成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

27 / 63
自慢とお風呂

 切り株に座った僕の膝の上にフランが向き合うようにして座り、その腰に手を回して抱き寄せれば頬に手が触れられ軽い口付けをされる。何とも言えない幸福感だ。

 

「ああ、君と触れ合うことが許されない時間、本当に辛かった。まさに織姫と彦星」

 

 見詰め合って互いを抱き締める。頬と頬が触れ合い鼓動を感じあう。只其れだけで僕は本当に幸せだ。でも、欲張りな僕達はそれ以上を望んでしまう。

 

「よし! 今すぐネットで話を調べて、あの話が好きな奴ら全員に土下座して来い」

 

 不機嫌そうな声に振り向けばモードレッドは剣を肩に当てて何か怒ってた。偏食気味だしカルシウムが足りてないんだな、きっと。いや、その辺は考慮したメニューを料理長が作ってたっけ?

 

「なんで怒ってるんだろうね?」

 

「ウー?」

 

「テメェらが余計なことして時間を無駄にしてるからだろうがっ! ったく、ショボい仕事なんだから早く終わらせようぜ」 

 

 呆れと苛立ちが混じった叫びを上げながらモードレッドが視線を向けたのは山奥の古い洋館。母さんが安く買い取った物件で、改修して貸別荘に使う予定だったんだけど安く買えたのは曰く付きだからだ。

 

 元々この屋敷はとある貴族令嬢が使用人と共に暮らして居たんだけど、彼女は実は愛人の子で彼女を邪魔に思った正妻が刺客を送って屋敷の者を皆殺しにしたらしい。突如襲われ犯され拷問じみた惨い殺し方をされた彼女達は今も成仏出来ず屋敷に入った者を呪い殺していると聞く。

 

「あっ! 今日は見たい映画の上映日だ! 来い、黒王号!」

 

 モモンガさんの慌てたような叫びと共に靄に包まれた骨の獣が現れる。モモンガさんの使い魔の一匹で魂喰らい(ソウルイーター)というモンスターだ。靄の至る箇所で膿の様な黄色や輝くような緑色が見られる。中級のアンデッドとの事だ。

 

 

 

「いやー! 地方の小さな映画館で復刻上映する映画なんだけど、権利を持ってる監督が映画は家で寝そべってみるモンじゃ無いってビデオ化はしてないんだ。うっかりしてたよ」

 

 ソウルイーターが入ってから僅か十秒。広範囲に及ぶ攻撃で令嬢に使用人、取り込まれた肝試し客や霊媒師の魂は全て食い尽くされ仕事は終わった。まさにオーバーキル。パンフレットを嬉しそうに見せびらかしてくるモモンガさんの今の姿からは想像も出来ない戦闘力だ。

 

「まあ僕も今日は用事があったし早く終わるに越した事はないよ」

 

「あー終わった終わった。後は適当に中を探索して帰ろうぜ。埃っぽそうなのは嫌だけどよ」

 

 確かに長年人がロクに足を踏み入れてないのなら埃が積もり空気も澱んでそうだ。こういう時、呼吸が不要ならどれだけ良いかと思ってしまう。

 

 

「あっ。エルダーリッチでも向かわせようか? 調査の時間程度なら持つし。中位アンデッド召喚・エルダーリッチ!」

 

 すぐさまボロボロのローブを身に纏ったアンデッドが現れモモンガさんの指示に従って屋敷へと足を踏み入れる。この日、屋敷に一歩も入る事なく仕事は終わった。

 

 

 

 流石モモンガさん!

