成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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食べ方と呼び方

 綺麗な花を見つけたので思わず手を伸ばして花占いを始める。血のような真っ赤な花弁を指先で千切り、喋るのは苦手だから頭の中で呟く。

 

 ジェイルは私の事が、好き、とても好き、凄く好き、好き、とても好き、凄く好き、好き、とても好き、凄く好き・・・・・・花弁の数は残り三枚。

 

「ウ!」

 

 凄く好きで終わるので凄く嬉しい。思わず笑みを浮かべて指を伸ばす。そうか、凄く好きなんだ。知ってた。私もジェイルが凄く好きだから幸せ。ドキドキしながら花弁を摘まむ。もう一度慎重に目で数え三枚だと確認。うん、間違いなく三枚だ!

 

「ス・・・キ・・・」

 

 最後くらいは口に出したいからと無理をしながら花弁を摘まむ指に力を込める。

 

 

 

 

「何してるでござるか、姫?」

 

「ウゥ!?」

 

 ・・・・・・急に話しかけられた事に驚いて花を持つ手から電気が漏れる。三枚同時に花弁が落ちて、好きで終わった・・・・・・クスン。

 

「もー! 息抜きも良いでござるが、早く仕事を終わらせないと若様だって困るでござるよ」

 

「・・・・・・ウ」

 

 確かにと思い直し、頷くと地面に置いたハサミを手に取る。周囲に咲いた七色の花、これを集めるのがジェイルが出された課題の内容だった。いけないいけない。働かないと。

 

 

 

「痛たたたたたっ!?」

 

 でも、邪魔されて腹が立ったのでハムスケの髭を掴んで思いっきり引っ張っておいた。少しスッキリ。

 

 

 

 

「今回の課題は簡単だし、ついでに散策デートでもしようか」

 

 月に一回出されるジェイへの課題の難度はピンキリだけど、今回は指定された場所で写真の花と幾つかの物を集めてくるって簡単な内容。何度か行った場所だし、直ぐに終わるならデートが楽しめそうで嬉しい。あっ!お弁当は私が作ろう。

 

 

 

「やった。今から楽しみにしておくよ」

 

 ジェイルが喜んでくれるなら私も幸せ。頑張って美味しいもの作らないと・・・・・・。

 

 

 

 

「姫の護衛はこのハムスケが受け持ったでござる!」

 

 気合いが入っているのか鼻息が荒いハムスケが居るのが少し残念で、ジェイルは花ではない物を集めに行くのはもっと残念。目的の花の使用目的はジェイルのお母さんが経営する商会の新商品の美肌クリームや香水なんだけど・・・・・・媚薬的な効能も有るらしい。主にエッチな契約専門の悪魔や娼館に売るとか。

 

 花の状態だと効能はとても薄い上に女には効果が無いからって私と馬代わりに連れてきたハムスケが採集する事になった。生命力が強いので根っこさえ残せば来年も採集出来るからと花の部分だけをハサミで切り取ってカゴに入れていく。ハムスケも爪で器用に切っては背中に背負ったカゴに投げ入れていた。

 

 順調順調。この様子だとお昼までに終わらせられるから一緒にお昼寝も出来るね。たまには私が膝枕して欲しいなぁ。

 

 

 

 

「殴る。父さんは何時か殴る……」

 

 一人で他の物を集めていたジェイルは少し疲れたみたい。子犬ほどの大きさのジャイアントビーの蜂蜜や猛毒を持つヒュドラの卵とか大変だったと思う。

 

「あっ、蜂蜜舐める? 要求量ギリギリだったけど、余ったのを入れる為に持ってきたジャムの空き瓶に半分は有るから」

 

 でも、そんな時でも私への気遣いを忘れないのが嬉しくて、差し出された蜂蜜を指で掬い口に運ぶと上品な甘さが広がる。甘ーい! 美味しーい! ジェイルも舐めれば?

 

 もう一度指で掬って口元に差し出せば何故か動揺している。どうしてだろ?

 

「ウー?」

 

「……うん。舐める」

 

 ならと、指先を口に運んであげると舌で蜂蜜を舐め取られて少し変な気分。あっ! さっき私も指を口に運んだから、これって間接キスだ。

 

「ウ、ウゥ……」

 

 少し恥ずかしくなって、誤魔化す様に蜂蜜を指で掬って舐める。勿論、最初に舐めるのに使った指……。

 

 

 

 

「それがしにも一口、あだっ!?」

 

 所でハムスケが額に巻いている機械はいったい何だろう? カメラっぽいけど、邪魔しようとしたら電撃が走ったような気がする。

 

 

「ウ!」

 

 そんな事よりもお仕事終わったしご飯にしよう! 今日は全部私が作ったんだ。レジャーシートを広げせっせとお弁当の準備をする。

 

「ア!」

 

 まずはジェイルの好物のエビフライから。フォークで刺して口元に運んであげる。こうしたら喜んでくれるってメイド長が言ってた。

 

「あーん……」

 

 少し恥ずかしそうだけど喜んでくれたみたい。あれ? ジェイルが持っているのは私用のご飯。悪魔になったけどまだ人造人間用のご飯は手放せない。消化力が弱いからドロドロの離乳食みたいのしか食べられないんだけど、ジェイルはそれをスプーンで掬って私の口元に運ぶ。

 

「はい、あーん」

 

