コカビエルの馬鹿がやらかしたせいで行われる事になった三すくみの会談だが、俺はこれをチャンスと感じていた。長年の冷戦状態を終わらせて手を結ぶ必要が有るからな。
それに一つ気になる事があった。コカビエルの死体は確かに外傷が多かったが、死因は心臓を潰された事だ。だが、どうやって潰したのかが分からねぇ。警戒という意味でも、研究者としても、俺はその理由が知りたくて会談に挑んだんだが……。
(おいおい、あんな存在が居るなんざ完全に想定外だぜ)
俺は今、長らく味わっていなかった感覚を思い出していた。火で炙られたみてぇにチリチリする表皮、毛という毛が総毛立ち、背中を冷たい物が流れる。まだ未熟だった餓鬼の頃に何度も味わった感覚……恐怖だ。俺は今、目の前の存在に恐怖を感じていた。
叡智と底知れぬ力を秘めた瞳は畏怖を感じさせ、神々しいとすら思ってしまう。そんな存在が近くに居るってのに平気な顔をしている悪魔連中が少し恐ろしく思えて来たぜ。グレモリーの騎士は別みたいだがな……。
「どうかしたかい、アザゼル?」
「いや、何でもねぇ」
だが、そんな事を顔に出すほど俺は腑抜けちゃいねぇ。サーゼクスの野郎の問いに平静を装いながら席に座り、今度はその存在を眷属にしてる奴の顔を見る。ジェイル・モリアーティ。アジュカの野郎の眷属の息子で、こうして見る限りじゃ大人しそうな黒髪の餓鬼だが侮れねぇな。
「……そいつがお前の女王か?」
俺は分かりきった事を何でもなさそうに訊ねる。あんな異常な存在が女王じゃねぇ筈がないがな。
「いえ? ハムスケは騎士ですよ、総督。女王には変異の駒を使ったのですが、威圧感が有り過ぎるからと後から来る事になっています。部屋を開けて行き成り見たら危ないからと」
「んなっ!? 何処の神話のかは知らねぇが、その神獣みてぇのが只の騎士だと!?」
この瞬間、俺の顔から余裕が剥ぎ取られてしまう。あんなのを騎士の駒程度で転生させちまうとか、その歳でどうやって其処まで上り詰めたんだよ、此奴は……。
「……にしてもアレの名前がハムスケとか有り得ねぇだろ。なぁ、ヴァーリ?」
まるで可愛らしいペットか何かの名前じゃねぇか。どういうセンスしてんだよ。俺は同意を求めるようにヴァーリに話し掛けるが、中学生くらいの餓鬼(おそらくアレが赤龍帝の力を天然で持ったって奴なんだろうな)をマジマジと見つめていたヴァーリは、俺が変な事を言っているような顔をしやがった。
「いや、お似合いの名前だと思うが?」
……おいおい。ヴァーリの奴、威圧感に気圧されて頭がおかしくなっているのかよ!? 此奴が此処までになる奴が居るなんて、この会談が破談に終わった時、とんでもねぇ事になりそうだな……。
俺はハムスケを見ながら同じ様な事を感じているらしいミカエルに視線を送る。奴もまた、俺の考えが通じたのか静かに頷いた。
「この様にフェニックス家からの救援要請を受け、私達は介入し……」
ジェイル君は何時もと違う話し方をしながら聖剣に関する騒動のあらましを説明する。私は退屈なので欠伸を噛み殺しながら次の研究の構想を練っていた。フランの言語回路は悪魔になっても支障が出たままだけど、ならば外付けで取り付ければ良いだけさ。どうせなら武器にするかな? 今がメイスだから剣にでもして……浪漫も追求したいな。
「では、魔王様方の命により後から入室する事になっていた私の眷属を呼びます」
私が色々と考えている間に話は進み、予め渡していたスイッチを押すとモモンガさんに連絡が入る。……実際は遠くからこっちの様子を窺っているんだけど、印象が悪いから秘密だ。
「ひっ!」
こっち側の誰かの悲鳴が漏れるのが聞こえる。空間が歪み、骨だけの手が突き出した瞬間にだ。まぁ本性を知っている私達なら兎も角、経験の浅い新人悪魔じゃ当然よね。
「やれやれ、漸く出番か。……座っても良いかね?」
「ハーデス!? ……いや、違うか」
「ハーデスとは確か冥府の死神を統べる支配者だったな。私は死神ではない。そうだな、君たちにわかるように言うならば不老不滅の為にアンデッドになった魔法使い、リッチと言った所か。だが……」
