成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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予約なので前話も一応チェックを


猫の誤算と死の支配者の憤怒

「ふぅん。よく私を見付けられたわね。でも、デカいだけのハムスターと女の一人と一匹って舐め過ぎじゃない?」

 

 あの魔法を無効化する化け物に気を取られていた私だけど、仙術使いに不意打ちは簡単に決まらない。旧校舎の屋上でこの空間を発動した私は姿を消して近付いて来た一人と一匹を睨んでいた。

 

「成る程。視覚嗅覚聴覚での探知を遮断したんだけど、仙術使いには通じないと。うん! 開始直ぐにしては中々の成果だわ」

 

 私が気付いている事を告げるなり姿を現した女の子の方は懐からメモを取り出して何やら走り書きをしている。最上級悪魔クラスの私を前に随分と舐めた態度ね。目を見れば分かる。アレは私を敵として認識していない目だ。

 

「博士、ちゃんとするでござるよ。それがし達は若様の命令で来ている事を忘れたでござるか?」

 

「分かってるわよ、ハムスケ。ちょっとだけよ、ちょっとだけ」

 

 ……えっと、あれは何だろ? 喋る巨大なジャンガリアンハムスターとか聞いた事さえないわ。尻尾は蛇の様だし。まぁ、別に良いか。此奴ら殺して、出来れば白音も連れて行きたい所だし、これ以上の邪魔が入る前に終わらせましょう。

 

「悪いけどこれで終わりにゃん」

 

 無数に分身を作った上で悪魔に有効な毒霧を発生させる。霧は二人……面倒だから二人で良いか……の周囲を包み込んだ。これこそが仙術の真骨頂。生命の根本的な部分に干渉する仙術は魔力ほどの派手さは無くても命を奪う術は長けている。

 

 だから二人はもがき苦しんで、直ぐにお陀仏だと判断した私は背を向けて此処から離れようとする。流石に魔王クラスに来られたらヤバいからね。

 

 私は二人に最低限の意識を向けながらもこの場所から離れようとする。苦し紛れの一撃程度ならこの程度で十分だと判断したからだ。実際、その判断は間違っていない。

 

 

 

 

「あぐっ!? ど、どうして動けるの!?」

 

 不意に感じた悪寒に咄嗟に身を捻った私の肩に激痛が走る。視線を向ければ肩には青痣が出来ていて、あのハムスケとかいうハムスターの蛇の様な尻尾がシュルシュルと戻って行く。痛みに顔を歪め肩を押さえながらも二人を睨んだ私は自分の判断ミスを心底呪った。

 

(……でも、どうして私が本体だと分かったのかしら)

 

 

 

「流石仙術ね。私が解析して解毒剤を作るのに十秒も掛かるなんて素晴らしいわ」

 

「そんな事しなくてもモモンガ殿から万能の解毒薬を貰っているでござろうに……」

 

 私は判断を間違えていた。背を向けた私に放たれるのは苦し紛れの一撃じゃない。万全な状態から放たれる一撃だった。暢気に話す二人の姿から虚勢を張っている訳じゃ無いと分かる。分身を無視して本体にだけ攻撃をして来たし、分身を出していても無駄だと私は分身を消そうとし……。

 

「さて、もうこの霧は邪魔ね」

 

 女が腕を横に払うなり発生した突風に吹き飛ばされた。分身も掻き消え霧も吹き飛ばされる。糞っ! こんなのが居るなんて聞いてない。空間の維持にリソース割いてるし、流石にガチ戦闘は難しいわね。

 

 

「予定変更。此処はトンズラこくに限るにゃん」

 

 私はどっか所属する場所が必要だったから仲間になっただけで、命懸けてまで今回の首謀者の旧魔王に義理立てする必要はないものね。即座に二人との間に濃い霧の壁を作り、即座に逃走を開始する。

 

 

「うぎゃっ!?」

 

 だけど、見えない壁、それが私の前に立ち塞がっていた。拳を叩きこんでもビクともせず、焦る私は危険を察知して咄嗟に飛び上がる。でも、霧を貫通して伸びてきた尻尾は私の右足に叩きつけられ骨の折れる音が響き渡った。

 

 

「それがしの鼻を甘く見たでござるな」

 

「まぁ、そういう訳だ。さて、君に質問だけど……私の下で実験体になる気は無いかい? 投薬は一日二十種類で食事は栄養剤を与え、就寝時には服を許可しよう。命に影響がある実験もそれほどしないと約束しようじゃないか。そうだな。休日も月一で与えても良い。さて、どうする?」

 

「糞食らえ、貧乳」

 

 舌を出し、胸を強調するようにわざと揺らして見せる。ふざけるな。この女、完全に狂人だ。間違いなく捕まったら言った通りの扱いをされる。もしかしたら妹にも同じ目が向けられるかもしれない。あの実験動物を見る科学者の目をだ。なら、刺し違えてでもその喉笛噛み千切って殺してやる。

 

 そんな私の決死の覚悟など知らないとばかりに場違いな声が聞こえてきた。女に心底呆れたような声だ。

 

 

「やれやれ。駄目でござるよ、博士。魔王が希望した生け捕りの方が好ましいのでござるから。……『盲目化(ブラインドネス)』」

 

「……え?」

 

 

 私は元々猫妖怪。故に暗視の能力は持っていたし、悪魔自体が暗闇を見通す力を持っているから闇夜で視界に困った事がない。其れはつまり目の前が真っ暗になるという事に慣れていないという事であり、慣れる必要も慣れる筈もない事だ。

 

 でも、今の私の視界は闇に覆われ一寸先も見えない。暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い怖い怖い怖い怖い。暗闇がこんなに怖いなんて知らなかった!

