成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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覚悟と理由

「あ? 今、なんつった、オッサン?」

 

「いや、だからね。君達はコカビエルの相手をしなくても良いと決まったのだよ」

 

 アーサーの野郎から伝わった情報は俺たちにも伝達されたんだが、それを冥界に伝えたら数分後には帰って来いと言われ、今こうして訳分かんねぇ事を言われてやがる。

 

「どうせベルゼブブ派は昼も夜も学園の管理に関わってねぇから今回の事にも関われねぇって事になったんだろうけどよ……死ぬぜ、あいつ等?」

 

 アーサーは兎も角、他の奴らは雑魚だ。経験を積む為に宛がわれる様な格下しか相手にした事がねぇ奴らに最上級堕天使の相手が出来る訳が無いって位、上層部の奴らも分かるもんだろうがよ。

 

「ああ、勿論何もするなという事ではないのだがね。君達には街に何かされた時の警戒と街に住む人外や異能者の保護を任せるそうだ。これを機にこっちに抱き込むのだそうだよ。……後はまぁ、どうせすぐに破壊される結界から出てきた際の相手だネ。君達なら勝てると思っているのだよ。高評価だ、やったネ!」

 

 オッサンはお道化た様子だが、実際俺達の評価が高いのは知っている。課題と称して面倒臭ぇ仕事を押し付けて来るし、それを全部熟してるからな。

 

 はっ! 実力主義ってのは本当に最高だ。

 

「管轄がある以上、それを無視すれば内側で争いが生じるし、それに便乗して攻めて来る勢力も有るかもしれない。そういう訳ですか、ジェームズさん?」

 

 顎に手をやりながらモモンガのオッサンが訊ねた事にオッサンは無言で頷く。敵が多い今、身内での争いは最小限にってか。まぁブリテンも蛮族共の侵攻が有るのに身内同士の争いが酷かったからなぁ。叛逆した俺が言うのもどうかとは思うけど。

 

 

「相手をするといっても援軍が来るまでの時間稼ぎだが、高い確率で無理だろう。だから救援要請があった際は救援を向かわせる様にとルシファー様が提案し、二人までという事になった。まぁ一人は王であるジェイルが行くのが当然として……」

 

「俺が行くぜ、オッサン。元々ペンドラゴン家が問題の発端だ。なら、父上を超えたと証明する為にも、後継者と言われてたあの野郎の尻拭い位軽くこなしてやるよ」

 

 有無を言わせず即座に鎧兜を身に纏いクラレントを携える。ジェイルを見ると生意気にも溜息を吐いてやがったが、渋々といった感じで頷いた。よし、後で殴ろう。弟分の癖に生意気だ。

 

 

 誰が行くか決まるとモモンガのオッサンが立ち上がり皆を見渡す。なんか落ち込んだ風で言いにくそうだけど、何でだ?

 

「では俺が魔法で避難させるよ。家宝や使用人も転移させなくては片手落ちだしね。 ……あっ、誰かついて来て」

 

 ……あ~、成程。喋る骸骨がやって来て大人しくついて行く奴はそう居ねぇよな。既に避難させてるヴァイオレット達も今は懐いてるけど会った当初は怯えてたもん。

 

 

 

 

「モモンガ殿は見た目が怖いでござるからなぁ。それがしが同行するでござる!」

 

「……うん、よろしく」

 

 ハムスケぇぇぇっ!? お前、少しは空気読め! 皆分かっていて口に出さねぇんだろうがっ! 