絶望のオーラ、そういう名の能力だと私達は聞いている。付き合いの長いジェイル君達は兎も角、アーシアちゃんやイッセーは少し当てられるわね。……ミカエルやアザゼルも表面上は動じてないけれど目の反応は誤魔化せないわ。
「私をその程度の者共と一緒にして欲しくはない。死の支配者、オーバーロードと名付けさせて貰っているよ」
流石モモンガさん、こうして奴らを見ているだけでも研究になるもの。そもそも神はどうして天使に堕天に繋がるような要素を与えたのか。正常な思考を奪い命令に従うだけの傀儡にするなんて人でさえ行っているのに。
彼らを信じていた? 結局裏切られたけど、堕天使になってから干渉出来なかったの? 少なくても完全無欠って訳じゃ無いのね。
「……という事で我々天界は」
「まっ、俺達はどうでも良いけどな」
会談は何事も無い様に進む。アザゼルが余計な事を言って場が凍り付く程度で、時折ハムスケやモモンガさんにミカエルやアザゼルが視線を送る。心を読むアイテムとか作れてたら良かったのに。敵に回らないように神器持ちを殺したり、信徒を犠牲にしてまで戦力を増強するのを黙認したりしている敵同士が一緒の空間に居て何を思っているのかとても気になるわ。
「……分かったぜ。じゃあ和平を結ばないか」
アザゼルの言葉に思わず口角が吊り上がる。アザゼルの提案にミカエル達も賛同したからだ。あれだけの犠牲を出してまで戦力を増強して起きながら、こんな話し合い一回で仲良く出来ると本当に思っているのかしら? ええ、貴方達なら出来るでしょうね。
でも、悪魔や堕天使を滅せよと教えられ、それだけの為に生きてきた悪魔祓いは? 友を、恋人を、家族を殺した相手との戦いを望んでいる者達は? 少なくても悪魔にも堕天使にも他の勢力は敵だと教えられて育った者は居る筈よね? 組織への未練と敵への憎悪、どっちか勝つのかしら?
ああ、本当に楽しみだわ。仲間や冷戦状態の相手になら出来ない実験も、平和を願う上の方針に逆らい、混乱を招く為に離反した者なら研究材料にしても構わないもの。ジェイル君は甘いから怒るだろうけど、モモンガさんは敵に関しては非情極まりないし、旦那様だって悪辣だもの。どうとでもなる。
笑い出しそうになるのを唇に歯を突き立て手の平に爪を食い込ませて必死に堪える。ああ、なんと素晴らしき我が生涯。パパとママの死は無駄じゃなかったわ。
「んじゃ世界に影響を与える奴らに聞きたいんだがよ。お前らは世界をどうしたいんだ? 赤龍帝二人にヴァーリ、答えてくれ」
「俺は強い奴と戦いたいだけさ。戦う奴が居なくなったら死ぬかもね」
まあ仕事一筋に生きてきた人が仕事が無くなったら魂が抜けたようになるのと同じね。でも、その時居る強者を超える奴は出ないって分からないじゃない。
「なら、貴方が育てれば良いんじゃないのかしら? 例えば貴方の子供なら貴方を超える可能性も有るでしょう?」
「ああ、そういう手も有るか」
つい口を挟んでしまった私の言葉にヴァーリは顎に手を当てて考え込む。彼、魔力は多いみたいだし、白龍皇を宿してるなら子供にも影響が有るでしょう。後はアザゼルが集めてるっていう神器を複数与えれば面白い事に成りそうだわ。
「ええ、例えばウチのゼスティとか良いんじゃない? 色気は皆無だし馬鹿だけど」
赤と白の間に生まれた子とか興味有る。でも、皆の視線が集まった彼女は嫌そうね。
「いや、レライさん。自分にも選ぶ権利は有るんっすからね。ヴァーリさん、完全に好みじゃないっすもん。幾ら美形でも、良い体をしてるとかセクハラかましてくる変態は御免こうむるっす。いや、マジで」
あっ、フラれた。いや、別に彼が告白した訳じゃないけれど。……さて、今度の眷属での女子会はゼスティがメインね。あの子の恋愛観とか話題になった事ないもの。
「……あー、なんだヴァーリ元気出せ」
「俺は別に気にしてないさ。そう別にね……」
「じゃ、じゃあ次は二人に聞かせて貰おうか」
アザゼルは表面上は気にしていないヴァーリ君に気を使ってるけど逆効果だね。さて、二人だけど……分かりきっている答えを聞くのは面倒だ。
「俺は好きな子や友達と仲良く暮らせればそれで……」
「自分も家族と仲良く暮らせれば良いっす」
あー、やっぱりね。会談、早く終わらせてくれないかな、私とすれば早く帰って研究がしたい……おや?
