成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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未熟な息子と未熟な新人

 いやはやいやはや、息子の未熟っぷりには頭が痛むネ。恨みのある相手のトップの顔を拝みたいだけ、その言葉を信じたのだろうが、いや、実際にそうだったのだろう。顔を合わせるその時まではネ!

 

 だが、人の心は移りゆく物。ましてや憎悪が混じれば尚更だ。レライ君を信じたのだろうが、信じ切ったのは及第点すら与えられぬ愚考だ。信じることと盲信は別物。他人の今の心を読み込む力は鍛えたが、今後はどの様に移り行くかも鍛えなくてはならないな、全く手間の掛かる。

 

 ・・・・・・ふふふ、実に腕が鳴るよ。父ではなく、教育者として色々と教えてあげようじゃないかネ!

 

 

 

「取り敢えず痛みのない教訓は無意味だとして二人には罰を与えたよ。と言っても非公式にして貰ったから罰も非公式的にして、フラン君との接触と研究の三日間の禁止だ」

 

「・・・・・・成る程。それで二人とも、燃えたよ燃え尽きた、的な感じに。・・・・・・其れで本当の目的は?」

 

「たまには身内に悪辣な真似を思いっきりしてみたかったのさ、友よ! 大事にはならないと予想できていたしネ」

 

 いやー、はっはっはっはっは! 実に楽しいものだね! 時には失敗も経験せねばと眷属のスケジュールを裏で弄った甲斐があったよ。・・・・・・ん? 何やら視線を・・・・・・。

 

 

 

 

「母さん。父さんが落ち込んでいるようだけど・・・・・・」

 

「フランちゃんに、パパ嫌い、って半泣きで言われたみたい」

 

 

 

 

 

「にしても貴族ってのは勝手だな、おい。力が有りすぎるからって閉じ込めて、鍛えさせもしねぇんだから」

 

 ルシファー派も一枚岩じゃなく、サーゼクスの息子のミリキャスを次期ルシファーにしたい奴等もいれば、他の貴族の子息を推している奴もいる。そう言う奴等からすればリアス・グレモリーに問題があってミリキャスが家を継ぐしかないとする口実は欲しいって訳だ。だから色々と邪魔したわけだが、流石にコカビエルの一件で風向きが変わって来やがったらしい。

 

「大きな失敗が続いてこれ以上兄の足を引っ張るのは困るって事とお聞きしているでござる。いやはや、境遇と言い哀れな事でござるなぁ」

 

 オッサンの新しい眷属になったギャスパー・ウラディは元々吸血鬼で、リアス・グレモリーの眷属だった。今後は派閥内で話し合って適切な選出で眷属を決めるんだそうだと、顔合わせの為に呼び出された俺達は応接間で話し合っていた。

 

 ・・・・・・けっ! 貴族の顔色を窺わなきゃ政治が出来ねぇ王なんざ父上の足元にも及ばねぇ。当然! 父上を超えている俺の足元にもな!

 

 

 

 

 

「ほら、大丈夫でありんすよ。主の力を怖がる程度の者などこの先の部屋には居ないでありんすから」

 

「は、はい」

 

 ドアの向こうから中途半端な廓言葉と共に気弱そうな声が聞こえてくる。何かムカムカすんな。

 

「モードレッド殿、苛めちゃ駄目でござるよ? モモンガ殿だって怖い顔を仮面で隠してるでござるから」

 

「……怖い顔、そうだよなぁ。俺、骸骨だもんなぁ」

 

「馬っ鹿! 余計な事言うな!」

 

 面倒臭ぇ事にハムスケがまた空気を読まずにモモンガのオッサンが落ち込む。そんなこんなしてる間にドアが開いてカウンセラーに連れられてギャスパーが入って来た。

 

 

 

「ほら、挨拶するでありんすよ」

 

「は、初めましてギャスパー・ウラディですぅ。ひぃい!! でかいハムスター!?」

 

 次の瞬間、変な感覚を感じたけどアレが時間停止の神器か。モモンガのオッサンが予め時間停止系の対処してくれたから俺達は停まらねぇけど。

 

「……おんどりゃあ! ビクビクすんなって言っただろうがぁ!! モモンガ様が、我が愛しの君が目の前にいるんだから私に恥かかせんな、こらぁっ!」

 

「ひ、ひぃいいいいいっ!!」

 

 胸倉を掴まれてガクガクと揺らされるギャスパーは涙目だ。……アレでカウンセラーとしての腕はオッサンが認める程なんだからビックリだよなぁ。

 

「モモンガのオッサン。あの人といい目の前のアレといい、えげつないのばっかりに好かれてんなぁ」

 

「……気持ちだけなら嬉しいんだけどね」

 

