」
やっぱ早く家を出なくちゃいけないのが寂しいのかな? 少し落ち込んだ顔をした彼女を慰めるように周りの魔獣達がじゃれ付いている。
……此処に来る前に聞いた話だけど、弟じゃなくて姉の方が本家の養子になるのは理由が有るらしい。弟の婚約者は純血悪魔だけど貴族じゃなくて……かなりの資産家らしい。そして、もうベルゼブブ派内で彼女の婚約者を決定する為の話し合いが進んで居るらしい。
金と今後の権力の繋がり、その両方を手に入れるための道具にされてるって訳だ。ちょっと前までの俺なら理不尽だって叫んでただろうな。今は色々学んで誰に迷惑がかかるか分かってるから口には出さないけど、それでも叫びたいと思ってしまう。
「まぁ仕方がないよ。あたしは貴族だもん。大人の都合で運命を乱されてる~、なーんて我儘言っちゃ駄目だもんね。この子達は連れて行って良いって言われてるし、平気だよ?」
多分俺の考えが顔に出ていて、それを察したんだろうな。この子、俺なんかよりずっと大人だよ。いや、大人になるしかなかったんだろうな。
「ねぇ、所でハムスケは?」
「会う度に皮を剥ぐとかブラックジョーク言うから怯えちゃってね」
「え? 冗談じゃないよ?」
……こ、これも冗談だよな? なんか目がマジに見えたけど、そういう演技とか貴族には必要って聞いたし。うん。絶対冗談だ……。
「じゃあ、冗談は此処までにして打ち合わせに入ろうか。会談に出席する為の実績作りのね」
「彼処か......随分と豪華な隠れ家だな、おい」
俺達は今、とある貴族の領地の森の中、背後の湖が絶景の屋敷を崖の上から見下ろしている。彼処には今、テロリストに協力して情報を流したした貴族が潜伏してるらしい。ソースはアンデッドにしたカテレアだ。それなりの地位だからって証拠を突きけた後で出頭する猶予を与えられたんだけど、逃げ出して雲隠れしたんだ。
魔術師の仕業なのか普通なら辿り着けない様に結界が張ってたんだけど其れはレライさんが解析の後に無効化して、今は周囲を既にアンデッド、そして今回の指揮官である彼女の使い魔で包囲済みだ。
「あー面倒臭い。ジェイルさん達だけなら簡単に済むのにさ。上層部の皆さんだって私が邪魔だって分かってるよ」
「こらこら、駄目だって。貴族なら建前は大切なんだからさ」
少し気怠げに両手をぶらりと下げる彼女をジェイルは優しく咎める。そう。今回、あくまで俺達は彼女の指揮下で裏切り者の捕縛をしなくちゃ駄目なんだ。まだ幼い彼女が今回の若手の会合に出席する為に建前で良いから実績が必要だかららしい。ジェイルも面倒だとこぼしてた。
『三班、そのまま距離を開けて追走。五班はC地点に急いで! 敵影が見え次第側面から襲撃ね』
通信機からは的確な指示が飛ぶ。建前とか聞いていたから後方で待機するだけだと思ったのに、あの子は発信機と通信機から入る僅かな情報だけで逃げ出したターゲットを追い詰めていたんだ。
相手の反撃を避けられる距離を保ちながら指定の地点まで追い掛け、交代からの不意打ちを繰り返して相手の心身を削っていく。あんな小さな女の子が一流の指揮官だなんて思わなかったよ。
「これは肉食獣の狩りに近いな。この前、動物番組で見たのとそっくりだよ。それにしても、使い魔だけじゃなくて少し性能を聞いただけのアンデッドの能力すら把握して使いこなすなんてね……」
俺と一緒に待ち伏せをしているモモンガさんも感心したように呟く。てっきり血を引いてるだけで選ばれたんだと思ってたけど、失礼だったな。こりゃ選ばれる訳だ。遠目にこっちに向かって駆けて来る貴族の姿が見える、既に眷属達は捕らえ、仲間を犠牲にして逃げ延びようとするが疲労がかなり溜まっているみたいで服も乱れてるし、ブヨブヨの顔は汗まみれだ。
「一誠君、頑張ってね。……アーシアちゃんとキスして禁手に目覚めたんだから情けない真似は見せないように」
「は、はい!
一瞬、モモンガさんの眼光の奥が怪しく光り、俺は心臓を鷲掴みにされたような錯覚に陥った。この人、アーシアを養女にしてからアレだよなぁ。断片だけ聞いた話じゃ子供の頃に両親が死んでいるらしいし、家族が欲しかったのなら仕方ないのかもしれないけど。
怯えながらも俺は最近至り、漸く能力が掴めて来た禁手を発動する。本来は全身鎧で瞬時に最高まで強化できるってらしいけど、俺のは違う。俺が欲しかったのは自分が敵を倒す為の能力じゃなくって、仲間を助ける為の力。その想いに赤龍帝の籠手は応えてくれた。
体をすっぽりと覆う
名を『
「なんだ貴様らはっ! 其処を退け! 私を誰だと……」
唾を飛ばしながら叫ぶ貴族に対し、俺はマントを翻しながら叫ぶ。
「お前が誰か知っているかって? 勿論知ってるよ。……俺の敵だっ!! 俺が誰かって? 俺は兵頭一誠! ジェイル・モリアーティの兵士だ!!」
赤龍帝、とは名乗らない。俺はあくまでドライグを宿す神器を持って生まれただけで、それならゼスティちゃんの方がそう名乗るのに相応しい。俺が欲しいのはそんな称号じゃなくて、仲間を助ける為の力だ。
俺の意思に呼応するようにマントが広がり、内部に取り込んだ聖剣のオーラがバチバチと漏れ出す。さて、んじゃ初めての実践投入、張り切って行くとするかっ!!
「うーん。もう少しトレーニングが必要だね」
ターゲットの捕縛は上手く行ったんだけど、戦った場所の周辺の被害を見ながらジェイルは嘆息する。周囲の木は切断され、地面は抉り取られている。うん、俺も失敗したと思ってる。力の制御が全然駄目だ。訓練ではうまくいっても、実戦だと頭に血が上ってコントロールが乱れちまう。こりゃ殺したら拙い相手には使えねぇな。
「まぁ、イッセーのトレーニングメニューを厳しめに見直すとして、取り敢えずは任務成功! これでベルゼブブ派が問題無しに今回の顔合わせに参加出来るよ」
今回の任務は学ぶ事が多かったと思う。相手をぶっ飛ばすだけが力じゃないって事を改めて知らされたし、自分の力がどれだけ危険かってのも分かった。何が出来て何が出来ないか、ちゃんと把握しねぇとな。
頑張ろうと思い、拳をグッと握り締める。この短い期間で腕が随分と逞しくなった気がした……。
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