 

 ハムスケの悪意が無いだけに質の悪い言葉にモモンガのオッサンが落ち込み雰囲気が更に不気味になったが、時間が無いので俺達は直ぐに動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「やあリアス。助太刀に来たぜ。グレモリー家から要請があってな」

 

「必要無いわ、ライザー。本来なら私達だけで解決する問題よ」

 

 流石に実践経験が少なすぎると妹で眷属のレイヴェルを除いた眷属フルメンバーで来たんだがリアスの態度が相変わらず敵愾心を感じさせる。デートを重ねても仲が深まらず、逆に刺々しくなる一方だし参ったな。

 

「シトリー家が結界を張ってリアス達が突入か」

 

 既に時間は真夜中になる頃、学園の前にはリアス達と報告を受けている悪魔祓いとアーサー王の末裔とやらが集まっている。だが、一人足りない。モリアーティ家が別行動ってのは聞いてるから居なくても不思議じゃねぇが、リアスの眷属が一人足りなかった。

 

(死んだか逃げ出したか……聞いても今の様子じゃ藪蛇か)

 

 これでも女の扱いには慣れている。じゃなきゃ妹を除く全員と仲良くなんて出来ねぇよ。些細な違いに気を配り、寄り添うべき時と距離を開けるべき時を判断しなきゃならねぇからな。ハーレムってのは作るのよりも維持の方が大変だ。

 

 

「おい、兵士は結界の維持に協力しろ。ゲームなら兎も角、少数の格上相手に数だけ居ても無駄死にするだけだ」

 

『はい!』

 

 実際、囮にしかならねぇからな。俺は直ぐに準備に取り掛かろうとした眷属の一人、ミラにそっと耳打ちをした。

 

「俺達が突入して二十分経ったら救援要請をしろ」

 

 もちろん、リアスには聞こえないようにだ。ああ言うプライドが高いのは自分の領域を侵されるのを嫌うからだ。しかし、気が重いぜ。即席のチームじゃ連携なんか無理にしても邪魔にしかならねぇし、リアスは俺を嫌っていて、悪魔祓いは元々敵だ。

 

 何処かで聞いた話だがスポーツのチームで必要なのは最強の選手を揃える事ではなくて、チームとして最高の働きが出来る選手を揃える事だとか。……本当に気が重いぜ。

 

 

 

 

「魔王が来ると思ったのだが……来たのは詰まらん奴らか。楽しめそうなのはアーサー王の末裔だけとは……」

 

 月明かりが差し込む校庭の上空に浮かぶ椅子に座ったコカビエルを見た瞬間、俺は勝てない事を悟った。なまじゲームで経験を積んでいるが故に相手とは計れないほどの実力差があると察してしまった。

 

「魔王様はまだ来ないわ。それまで私達が相手をしてあげる。覚悟しなさい!!」

 

 リアスは相手が格上だとは分かっていても臆した様子もなく啖呵を切るが、それは無謀だ。俺は彼女を庇う様に前に出ると炎の翼を出現させる。……嫌われてるのは分かってるがよ。それでも守りてぇじゃねぇか、男なんだからよ!

 

「ユーベルーナ、サポートを頼む。リアス達もだ」

 

「……フェニックス家の者か。確かにその特性は面倒だが……安全が保障された遊びでの経験如きで俺に届くと思っているのか?」

 

 コカビエルからの威圧感が増す。この時になってリアスも僅かに体を震わせ、直接それを向けられた俺も鼓動が高鳴る。

 

「はんっ! ゲーム如きの経験かどうか、その身で試してみろ、コカビエル! 此処が不死の体の見せ所だ!」

 

 

 

 

 

 成程、と少しだけ関心する。先程から何度か軽めの光の槍で貫いて地面に叩き落とすが、ライザーとかいう小僧は即座に再生して再び飛び掛かって来る。再生速度は徐々に落ちて来ているが、もう一人と併せて時間潰しには成るだろう。

 

「はっ!」

 

 空間を切り裂いて飛び掛かって来るアーサーの一撃を光の剣で受け止める。流石は最強の聖剣コールブラント、僅かな拮抗の後、アッサリと砕け散る。だが、避けるには僅かな時間が稼げれば十分だ。

 

 避けた隙に放たれる魔力は光の槍を飛ばして相殺し、再び空間を切り裂いて現れるアーサーの一撃を躱す。行くら天敵と言って良い力でも飛ぶ力が無い人間が振るうのなら幾らでも対応出来るからな。