 先日の映画館での一件からモモンガのオッサンは心労が続いている気がする。またツーリングにでも誘ってやるか。

 

 

 

「そんなに怯えて良いよ。レライの発明品で魔眼の暴走は起きないし、訓練してくれる人とは顔合わせが済んだんだよね?」

 

「は、はい! 僕と同じ魔眼系の能力持ちの人達に教えて貰う事に成ってます!」

 

 カウンセラーがモモンガのオッサンの説得もあって帰った後、漸くギャスパーは落ち着いてジェイルと話をしている。

 

「それがしの『獅子ごとき心(ライオンズ・ハート)』が効いたのでござろうか? まだビクビクしてるでござるよ、博士」

 

「私の改造は完璧さ。君の魔法は確かに効果を発している。アレは彼に勇気がなさすぎるだけだよ、全く」

 

 自分の腕を疑われた思っているのかレライのハムスケを見る目は冷たい。多分今度の改造は大変な事に成りそうだな、おい。

 

 

 まぁ、そんな風に俺達と話をしている時だった、顔は隠してるけど体格から怖がられて話しにくそうにしていたモモンガのオッサンだったけど、何かに気付いた風に口を開く。

 

 

「もしかして『ギャー助』さん?」

 

「ひぇっ!? どうして僕のゲームでの名前知ってるんですかぁ? ……って、もしかしてその声は『ダークウォーリア』さん!?」

 

「いやー! こんな偶然あるんだなぁ。オフ会開けなかったけど、こうして会えて嬉しいですよ」

 

「ぼ、僕もです。PKK狩りでは本当に戦略を参考にしてますよ。ダークウォーリアさん」

 

 ……あ、うん。打ち解けてる。オタクの結束ってすげぇ……。

 

 

 

 

 

 

「ああ、罰の時間は残り一日。こんなに近くに君が居るのに触れ合えないなんて……」

 

「いや、オッサン居ないんだし何時も通りにすれば良いじゃねぇか。律儀だなぁ、お前」

 

 ジェイルの目の前にはフランが居るが、何時ものように殴りたいほど鬱陶しいべた付きっぷりな癖によ。思い出したら腹が立って来たので振り上げてしまった拳の行き場に困る。

 

「いや、あれは僕の王としての失敗だ。他の皆が用事で来られないなら屋敷に居る立場が上位の者をお供にするべきだった。それにあのレライが研究を止めているのに僕だけ言い付けを破れないよ。仮にも当主からの命令だからね」

 

「……あっそ。まぁ一日くらい頑張れや」

 

 ったく、昔から頑固だな、此奴。フランの奴も気持ちを汲んで近付かないようにしているしよ。見つめ合うだけで触れ合おうとしない二人を見て、オッサンに直談判しに行こうと思った時、携帯にメールが入る。今月の課題だ。

 

 

 

「馬鹿な貴族が放し飼いにしていたケルベロスが脱走したから退治してくれ、だとよ。……ついでにイッセーがどの程度なのかベルゼブブが見たいって言ってるらしいぜ」

 

 彼奴、今何処に居るんだっけ? さっきは警備隊の訓練の休憩時間に飲み物とタオルをアーシアから受け取って、隣に座ったアーシアが手を重ねたからって緊張してやがったが……女に耐性無いくせにハーレムとかよく言えたな、おい。

 

 勉強の為に大奥とか舞台にした芝居を見せられてドロドロとした戦いが怖くなったらしいけど。母上がそうだったけど、女は怖いからな。

 

 

 

 

「吹き飛びやがれぇええええっ!!」

 

 荒野の中、赤雷を纏ったクラレントをケルベロスに叩き付けて地面ごと体をえぐり取る。焼け焦げた四肢と左右の頭の一部分を除いて目の前から消滅した仲間の姿に目の前の二匹が怯えて後退りするが逃がす気はねぇ。

 

「お前ら、俺に喧嘩売っておいて逃げられると思ってんのか?」

 

 出会い頭に火球を吐き出して、相手が強いと分かると尻尾巻いて逃げるってか? んな中途半端な覚悟で俺に歯向かうんじゃねぇよ!!

