成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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少しだけモモンガさんが可哀想な目に


強者の手本と弱者の牙

 それがしは若様の忠臣ハムスケ! その喜びは若様のお役に立つことただ一つでござる! 後はお昼寝と美味しいご飯でござろうか? メイドの方々が可愛い可愛いと手の込んだ品をくれるのでとても幸せでござるよ。

 

 え? 一つじゃない? んー、よく分からないでござるなぁ。

 

「おう! 遅れるんじゃねぇぞ!!」

 

 レライ殿が作成した魔力を燃料にして走るバイクで荒れ野を爆走するモードレッド殿が正面を向きながら声を掛ける。排気口からは赤い雷の魔力が出て・・・・・・今、ビリッとしたでござる!? 掠ったでござるよぉ!?

 

「景色を楽しむのも今回の楽しみの内だし、のんびり行こう」

 

 モモンガ殿は優しいでござるなぁ。それに比べてモードレッド殿は気が短いし乱暴だし、って、モモンガ殿のバイクからも魔力が排出されて少し触れただけで全身の毛が立ったでござるよぉぉ。しょぇえええええええええええ!?

 

「ハムスケ、どうかした?」

 

「アーウー?」

 

 いかんいかん! 若様や姫を背にお乗せしてお運びするという重大任務の途中で情けない所を見せては、主君である若様の顔に泥を塗るも同然! 忠臣としてその様な醜態を晒すわけにはいかんでござる!

 

「大丈夫でござる。じゃあ、もう少し速く走るでござるよぉおおおおお!」

 

 それがしの背中の上で若様に掴まった姫が重心を前に傾けて若様に密着するのを感じる。揺らしすぎないように注意して、このまま一番に到着してこそ誉れがあるというもの! 四肢に力を入れ、それがしは速度を上げた。

 

 

 

「ちぇ! 俺がドベかよ」

 

「まぁまぁ競争するとは言ってないし、準備をしよう。この時間の絶好ポイントはっと・・・・・・」

 

 拗ねたモードレッド殿を宥めつつモモンガ殿は目の前の湖周辺の地図を広げ、若様は釣り竿のチェックを始める。今日は絶好の釣り日和との事でモモンガ殿の提案で釣りに来ているでござる。

 

 

 

「あっ、先に言っておくけど鮒釣りってのは待つ時間を楽しむスポーツだし、釣れなくても仕方ないからね。今日は俺をお手本にして次頑張れば良いと思うよ」

 

 釣り歴が一番長いモモンガ殿は得意そうに言いながら新品の竿を取り出す。最近熱が再燃したらしく、昨日も四十センチの大物が釣れたと魚拓をわざわざ見せに来たでござるが・・・・・・。

 

「それがしの魔法でおびき寄せれば簡単に捕まえられるのでは?」

 

「いや、其れは邪道だから。だいたい漁業以外で釣りとはそれ自体が目的で・・・・・・」

 

 長くなりそうでござるなぁ・・・・・・。

 

 

 

 

 

「ふふふーん。たまには泳ぐのも悪くないでござるよ」

 

 釣りも一段落し、餌も使い切ったので今は各自自由行動となったので泳いでいたそれがしは水から上がると体を振るわせて水を払いのける。若様達が乗る時までに乾かさねばならぬし、お昼寝でもするでござるか?

 

 因みに釣果はモードレッド殿が丸々と太った四十五センチ、若様が五十センチで姫は若様の隣にピッタリと寄り添って居たでござる。

 

「さて、何処か良いところはっと」

 

 モモンガ殿は暫く放っておいた方が良いと言われたので、離れた場所で体を乾かすのに適した場所を探している途中、見知った赤い髪が目に入った。

 

 

 何やら草陰に隠れて前を伺っているでござるが、此処で挨拶せねば無礼と言うもの。若様の忠臣として情けない姿を見せられぬと、それがしは足音で驚かせぬようにと静かに近寄った。

 

「リアス殿ではござらぬか。お久しぶりでござるなぁ」

 

「ハムスケ!? しー! 静かに」

 

 人差し指を唇に当てて静かにしろと命じるリアス殿。何やら尋常ならざる様子にそれがしも警戒を高め、身を屈めて前方を伺う。

 

 おや? 彼処に居るのは若様と姫ではなかろうか。若様が向かい合って座る姫の頭に花の冠を被せ、指先で後ろ髪を梳く。姫は幸せそうにただ微笑んでござった。

 

「似合ってるよ、フラン。誰にも君を醜い化け物だなんて言わせない。だって君は美しいんだから」

 

 若様は姫の頬に手を当て、その手に姫の手が重ねられる。その様子を眺めるリアス殿は羨ましそうでござった。

 

 

「花の冠が欲しいのでござるか?」

 

「いえ、違うわ。あの二人が羨ましいだけよ。私なんて今日もライザーと無理にデートをさせられて。ピクニックだからってお弁当を作るようにさえ言われたのよ。嫌だったから途中で抜け出して偶々あの二人を見つけたんだけど・・・・・・」

 

 深く溜息を吐くリアス殿でござるが、ライザー殿の何処が嫌なのでござろうかな? それがしには美醜が分からぬが、人間に似た種族の悪魔にとって不細工に入るのかもしれぬな。

 

 

「・・・・・・フラン。抱きしめてキスしても良い?」

 