 

 目が見えない分、聴覚は敏感になって二人が近付いて来るのが分かる。目が見えない分、痛覚が鋭敏になって足と肩の痛みが増した気がする。目が見えない分、私の恐怖は大きくなった。

 

 

「うわぁああああああああっ!?」

 

 脇目も振らずに逃走する。翼を出し、壁に手を当て、切れ目を探しながら……。

 

 

「何やら全力を出せない様子でござったが、これも勝負。恨みっこなしでござるよ」

 

 人の好さそうな声が聞こえると同時に硬質で重量のある物体が私に激突する。この瞬間、全身がバラバラになった様な感覚と共に私の意識は闇に沈んでいった……。

 

 

 

 

 

(何だっ!? 何かの罠なのか!?)

 

 俺は今警戒心を最大にし、何時でも動けるようにしていた。戦いにおいて単純な戦闘能力は勿論、特殊な能力も警戒しなければならない。だからこそ情報集めは重要なんだ。

 

 

「今日此処で私は偽りの魔王を滅ぼし、真の魔王が誰であったかを世に知らしめるのです!」

 

 突如現れた女悪魔はカテレア・レヴィアタンと名乗る旧魔王の血族らしく、今の魔王を打倒しようと乗り込んできたんだけど......幾ら何でも弱すぎるだろ。

 

 いや、最上級悪魔クラスは有るよ? でも、魔王クラス相手には分が悪いし、数だってこっちが上だ。大体、今の魔王は自分達に内乱で勝ったんだからサーゼクスさんの強さを知っているだろうに。もしかしたらとんでもない切り札を用意しているのかも知れないぞ!

 

 ジェイル君達を何時でも守れるように様子を見ながら戦略を組み立てる。その間も話は進み、所属している組織の名前が『禍の団(カオス・ブリゲード)』だという所まで来た。

 

 

 

 

「私達の首領は最強の龍神オーフィス。その力を借りながらオーディンに協力を仰ぎ新世界を......」

 

「なんだ。自信があると思ったら他力本願か。......あ」

 

 思わず漏れた声に注目が集まってしまう。やばっ!? どうにか誤魔化さないと......。

 

 

「成る程。魔術師達を圧倒した化け物を召還したのは貴方のようですが、口だけではなさそうですね。貴方も力を貸しなさい。新世界での地位は約束しましょう」

 

「断る。冥界には大事な友や場所が多いのでね」

 

 よしっ! 何とか誤魔化せた。それにしても寄生プレイで偉そうにしていたのか。少し腹立つなぁ。直ぐに沈静化されるけど。それに俺がジェームズさん達を裏切る訳ないじゃないか。もうギルメンと同じ位......いや、付き合いの長さや世話になっている事を考えれば......。

 

 

 

「アンデッドの癖に友や居場所に拘るとは......一度仲間に捨てられましたか? それとも居場所を失いました? どちらにしても貴方のような愚か者の居場所などゴミ同然でしょうね。ああ、新世界を作る際には貴方の目の前で大切な物を全て破壊して差し上げます」

 

 ......何だと? この女はいまおれに何と言った? 俺がギルメンに捨てられた? ナザリックがゴミ同然? その上、今の大切な物を目の前で壊す?

 

 

 

 俺の精神は能力によって一定以上の高ぶりを感じると自動で沈静化される。だが、今感じている怒りは、憎悪は、殺意は鎮まった側から湧き上がった!

 

 

 

 

 

「......この女は私が殺す。異論は無いな?」

 

 絶望のオーラの段階を上げ有無を言わさず了承を取る。カテレアも当てられて顔が青ざめているが、血という薄っぺらい根拠から来る自信が逃亡も降参も許さないのだろう。尤も、どちらも許す気はないが。

 

「こ、この下等な転生悪魔風情がっ!! その大口を後悔させてあげます! その後はお前の主と仲間です! 魔獣の餌にしてくれる!」

 

「モモンガさん......やっちゃえ!」

 

 フランちゃんにも手を出す気だと言われ、討伐命令したとアピールする為のジェイル君の声が聞こえる。うん。これで迷いは消えた。もう迷惑は掛からないだろう。これで......全力で怒れる!!

 

 

 

 

 

「くぅ、屑がぁあああああっ!! この俺がぁ! 俺と仲間達が、ともにぃぃぃぃぃ!! 共に作り上げたナザリックを侮辱しぃぃぃぃぃぃ! あまつさえ仲間にぃ! 仲間に捨てられただとぉぉぉ!! 更にわぁあ!! 俺の目の前で大切な人達や居場所を壊す等と口にするぅう!! 糞がぁああ!! 許せるものかぁああ!!」

 

 周囲が静まりかえる程の激しい怒り。だが、声に出して叫んだからか少しは鎮まる。まだ心の中でくすぶって消えそうに無いが。

 

 

 さて、ジェイル君の立場の為にも一応言っておくか。これが有ると無いとじゃ印象が大違いだろうからな。俺は怯えを隠せないカテレアに向かって口を開く。願わくば逆らってくれと思いながら。

 

 

 

 

 

 

「今すぐ無駄な足掻きを辞め命を差し出せ。そうすれば痛みは無い。だが、抵抗するのなら......愚劣さの対価を苦痛と絶望の中の死で支払って貰う事になると知れ」

 

 次の瞬間、背後から魔力が放たれた......。




あのシーンを読みながら台詞を考えました

感想待っています

キャラ設定は仕事後に追加予定

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