突如校舎と校庭の周囲の空間が変化する。どうやら何者かの術を受けたようだね。
「襲撃か……」
「こうやって敵対してたモン同士が仲良くやろうって時には敵対する奴が現れるもんだ」
校舎周辺に沢山居た警備の人達はこの空間に入れて貰えなかったらしく、代わりに魔術師が魔法陣からウジャウジャ出てきている。そしてこの空間だけど、魔力や神器の類じゃない。
「仙術…かな?」
リアス様の所の元猫妖怪が怯えてるし、間違いないや。彼女の姉、確か仙術を暴走させてはぐれになったんだっけ? 旦那様が調べた限りじゃそんな兆候は無かったそうだけど。
「……あー、変な感じ。蛇飲み込む時、喉に引っ掛かりそうになったにゃ。踊り食いとかこんな感じなのかしら。でも、こうでもしないと魔王を閉じ込めるとか無理だしね」
「さて、どうするよ? 時間稼げば痺れを切らせた親玉が出て来ると思うけど……」
窓の外の魔術師達はこっちに魔法を放って来るけれど中級悪魔程度の力じゃ魔王クラス以上の力を持つ者の結界は壊せない。ただ、この仙術使いが毒霧でも使ったら厄介ね。
「ふむ。なら私が奴らを片付けさせよう」
椅子に座り頬杖を突いたままの姿勢のモモンガさんの声が室内に響く。あの小市民なモモンガさんが内心ではどんな状態なのか予想は付くけれど、此処は面白そうだからスルーしましょう。
実際、私達みたいに本性知っている奴らの前で演技するのはキッツイでしょうね。私ならキッツイ。
「片付け
セラフォルー様の質問に答える様にモモンガさんは指先を校庭に向け、地獄の底から響くような声で告げる。
「中級アンデッド召喚・
そう。この時、魔術師達は死刑を宣告された。現れたのは無数の人骨で構成された骨の竜。その能力は……魔法の完全無効化。
「行け……鏖殺だ」
まぁ、実際は違うらしいけど中級悪魔程度の魔術師の魔法は効かないわ。その異様な姿にトップ陣でさえ初見の者は口を開けて固まり、下の者、特に元人間の転生悪魔は完全に怯えてしまって歯をガタガタ鳴らす音が鬱陶しい。
「な、何だ彼奴はっ!?」
「迎え撃てっ!!」
「ま、魔法が効かないっ!?」
まさに外は屍山血河の地獄絵図。死屍累々よ。次ぐ次に放つ魔法に動じない怪物に怯えて逃げ出した奴から殺されて行く。まぁ、握り潰され尻尾を叩きつけられ踏む潰された魔術師達の死体は原形を保っていないから死体以外の何かに見えるけれど。
「ふむ。不可思議な事だ。勢力のトップを襲撃していながら負けそうになると泣きながら悲鳴を上げるとは。それならば最初から襲わなければ良いものを。……もう打ち止めか」
「……モモンガさん。そろそろ」
何故逃げようとするのか心底理解出来ないという様子のモモンガさんだけど、魔術師が残り数人となった時点で
「仕方ない。君が止めるなら従おう。奴らも投降するようだしな」
これでモモンガさんの力と、ジェイル君なら彼をコントロール出来るという事を印象付ける事が出来た。襲撃を見越して事前に練習していた甲斐があったね。
「……ふむ。私の下僕が仙術使いらしき侵入者を発見したらしい。始末しても良いかね?」
あっ、死体が欲しいんだ。仙術使いってレアだからなぁ。
モモンガさんの提案に異を唱える者は居ない。さっきのデモンストレーションで空気を完全に……いや、そうでも無いか。さほど動じていないのが一人。
「うん。君達に任せるけれど、出来れば生け捕りが良いかな。情報を聞き出したい」
超越者サーゼクス・ルシファー。旦那様の言う通り圧倒的な力の為か空気に飲み込まれ切っていない。だが、これも想定内だ。
「アンデッドにすれば情報は引き出せる。拷問して聞き出すよりも確実なのだが? おや、お客さんのようだな」
部屋に現れた転移用の魔法陣に視線が集まる。描かれた紋章は旧レヴィアタンの物。さて、空気が変わっちゃったけど……。
「ジェイル君、仙術使い相手にはハムスケを行かせたらどうかな? 実験の結果を見たいから出来れば私も行きたいんだけど」
「このハムスケ、敵の首印を若様に御覧に入れるでござる!」
私の提案と自信を持って宣言するハムスケがチラリとサーゼクス様を見ると頷く。それを見たジェイル君も許可してくれた。さて、腕の一本だけでも譲って貰えないかなぁ。
「うえっ!? なーんか嫌な予感がするにゃ」
ああ、良い事が起きる気がするよ。アンデッドにする前に解剖とか薬剤注入とか色々したいけど、流石に無理だよなぁ。
感想待っています
マーリンはフレに頼るから諦めてQP集め 退屈なのでフェアリーテイル読みながら結構途中で使いながらも二億 四十個近くリンゴっ食ったし電源が限界なので自然回復分回ったら終わろう
時々主力のは上げてたから余裕有るしね
次回からキャラ設定や変更点を一人づつ乗せるかなぁ 後書き前書きに