成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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親子のスキンシップと幸せの再確認

「奥様、到着しました」

 

 久し振りの帰宅で気が抜けたのか、何時の間にか眠っていた私は乗っていた龍さんの声に目を覚ます。手鏡で化粧の乱れや寝癖が無いかをチェックし、乗せて貰った事にお礼を言うと降り立った。

 

『お帰りなさいませ、奥様!』

 

「あらあら、皆揃っているのね。ただいま、皆」

 

 どうしても手を離せない人以外は私を出迎える為に整列しているのだけど、事前に連絡をしていなかった為かあの人は居ないのね。お仕事でしょうけど、少し寂しいわ。私が出てばかりなのが悪いのだけど。

 

 でも、婦人としてそんな思いは顔には出さず、精一杯の明るい笑顔を皆に向ける。取引の時に浮かべるモノじゃなくって、心の底からの本当の笑顔を。だって屋敷で住んでる皆は身内だもの。

 

「そうそう。今日は休日だし、あの子は帰って居るわよね、セバスチャン?」

 

「ええ、本日は三番ルートで逃亡しております」

 

 初代のセバスチャン・モラン大佐から代々あの人の側近を務める彼はそっと私に耳打ちをする。私の可愛い息子の教育係もして貰っているし、今回みたいに私から逃げる時は逃走ルートも教えてくれるから助かるわ。

 

「あの子、昔は恥ずかしがらなかったのに……」

 

「若様もお年頃ですし……奥様のスキンシップは少し過剰かと。いえ、口が過ぎました」

 

 私が帰る度に姿をくらますジェイルの事を悩み、頬に手を当てて溜息を吐くとセバスチャンが困ったように言って来るけれど、家族とのスキンシップですもの、自重はしなくても良いわよね?

 

 

「じゃあ、探しに行きましょうか。追い掛けっこかカクレンボか、どっちになるかしら?」

 

 楽しくなって来たのでついつい笑いながら教えられたルートの先を目指す……前に未来の娘とのスキンシップが先ね。

 

「フランちゃん、こっちに来てくださる?」

 

「ウ!」

 

 世の中では嫁姑戦争と確執とか有るらしいけど、私とこの子は別。昔から息子と一緒に居るし、あの人同様に可愛がってるもの。今も呼べば笑顔でトコトコやって来たのでハグをする。

 

 

「ん~! この抱き心地、やっぱり可愛いわ。あの子とは上手くいってる? 不満はちゃんと伝えなきゃ駄目よ?」

 

「ウ、ウウァ……」

 

「え? 不満は無い? そうねぇ。貴女達ならそう感じるでしょうけど……夜の方はどうなの?」

 

「ウア!? ウウアアァ!?」

 

 唇の手を当て、耳(に該当する辺り)に吐息を吹きかけながら甘く囁く。反応からして未だみたいね。予想通りだけど、少し残念。でも、このリアクションが見れたから良しとしましょう。

 

 私は懐から香水の小瓶を取り出すとフランちゃんに手渡した。私の商会の新商品で、既に予約が殺到して生産を急いでいる人気の品は簡単に言うと惚れ薬の類。でも、普通の物とは違うわ。

 

「これは振り掛けた人と両思いの人にだけ効果が有るの。互いへの思いが強ければ強いだけ相手がセクシーに見えるわ。……そうね。貴女、まだそういう方面には詳しくないでしょう?」

 

「ウ、ウウ?」

 

 ふふふ、恥ずかしいけれども興味は有るって顔ね。あの子も幸せ者ね。こんなに可愛くって一途な子と恋に落ちたのだもの。私があの人と出会った頃を思い出すわ。

 

 私がダンサーで、あの人がお客で。敵対派閥の命令で情報を聞き出そうとした私の事を見抜き、それからスパイ物の映画みたいに事が進んで、今じゃ私は貴婦人で大商会の経営者だなんてね。

 

「まず殿方のアレを(自主規制)した後で(自主規制)をしたら(自主規制)という風になるから(自主規制)を(自主規制)で最後にして貰ったら(自主規制)のよ。……分かった?」

 

「ア、アウァア……」

 

 あら、少し刺激が強かったみたいね。すっかり真っ赤になっちゃって……初心で可愛いわ。写真に撮りたいわ。

 

 

「奥様、その辺りで……」

 

「あら、まだ早い子は既に貴方が屋敷に戻しているでしょう? でも、あの子が逃げたら困るし急ぎましょう」

 

 口笛を吹くと中庭から蹄の音が響き、私の前に湾曲した二本の角を持つ馬、バイコーンが現れて止まる。

 

「行くわよ、ヘールトロイダ」

 

 愛馬に乗り、私は一気に駆け抜ける。風が頬を撫でる感触が気持ち良いわ。少し遠回りして行こうかしら?