 

 空間を割いて現れたとしても跳ぶという動作からの攻撃である以上は直線的になりがちで、踏み込みが空中では出来ないから受け止めれば力を加えて押し切る事も出来ない。援護も巻き添えを恐れてか離れた瞬間を狙ってで、位置さえ把握していれば迎撃は容易い。

 

 

「まぁまぁだ。同じ年頃の俺よりも強いな。だが、俺と同じ年のお前達よりも今の俺の方が強い」

 

 振り上げた腕を降ろせば光の槍が無数に地面目掛けて降り注ぐ。アーサーは聖剣のオーラで吹き飛ばし、俺に向かって飛ばす余裕まであるが、ライザーは背後の部下を思ってか炎で勢いを減衰させ後は自分の体で受け止めている。

 

 確かに此奴らは面白い。……少なくてもあいつ等とは違ってな。

 

 

 俺は僅かに視線を下に向ける。俺のペットであるケルベロス、そしてアーサーというイレギュラーが来た事で急遽連れて来た野生の魔獣と戦うリアス達の姿があったが、見るに値せん。飛べない魔獣ばかりなので野生の者も食べ易い大きさの獲物を率先して狙い、数が数なので聖剣を持った悪魔祓いが居ても苦戦して居るようだ。

 

 

 

 

「……さて、お前達が必死になるように面白い事を教えてやる。フリードは学園内には居らん。どうせ結界を張ると思ったからな。……学園の外で結界を張るのに精一杯な貴様らの仲間を襲っている頃だろうよ」

 

 おや、表情が変わったな。それだけでも少しは楽しめたか、それだけだがな。俺の興味は直ぐにアーサー達に向かう。時間稼ぎが目的だからかチマチマチマチマと戦いやがって。結界が破れたら外に魔獣を逃がしてみるか。幾分が必死さが増すだろうよ。

 

 

 

 

「……なんだ?」

 

 入口の方から異様な空気を感じ身構えた瞬間、魔剣を持った悪霊()()()群れが突如現れる。群れの中央には剣で串刺しになったフリードの姿があり、悪霊擬き共は俺に向かって……いや、俺と聖剣を持った三人に襲い掛かって来た。

 

 

 

 

 

 

「これが僕の、僕達の復讐の為の武器。禁手『怨嗟轟く魔剣霊団(ソード・オブ・アヴェンジャーズ)』だ! 僕達の力、思い知れ!!」

 

 ああ、成程。あれは奴の復讐心が悪霊の姿を取っただけの物か。怒りや恨みで力を増すか数が増える、そのような物だろうな。……下らん。

 

 

 

「戦いの理由を他人に求めるな、小僧。祈りも復讐も己の為にする物だ」

 

 降り注ぐ光の槍は怨念の塊を全て打ち砕く。副作用か精神的なものかは知らないが、それと同時に作り出した小僧が倒れた。

 

 

「ああ、実に興醒めだ。……どうした? 気でも触れたか?」

 

 笑い声が聞こえ、顔を向ければすでに再生の力を殆ど失ったライザーが這いつくばりながらも笑っている。

 

 

 

「……二十分経過。終わりだ、コカビエル」

 

「何を馬鹿な……っ!」

 

 怪訝そうな顔をした俺だが、本能で咄嗟に横に飛ぶ。先程まで俺の首が存在した場所を三日月の斬撃が通り過ぎ、僅かに掠った頬から血が垂れる。校庭の端に何時の間にか新しい二人が立っていた。

 

 

 

 

「貴様ら、名を名乗れ」

 

 

「ジェイル・モリアーティ。要請を受けて助太刀に来た」

 

「ジェイル・モリアーティが騎士モードレッド。おい、尻尾巻いても恥にはならねぇぞ。相手はこのモードレッドだからな」

 

 

 

 

 

 

 

「……モードレッド? 其れにあの剣はまさかクラレント? 言い伝えのままの姿ですが……」

 

 


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