 

 

 

 

 

「何と言うか今日は楽でしたね。この前のケルベロス退治はハムスケちゃんに手伝って貰っても大変でしたのに」

 

 仕事後、報告書の作成を手伝ってくれているアーシアと紅茶を飲みながら話す。確かに今日は楽だったっけ、おかげで報告書が大変なんだよね。『モモンガさんが強いアンデッドを召喚して終わらせました、おわり!』って具合にはいかないもん。

 

「あの人は基本的には僕の成長の阻害にならないようにって手を出さないんだけど、偶に自由になるからなぁ」

 

 偶に昔の愚痴を聞く限りじゃ社畜だったり戻って来ない仲間との居場所を守るのに精一杯になったりと気苦労が多かったらしく、新しい趣味に使えるお金と時間が有る今がとても楽しいらしい。……あんな強いアンデッドが社畜になるってどんな世界だったんだ? 環境が末期とは聞いてるけどさ。

 

 

「さて、報告書も終わったし、僕は用事を済ませてくるよ。アーシアもイッセーとデートでしょ?」

 

「はい! 何時もは私からじゃないとても握ってくれないイッセーさんが夜の動物園に誘って下さったんです! だから服を買いに行きたくて」

 

 傍から見ていた二人は本当に仲が良い。フランが居なかったらリア充爆発しろとか言っているよ。まぁ、完全にリードを握られているけれどさ。

 

 

「ジェイルさんも何か用事が有ったのですよね? 何ですか?」

 

「僕の用事? 可愛い可愛いエリザベートちゃんとのお出掛けさ」

 

 さて、時間も惜しいし早く出掛けよう! 待っててね、エリザベートちゃーん!

 

 

 

 

 

「ま、まさか浮気!? な訳ないですよね、馬鹿馬鹿しいです。さて、早く洋服屋さんに行きましょう」

 

 僕が居なくなった後、一瞬だけ驚いた顔をしたアーシアは直ぐに顔を振って疑念を振り払い、ウキウキとした表情で出掛けて行った。

 

 

 

 

 

「エリザベートちゃんは本当に可愛いでちゅねー! 今日も瞳がキュートでちゅよー!」

 

 僕の腕の中で愛しの彼女は円らな目をパチクリさせながらモゾモゾと動く。腕の力を弱めると僕の肩に顎を載せて部屋の中をキョロキョロと見渡している姿も可愛らしい。

 

「さて、そろそろ出掛けようか」

 

 そっと手を伸ばしてエリザベートちゃんの頭を撫でると彼女と一緒に出掛けた。

 

 

 

 

 

「いやー。相変わらずお宅の清ちゃんは素晴らしいですね。白い鱗が輝いていて……」

 

「お宅の家のクワイッセちゃんも凛々しいお顔で。所でウチの清ちゃんなんてゲージから出すと何処までも私を追い掛けて来るんですよ」

 

「そうそう。ウチの子なんて……」

 

 白蛇を腕に巻き付かせた男性と大トカゲを抱っこした女性が互いの家の子を誉めあっているようで途中から自分の所の子の話を一方的に話す。それでも満足そうにしているんだけど気持ちは分かる。僕だってそうだもん。

 

 今日は同じ趣味を持つ者の集い。具体的に言うと爬虫類を使い魔にしている悪魔の集いだ。この時間だけは地位の差を忘れ互いに相手をただの爬虫類好きとして扱う。違反者は即時退会処分という厳しい会則だけど罰則の事例は殆ど無い。まぁ相手の家の子を馬鹿にしない限りは一方的に自慢話をしあうだけだからだけどさ。

 

 

 

 

「おや、これはジェイル君じゃないか。君の所のエリザベートちゃんは相変わらず鱗の艶が凄いな」

 

「うん。毎日のケアを忘れずにして餌にも気を使っているからね」

 

 僕の可愛いエリザベートちゃんは冥界のカメレオン……なんだけど突然変異で普段の鱗の色が紅色なんだ。尻尾にはリボンを巻き、エサは勿論生餌(って言うかカメレオンは動く餌しか食べないし水も動いていないと飲まない)を与えているんだけど、まるで甚振って楽しむ様にしてから食べた後、飛び散った血を体に塗りたくるのが好きなんだ。汚いから直ぐに落とすけどね。