 

 周囲を照らすほどに広がった雷が収縮し、剣を覆って雷の刃と化す。それを横に薙ぎ払うとケルベロス達のあごから上が下から切り飛ばされた。犬の肉の焦げる臭いが鼻に付き、不快感から唾を吐き捨てた。

 

「次ぃ! 一匹たりとも逃がすかよ!! ……って、もう直ぐ終わりか。残り一匹だしな」

 

 叫んだ後だけに少し恥ずかしいが、仲間の獲物を横取りするほど俺は腐っちゃいねぇ。剣を鞘に納め適当な岩に座り込んだ。

 

 

 

『Boost!!』

 

「よし! 十分溜まったぞ」

 

 俺達のチームは高火力の持ち主が多い。だからイッセーの奴も無理に火力重視に鍛え上げる必要も無く、力の譲渡で仲間をサポートしつつ状況を見て攻撃に転じるサブアタッカーってのが役割だ。

 

 だからまず鍛え上げたのは防御と回避。倍化の途中で激しく動き回ったらリセットされる事も有るから籠手が無い方の腕にラウンドシールドを装備し、痛みに耐える訓練とギリギリで避ける訓練を積んでるんだが、どうやら少しはマシになって来た様だな。騎士に昇格してるようだが、振り下ろされた前足を十センチ内で避けてやがる。

 

『先に目に譲渡して動体視力を上げたのは良い判断だ、相棒』

 

「そりゃどうもっ!」

 

 ドライグの声と同時に振り上げたD・Eの噴射口からオーラが噴出し、加速した杭の先端がケルベロスの前足の指に叩き込まれる。耳障りな鳴き声と共に爪が砕け先端が肉と骨を貫通して指に穴を空けた。引き抜くと鮮血が噴出し、イッセーの奴は噴射の勢いを利用して腹の下まで一気に滑り込む。

 

『Boost!!』

 

 再びの倍化で更に勢いは増し、腹部の中央に向けた先端が一気に迫る。だが、あの馬鹿やらかしやがった。

 

『何やってる、馬鹿者!!』

 

「まだバランスが上手く取れねぇんだよ!」

 

 途中でバランスを崩した杭は斜め上に向かい、脇腹の肉を少し抉っただけで飛んで行く。当然柄を握ったままのイッセーの奴もケルベロスの腹の下から飛び出し、怒りに満ちた目をした計六つの瞳が一斉にイッセーに向けられたかと思うと三つの口内の奥で炎が溢れ出した。

 

「……あれ喰らったら大怪我だな」

 

 アーシアなら直ぐに癒せるだろうが痛いもんは痛い。まぁこれも教訓だと一番近くに居て助けられる俺が見守ろうとした瞬間、彼奴は杭の先端を下に向ける。当然のように一気に下に向かって行くけど吐かれた火球は真上を通り過ぎていった。

 

「プロモーション『戦車(ルーク)』」

 

 落下の瞬間、ハンマーは杭から岩塊へと姿を変える。岩塊、D・Gの能力は倍化に合わせた重量の急増。咄嗟に俺は飛び上がり、直後に超重量のハンマーを振り下ろされた地面は着弾点を中心に陥没し周囲の地面が砕ける。それに足を取られるケルベロス。巨体が地面に挟まって直ぐには抜け出せないだろう。

 

「プロモーション『僧侶(ビショップ)』」

 

 今度は岩塊から斧へと変わる。アレの、D・Sは力をチャージし刃にして放つ。抜け出したイッセーが振りかぶった斧が徐々に赤く発光し、ケルベロスが漸く抜け出し真正面から飛び掛かる。……終わったな。

 

 

 

「此奴で終わりだぁああああっ!!」

 

 降りぬかれた刃から三日月の形をしたオーラが放たれてケルベロスを切り裂く。左右に分かれた体から内臓や血をぶちまけながら最後の一匹が息絶えた。

 

 

 

「よし!」

 

「よし!、じゃねぇよ。俺達が何体も倒す間にたった一匹かよ、情けねぇ。でもまぁ、お前にしちゃ上出来だ」

 

 力を使った疲労と墜落のダメージで膝をついたイッセーに手を貸してやる。新人もそこそこ育って来たし、俺も楽が出来そうだな。

 

 

 

 その日の晩、俺は部屋にレライとメイド長を呼び出していた。要件は当然ながらジェイルとフランの事だ。

 

「ありゃ見てられねぇな。どうするよ?」

 

「旦那様の言い付けですし、明日の正午には解除でしょう? ああ、何かサプライズを用意しておくという事ですね」

 

「まぁモードレッドのマッシュポテト頭では良い案が浮かばないから私に相談したいのも分かるけど、研究はできなくても頭の中でハムスケの改造案やフランの言語回路をどうにかする道具の名前やアスカロンと神器の融合方法やら考えなきゃならないんだから。……水着着せて風呂に叩き込んだら?」

 

「「それだ!」」

 

 いやぁ、流石頭使うことはレライに限るな。……所で馬鹿にされた気がするとか重要な事を聞かされた気がするんだが気のせいか?

 

 

 

「気のせいです。後が面倒なので喧嘩はお控えください」

 

「気のせいよ。体力馬鹿の相手なんかしてられないわ」

 

 そっか、気のせいか……。




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