成り上がりの息子と赤龍帝     作:ケツアゴ

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会えない家族と会えない仲間

「朝っすよー! 皆起きるっすー!」

 

 フライパンとお玉をぶつけ合わせカンカンと音を立てれば寝坊助連中も目を覚ます。人間だった頃は空き缶やらを鳴子みたいにして危険を察知してたけど、こうやって熟睡できるって幸せっすねー。

 

「ほら、お布団片づかないでしょ!」

 

 自分より……自分の次にしっかりした妹が他の妹や、一緒に暮らす事になったアーシアさんを起こしていく。男女別で雑魚寝をしているけど部屋の広さには余裕があって、昨日のウチにこの妹が用意してた着替えが端に畳まれて置かれていた。

 

「ゼスティ姉さんも寝癖着いたまま! 其れと服が前後逆だって!」

 

「あっ!」

 

「もー! 私が朝ご飯の準備するから直しなさいよね!」

 

 今朝もまた怒られちゃったっす……。

 

 

 

「それで今日は休日だけど予定はあるの? 屋敷の方でご飯食べるなら先に言って」

 

 テキパキと朝の準備を終わらせ、今も小さい子の世話を焼いている所を見ると成長したと思うっす。この子はこの中で一番長い付き合いの子すっし、()()()()()()()子だから感慨深いものが有る。もう会えない子も居るけれど、こうして家族で暮らせるのは本当に幸せだと思うっすよ。

 

「私は冥界の方で拳闘術を習う予定ですがご飯は家で頂きますよ」

 

「今日は新人の顔合わせが有るけど自分は呼ばれていないっすからね。女王と新人だけ連れて行くそうっすよ。……急に予定が入ったからフランさんとのデートが延期になったってジェイルさんが落ち込んでいたっすよ」

 

 そう言えばデートと言えばグレモリー家とフェニックス家の縁談が破談になるって噂が広まっているからって、それを否定する為にもデートさせて居るって聞いたっすけど、今日急に顔合わせが入ったのはキャンセルする口実なんっすかね?

 

 

 

「……女王って事はあの人よね? 誰か一人くらい心臓止まるんじゃない?」

 

 

 

 

 

 

 

「今日は急に顔合わせを提案して悪かったわね。暫く忙しくなりそうだから早めにした方が良いと思ったのよ」

 

 今日は久しぶりにフランとデートに行く予定だった。下調べも済ませ、数日前から僕に内緒でフランが料理の練習をしていたのも知っている。だから少し不機嫌だったけど顔には出さない。こういう場で感情を出すのは損でしかないからね。

 

「此処がオカルト研究部の部室か。いかにもって感じだな……」

 

 集められた旧校舎の一室の中をイッセーは眺める。魔法陣に鎧とかいかにもといった備品の数々、そしてなぜか存在するシャワー。僕が咳払いで大人しくさせると扉がノックされて生徒会メンバー、シトリー家のソーナさんが新人眷属二人を連れて入って来た。

 

 確か男の方は匙元士郎だったかな? 女の子の方は一年生だったとしか覚えていないや。

 

 

 

 

「……さて、もう良いわよ」

 

「二人共、先程言ったようにジェイル君の女王がやって来ます。心を強く持ちなさい」

 

 僕の女王と面識がある面々さえも既にプレッシャーに圧し潰されたような表情になる中、匙君はソーナさんに忠告されても信じられないという表情のままだった。

 

「いや、会長。幾らなんでも大げさな。変態三人組の兵藤の同僚でしょ? そんな大した相手だとは思えませんよ」

 

「なんだとっ!」

 

「言っとくけど俺は兵士の駒を四個使ったし神器だって持ってる。お前なんかよりずっと強いぜ」

 

 どうも匙君はイッセーの事が嫌いみたいだけど、生徒会として問題行動の対処をさせられていたら仕方ないのかな? それに将来有望って褒められたようなもんだしさ。

 

 

 

 

 

「甘いな。彼は五個使った上に神滅具まで持っているぞ」

 

