成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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キリの良いところで区切ったので短めです


神獣と珍獣

「やっぱショックだよねぇ」

 

 会談が二日後に迫った日の事、一心不乱に打ち込まれるアーシアの拳によって三つ目のサンドバックに穴が開く。通常よりも頑丈にしているんだけど、今の彼女が長時間殴れば仕方がない。

 

「禁則事項だからカウンセラーに相談させるって訳にも行かないし......」

 

 今回の参加者が認識しておくべき重要事項、其れは聖書の神の不在。嘗ての大戦で四大魔王だけでなく聖書の神も死んだというんだ。元から悪魔側や特に信仰心の無かったメンバーは兎も角、敬虔な信者だったアーシアや、神は嫌いだけど教会関係者だったレライはそれぞれ思うところが有るようだ。

 

 

「えっ、神はとっくに死んでいるですって? ……アハッ、正しくジーザスね!」

 

 ......反応は全く違うけど。

 

「はぁっ! ...ふぅ。すっきりしました」

 

 打撃音に続いて何かが裂ける音と共にサンドバックに穴が開く。中に詰まった砂鉄が音を立てて床に散らばったので後で責任持って掃除させようと思いながらアーシアを見ると実に晴れやかな顔だ。とても信仰の対象が不在だと知った顔じゃない。

 

「かなり落ち込んでいたのに、そんなので立ち直れるの?」

 

「はい。もう大丈夫です。たとえ私の祈りが届く事が無くても、それでも私が捧げた信仰は主が残したシステムを運用するのに必要だったと知りました。減ったとはいえ、其れでも人を救う一助になったなら無駄ではありませんから」

 

 確かに信仰心ってのは神にとって必要らしいし、彼女の言うとおりなんだろうけど、開き直ったってレベルだね、これは。後は見捨てられた訳じゃないって分かったからかな?

 

 笑みを浮かべながら語るアーシアの瞳には迷いも悔いもない。聖女を演じていたと言うけど、その精神は聖女って言っても構わないんじゃないかなと思う。照れそうだから言わないけど。

 

「元々教会も主の救いの手が届かない人の為に存在します。なら、教会の手が届かない人の助けになりたいという夢は揺るぎませんし、あの方々の事を知って迷いも完全に消えました」

 

 目を光らせて語る様子からして尊敬しているっぽいけど、あの人達って誰だろう? 僕は少し考えるけど、話の流れに符合する人達が思い浮かばない。これも勉強だと自力で解答に行き着きたかったけど、降参することにした。

 

「其処までいう人達って?」

 

 固唾を飲んで返答を待つ。その人達に興味が湧いていた。

 

 

 

 

 

 

「赤穂浪士の方々です! モモンガさんからお借りしたDVDで知ったのですが素晴らしいと思います。仕えるべき家も主も無いのに忠義を貫く心! 私、時代劇にハマってしまいました!」

 

 今までで一番目を輝かせて語るアーシア。うん。元気になったなら理由は構わないけど......なんだかなぁ。

 

「修学旅行が京都だし、グループの人に頼んで映画村でも行けば? 夏休み明けからの入学だから仲良くなるの大変だろうけど」

 

「はい! そのつもりです!!」

 

 この子、少し影響されやす過ぎじゃないかなぁ。目をキラキラ光らせるアーシアを見ながらそう思った。

 

 

 会談の当日、僕は何時もより早い時間に目が覚めた。今日の結果次第で大戦が再発する可能性も有るという不安がそうさせたんだろう。思わず未だ眠るフランを強く抱きしめる。愛しいフランとこうして居られる日が終わるかも知れないと考えると底知れぬ不安を感じるけど、王である僕は眷属の前で其れを顔に出すことは許されない。

 

 威風堂々とどの様な状況でも不安を欠片も感じていないという顔をする。其れが王の、そして貴族の責務だ。

 

「......大丈夫。君が居てくれたから僕は強くなった」

 

 僕にとってフランがどれだけ大切な存在か、其れを思うだけで不安なんか泡沫の夢のごとく消え去る。お風呂の一件以来、起きる少し前じゃなく、眠る時に一緒にベッドに入って来るようになったフラン。手を繋いで見つめ合うと嬉しそうに笑い安らかに寝息を立てる。

 

 朝起きる頃には寝相なのか僕の胸に頬をすり寄せ抱き付いていて、起きたら恥ずかしそうにしながらもキスをしてくれる。そんな彼女を絶対に守り抜こうと、そう心に決めた。

 

 

 

「あっ、メイドに直して貰わないと」

 

 フランお気に入りの熊のパジャマの一番上のボタンが取れ掛かっている。ちゃんと止めていなかったのか、身動きする事によって二番目三番目のボタンも外れて胸元が見えてしまっていた。当然下着も覗いていて、つい視線を送っちゃう。

 

「仕方ない。目を瞑っておくか」

 

 惜しいけど、本当に惜しいけどフランが慌てるほどに恥ずかしがるからこれ以上は見ない。幾ら恋人で将来の結婚が親公認でも、守るべき物は有るからね。

 

 

 

 

 

 

「ウ、ア......」

 

 寝言を言いながら身じろぐ度に布越しに感触が伝わってくる。......うん。見えない分、これはこれで味わい深いというかなんというか。

 

 いや、僕だって年頃だし、悪魔って欲望が深い生き物だからね。エッチな本はフランに言われて全部捨てたし、好きな相手とこうして触れ合う分、色々と大変なんだよ......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むむっ! それがし達が一番乗りでござるか」

 

 会談の場所は事件があった駒王学園。校舎の周囲には警備の方々が集まり壮観な眺めでござる。何故街中で行うかというと、何処かの勢力の領地だと不満が出るし、此処がそういった声を封じる理由には都合が良いからとか。

 

 後は人間を巻き込むという事を争いが起きにくくする心理ブレーキにしているとか何とか。......チンプンカンプンでござるよ。ギャスパー殿の一件も代価として競売から降りて貰ったとか聞いたでござるが、それがしには理解できないでござるなぁ。

 

 

 

「最初に入って待機してろって言われたからね。座っちゃ駄目だよ、ハムスケ」

 

 会談の出席者の中ではそれがし達は下っ端同然なのでこうして先に集まるのでござるが、威圧感が有りすぎるからとモモンガ殿は後から来場するとか。気持ちは分かるでござるが哀れでござるよ。

 

 そうこうしている内にソーナ殿達も入ってくる。しかし、それがしを見る目が何時も輝いているのは矢張り畏れと崇拝の念でござろうな。

 

 

 

「それにしても聞いたでござるか、博士。天使の方々や堕天使の方々がそれがしを見ながらの言葉を」

 

 強大で英知に優れた瞳、や、どこぞの神話の神獣の末裔だろうか、とか、見る目有りまくりでござる! それがしは鼻息荒く賞賛の言葉を待つ。普段は結構酷いことを言う博士達も今度ばかりは誉めるに違いないでござろうな。

 

 

 

 

「神獣って言うよりも珍獣よね、貴女。......どうしてアーシアといい、彼らといい、ハムスケが偉大に見えるのかしら?  ......今度解剖して調べ直して良いかしら? ちゃんと蘇生させるから」

 

 しょぇえええええええええっ!? もう実験はたくさんでござるよぉおおおおおおっ!!




感想待っています  眠い・・・・・・

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