 

 

 

 

 

 

 

「これは若様……どうなされたので?」

 

 モードレッドとに適当に誤魔化す様に頼んでから逃走した僕は警邏中のガゼフと訓練の一環で警備隊に組み込まれているイッセーと遭遇した。

 

「母さんが帰って来た」

 

「おや、それならばイッセー、奥様に眷属としてご挨拶をして来た方が良いぞ。分かっていると思うが学友ではなくて眷属としてだ」

 

「うっす! ……って、妙に嫌そうな顔だな」

 

 ガゼフの提案に止めてくれと叫びたい気持ちで一杯になる。こんな時にモモンガさんは映画を見に行っているし。疲れないから見たい映画を全部観るとか言ってたし暫くは帰ってこないだろうね。ハムスケはハムスケでレライが改造するって言って連れて行ったし、ゼスティは補修だし……。

 

 肩を落として落ち込む僕の肩に誰かが手を置く。振り返ると伸ばされた人差し指が頬に当たった。

 

 

 

「見ぃ~つけた! 久しぶりね、可愛いジェイル」

 

「わっぷ!」

 

 突如顔に柔らかい物を押し付けられる。直ぐに離れると其処には太陽を思わせる瞳を持つ女性が残念そうな顔をしていた。

 

「も~! 親子のハグくらい良いじゃないの」

 

「僕、もう十六だよ、母さん。それに眷属も側に居るんだから勘弁してよ!」

 

 母親の胸に顔を挟まれても全然嬉しくないし、恥ずかしいだけだよ。フランのなら兎も角……あっ、無理か。

 

「子供の成長は嬉しいけど寂しいものね。っと、ごめんなさい。貴方がウチの子の新しい眷属ね? 私はこの子の母親のマルガレータ、マルガレータ・モリアーティよ。宜しくね、可愛い赤い龍さん」

 

 母さんはイッセーに向き直ると手を握ってニコリと微笑む。ガゼフはアチャーと言いたそうに顔に手を当て、イッセーは顔をだらしなく緩ませて母さんの胸に目を向けていた。

 

「は、はい! 宜しくお願いします!」

 

 おい、イッセー。なに同級生の母親にデレデレしてるんだ。君が最近アーシアと良い雰囲気なの知っているんだからな。告げ口してやるぞ!

 

 

 

 

 

 電話でアーシアと話した後、フランに呼び出されて部屋に入った瞬間、鼻を甘い香りが擽る。この時間はメイドが掃除をして居るはずなのに部屋の周囲には誰も居なくて不思議だったけど、そんな事どうでも良くなった。

 

 

「ウ、ウァア……」

 

 モジモジしながら僕を見ているのは何時もの花嫁衣裳っぽい服装のフラン。でも、色気が段違いだ。いや、普段から感じてはいるよ? でも、どちらかと言うと可愛い系だし……。

 

「えっと、どうしたの?」

 

 髪型を変えた様子も化粧をした様子もなく、此処まで印象が変わるのは不自然だと思いながらも僕は彼女を観察しない。いや、出来ない。あまりに魅力的過ぎて直視できなかった。

 

「……ウー」

 

 それが気に障ったのか不機嫌そうに唸りながら寄って来ると嫌でも視界に入る。距離は取らない。彼女から逃げたと思われたくないからね。拒絶の意志だけは示したら駄目だ。彼女を傷付ける位ならどんな試練だって耐えてやる。

 

 僕は恥ずかしさに耐えながらフランに向き直る。直ぐに機嫌を直してくれたフランの笑顔は何よりも素晴らしかった。

 

「君を傷付けたなら殴って良いよ。でも、誤解しないで欲しい。今の君が魅力的過ぎて直視出来ないんだ!」

 

「……」

 

 僕の言葉に何を思ったのかジェスチャーで少し待つようにと指示するなりフランは部屋から出ていく。二十分後、お風呂に入ったのか湯気を立てながら戻ってきたフランは何時もの可愛くて魅力的な彼女だった。

 

「コ…レナラ…ミレ…ル? ミテ…ホシ…イ…」

 

「うん! 僕の為に何かしてくれたのにゴメンね」

 

「ウー!」

 

 別に構わないと言いたそうに笑いながらフランは僕に抱き着いてくれる。でも、この時僕は怒らせて嫌われたかもしれないという精神的ショックから少し疲れていてバランスを崩し、二人してベッドに倒れこんだ。

 

 密着してベッドに寝転がった状態で僕達は黙り込む。恥ずかしさと相手への愛しさで胸が高鳴り、自然と唇が重なった。

 

 

 

「此処から先は勢い任せじゃなくってちゃんとした時に進めようか?」

 

「……ゥ」

 

 照れくさそうに共に笑みを浮かべるも、抱きしめ合ったままで僕達は互いを見詰めたまま時間を過ごす。矢張り彼女との時間は何よりも素敵な時間だと、心の底から思った。

 

 

 

 

 

 

 

「あらあら、残念ね。孫の顔が見られるかもと思ったのに」

 

「まだ二人には早いという訳さ、ハニー。……招集された会議で決まった駒の件は後で伝えるとしよう。最後の僧侶を他人に決められるのは癪だと思うがネ」

 

「じゃあ、私達もお部屋に行きましょうか、旦那様。……二人目作っちゃう?」

 

 

 




進めるが程にアーシアが眷属になる必然性が…仕方ないね!

モモンガ様とマッドがいるから大体は解決できるんだ

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