 睨み合う二人の口論を遮るか如く、地の底から響く様な声が響く。僕の背後の空間が歪み、まず手が突き出された。

 

「ひっ!」

 

 誰かが悲鳴を上げたが仕方がないだろう。多くの指輪を嵌めた手には皮も肉も付いていない白骨だったから。次に顔が現れる。当然のように骸骨で、深い闇が広がっている眼窩の中央だけが怪しく光っていた。胸元から腹部まで大胆に空いた豪奢なローブを身に纏い金に輝く杖を持った彼の腹部には途轍もない力を感じさせる赤い宝玉が収まっている。

 

 

「おや、どうしたのだ? 知っている相手は見下せても毛色の変わった相手には何も言えないのか。……下らぬな」

 

 一目見て浮かぶ称号は、魔王、死神、絶対的強者。一目見るだけ生物の根源的恐怖を呼び起こす存在が其処に居た。匙君は顔面蒼白で震え、一年生の子は腰を抜かして気を失いそうだ。

 

 

 

 

「さて、初めましてと言っておこう。我が名はモモンガ。ジェイルの女王をやっている者だ」

 

 

 

 

 昔、私には大勢の仲間が居た。悪に拘る者、正義を貫こうとした者、弟がエロに走り、姉が仕置きをするというのを繰り返した姉弟、悪戯に何度も仲間を巻き込んだ者、えげつない策を幾つも練った者、かつての大切な仲間。

 

 もう、彼らは居ない。きっと会う事は二度とない。全てを失った。仲間は全て去っていった。何時か帰って来ると皆で築いた居場所を守り続け、世界の終わりを結局一人で迎えた私が居たのは見知らぬ街で、其処で知ってはいるが初対面の男と出会った。

 

 彼は悪だ。紛う事無く悪の彼は決して自分の手を汚さず操り人形のように人を動かし、蜘蛛の様に罠を張って獲物を待つ。そんな彼になる前の、されども片鱗を持った少年。

 

 異形の見た目を持つ私を臆さず、力を見せても私から逃げず、見知らぬ場所で彷徨うしか無かった筈の私を受け入れ居場所をくれた彼は何時しか大切な友人となっていた。それこそ失った仲間に匹敵する程に。

 

 だが、彼は人で年を取り、何時しか私を置いて居なくなってしまう。人の身ならぬこの体からすれば寸の間でしかない年月でだ。

 

 彼を私の眷属にする? いや、それは有り得ない。友人が友人でなく下僕になってしまう。失うのと何も変わらないではないか。

 

 やがて彼は成長し、私が知っている彼になった。彼の結末は知らない。勧められて読んだ名作だが途中で飽きてしまったからだ。最後まで読んでおけば良かったと、彼が行方不明になった事を知り悔いた。

 

 感情は抑制されるが感情は湧き上がり続ける。このまま町の住民全てを皆殺しにして気を晴らそうかとさえ思った当日、彼が戻って来た。

 

 

「やあ、友よ。私、人間辞めてしまったよ。驚きだネ」

 

 其処に居たのは何時もの飄々とした友の姿。泣けたならきっと泣いていただろう。喜びの感情さえ抑制される身をこの時ほど憎んだ事はない。

 

 

 

 そして彼は私の友人であり続け、やがて父親になった。我が子を抱いた時の彼を見て驚いたよ。あんな顔の彼を見たのは初めてだった。

 

 

 

 

 

 ……だからまぁ、あの子は私にとっても大切な子だ。仲間達が残したあの場所が大切だったように、友人の為にも守りたいと思ったんだ。

 

 

 

「ほほぅ。まさか女王の駒が『変異の駒』になるとはな。余程の者を眷属にせねば勿体無い。そうだ、私を眷属にしてみないか? お前の成長を傍で見守るのも面白そうだ」

 

 まあ、成長を阻害しても悪いからギリギリまで手は貸さないがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




モモンガさんがマジもんのアンデッドなのか原作通りなのかはご想像にお任せします

新茶が彼のことをどう思っているかもねww  


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