 

「この前なんか歌うように鳴き続けてさ。思わず録音と録画をして毎日聞いてるよ」

 

「そう言えばウチの子なんて……」

 

 同好の士との話は本当に楽しいね! ちなみに龍を使い魔にしてる人が連れて来た後、元龍王な最上級悪魔タンニーン様を中心に猛抗議が来て龍は除外になったんだ。

 

 

 え? 使い魔は主の言い付けを守って働いたりする? してくれるよ? 頭が良いから僕が頼んだら歌ってくれるし。人型に化けるのは苦手だからできないけど、保護色を活かして偵察とかも得意だし。少しお馬鹿だけど其処も可愛い。

 

 

 

 

 今日一日の結論。フランとエリザベートちゃんは凄く可愛い!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウ!」

 

 お風呂は嫌いじゃない。悪魔になってから関節が少し変化して水に浸かっても大丈夫になったし、汗を流すのはとても気持ち良い。

 

 それに今日は何時もよりお風呂が嬉しい。だってジェイルと一緒だから!

 

 

 

 

「フラン様。今日は此方を着てお入り下さい」

 

「アー?」

 

 お義母さんから貰ったチョコを食べた後、お風呂に入ろうとしたらメイド長に水着を渡された。青いビキニタイプ……なんでお風呂で水着?

 

「入浴後にアイスを用意しています」

 

 アイス! アイスは好き。最近暑いから冷たくて甘いアイスが食べたかった! 私がコクコトと頭を上下させるとメイド長は満足そうに微笑むと市一礼して去っていく。じゃあ、お風呂お風呂。

 

 

 

「誰ー? って、フラン!?」

 

「ウアっ!?」

 

 お風呂に入ったら何故かジェイルも居た。あっ、でもジェイルも水着だし大丈夫だね。折角だから背中流してあげる。

 

 私が近づくと恥ずかしいのかビクッとしたけど何時ものように私からは絶対に逃げないで居てくれる。抱き着いちゃ……駄目かな?

 

 

「……大体理解した。モードレッドが、水着着て入れ。でねぇとぶん殴る、とか言って来たからどうしたのかと思いきや。我慢してたからサービスのつもりかな?」

 

 ジェイルの背中、大きいなぁ。背中をゴシゴシ洗ってあげながらそう思って見詰める。じゃあ、流すよ? 

 

「お願いね」

 

 風呂桶にお湯を入れて泡を流す。あっ! そうだ。私も流して貰いたいな。

 

「ウウウァ…ダ…メ…?」

 

「勿論オッケー! うわっ!?」

 

 親指を立てて引き受けてくれた事が嬉しくて抱き着いちゃった瞬間、何かが床に落ちる。あっ、水着だ。上の部分、紐をちゃんと結んでなかったから解けちゃった。

 

 

「……えっと、フラン? 直に当たっているし、恥ずかしいからさ……」

 

「ウ!」

 

 今離れたら胸を見られちゃうから私が恥ずかしい。だから私はもう少し抱き着いておく事にした。隙間から見られないようにギュッと抱き着いて、視線が胸に行かないように顔を間近に近付ける。……見たいなら見ても良いけど。

 

 

「目を瞑って……」

 

「ア!」

 

 少ししつこいから喋れないように唇を唇で塞ぐ。なんか今日の私、少し大胆で自分で驚いた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奥様、そのチョコレートは?」

 

「うふふふ。可愛いい息子と娘の為のプ・レ・ゼ・ン・ト。貴女も好きな人が居るなら使ってみれば?」

 

「いえ、結構です。二人も一線は越えないかと思いますよ」

 

 実際、メイド長の予想通りだ。僕達は僕達だったという事だ。仲は更に深まったけどね。

 

 

 

 

 

 そして数日後に会談が迫ったある日、出席が決まっている僕達に驚くべき極秘事項が告げられた……。




さて次回から再び話が進みます

感想待っています

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。