「ウ、ウゥ・・・・・・」

 

 意を決した様子の若様と頷く姫。どちらも顔が真っ赤で、若様は前のめりになって目を閉じる姫の背中に恐る恐るといった様子で手を伸ばす。緊張からか手がプルプルと震えて中々抱き締めることが出来ない中、ゴクリと唾を飲み込んで二人の様子に集中するリアス殿の髪の毛が風に煽られてそれがしの鼻を擽った。あっ、クシャミが出るでござる。

 

 

「ぶえっくしょん!!」

 

「きゃっ!?」

 

「うわっ!?」

 

 声に驚きリアス殿が草むらから倒れ込んで二人に前に姿を現し、驚いた若様は誤って姫のお尻を触ってしまっていた。しかも起きたことが飲み込めないのか数秒に渡って。

 

「ウアッ!?」

 

 同じく驚いて固まっていた姫がお尻を押さえながら立ち上がったので若様の手が離れたでござるが・・・・・・。

 

 

 

 

「ウッ! ウァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

「痛い痛いっ! ごめんってば。わざとじゃないんだ」

 

「・・・・・・悪いことしちゃったわね」

 

 お尻を触られたのが余程恥ずかしかったのか姫は若様の両頬を掴むと前後左右上下に引っ張る。あれは痛そうでござるなぁ。リアス殿も冷や汗を流しているし、お止めするべきでござろうか?

 

 

 

「止めなくて良いんじゃないかしら? あれもスキンシップの一環みたいだし。・・・・・・でも、後で謝らないと。流石に失礼だったわ」

 

 男女の仲は難しいでござるよ。結局お詫びのキスで許してもらった若様でござったが、頬は赤いままで痛そうだったでござる。

 

 

 

 

 

「それじゃあイッセー君。この魔法陣の中なら自由にプロモーションが出来るから順番にお願いね」

 

「う、うっす!」

 

 今日初めて会う先輩に頼まれ俺用の武器の実験に協力したんだけど、ブースター付きの巨大なナックルは腕を持って行かれそうになり、龍のオーラを放つバズーカは勢いよく後方にぶっ飛ばされた。正直言って最後の一つも不安です!

 

 でも、俺のために用意してくれたんだから怖いからって拒否できないし、目に前にある巨大なハンマーを手に取る。両手で掴んで余りある柄を持つ岩を切り出したような無骨な見た目のハンマーは俺の籠手と同じ赤色。持ち上げると腕にズシリと来てプルプルと震えた。今の俺じゃ振り回すより振り回されそうだな。

 

 

「それは命の危険があるからって却下された物を加えても最高傑作。プロモーションによって形態と能力が変化するのよ。通常時と戦車(ルーク)の時は倍加に合わせて重量が増す『ドラゴン・グラビティ(D・G)』。じゃあ、まずは騎士(ナイト)からお願い」

 

「はい! プロモーション騎士(ナイト)!」

 

 速度重視の駒に昇格した瞬間、D・Gの姿も変わっていた。岩の固まりから先端の鋭い太く短い杭の様になり、反対側には噴射口が着いている。あれ? これってナックルと同じパターンになりそうな気が・・・・・・。

 

「見ての通り一点へ力を集中させての破壊を目的とした形態よ。噴射するオーラによって威力を上げたり移動も出来るけど、さっきの姿を見る限り要練習ね。名前は『ドラゴン・エクスキューション(D・E)』よ。じゃあ、次!」

 

「プロモーション僧侶(ビショップ)! ・・・・・・今度は軽い?」

 

 またしても姿が大きく変わる。今度はさっきまでより一回り小さい片刃の斧だ。

 

「その形態の名前は『ドラゴン・スラッシャー(D・S)』。思いっきり振りかぶって空の的に向けて振って」

 

 言われた通りに構えると力が吸われていくのを感じ、慌てて空に向かって振る。すると赤い三日月型のオーラが飛び出して、なんとずっと上を飛んでいた的を真っ二つに切り裂いた!

 

「溜めれば溜めるだけ消耗するけれど切れ味は跳ね上がるわ。使用可能な回数の把握と使い所に注意してね。女王(クィーン)の時は名前を叫べば好きな形態になるから」

 

 まだまだ俺じゃ使いこなせそうにないけれど凄い武器だと思う。神器も規格外だし・・・・・・少しだけ落ち込んだ。俺って道具には恵まれるけれど、それに見合った力も才能も無いんだなって。

 

 

 

 

 でも、ついそれを口にしたのを聞いたレライさんは不思議そうな顔をしていた。

 

 

 

「それの何がいけないの? 人間が遙かに強靱な肉体を持つ獣を抑えて生活圏を広めたのは道具のおかげ。人の歴史は道具の発展の歴史よ。外野の声なんて物運に恵まれなかった奴の嫉妬よ、嫉妬。貴方は弱者かも知れないけれど、貴方の持つ弱者の牙は強者の心臓に届きうる。それを覚えていなさい」

 

「は、はい!」

 

 そうか、そうだよな。運も実力の内だ。道具に恵まれるのも俺の力だ。でも、それ以上に俺は人に恵まれたと、心の底からそう思った。




イッセー強化フラグ でもまだ未熟で使いこなせない  


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視力検査が近いのでパソコン控えるから週末まで頻度が下がります

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