「ウァ……」

 

 確かにこれは嬉しい。けど、恥ずかしい……。二人とも恥ずかしさで黙り込み、ハムスケが巨大な木の実を食べるボリボリという音だけが響く、あれってレライが品種改良で作った奴だ。

 

 彼女って凄いよね。ジェイルの武器やハムスケも作ったし、モモンガさんの魔法を解析した上でハムスケを改造して使えるようにしたんだから。

 

「もう一口食べさせようか?」

 

「ウゥ!」

 

 うん! 私が喜んで口を開けた時、不意に警報音が鳴り響く。この音は確か……。

 

 

「ゼスティの家が誰かに襲われたっ!? ……下手したら街が壊滅する、急ぐよ!!」

 

 残念だけどランチタイムはもう終わり。あの子が後で苦しむのだけは防がないと!!

 

 

 

 

 

「やあ。アーシア居るかい?」

 

 そろそろお昼ご飯の時間帯。ゼスティさんが素麺に付ける生姜を買いに向かった頃、彼はアポも取らずにやって来ました。人の好さそうな笑顔を浮かべていますが、今の私には分かります。アレは他の人を虐げて喜ぶ人の笑顔だと。

 

「あの、貴方は……」

 

 彼は間違いなく私が助けた……と思っていた悪魔、ディオドラさん。急に現れるなんて嫌な予感がすると、後ろで様子を窺っている子供達にハンドサインで危険だと知らせる。

 

「僕だよ! 君が助けてくれた悪魔だ。だから今日はお礼に……君を犯しに来た」

 

 背筋がゾッとするのを感じる。これは恐怖ではなく嫌悪感。誰かの事をこれほどまでに嫌だと感じるなんて、聖女でいようとしていた頃の私では無かったでしょう。

 

 私が黙っているのを恐怖で固まっていると思ったのかディオドラさんは笑いながら近付いて来る。扉の外には多分眷属だと思われる数人の気配。絶対に逃がさない気だと思った私はレライさんから言われた事を思い出す。

 

 

 

『この武器は君の神器の癒しの力を破壊力に変換する。使う時はその名を大声で叫ぶんだ。……叫べない状況の為に頭の中で強く思っても出るけれど』

 

 

「まずは上から剥ぎ取ろうか」

 

 胸元に向かって手が伸ばされる。もう欲望を隠さずニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる顔をキッと睨むとわずかに動揺が浮かんだ。きっと少し前までの何も知らない人形のような私のままだと思ったのでしょうね。

 

 だからこそ、私に簡単に足を払われて体勢を崩す。動揺したまま障壁も張れない状態の彼目掛け私は拳を突き出して叫んだ!

 

 

 

 

「鉄! 拳! 聖! 裁!」

 

 叩きつけた拳は顔面の中央に突き刺さり、鼻が折れる音の直ぐ後に前歯が軒並み砕け散る。足は床から離れ、背中から激突した扉が半壊した。

 

 

「ディオドラ様!?」

 

「一体何がっ!?」

 

 困惑した様子で近寄っていく女の人達。もしかしたらあの場所に私も居たかもしれないと思うと少し悲しくなる。彼女達も何も知らず知らされず、今の生き方しか自分にはないと思っているのですね。

 

 私がそんな事を思っていた時、壊れた扉に引っ掛かるように倒れていたディオドラさんが口に何かを運ぶ、あれは……蛇?

 

 

 

「……おいそれと使うなとか言われたけど、もう良いや。何だよ、これ? なんでアーシアがこんなに強いんだっ! どうして僕好みの清純で敬虔な聖女じゃないんだよ! そんなアーシアなら消してやる!!」

 

 ムクリと血走った目をしながら起き上がった彼は先程までとは別人のような力を感じさせ、私は咄嗟に障壁を張ります。

 

「皆、直ぐに避難!!」

 

 ヴァイオレットちゃんが叫ぶと同時に子供達は緊急避難用の魔法陣へと向かって行くけど、それよりも前にディオドラさんが魔力を放つ。部屋に設置された緊急防御システムと私の障壁で同時に防ぎましたが、耐えきれなかった私の手からは血が噴き出しました。

 

 

「死ね死ね死ねっ!! お前達もだっ! 全部破壊しろっ!!」

 

 窓の外にも居た眷属らしい人達も同時に魔力を放つ。あくまで防御システムは緊急用で。今のディオドラさ……ディオドラクラスに連発されたらそれほど持たない。まだ逃げ切っていない子が……。

 

 

 

「はははははは! ははっ…は?」

 

 不意にディオドラの不快な笑い声が止まる。今まさに魔力を放とうとした腕は肩口から強引に千切り取られ血が噴き出しています。今の彼は混乱のせいで痛みを感じませんが、其れほど猶予は有りません。

 

 

「ぼ、僕の腕がぁあああああっ!? ひぃ!?」

 

 子供の様に泣き叫ぶディオドラは後ろを振り向いて怯えた様な声を出す。それは眷属の方々も同じで、私ですら怖いと思ってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お前、自分の家族に何してるっすか?」

 

 其処に居たのは何時もの明るくて無邪気なゼスティちゃんではなく、能面のような無表情の……逆鱗に触れられた龍でした……。

 




さて、次回ディオドラ死す!

感想お待ちしています 今から少し出掛けるけど帰ったら来てたら嬉しいな

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